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1948-06-22 第2回国会 参議院 司法委員会 第44号
公式Web版
会議録情報
0
昭和二十三年六月二十二日(火曜日)
—————————————
本日の会議に付した
事件
○
刑事訴訟法
を
改正
する
法律案
(内閣 送付)
—————————————
午前十一時十八分開会
岡部常
1
○
理事
(
岡部常
君) これより
司法委員会
を開会いたします。前回に引続きまして、
刑事訴訟法
を
改正
する
法律案
の質疑を続けます。
松井道夫
2
○
松井道夫
君 二百三十
七條
でありますが、
告訴
は、
公訴
の
提起
があるまでこれを
取消
すことができるというふうにな
つて
おります。併し
現行法
は二審の
判決
があるまで
取消
すことができることにな
つて
おるのでありまして、その
立案
の主旨は、大体想像できるのでありまするが、併しこれを一審の
判決
があるまで、或いは
証拠調べ
に入るまで、或いは
事件
について
陳述
、
請求
するまでというようにすることも
考え
られると思うのであります。
証拠調べ
に入るまで、或いは
事件
について
請求
、
陳述
するまで、これならば、敢て
國家機関
のいろいろの
行爲
、努力を無駄にする、被
判所
の
訴訟
行爲
を無駄にするというようなことがないわけでありますし、第一審の
判決
があるまでということにいたしますのも、また
從來
の
制度
の
趣旨
と、新らして
立案
の
趣旨
の或る程度妥協する
意味
で
考え
られると思うのであります。
公訴
の
提起
があるまでということにしなければならない
理由
が御
説明
願いたいと思います。
宮下明義
3
○
政府委員
(
宮下明義
君) 二百三十
七條
につきましては、お説の
通り
、
現行法
の二百六十
七條
におきましては、第二審の
判決
があるまで
告訴
の
取消
ができるということにな
つて
おりますのを、
改正案
におきましては、
公訴
の
提起
があるまでこれを
取消
すことができるというふうに
改正
いたしたわけでございます。而してこの
告訴取消
をなし得る時機をいつに限るかという点につきましては、御
議論
のように、或いはその
事件
について
請求
又は
陳述
をした後は
取消
をすることができないとか、又は
証拠調
が開始された後は
取消
すことができないとか、又は第一審の
判決
があつた後は
取消
すことができないとか、いろいろな
立て方
はあろうと存じまするが、
本案
におきましては、
告訴
がございまして、
檢事
がその
告訴
を受けまして
捜査
を遂げて、
改正案
二百四十
八條
に相当いたしまする
起訴便宜主義
の
規定
によりまして事案を檢討した後、
公訴
を
提起
すべきものと
考え
まして
起訴
いたしました以上、その
事件
はすでに
國家
の手に移
つて
おるのでありますので、これを單に
告訴人
の
意思
によ
つて
その
手続
を
中断
してしまう、止めてしまうということは、如何にも
告訴人本位
、或いは
被害者本位
という感じが強い点を考慮いたしまして、
改正案
におきましては、
公訴提起
前に
限つて告訴
の
取消
ができる。一旦
公訴
の
提起
がありました以上は、
告訴人
の
意思
によ
つて手続
を
中断
することができないというふうに改めたわけでございます。
松井道夫
4
○
松井道夫
君 それから二百四十條でありますが、
告訴
は
代理人
によ
つて
することができる、これは結構なのでありますが、
從來告発
についても
代理人名義
で
告発
いたしまして、それを有効に取扱
つて
いたようでありまするが、二百四十條で
告発
も入れまして、その点を明かにした方が適切ではないかとも
考え
られるのであります。その点について御意見を伺いたいと思います。
宮下明義
5
○
政府委員
(
宮下明義
君)
告訴
は、二百三十條によりまする
被害者
であるとか、二百三十
一條
によりまする
被害者
の
法定代理人等
でありませんと、
告訴
をすることができないわけでありまするが、
告発
は
他人
に
犯罪
があると
考え
た人は何人でも
告発
が自己の名前においてすることができるのでありまするので、必ずしも
代理人
によ
つて告発
をする必要はないというところから、
告発
については
改正案
においても
代理人
による
告発
を認めなかつたわけであります。この
考え方
は
現行法
においても同樣でございまして、苟も
他人
の
犯罪
を発見した人は、その本人の
名義
において
告発
をして頂く、こういう
考え方
を
改正案
はと
つて
おるわけでございます。
星野芳樹
6
○
星野芳樹
君
只今松井委員
から御
質問
の二百三十
七條
ですな、
政府委員
のお
考え
は、法の建前としてはそうでしようが、もう少し具体的にですね、この
告訴
を取下げられないためにいろいろできる不便があると思います。例えば
名誉毀損
とか、或いは横領とか、そういうもので、
示談
で済んでも、一旦
告訴
しちや
つたの
で、もう取下げられないというので、問題を
複雜
とする点が多い
弊害
が大分あると思うのですが、そういう具体的な功罪をもう少し考察した答弁を願いたいと思います。
宮下明義
7
○
政府委員
(
宮下明義
君) お説の
通り
、
改正案
二百三十
七條
によりまして、
公訴提起
後
告訴
の
取消
をすることができないという
規定
を設けました
関係
上、少くとも
親告罪
につきましては、一旦
公訴
の
提起
がありました以上、その
告訴
を
取消
すことができませんので、
從來
は第二
審判決
があるまで
告訴
の
取消
ができまして、その場合には
公訴棄却
の
判決
があつたわけでございまするが、今後の
改正案
によりましては、そのような
親告罪
につきましても既に
告訴
によ
つて公訴
の
提起
があつた以上は、
有罪
の
判決
をする以外に途がないということになろうと思います。
親告罪
以外の
事件
につきましては、
從來
と雖も、
公訴提起
後に
告訴
の
取消
がありましても、被
判所
といたしましてはその事実を勘案いたしまして、或いは
執行猶予
にするとか、或いは
被害者
が
満足
しておる
事情
を
考え
まして、軽い刑にいたしおつたわけでありまするが、この点は今後と雖も
告訴
の
取消
ができないということにいたしましても、実際の
運用
はさして違いはないのではないかと
考え
ております。ただ御指摘のように、
親告罪
については
從來
と可なり
裁判
の結果が違
つて
参るということになるわけでございます。で、どちらがよいかという問題でございまするが、
刑事裁判
というものを單に
被害者個人
の
満足
に重点を置くか、或いは法規の
権限
と申しますか、
刑罰法令
の適正な
適用実現
ということを主に
考え
るかということによ
つて結論
が違
つて
参るのではないかと
考え
ます。この場合におきましても、必ずしも
被害者
の一
個人
の
意思
だけを
考え
ませんで、やはりこのような場合においても、一旦
國家
がその
事件
を引受けて
手続
を始めた以上は、やはり
刑罰法令
を適正に
適用実現
しなければならないという、この
考え方
を強くとりまして、この
改正案
二百三十
七條
ができておるわけでございます。
星野芳樹
8
○
星野芳樹
君 今の
政府委員
の御説によると、
個人
より何というか、
法律
を重く見るという行き方ですが、結局
法律
というものは
社会
の
安寧
と民衆の福祉にあるのだと思うのです。そういう
意味
から言うと、單に
告訴
を採上げるというのも決して
個人
的な問題というよりも、その方が解決し得る問題を、
犯罪
にまで持
つて
行かないでも解決し得るという点で、
社会安寧
という点でも効果があるようであります。今だけの御
説明
では、どうもこういうふうに改めた法の害の方が多くて、効の方が少いように思われるのですが、如何でしようか。
宮下明義
9
○
政府委員
(
宮下明義
君) この点に関しましては、結局二つの要請を如何なる点において調和するかという問題でございまするので、それぞれの立場によ
つて結論
或いは
議論
が違
つて
参ると
考え
まするが、
從來
の実際の
刑事裁判
の
運用
、
告訴
によりまする
刑事裁判
の
運用
というものを
考え
ますると、
起訴
されました
被告人
がいろいろに手を盡しまして、
告訴人
でありまするところの
被害者側
をいろいろな
手段
によ
つて
納得させて、その
告訴
を
取消
さして軽い
裁判
によ
つて事
を済ませたという事例が多いのでありまして、その
裁判
の結果を
社会
全体が必ずしも納得していなかつたと
考え
るのであります。この場合におきましては、
被害者
である
告訴人
の
利益
というものと、
被告人
の
利益
と、それから
社会
全体の公益の回復というまあ三つの問題が絡ま
つて
おりまするので、
改正案
二百三十
七條
の
改正
は妥当であると、こう
考え
ておるわけでございます。
星野芳樹
10
○
星野芳樹
君
只今
の
政府委員
の
説明
によると、
告訴
されると
被告
の方がいろいろ手を打つという
弊害
があるという、そういう点だつたら、やはり
告訴
をしてから
公訴
の
提起
の間に
期間
があるので、やはり同じく手は打つだろうと思います。一方相当時間を経過させるということは、本人間の感情を融和して
冷靜
に
考え
るという
期間
を與えるので、その方が問題を公正にできるのではないでしようか。
宮下明義
11
○
政府委員
(
宮下明義
君) 勿論
公訴提起
前においても、
被告人側
、即ち
被疑者側
がいろいろ手を盡すことは
考え
られるのでありまするが、その場合においては、まだ
公訴官
、即ち
國家側
におきましてはその
事件
を
國家
が引受けて、
刑事裁判
に掛けるのだという
意思表示
をいたしておらない時期でありまするので、
公訴
の
提起
があるまでは当事者間の
示談等
にや
つて
告訴
の
取消
を可能ならしめて少しも
差支
ないと
考え
るのでありまするが、一旦
國家
が、
事件
の
重要性
、或いは
被告人
の惡性等、諸般の
事情
を
考え
まして、その
事件
を
起訴
いたしました以上、やはり
國家
といたしましては、勿論將來の
裁判
において
被害者側
の
満足感
というものも
裁判
の中に、考慮に採入れられることは申すまでもございませんが、やはり一旦
公訴
の
提起
があつた以上は、その
事件
を進めまして
終局判決
を得るというのが妥当であるという
考え
に立
つて
いるわけでございます。
大野幸一
12
○
大野幸一
君 私は二百三十九條の第二項と、百五十
一條
と百五十條との
関係
について疑問の点があるのでお聞きいたしたいと思うのでありますが、二百三十九條に、「何人でも、
犯罪
があると思料するときは、
告発
をすることができる。」それは分りますが、第二項に「
官吏
又は
公吏
は、その
職務
を行うことにより
犯罪
があると思料するときは、
告発
しなければならない。」そこで、この
官吏
の中には当然
裁判官
も含むわけであろうと思う。そこで百五十
一條
に、「証人として召喚を受け正当な
理由
がなく出頭しない者は、五千円以下の
罰金
又は
拘留
に処する。」こういうことが
裁判
の
審理
の過程においてあつた場合に、その
裁判官
は必ず
告発
をしなければならないかどうかという点であります。それと、前條の百五十條は、これは
過料罰
として
裁判官
が自ら
決定
でできるということに解釈できますが、その百五十
一條
の方は
告発
を待
つて
、
檢事
の
公訴
の
提起
を待たなければならないと思うのであります。そういう場合に、百五十條で自ら
過料
の
決定
をし、更に
官吏
として
告発
をしなければならないか。こういう点をお尋ねしたいと思うのであります。
宮下明義
13
○
政府委員
(
宮下明義
君) 二百三十九條第二項によりますと、
官吏
、
公吏
がその
職務
を行うに当
つて犯罪
を発見した場合には、
告発
をしなければならないという
告発義務
を負わしておるのであります。併しながら百五十條の場合におきましては、
裁判所
に、すべて
決定
で
過料
に処する
権限
を認めておりまするので、この場合におきましては、
裁判所
の
過料
を以て事足りると
考え
る場合におきましては、百五十條で
過料
に処し、且つ費用の賠償を命じますれば、必ずしも
告発
を必要としないと、こう解釈いたしております。百五十
一條
の場合は、御説の
通り裁判官
の
告発
により、或いは
立会檢事自身
が認知いたしました正式の
公訴提起
がありまして、通常の
刑事訴訟
によりまして
罰金
又は
拘留
という刑が科せられるのでありますが、この場合においても
裁判官
は百五十條の
過料
では十分でないと
考え
た場合には、
自分
みずからが
過料
の
裁判
をいたしまする場合であると否とを問わず、尚進んで
刑罰
を科する必要があると
考え
る場合には、百五十
一條
の発動を促す
意味
において
告発
をする。こういうことになろうと
考え
ております。
大野幸一
14
○
大野幸一
君 そこで、その場合におきまして、
裁判所
が「正当な
理由
がなく」ということの判断に基いて
告発
をするのです。
告発
しまして更にその
告発
によ
つて檢事
が
公訴
を
提起
する、
告発者自身
が
裁判
をしなければならない、こういうことになるのです。まあ東京の
裁判所
では他の者がなすことも
考え
られるけれども、地方においては
裁判所
の構成上、
告発者自身
たる判事みずからが
裁判
をしなければならないということができて來ると思いますが、そういうことで一体
裁判
の公正が期せられるかどうか、
刑事裁判
の法の精神に合うかどうかという疑問があるのですが、その点についてどうお
考え
でしようか。
宮下明義
15
○
政府委員
(
宮下明義
君)
改正案
第二十條の
除斥事由
といたしまして、
裁判官
が
事件
について
告訴
又は
告発
をしたときという
規定
はないのでありまするが、問題にな
つて
おりまするような場合におきましては、実際問題といたしましては
裁判官
が
忌避等
の
手段
をとりまして、
自分
みずからが
告発
をした
事件
を、進んで
自分
が
有罪
の
判決
をするというような処置はとらないであろうとこう
考え
ております。
岡部常
16
○
理事
(
岡部常
君) 大体一章の御
質問
がなければ次に進みたいと思います。どうぞあと御
説明
願います。
宮下明義
17
○
政府委員
(
宮下明義
君) 第二編第一審第二章
公訴
の章を御
説明
申上げます。第二百四十
七條
は
現行法
二百七十
八條
と同樣の
規定
でございまして、
本案
におきましても、
國家訴追主義
を
現行法
通り
維持いたしまして、
公訴
は
檢察官
がこれを行うという
規定
を設けたわけでございます。併しながら
現行法
と非常に違いまする点は、現在
國会
において御審議を願
つて
おりまする
檢察審査会法
によりまして、
檢察官
の不
起訴処分
の当否を
檢察審査会
というものが審査をするという
制度
を新たに設けることといたしました点が
一つ
、それからもう
一つ
は二百六十二條以下に、いわゆる
人権蹂躪事
件について
檢察官
の
起訴処分
を不当といたしまする者は、
裁判所
にその
事件
を
裁判所
の
審判
に付する
請求
をすることができるという
規定
を設けてございまするので、この点は
從來
の
國家訴追主義
に対する大きな
制約
となるものと
考え
ております。次に二百四十
八條
の
起訴便宜主義
の
規定
でございまするが、これは
現行法
二百七十九條と殆んど変
つて
おりません。ただ
現行法
と異なります点は、
犯罪
の情状のみでなく、
犯罪
の軽重、即ち
犯罪
の
罪質
も十分
考え
なければならないということにいたしました点が異
つて
いるだけでございます。次に二百四十九條は、いわゆる
公訴
の
主観的同一性
に関する
規定
でございますが、「
檢察官
の指定した
被告人
以外の者にその
効力
を及ぼさない。」という
規定
でございまして、これは
現行法
二百八十條と同
趣旨
でございます。 次に二百五十條の一号乃至五号は
現行法
と同樣でございまするが、
現行法
第六号の
單純賭博
に関しまする
短期時効
の
制度
を削除いたしました。
現行法
第七号の
拘留
又は
科料
にあたる罪については、六ケ月の
時効期間
とあるのを一年と改めました点が異なるだけでございまして、その他の点は
現行法
第二百八十
一條
と変りございません。
單純賭博
についての
短期時効
を削除いたしました
理由
については、
單純賭博
についてのみ六ケ月という
短期時効
を
規定
いたしまする根拠が乏しいというところから、これを削除いたしまして、普通の
罰金
にあたる罪と同樣、その
時効期間
を三年というふうにいたしたわけでございます。
拘留
又は
科料
にあたる罪を一年といたしましたのは、
從來
の六ヶ月という
時効期間
が余りに短か過ぎるという点を
考え
ましたのと、今後
捜査手続
というものがいろいろ
制約
を受けまして、可
なり捜査
が困難になりまする
事情
をも考慮いたしまして、
拘留
又は
科料
にあたる罪についての
時効
を一年と改めたわけでございます。次に二百五十
一條
、二百五十二條、二百五十三條は
現行法
と全く同
趣旨
の
規定
でございまするので、御
説明
を省略いたしたいと思います。 次に二百五十四條の
規定
でございまするが、
現行法
におきましては、
時効
はその
事件
についての
公訴
の
提起
又は
裁判官
の
処分
によ
つて
中断
するという形にな
つて
お
つたの
であります。
中断
と申しますのは、その時までは
進行
した
時効
がすべてなくなりまして、
中断
後新らしき
時効
が
進行
する。又更に
中断
があればそれまでに
進行
した
時効
の
利益
というものは全部なくな
つて
しまう。この
時効
の
中断
を繰返して参りますと、永久に
時効
の
利益
を受けることができないという
制度
でありましたので、
改正案
におきましてはこの
中断
の
制度
を改めまして、その
事件
について
公訴
の
提起
があ
つて
、その
事件
が
裁判所
に係属しておる間は
時効
の
進行
は停止するという
考え方
を採つたわけでございます。而してその
事件
について
有罪
の
裁判
が確定いたしますと、すでに
公訴時効
の問題はなくなりまして、その後には刑の
時効
という問題に移るわけでありますが、
有罪
の
裁判
でなくして、
管轄違い
又は
公訴棄却
の
裁判
があつた場合には、その
裁判
が確定した後再び
時効
の
進行
が始まる。言い換えますと、
公訴
の
提起
まで
進行
して参つた
時効
に
管轄違い等
の
裁判
があつた後の
時効期間
というものがプラスされるということになるわけでございます。而して
但書
において、
起訴状
の
送達
が二ケ月以内にできなかつたために
起訴
の
手続
が無効に
なつ
た時は、
最初
から
時効
が
進行
しないということを
規定
してあるわけでございます。二百五十四條第二項は、
現行法
と同様「
共犯
の一人に対してした
公訴
の
提起
による
時効
の停止は、他の
共犯
に対して」も「その
効力
を有する。」という
規定
を設けたわけでございます。次に二百五十五條の
規定
でございまするが、先に御
説明
申上げましたように、
改正案
におきましては、
刑事訴訟
から
公示送達
という
観念
を排除いたしまして、
刑事訴訟
におきましては
犯人
の所在が分らない場合におきましても、
公示送達
ということはできないということにいたしました
関係
から、
犯人
が
日本
「
國外
にいる場合又は
犯人
が逃げ隱れているため有効に
起訴状
の
謄本
の
送達
ができなかつた場合には、
時効
は、その
國外
にいる
期間
又は逃げ隱れている
期間
その
進行
を停止する。」という
特別規定
を設けまして、
公示送達
の廃止と施行との調和を図つたわけでございます。而して第二項におきまして、
犯人
が
日本國外
におる事実及び
犯人
が逃げ隱れておるために、有効に
起訴状
の
謄本
の
送達
ができなかつたという事実の
証明
に関しましては、特に
裁判所
の規則でその
証明
に必要な
事項
を
規定
するということにいたしまして、これらの事実についての
証明方法
を特に
嚴格
にしようといたしたのであります。 次に二百五十六條の
規定
でございまするが、この
規定
は今回の
改正案
におきましても最も重要な
改正
の
一つ
でございまして、
公訴提起
の
手続
に関して、重大な変更を加えた
規定
でございます。その第一の点は、
公訴提起
を、
從來
のごとく、ただ單に
裁判所
の
審判
の
範囲
を特定するという
意味
に限りませんで、
公訴
の
提起
を以て
審判
の
範囲
を特定すると同時に、
被告人側
に
防禦
の
範囲
を知らしめて、
被告人
の
利益
を図るという
考え方
を取入れました点と、二百五十六條の末項におきまして、いわゆる
起訴状
一本
主義
を採用して、「
起訴状
には、
裁判官
に
事件
につき
予断
を生ぜしめる虞のある
書類
その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。」といたした点であります。この二百五十六條末項の
規定
は、
政府
といたしましては最も
嚴格
に解釈いたしたいと
考え
ておる
規定
でございまして、若しこの
規定
に違反して
起訴状等
に
裁判官
に
予断
を生ぜしめる虞れのある
書類等
を添附いたしました場合には、
公訴提起
の
手続そのもの
が無効となりまして、
公訴棄却
の
裁判
を受ける、このように解釈いたしております。而して
改正点
の
最初
の部分の御
説明
でございまするが、
被告人
に
防禦
の
範囲
を知らしめて
被告人
の保護を図るという
趣旨
から、
公訴
の
提起
は必ず書面によらなければならない。
從來
のように口頭又は電報の
起訴
ということは一切認めないことといたしたのであります。而して
起訴状
には
被告人
の
氏名
、若し
被告人
の
氏名
が分りませんときは、これを特定するに足りる
事項
、第二に
公訴
事実、第三に
罪名
を
記載
することといたしまして、
公訴
事実は、特に「
訴因
を明示してこれを
記載
しなければならない。」ということにいたしたのであります。
訴因
と申しまするのは
社会
的事実としての
犯罪
を
法律
的に構成いたしました
訴訟
の
理由
、こう定義することができると思
つて
おります。今一例を採
つて
申上げますると、或る甲という人が乙から物を奪われたということは
社会
的な事実でありまするが、その場合に若し
暴行
、
脅迫
を伴
つて
おりますれば
強盗罪
となり、
暴行脅迫
が伴
つて
おりませんければ
窃盗罪
となるわけでありまするが、この甲が乙に物を奪われたという
社会
的な事実を
強盗
と構成いたし、或いは
窃盗
と構成いたしたのが
訴因
と、こう
考え
ておます。これは後に
公判
の章で御
説明
いたしまするように、
裁判所
は
訴因
に拘束されまして
訴因
の
範囲
以外の
認定
をすることができないという拘束を受けまするので、特にこの
訴因
の
観念
を挿入いたしますことによ
つて
、
被告人側
に
防禦
の
範囲
を知らしめ、
被告人側
の
利益
を図ろう、このようにいたしたわけでございます。尚
罪名
を表示いたしまするのには、「適用すべき
罰條
を示してこれを
記載
しなければならない。」ということにいたしました。而して
罰條
の
記載
というものは
訴因
の
記載
程は重要視いたしておりませんで、たとい
罰條
の
記載
に
誤り
がございましても、その
誤り
が「
被告人
の
防禦
に実質的な不
利益
を生ずる虞がない」場合におきましては、その
誤り
を無視いたしまして、
裁判所
は正しい
罰條
を適用することができると、こう
考え
ております。これが二百五十六條第四項
但書
の
意味
でございます。而してその
訴因
及び
罰條
は「
数個
の
訴因
及び
罰條
」を「予備的に又は択一的にこれを
記載
することができる。」といたしまして、而してこの
数個
の
訴因
を書き得る
範囲
は、勿論
社会
的事実としての
犯罪
事実の
同一性
の
範囲
内におきまして、
檢察官
が適当に
訴因
を構成いたしまして、二個又は三個の
訴因
を予備的に又は択一的に
記載
いたすわけでございます。例を挙げますると、
殺人罪
として
起訴
いたしまして、若し
殺人
が成立たないとすれば、
傷害致死
の
認定
をして頂きたいというのが
予備的記載
と
考え
ております。甲は詐欺に非ざれば恐喝をしたものであるという
記載
は、択一的な
記載
と
考え
ております。 次に二百五十
七條
でありまするが、これは
現行法
二百九十二條と全く同様の
規定
でございます。而してこの
規定
も、今回の
改正案
に採用されておりまする二百六十二條以下の、いわゆる
人権蹂躪事
件について、
裁判所
が
審理
の結果、
管轄裁判所
の
公判
に付しました
事件
については、
檢察官
も
公訴
の
提起
をすることができないと、このように解釈しております。 二百五十
八條
の
規定
は
現行法
二百九十三條の
規定
と全く同
趣旨
でございます。 次に二百五十九條は新らしい
規定
でございます。
從來
、
檢察官
は
事件
について不
起訴処分
をいたしましても、何らその
被疑者
に対して
通知
をしなか
つたの
でありますが、これでは不親切でもあり、
人権尊重
の
趣旨
に合致いたしませんので、今回の
改正案
におきましては
被疑者
の
請求
があつた場合に、速かに不
起訴処分
に付した旨を告げなければならないという
規定
を設けたわけでございます。この
規定
につきまして必ずしも
被疑者
の
請求
を待つ必要はないのではないか、すべての
事件
についと
檢察官
は不
起訴処分
を
通知
したらばよいのではないかという御疑問があろうと思いますが、場合によりましては、何も
葉書等
で
通知
を受けることを欲しない
被疑者
もありましようし、又現在の実際の檢察局の
人員等
を考慮いたしますると、すべての不
起訴事件
について不
起訴
の
通知
をすることが実際問題としてもいたしかねる実情もございますので、取敢えず
被疑者
の
請求
がある場合に
限つて
不
起訴処分
に付した旨を告げる
規定
を設けたわけでございます。
將來檢察廳
の陣容が整備いたした場合におきましては、すべての不
起訴処分
について
通知
するということも適当ではないかと、このように
考え
ております。次に二百六十條でございまするが、
現行法
二百九十四條においては單に
告訴人
にのみその
書類通知
をすることにな
つて
お
つたの
でありまするが、
改正案
におきましては、
告発人
及び
請求人
に拡張いたすことにいたしました。次に二百六十
一條
も新らしい
規定
でありまして、
檢察官
は、
告訴
、
告発
又は
請求
のあつた
事件
について不
起訴処分
をいたしました場合に、
告訴人
、
告発人
又は
請求人
の
請求
があるときは速かにその
理由
を告げなければならないという
規定
を設けたのであります。 二百六十二條以下の
規定
は、いわゆる
人権蹂躪事
件につきまして
告訴
又は
告発
をした者が
檢察官
の不
起訴処分
に不服があるときは、その
檢察官所属
の檢察廳の所在地を管轄いたしておりまする地方
裁判所
にその
事件
を
裁判所
の
審判
に付することを
請求
することができるという一連の
手続
を
規定
した
規定
でございます。
改正案
におきましても
檢察官
が
公訴
を独占いたしまして、いわゆる
國家訴追主義
を貫いておるのでありまするが、この
人権蹂躪事
件につきましては
檢察官
も又一般司法警察職員を指揮いたしておりまする
関係
から、司法警察職員に人権蹂躪がありました場合にこれを不
起訴処分
にしたのではないかという疑念を持つでありましようし、又
檢察官
に人権蹂躪があつた場合に、これを不
起訴処分
にいたしますると、同じ身内の
檢察官
であるから不
起訴処分
にしたのではないかという疑念を持つのも尤もと思われまするので、特にこの
事件
につきましては再審査を
裁判所
に
請求
いたしまして、
裁判所
がこの
事件
は
公訴
を
提起
するのが妥当であると認めまする場合には、
管轄裁判所
の
審判
に付するという
決定
をいたしまして、その
決定
によ
つて
二百六十
七條
にありまするように
公訴
の
提起
があつたものとみなしまして、而もその
事件
の
公訴
の維持は、二百六十
八條
にございまするように、弁護士の中から指定した者が特にその
事件
の
公訴
の維持に当るという建て方をいたしたわけでございます。二百六十二條乃至二百六十九條の一連の
規定
は細かい
手続
規定
もございますので、以上の御
説明
によ
つて
詳細の
説明
を省略いたしたいと
考え
ます。 次に二百七十條の
規定
でございまするが、
檢察官
は
公訴提起
後、
訴訟
に関する
書類
及び証拠物を閲覽謄写することができるという
規定
を特に設けたわけでございます。
岡部常
18
○
理事
(
岡部常
君) 本日はこれを以て散会いたします。 午後零時九分散会 出席者は左の
通り
。
理事
岡部 常君 鈴木 安孝君 委員 大野 幸一君 中村 正雄君 遠山 丙市君 水久保甚作君 來馬 琢道君 松井 道夫君 松村眞一郎君 星野 芳樹君
政府委員
法務廳事務官 (檢察局刑事課 長) 宮下 明義君