○
政府委員(
奧野健一君)
提案理由の御
説明をいたしました際に大体の御
説明をいたしましたのでありますが、
只今のお話によりまして
簡單に
逐條について御
説明をいたします。
新
憲法によりまして
行政裁判所というものがなくなりまして、
行政事件のすべての
訴訟は
司法裁判所に來ることに相成りましたのであります。そこで
司法裁判所において
行政事件を裁判する場合の
手続につきましては、
刑事手続ではありませんから、大体
民事訴訟の
手続によ
つてよかろうということで、現在大体
民事訴訟法によ
つてや
つておるのであります。併しながら
行政事件は純粹の
民事事件とはやや異りまして、その裁判の対象が
公法関係でありますからして、まあ
單純に私権の
爭いより行非常に公益的な分野が相当あるのであります。そこで
單純に
民事訴訟法のみでや
つて行くことは適当でないと
考えますので、
行政事件について
民事訴訟法の
特例を設けるというのが、大体この
法律の
建前であります。そうしてこの
特例に
規定していない点につきましては、
民事訴訟法の
一般原則の適用があり、
行政事件の特別のものについてのみこの
法律は
規定をいたしたのであります。即ち大体に申上げますれば、
二條で
訴願の
経由訴願の前置主義を取ること、三條で
被告に関する
事柄、四條で土地の
管轄、
五條で訴の提起の
期間、六條で訴の併合に関する
事柄、
七條で
被告の
変更し得ること、それから尚十條で
処分の
執行の停止でありますとか、或は十
二條で判決の
拘束力、或は八條で
行政参加といつたようなことについて、
民事訴訟とは特別な取扱いをいたしたのであります。第
一條はそういう
意味で「
行政廳の違法な
処分の
取消又は
変更に係る
訴訟。その他公正上の
権利関係に関する
訴訟については、」大体この
特例によるという
規定を設けたのであります。
即ち第
一條の前段の方は、
從來学問上いわゆる
抗告訴訟と言われておる、違法な
行政処分の
取消、
変更を求める
抗告訴訟、その外にその他
公法上の
権利関係、いわゆる学問上
当事者訴訟であるとか、或いは
選挙訴訟であるとか、或いは
補償金の問題といつたような
公法上の
権利関係についても、いわゆる
抗告訴訟の外に、そういう
公法上の
権利関係についての
訴訟についても、すべてこの
特例法によるという趣旨を明かにいたしたのであります。
第
二條はいわゆる
抗告訴訟に当ります。
行政処分の違法なものについての
取消又は
変更を求める訴、いわゆる
抗告訴訟につきましては、
訴願の途が開けてある場合には、一
應訴願の
裁決を経た
あとでなければ訴を提起することができないということにいたしたのであります。これはいろいろ
議論のある点でありますが、やはり
行政廳の
処分について一
應訴願裁決の途を
法令で認めておる場合、即ちこれは
從來訴願法並びに各
特別法で
訴願裁決の途を認めておる場合が沢山あります。そういうふうに
訴願の途があれば、一
應政行廳の反省の機会を與えて、然る後に
出訴せしむるということが適当であろうということで、この
原則として、
訴願の途がある場合には、
訴願裁決を経た
あとでなければ
出訴ができないということにいたしたのであります。併しながら但書を附けまして、これがために著しい損害を被
むる虞れのあるときその他正当な
事由、例えばなかなか
訴願を
裁決してくれないといつたようなことで延び延びになるというような事情がありますれば、その
訴願裁決を経ないでも訴を提起し得るという
例外を設けておりますが、
原則としては
訴願裁決の途が
法令で明かに
規定されておる場合は、一應そういう手段を経た後に
出訴ができるということにいたしたのであります。
第三條は
被告を、相手方をどうするかという点についていろいろ
議論がありますので、これによ
つて、
処分をした
行政廳を
被告として訴えなければならないということを
規定したのが第三條であります。勿論、
法律の
規定で特別の
規定のある場合は除きます。
それから
管轄裁判所の
つては第四條で
規定いたしました。即ち
被告である
行政廳の
所在所の
裁判所の
專属管轄といたしたのであります。
次の第
五條は
出訴の
期間、これは「
処分のあつたことを
知つた日から六ヶ月以内」ということにいたしたのであります。尚
処分のあつたことを知らなくても、
処分の日から一年を経過した場合においては、最
早出訴ができない。ただ正当に
事由によ
つてこの
期間内に訴を提起することができなかつたということを疏明したときに
限つて、その後にいえども訴を提起することができるという
例外を設けてあります。それから第
五條の四項は、或る
処分があり、それに対して
訴願をして
裁決のあつたという場合に、一番初めの
原処分に対して訴えを提起しようとする場合に、
訴願裁決の間で時間が経過いたしまして、この六ヶ月の
期間を
原処分の時から起算いたしますと、もうすでに過ぎているような場合は、第一項によ
つて最
早出訴の
期間が切れてしまう虞れがありますので、そういう場合には
裁決の時からその六ヶ月の
期間を経過して、もうすでに一番初めの
原処分の時から六ヶ月を経過してお
つても、
裁決の時から六ヶ月の間であれば
原処分に対しても
出訴ができるということにいたしたのであります。勿論これらの
出訴期間については、他の
法律に
規定があればそれによるというのが末項であります。
その次の第六條は、
行政訴訟はもう一種特別なものでありますから、
一般に
民事訴訟のように同じ
手続として併合する、他の請求と併合するということが理論上或いはできないのではないかという
議論があるわけでありますが、併しながら
行政処分の
取消、
変更を求めると同時に、原状回復、或いは損害賠償、或いは不当利得の請求というふうなものも、併せて訴えを提起する必要のある場合が沢山あろうかと存じますので、そういう場合に
限つてそういう関連性のある請求は、
行政訴訟と併せて併合してこれを訴えることができるということにいたしたのが第六條でございます。
第六條第二項は、
行政訴訟の中で第一審が高等
裁判所である場合があります。特許に関する抗告審判に対する
訴訟でありますとか、海難審判に対する
訴訟というものは、第一審は高等
裁判所、或いは独占禁止法の関する
訴訟でありますとかといつたようなものは、第一審から高等
裁判所でやります、そういう場合に他の牽連の損害賠償と一緒に請求するという場合には、損害賠償の方は、本來であれば地方
裁判所、それに高等
裁判所、それから最高
裁判所というふうに訴えられるのを、初めから高等
裁判所に訴えなければならないということに併合の結果なりますので、そうなると一審が省略されることになります。それで、そういう場合に相手方の同意を得なければならない。相手の方で一審省略にな
つてもよろしいという
意味で同意するならば、第一審が高等
裁判所に属する
行政事件についても牽連の請求を併合することができるということにいたしたわけであります。それが第
五條の二項であります。
第
七條におきましては、
行政訴訟におきましては
処分をして
行政廳を
被告とするのでありますが、実はこれは非常にむづかしいので、時々
被告を間違えて訴えを起すことが、実例において沢山あるわけであります。そういう場合に
被告が間違
つておるということのために訴えが却下されると、そうなると今度は正当な
被告に対して訴えを提起しようとする時には、もうすでに
出訴期間を過ぎてお
つて、権利の保護を求めることができないというような場合も出て参りますので、普通の
訴訟とも異なりまして、
被告を間違えても、いつまでも
被告を訂正することができることといたしまして、尤も原告の方で「故意又は重大な過失」で
被告を間違えた場合は
例外でありますが、そうでない限りは
被告を
変更することができる。そういう場合は、
変更した時には「
期間の遵守については、あらたな
被告に対する訴は、最初に訴を提起した時にこれを提起したものともなす。」六ヶ月の
期間という
出訴期間の下に徒過しないような保護を與えているのが第
七條の第二項であります。
第三項は、その場合に初めの間違えた
訴訟は当然「取下があつたものとみなす。」ということにいたしたのが第三項であります。
第八條は、
行政訴訟におきましては、実は当事者の外に、当事者にな
つていない第三者を
訴訟に参加しむる必要が相当多くあるのであります。そういう場合に、普通の
民事訴訟だけでは申出によ
つて初めて参加ということが認められておりますが、職権で第三者を
訴訟に参加せしむる必要がありますので、第八條におきましては、職権で第三者を参加せしめ得るいわゆる
行政参加の途を開いたのであります。これは從來の
行政裁判法におきましても同樣な
規定があつたわけであります。
第九條は、元來
民事訴訟は当事者
処分主義の
建前から、
原則として
裁判所がみずから職権で証拠調をするということはないので、殊にこの次に御審議を願いまする
民事訴訟の改正法におきましては、絶対に
裁判所がみずから職権で証拠調をするという主義を止めたのであります。併しながら
行政訴訟は公共の福祉に
関係するところが多い
関係から、「職権で証拠調をすることができる。」途を開いたのであります。これは從來の
行政裁判法にもあつた
規定であります。
次の第十條は、これもやはり従來
行政裁判法二十三條に同じような趣旨の
規定がありましたが、これを多少
変更いたしたのであります。即ち訴えが起きたからとい
つてこの
行政廳の
処分は当然
執行を停止はいたさないのであります。併しながら折角訴えを起してそれに勝
つても、少しも
執行が停止されないでどんどん進んで行きますと、取返しのつかない損害を受けることがありますので、そういう
執行によ
つて償なうことのできない損害を防止するために、「緊急の必要」があつたという、そういう非常な制限的な
條件の下に、
裁判所は申出でにより又は職権で
執行の停止を命ずることができることにいたしたのであります。而も
執行の停止を命じますが、この場合でもこれが「公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞のあるとき」と、或いは「内閣職理大臣が
異議を述べたとき」も亦
執行停止ができないというのであります。これは平野
事件等でそういつたような事例が
考えられたのでありますが、非常に「重大な影響を及ぼす」ような場合、或いは殊に「内閣総理大臣が
異議を述べたときは」
執行停止をやれないということにいたしたのであります。勿論それについては、その
異議についても理由を示さなければならないということを第三項に
規定しております。尚これらの
執行の停止の
処分はいつでも
裁判所の方でこれを
取消すことができるということにいたしたのが五項であります。
次の第十
一條は、
行政訴訟で、違法な
行政処分の取り消し、
変更を求めて
訴訟が起きた場合に、成る程一應は例えば非常な細微な、細かい点で違法があ
つて、それがために
法律的に言えばすべて違法であるかも知れませんが、そういう些細な違法があるからとい
つて全部の取り消しをするというふうなことは、却
つて公共の福祉に適合しないというふうな場合もあろうかと思うのであります、例えば土地の收用等で土地の細目の公告を前提としてしなければならんというような場合に、そういう点で多少の不備、違法があ
つても、すでにどんどん收用が進んで工事が進んでいるというふうな場合に、全部引繰返すというようなことは公共の福祉に適合しない場合がありますので、そういう一切の事情を考慮して、
処分を取り消してしまうことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、原告の請求を棄却することができる、勿論こういう場合は、その
訴訟費用等につきましては、むしろ
被告が負担せしめられるのであります。勝訴に
なつた
被告が負担せしめられる、このことは
民事訴訟法の
原則から当然であります。尚その外に、損害賠償であるとかそういつたような請求は勿論妨げるものではないので、ただ
行政処分の取り消し、
変更は、その場合に請求を棄却されることがあり得るというのが第十
一條であります。
第十
二條は、これは從來の
行政裁判法の十八條の同樣で、確定判決はその
事件についての
関係の
行政廳を拘束するということにいたして、例えば
訴願裁決した
行政廳を
被告として、まあ判決があつたような場合にも、その
原処分をした
行政廳は当事者にな
つていないけれども、
関係の
行政廳としてその裁判の拘束を受けるというのであります。
附則は施行期日と、それから
法律施行前に生じた
事件についてもその
法律の適用があるが、ただ從來
民事訴訟法の應急措置法に
行政事件に対する
規定が一ヶ條あります。それによ
つてすでに生じた效力を妨げないということを経過的に
規定いたしたのであります。それから
出訴期間については六ヶ月ということにな
つております。併しながら他の
法律で別に
出訴期間を決められるということにな
つておりますが、これは昭和二十二年三月一日前に制定された
法律で
出訴期間が短かくしてお
つても、これは認めない、これは
民事訴訟法の應急措置法に同樣の
規定がありますので、それをただ踏襲いたしたのであります。それから附則の末項は、應急措置法で
期間が進行しておるものについては、尚應急措置法の
期間の適用があるという経過
規定をいたしたわけであります。甚だ
簡單でありまするが一言御
説明申上げます。