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政府委員(
宮下明義君) 第十一章
証人尋問の章を御
説明申上げます。
改正案におきましては、
被告人尋問の章を総則から削除いたしまして、
被告人尋問は、ただ公判の三百十
一條の
規定によりまして、必要がある場合な、
裁判所が適宜必要な事項の
供述を求めるという
規定だけを置きまして、從來行われておりましたような、
裁判所が公判の先ず冒頭において、
被告人を詳しく尋問するという立て方を、
改正案においては止めまして、その代りその
被告人の有罪を立証いたしまするのには、先ず
証人、書面、物等の証拠によりまして認定をするという
建前を取りました
関係上、
証人尋問というものも今回の
改正案においては、可なり重点を置きまして改正をいたした次第であります。
先ず百四十三條の
裁判所が何人でも
証人としてこれを尋問することができるという
根拠規定は、
現行法と同樣であります。「この法律に特別の定のある場合」と申しまするのは、本章の後の
條文でございます。
百四十四條の、公務員又は公務員であ
つた者が知り得た事実について、本人又は本人の属する公務所から、職務上の秘密に関するものであるということを申立てた場合には、当該監督官廳の
承諾がなければ
証人として尋問することができない。この
規定は
現行法と殆んど変りがございません。ただ
現行法におきましては、特別の官吏につきましては勅許を要するという
規定を設けてあつたのでありまするが、新
憲法下におきましては、勅許にかからしめるということは、
憲法違反の疑いもございまするので、この
規定を削除いたしまして、当該監督官廳は國の重大な利益を害する場合を除いては、この
承諾を拒むことができないという
但書を設げたわけでございます。
百四十
五條につきましては、第百四十四條の
規定によ
つて、公務員又は公務員であ
つた者が、職務上の秘密に関するものであることを申立てるのでありまするが、その場合において百四十
五條第一号にありまする衆議院議員、参議院議員又はこれらの職に在
つた者、第二号の内閣総理大臣その他の國務大臣、又はその職に在
つた者は、いわゆる監督官廳というもののない公務員でありまするので、第百四十四條の
規定によりませんで、百四十
五條で衆議院議員、参議院議員につきましては、その院の
承諾がなければ
証人として尋問することができない。内閣総理大臣、その他の國務大臣につきましては、内閣の
承諾がなければ
証人としてこれを尋問することができないと、こういう
規定を置いたわけであります。而して「衆議院、参議院又は内閣は、國の重大な利益を害する場合を除しては、
承諾を拒むことができない。」とこのようにいたしたわけであります。
第百四十六條は、從來の
規定を整理いたしまして、証言拒否に関する
規定を百四十六條と百四十
七條の二つの
條文に整理いたしたわけであります。百四十六條は何人も自分が刑事訴追を受け、或いは自分がすでに起訴されておりまする場合に、有罪判決を受ける虞れのある証言は拒むことができる。これは
憲法三十
八條第一項に基きまして、自分自身を
危險に陷れるような証言は、絶対に強制されないという
趣旨に基いておる
規定であります。尚百四十
七條は、何人も百四十
七條第一号乃当第三号に掲げるものは、刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞れのある証言を拒むことができる。これも從來はこの百四十
七條に相当いたしまする
規定が可なり廣範囲でありまして、而もこのような
関係がありまする場合には、如何なる証言もすべて拒否できるという形にな
つておつたのでありまするが、例えて申しますれば、親族のうち血族は、從來四親等でありましたのを三親等に減じ、姻族につきましては三親等でありましたのを二親等に減じましたし、その他
條文を整理いたしまして、証言拒否をなし得る範囲といういものを狹くいたしおります。尚拒否できる証言は、すべての証言ではありませんで、刑事訴追を受け、又は有罪判現を受ける虞れのある証言のみを拒否できると、このようにいたしたわけであります。この百四十六條、百四十
七條の意味は、これからの
刑事訴訟におきましては、無暗に証言を拒否されますると、
被告人は終始黙秘権を持
つておりまするし、他の
証人によ
つて証拠を得ることも不可能となるということを考慮したしてまして、從來の証言拒否巻の範囲を狹め、整理いたしたわけでございます。
百四十
八條は、
現行法にありまする
規定と同樣でありまして、共犯又は共同
被告人の一人又は数人に対して、前條の親族、後見人、後見監督人、保佐人等の
関係がある者でありましても、他の共犯又は共同
被告人のみに関する事項については、証言を拒むことはできないといたしました。
次に第百四十九條の
規定は、最前
押收拒否権について御
説明いたしたところと同樣、「医師、歯科医師、助産婦、
看護婦、
弁護士、弁理士、公
証人、
宗教の職に在る者又はこれらの職に在
つた者は、業務上委託を受けたたる知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。」と、これは
現行法にもある
規定でありまして、
押收拒否権について整理をいたしましたと同樣、或る程度の整理をいたしまして、やはり証言拒否権の範囲を幾分狹めたわけでございます。この百四十九條の証言拒否権も、
但書の場合において、その本人が
承諾しておる場合、又は証言の拒絶がただ單に
被告人の利益のためのみを考えまして、
権利の濫用と考えられる場新、その他
裁判所の規則で定めました事由がある場合には、証言拒権がないということにいたしたわけでございます。
次に百五十條及び百五十
一條は、
召喚を受けた
証人が、正当な
理由がなく出頭しない場合における
制裁の強化の
規定でございまするが、百五十條におきましては、五千円の過科且つ
費用の
賠償を命ずるということにいたしまして、百五十
一條におきましては、
刑罰として五千円以下の
罰金又は
拘留に処する、
情状によ
つて罰金及び
拘留を併科することもできるということにいたしたわけでございます。これは
身体檢査のための
召喚について御
説明申上げましたように、
一般國民が、今後より以上に
刑事訴訟に協力して頂かなければならない
関係からいたしまして、從來以上に、
召喚を受けた
証人が出頭しない場合の
制裁を強化いたしたわけでございます。百五十二條は、
召喚に應じない
証人を更に
召喚でき、又は場合によりましては
勾引もできるという
根拠規定を置いたわけでございます。これは
現行法と変りございません。百五十三條は、この
証人の
召喚及び
証人の
勾引につきまして、
被告人の
召喚及び
被告人の
勾引の
規定を
準用いたしました
準用規定であります。
次に百五十四條は、
証人の宣誓に関するる
規定でありまするが、原則といたしましては、
証人に対しては宣誓をさせなければならないという
規定を設けました。然して宣誓の方式、宣誓書の
記載事項等は、すべて
裁判所の規則に讓つたわけでございます。百五十四條は、宣誓をさせないで尋問する場合の
規定でありまするが、
現行法におきましては、宣誓させないで尋問する場合の
規定は二百
一條の
規定でありまして、
現行法においては、十六才未満の者、宣誓の本旨を解すること能はざる者、現に
供述をする
事件の
被告人と共犯の
関係のある者も又はその嫌疑のある者、又は
現行法百八十六條第一項に
規定する
関係がある者であ
つて証言を拒まない者、百八十
八條の場合で、証言を拒まない者、
被告人の傭人又は同居人、このように沢山のものにつきまして、宣誓をさせないで尋問をせよという二百
一條の
規定があつたのであります。この
現行法の
趣旨は、これらの者は、必ずしも眞実を言わない、又は眞実を僞証の
制裁を科してまで言わせるということは苛酷であるという配慮をいたしまして、宣誓をさせないで、とにかく或る
供述をさせ、その嘘も本当も混
つてる
供述の中から、
裁判所が自由心証によりまして正しい
供述を証拠として選び出すという考え方に立
つておつたのでありまするが、今回の
改正案におきましては、この
現行法二百
一條の
條文を整理いたしまして、百五十
五條におきまして、ただ「宣誓の
趣旨を理解することができない者は、宣誓させないで、これを尋問しなければならない。」という
規定といたしました。その以外の者につきましては、すべて宣誓をさせなければならない、こういう立て方をいたしたわけであります。勿論この場合におきましても、最前御
説明いたしました百四十
七條との
関係がある者は、刑事訴追を受け、有罪判決を受ける虞れのある証言は、個々の
質問に対する証言というものは、拒否できることは申すまでもないことであります。次に百五十六條の、
証人が実驗した事実から推測した事項を
供述することができるという
規定は、
現行法と同樣でございます。
次に百五十
七條、これは
証人尋問につきまして、
檢察官、
被告人又は
弁護人の
立会権の
規定でありまするが、
檢察官、
被告人又は
弁護人は、
証人の尋問にすべて
立会権がある。從
つて証人尋問の日時、
場所はこれらの者に
通知しなければならない。但しこれらの者が予め
裁判所に立会わない意思を明示しておつた場合には
通知しなくてもよろしい。
檢察官、
被告人、又は
弁護人が
証人尋問に立会つた場合には、
裁判長に告げて、その
証人を直接尋問することができる。こういう
証人尋問の
立会権及び
証人の尋問権を
規定いたしました。これが公判以外の場合の
証人尋問の原則となる
規定であります。
次に百五十
八條の
規定でありまするが、この
改正案におきましては、
証人尋問は原則としては
裁判所に
召喚してなすべきものである。但し、百五十
八條の例外の場合にのみ
裁判所外に
召喚をし、又はその
証人が現在しておりまする
場所に臨んで、そこで尋問をすることができるという例外の
規定を百五十
八條で設けたわけであります。即ち
裁判所は、
証人の重要性、年齢、職業、
健康状態その他の
事情と、現在
裁判所が審理いたしておりまする事業の軽重とを考慮いたしまして、
檢察官及び
被告人、両当事者の意見を聽いて、必要のある場合にのみ
裁判所外に
証人を
召喚し、又はその現在
場所に、臨んで尋問をすることができる、こういうことにいたしたわけであります。この場合には第二項によりまして、
裁判所は職権で尋問をいたします場合であ
つても、或いは
檢察官、
被告人の申請によ
つて証人尋問をいたします場合であ
つても、その尋問事項を当事者に知る機会を與えなければならない。
檢察官、
被告人、又は
弁護人は
裁判所から知る機会を與えられた尋問事項を読みまして、その尋問事項では足りないと考えた場合には、その尋問事項に附加して、必要な事項の尋問を請求することができる。從いまして今後の
裁判所外の尋問、即ち
受命判事、受託
判事等によ
つてなされます尋問につきましては、予めその尋問事項を当事者に知らせまして、当事者がその尋問事項を不満足と考える場合にはそれに附加して、尋問事項を附加えて、そうしてその尋問事項を
受命判事に渡し、或いは
受託裁判所に送りまして、そこで尋問がなされる、こういう形になるわけであります。この百五十
八條の
規定は、
憲法が
被告人は、すべての
証人を十分に審問する機会を與えられなければならないという
規定によりまして、
現行法のように如何なる事項が尋問されるか、
被告人が知らない間に
証人尋問がなされることを防ぐ意味におきまして、このような
規定を設けたわけでございます。
次に百五十九條は、百五十
八條によ
つて受命裁判官、又は受託裁判官による
証人尋問が行われるわけでありまするが、このような百五十
八條の
規定による
証人尋問に、
檢察官、
被告人又は
弁護人が立会わなかつた場合には、その
証人尋問が終つた後で、
証人尋問の内容を当事者に知る機会を與えなければならない。前項の
証人尋問が
被告人に予期しなかつた著しい不利益なものである場合には、
被告人、又は
弁護人は更に必要な事項の尋問を請求することができる、こういう
規定を設けまして、
被告人の
憲法上保障されました
証人の尋問権というものを確保しようといたしたわけであります。勿論この再尋問の請求が、その
理由がないと認める場合には
裁判所はこれを却下し得るわけであります。
次に百六十條及び百六十
一條の
規定は、「
証人が正当な
理由がなく宣誓又は証言を拒んだ」場合の
制裁規定でありまして、
過料の
制裁は五千円に強化いたしまして、更に
事情によりましては百六十
一條で「五千円以下の
罰金又は
拘留に処する。」ことができる、こういう
規定を設けたわけであります。その
趣旨は最前より
説明いたしておるところであります。
次に百六十二條の、「
裁判所は、必要があるときは、決定で指定の
場所に
証人の同行を命ずることができる。」、「同行に應じないときは、これを
勾引することができる。」という
規定は
現行法と同樣であります。次に百六十三條の「
裁判所外で
証人を尋問すべきときは、会議体の
構成員にこれをさせ、又は
証人の現在地の地方
裁判所若しくは簡易
裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。」、という
規定は
現行法と同樣であります。この
規定は百五十
八條で、
裁判所外の例外の場合の
証人尋問を、この百六十三條によ
つて、受命裁判官或いは受託裁判官になさしめ得るということになるわけであります。百六十四條の「
証人は、旅費、日当及び宿泊料を請求することができる。」、併しながら「正当な
理由がなく宣誓又は証言を拒んだ者は、」その請求権がないという
規定は
現行法と同樣であります。