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星野芳樹君
軽犯罪法案に対して、私も
修正案を持
つておるので、それに対する
説明をさして頂きます。その
修正案を読みますと、第
一條中「これを拘留又は
科料に処する」を次のように改める。「
注意し若しくは
科料に処することができる」。第二條を次のように改める。「前條の罪を犯した者に対しては、情状に因りその刑を免除することができる。」第三條を次のように改める。「第
一條の罪の被疑者に対しては、勾留状を発することができない」。
この
提案理由は、実はこの
軽犯罪法案の第
一條の
條文を
一つ一つ読みますと、甚だ不満なものが多いのであります。長くなりますので、簡略して一二の例を引きますが、例えば第一号に、「人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物等に正当な
理由なくしてひそんでいた者」というようなことがありますが、現在私などは引揚者ですが、引揚者の住宅がなくて非常に困
つており、最近ソヴェート管下のシベリヤや樺太から帰
つて來る人、この無縁故者で住宅の必要な者が四万五千人と推定され、而も
政府で持
つておるのは、現在これで十分でない。そういうような時代に、看守しておらず人が住んでおらない、こういう邸宅があ
つたならば、これは全部引揚者に開放して頂きたいと思うのでありまも。而もそれに入
つておることを処罰する。こういうものを持
つておることを処罰せずして、入る者を処罰する。これは甚だ現在の
情勢にそぐわないと考えられるのであります。
第二号の「正当な
理由がなくて刄物、鉄棒その他」というのがありますが、これには「正当な
理由がなくて」ということのみにな
つて刄物、鉄棒に対しては何らの
規定がありません。そうすると正当な
理由が認められれば、相当な刄物を持
つていられ、又正当な
理由がないと認められれば、鉛筆削りのような小さいものも持
つていけないということになるのであります。私はこれに対しては寧ろ刄物類というものは、
平和國家建設の
意味からして嚴重にもつと
規定して、そうして嚴重に取締るべきだと思うのであります。すべてに人に加害を被むられ得るような刄物類というものの所持携帶を禁止して、これには重
犯罪を科す。但し正当な大工道具とか、職業的に必要なようなものは全部
規定する。こういうものは別個に必要なものだと思う。これでは刄物等には何らの
規定がなくて正当な
理由、而も正当な
理由は裁判所で判断されるわけですけれども、裁判所で判断される前に、檢挙というときには、
警察官の判断にな
つておる。そういう点からこれにも非常に私不満を持
つている者です。
それから第四号の
住所不定の問題ですが、これは
政府委員の
説明によると、以前の警察の処罰より幾分緩和して「働く能力がありながら職業に就く意思を有せず」というようなことを附加したといわれますが、
政府委員はこれが
從來非常に
濫用されたということを認められておるのであります。而もこの但書をいろいろと附けましても、未だ
濫用される恐れが十分残
つております。殊に「職業に就く意思を有せず」その「意思」をなにを以て判断するか。例えば画描きなどで、自分の画を描くことに專心しておる。併し直ちに收入がある職業には就くのを欲しない。こういう者をこれに附加されるというような恐れもあります。
それから第六号、第七号のごときは刑法二百六十
一條、刑法百二十四條にこれに対する
規定があ
つて、それで取締が十分であると思われる、その運用によ
つて十分であると思われるのに、更にこういうものを附加して行く。二十八号というものはなんの
意味だかわからないのであり、三十一号は「
他人の業務に対して悪戯などで」というのは、どういう
意味を含んでおるのか甚だ不明なので、こういうようにいろいろ不満な点があるのでありますが、併し現在これの提出されたのを、なるべく正しい意図を抱くとしましたならば、これによ
つて被むる害悪を除かなければならん。そのためにはこういう
條文によ
つて拘留にされるということが、最も弊害を伴う所以であるので、これを
科料処分のみに止めることを
提案する次第であります。
それでこの第
一條の
修正分には「
注意し」というようなことがあるが、これは新発明の
言葉でありまして、
法律には、未だないのですが、その
軽犯罪法案には新発明の
言葉がたくさん使われておる。その
意味からい
つて、これを軽い道義的に規正する
意味を包まして見て、こういうものを附加すべきだと考える者であります。これが第
一條の
修正意思の大要であります。
それから第二條は「拘留及び
科料を併科する」とあり、私の
提案は拘留を除こうというのですから、当然
修正されるわけであります。現行では、二十銭から二十円というので何ら制裁にならないという
意見もございましようが、これに対しては
科料の料金を
社会情勢に應じて相当に引上げて然るべきだと思います。
それから第三條を何故改めたか、これは第三條
原案では「第
一條の罪を教唆し、又は幇助した者は、正犯に準ずる。」というのでありますが、元來こういう軽微な
犯罪に対して教唆又は幇助までに
適用するというのは、適当だと考えられないのであります。殆んど現行の拘留でありまして、それに更に普通の刑法概念を以て。教唆幇助に
適用するのは適当でないと思うのであります。而も刑法第六十四條には、拘留
科料に対する罪に対しては特別な
規定がない限り、教唆幇助には
適用しないというのがあるのであります。それでありますから、ときに
適用するため第三條を入れておるのであります。刑法の精神としても、こういう
科料とか、拘留に
適用される
程度の軽
犯罪には、教唆とか幇助は入れないという建前、それをこの
原案では特に入れると言
つておるのであります。ですからこれを特に入れるという
理由は奈辺にあるか了解に苦しむのであります。この
意味において、第三條を除くことになるのであります。そうしてその代りに「第
一條の罪の被疑者に対しては、勾留状を発することができない。」というのを入れたいと思うのであります。これは
中村正雄君の
提案の中に「
犯罪の捜査のために
濫用し」という文句が入
つておりますが、
從來この警察の処罰が悪用せられた点は、これを以て不当な勾留
科料を併科されたという点にあるのであります。これが
中村正雄委員の案にも含まれておると思うのでありますが、もつとはつきりと「被疑者に対しては勾留状を発することができない。」こうしますれば、檢事勾留十日間というのが除かれのであります。こういうように
修正したいと思うのであります。先日
司法委員の視察
委員として九州の刑務所をずつと視察して参りましたが、どこでも勾留過剰で定員の三倍以上を收容しております。而も刑務所で收容し切れないで、この勾留期間中は警察に預けておるというのが大分あります。更に
軽犯罪法で勾留したものは、どこに入れられるかを疑問とするのであります。而もこうして軽
犯罪に集中することによ
つて重
犯罪が等閑に附せられる、そういう
理由からして、先ず第一に勾留を除くこと、そうして被疑者には勾留状を発することができない、こういう
修正意見を提出する次第であります。