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政府委員(
佐藤藤佐君)
只今上程になりました
少年法を
改正する
法律案の
提案理由について御
説明申上げます。
最近
少年の
犯罪が激増し、且つその質がますます悪化しつつあることは、すでに御
承知のことと存じます。これは主として戰時中における教育の不十分と戰後の社会的混乱によるものでありますが、新日本の建設に寄與すべき
少年の重要性に鑑みて、これは單なる一時的現象として看過することは許されないのでありまして、この際
少年に対する刑事政策的見地から、構想を新たにして、
少年法の全面的
改正を企て、以て
少年の健全な育成を期しなければならないのであります。
今回の
改正の重要性は、第一に、
少年に対する
保護処分は
裁判所がこれを行うようにしたこと、第二に、
少年の
年齢を二十歳に引上げたこと、第三に、
少年に対して
保護処分を科するか、刑事
処分を科するかを
裁判所自身が判断するようにしたこと、第四に、兒童福祉法とに関連に留意したこと、第五に、
保護処分の内容を
整備したこと、第六に、抗告を認めたこと、第七に、
少年の福祉を害する成人の刑事
事件に対する
裁判権について特別の
措置を認めたこと、等であります。以下順次御
説明申上げます。
第一は、家庭
裁判所の設置章あります。新
憲法の下においては、その人権尊重の精神と
裁判所の特殊な地位に鑑み、自由を拘束するような強制的
処分は原則として、
裁判所でなくてはこれを行うことができないものと解されますので、從
つて行政官廳たる
少年審判所が矯正院送致その他の強制的な
処分を行うことは、
憲法の精神に適合しないものと言わなければなりません。從
つて、
少年審判所を
裁判所に改め、これを
最高裁判所を頂点とする
裁判所組織の中に組み入れるのは当然のことでありまして、このことは法務廳設置法制定の際、
政府の方針としてすでに確定していたところであります。尚当時は
少年裁判所の設置を予定していたのでありますが、その後種々研究をし、又
関係方面の意向をも参酌しつつ、これを現在の
家事審判所と併せて家庭
裁判所とすることにいたしたので、あります。これは
少年の
犯罪、不良化が家庭的
原因に由來すること多く、
少年事件と家事
事件との間に密接な関連が存することを考慮したためであります。そうして、この家庭
裁判所は
地方裁判所と同一レベルにある独立の下級
裁判所ということにな
つているのでありますが、この
裁判所の組織の関する点は、
裁判所法の中に
規定されるところがありますから、詳しいことは、
裁判所法の
改正法律を提案する際に御
説明申上げることにいたします。
第二は
年齢引上の点であります。最近における
犯罪の傾向を見ますと、二十歳ぐらいまでの者に特に増加と惡質化が顯著でありまして、この程度の
年齢の者は、末だ心身の発育が十分でなく環境その他外部的
條件の影響を受け易いことを示しているのでありますが、このことは、彼等の
犯罪が深い惡性に根ざしたものではなく、從
つてこれに対して刑罰を科するよりは、むしろ
保護処分によ
つてその教化を図る方が適切である場合の極めて多いことを意味しているわけであります。
政府はかかる点を考慮し、この際思い切
つて少年の
年齢を二十歳に引上げたのでありますが、この
改正は極めて重要にして、且つ適切な
措置であると存じます。尚
少年の年令を二十歳にまで引上げるとなると
少年の
事件が非常に増加する結果となりますので、
裁判官の充員や、
少年観護所の増設等、人的、物的、
機構の
整備するまで一年間即ち來年一ぱいは從來通り十八歳を
少年年齢とするような暫定的
措置が講じてあります。
第三は、
保護処分と刑事
処分との
関係であります。
現行少年法においては、原則として
檢察官が刑事
処分を不必要として起訴猶予した者を
少年審判所に廻して、これに
保護処分を加えておるのでありますが、今回の
改正においては、
少年犯罪の特殊性に鑑み、この
関係を全然顧倒し、一切の
少年の
犯罪事件が警察又は檢察廳から家庭
裁判所に來て、家庭
裁判所が訴追を必要と認めるときは、これを
檢察官に送致するようにな
つているのであります。而もこの
檢察官への送致は、十六歳末満の
少年については絶対に認められません。そうして送致を受けた
檢察官は、送致された
事件について
犯罪の嫌疑があれば、原則としてこれを起訴しなければならないのであります。尚
事件が家庭
裁判所に送致されるまでの過程において
檢察官の手を経るか、それとも警察から直接に送致されるかは、大体においてそれが
禁錮以上の刑にあたる罪の
事件であるかどうかによるのであります。この点は、今回の
改正中最も重要なものの
一つでありまして、
少年に対する刑事政策上、正に画期的な立法と申すべきであります。
第四は、兒童福祉法との
関係であります。昨年兒童福祉法が制定公布され、これが今年の四月一日から全面的に
施行されることになりました。この
法律は兒童の福祉に関する基本的
法律でありますが、この
法律で行う福祉の
措置は
犯罪少年と
虞犯少年には及ばず、又それが行政機関によ
つて行われれ結果、強制力を用いることができないのは当然でありますから、これらの点については、家庭
裁判所が関與し、
少年保護の各機関が相互に協力しつつ
少年の福祉を図り、その健全な育成を期そうというわけであります。今回の
改正ではこの点についていろいろと意を用いているのであります。
第五は、
保護処分の内容であります。從來
少年審判所は或る程度において
保護処分の
執行に関與したのでありますが、これが
裁判所と
なつた以上、むしろ決定機関として留まるべきであり、
執行の面に関與するのは適当でないとの見地から、今回の
改正においては、決定と
執行とを分離し、一度
裁判所が
保護処分の決定をしたら、その代り決定に愼重を期するため、從來軽い
処分として
規定されたものを、多少内容を修正して決定前の
措置に切替えたのであります。更に前述の兒童福祉法との
関係がこの
保護処分の内容としても考慮されており、又いわゆる環境の調整に関する
措置も講ぜられております。尚この
保護処分の中に地方
少年保護
委員会に
補導を委託するというのがありますが、これは別に提出する予定にな
つております
法律の中に出て來る
委員会のことでありまして、
少年法との
関係においては、委託を受けた
少年について主として観察を司るのであります。
第六は
上訴の
制度であります。
現行の
少年法は
保護処分に対しては、本來の不服申立の
方法がありますが、今回は人権尊重の趣旨に則り、特に高等
裁判所に対して抗告を認めたのであります。その抗告の
理由は、決定に影響を及ぼすべき法令の違反、事実の重大な誤認及び
処分の著しい不当の三つに限られておるのでありますが、これは
改正刑事訴訟法案における控訴の
理由と睨み合せて
規定したものであります。そうして高等
裁判所においては、單に原決定の当否を審査するだけで、自ら
保護処分の決定を行わず、原決定を不当と認めるときは、
事件を原
裁判所に差戻し、又は他の家庭
裁判所に移送するわけであります。又違憲問題等を
理由として、
最高裁判所に再抗告をする道も開かれております。
第七は
少年の福祉を害するような成人の刑事
事件を家庭
裁判所が取扱うことであります。
少年不良化への背後には、成人の無理解や、不当な
処遇が潜んでおることが極めて多いのでありますが、このような成人の行爲が
犯罪を構成する場合には、その刑事
事件は、
少年事件のエキスパートであり、又
少年に理解のある家庭
裁判所がこれを取扱うのが適当である。又かかる成人の
事件は、
少年事件の取調によ
つて発覚することが多く、証拠
関係も、大体において共通でありますから、この点から申しましても、この種の
事件は家庭
裁判所がこれを取扱うのが便利なのであります。尚家庭
裁判所は、これらの成人に対して、
禁錮以上の刑を科することができず、
禁錮以上の刑を科すべきときは、これを
地方裁判所に移送するわけでありますが、これは本來
少年事件を取扱うべき家庭
裁判所が、成人に対して余り重い刑を科することは適当でないとの趣旨によるものであります。以上は
改正の要点でありますが、尚この外にも例えば十八歳末満で罪を犯した
少年に対しては、絶対に死刑を科さないとか、その他重要な
改正が少くないのであります。この
法律案は量的には必ずしも大法典とは申せないのでありますが、
少年不良化の問題が刻下の切実な関心事とな
つております今日、この問題解決のため、必要な幾多の根本的
改正を含んでおる点において、質的には極めて重要な
法律であると申さねばなりません。何とぞ
愼重御審議の上、速かに可決せられんことを希望いたします。