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公述人(今井嘉助君) 私は労働法規改惡
反対鬪爭
委員会を代表しまして、今般の提案された
軽犯罪法案につきまして、撤回すべきであるという、絶対
反対の
立場から
意見を述ベさして頂きます。もともと労働者出身の
関係もありますし、御存じのように、過去長い間、我々の階級が圧迫され、搾取された
関係上、
言葉は非常に粗野であり乱雜でありますが、予め失礼な点がありましたら御了承願いたいと思います。
共同鬪爭
委員会といたしましては、この
法案につきまして、非常に関心を持ち、衆議院或いは参議院に対しまして、單に
司法委員会だけで問題にせずに、これは労働
委員会においても問題にして頂きたいと同時に、この
法案の提案
理由の中に、明らかに「廣く各界の
意見を徴し」、こういう文句があるわけでありますが、それで衆議院の司法
委員の方々に対しましては、あなた達は、この
法案の中にある「各界の
意見を徴し」、こういうわけだから、これは
國民のいろいろな問題にも
関係するのだし、特に我々
労働運動に携わ
つておる者の
意見を聞いて貰いたいという
意見を申上げたのであります。
ところが衆議院では、我々のこの申出でに対しまして、單に労働
委員会と二回懇談会が行われたのでありますが、
公聽会は実はせずして、再三我々が足を運んだにも拘わらず、拔打的に去る十三日通過さしてしまつたのであります。
ところが、本院におきましては、特に伊藤
委員長初め、各司法
委員の方々の御理解ある態度によりまして、昨日、本日の両日に亘りまして、この
公聽会を持
つて頂きましたことにつきまして、深く本席を借りまして御礼を申上げます。
ただ私の
考えからいたしますれば、尚慾を申上げますれば、これは單に
労働運動或いは農民
運動、その他の民主的な
運動に
関係するばかりでなくて、全
國民の
憲法によ
つて保障された
基本的人権、これを蹂躙する危險が非常にある。だからもつと大々的に、而も長時間を掛けて輿論を聞くべきである、こういう
考えを持
つております。済んだことは致し方ないわけなんですが、今後
國民の代表者といたしましても、我々の先輩は少くともそういう心構えで対処して頂きたい。このことを労働階級を代表いたしまして、特にお願いして置きます。
大体すでにもういろいろお話を承りますれば、撤回の段階でない、これは幾らか修正しなければいけない、こういう点も承
つておるのでありますが、併し我々
國民としましては、そこまでいろいろな關係で承てお
つても、やはりこの
法案に対する基本的な見解を明らかにすべきである。こういう
考えから、あとの財政の節約とか、そういうことは、昨日当りから、我々の同士とか先輩から
意見が述べられておりますし、本日も述べられるでありましようから、そういう
観点から
反対の
理由を述べさして頂くわけであります。
第一に今朝程、私大森に丁度家を借りておりますですが、非常に電車が混雜した。
軽犯罪法の中で、十三号の
ところを御覧になりますれば、行列を乱したら何とかと書いてあります。そうすれば、昨今の交通状況から見まして、すべて朝早く、それぞれ職場に駈け付けて、生産の増強に携わるわけなんですが、こういう方々は全部実は豚箱へ行くか、或いは罰金を取られる。そういうために簡易裁判所へ連れて行かれるのか、或いはどうか知りませんですが、そういうこととなるわけなんです。そのため、完全な法としてこれができますれば、その
取締を完全にしなければ、これはやはり非常に遵法というような
建前から変だから、
警察官を、少くとも、大森の駅では、朝千人ぐらいの人が溜
つておりました。千人ぐらいの警官を直ぐ動員しなければならんという事態が発生する。こういうことが、実際問題としてやり得ることかどうか。この一事を
考えましても、
日本で当面生産復興ということが、いろいろな
立場から言われておりますが、生産復興を非常に阻害するのであります。その他の
條項を見ましても、そういう例が、
取締られる
立場から、それから
取締る方の
立場からしても、非常に無駄な精力と時間を割かれる。
軽犯罪法のために、
日本のあらゆる人民の活動、或いはその他いろいろな
國家活動が、全部総動員しなくてはいけない。法として設けた以上は、これは完全に実施しなければ、法治
國家の
建前が立たないわけであります。そういう点からい
つても、もう少しこれは
考える余地があるのではないか。いろいろ例がありますが、結局
日本の生産復興をもう非常に阻害する。この法を実施すればですね、これが第一点。これは嘘と思われるか知れませんが、実際実施して見れば分るだろうと思います。
それから第二番目としましては、戰爭が済みましてから、
日本の民主化ということが、いろいろな合
言葉になりまして叫ばれております。
日本の民主革命を推進すると、或いはいろいろなものを民主化するという
建前からい
つて、これが大きなブレーキになる。そういう点から申しますと、これは、私そういう方面は明るくありませんですが、先程からもいろいろ引用されたように、
ポツダム宣言、これによ
つて、はつきり
日本は早く民主的な
方向に持
つて行かなくてはいけない。或いは民主化を阻害するような勢力は、皆撃退しなくてはいけない。進んでそれを推進するような
運動とか、或いは
團体を助成強化しなければならんというようなことが大
原則として立てられている。にも拘らず、この
軽犯罪法に盛られている
條項は、一見すれば、そういうことに牴触しないかのように見えますが、これが
運用された曉は、事実上今申しましたような大
原則に背反するというような点が、多々事実として惹起して來るだろう。單に形式的に物を整えればいいというわけでない。やはり
民主主義の我々
國民として生まれた限りは、もつと物を実質的に、本質的に
考えて行きたい。特に
國民の代表者としての我々並びに先輩は、このことをもつともつと本質的に正しい基準によ
つて処理すべきじやないかと
考えます。
それからこれは、
労働組合に関することでありますが、先般から再々例に挙げられたように、十六
原則、この中には、
労働組合に関する十六
原則の
関係上、非常に
労働組合を助成しなければならん、それから発達させなければならんという点が強調されておるわでけあります。
ところが、これは
運用の問題にもよるのですが、これが内容を一々点檢して見ますれば、現在
労働運動の段階としまして、單に職場において賃金をこれだけや
つて下さいとい
つて社長と或いは
労働組合の幹部が話をするような段階ではないのです。すべての経済問題が政治的な問題に繋
つている。こういう
観点から勢い労働者もやはりものの本質を見極めて、幅廣く動かなくちや効果が挙がらないという点で、人民鬪爭がいろんな点において大きく展開されている。そういう場合にこの
條項をいろいろ引つ掛けて見ようと思いますれば、片つ端から引つ掛かる。人民鬪爭ということは、
言葉は何だが共産党の專賣特許のような響きがしますが、これはやはり人民の
生活、幸福を本当に守る、そのための最良の手段です。そうしてそれが單に労働者だけでなくて、いろんな具体的な切実な問題なんで、労働者も
関係がある。農民も
関係がある、小市民も
関係がある。そうしてその
反対側に立
つている勢力は、依然としてやはり一部の大資本家、大地主、こういう勢力を中心としてそれに附纏う
ところの、或いは寄生する
ところの、そういう保守的、或いは反動的というような一部のもののための
利益とか、或いは
権力の保持、こういうものに係
つているわけです。これは抽象的な
言葉で申上げても分りませんのですが、現に腐敗した官僚あたりがどういうことをしているか。私電氣事業に從事している者ですが、電氣事業経営者がですね、組合としては、あなた達は官僚統制にはいやいや倦きているのだ。そのために電氣事業の復興もできないのだ。だから一つ酒を飮ますことを止めさせたらどうだろう。一事務官ぐらい來たらとて、ぺこぺこ頭を下げたり、料理屋へ連れて行
つて、又その晩は別室に連れて行くということを止めたらどうだ。そのことによ
つて当然、ここを復興しなければならんという点が全然おろそかにな
つてしまう。これでは電氣事業の復興も何もない。それを見て下さいと非常な慇懃な態度で申入れた。そのときははあはあと言
つているが………。これは私の方の例ですが、すでに今夜商工省のあの氣力局長、それから各課長ですね、それを或る所に集めて、やはり或る問題について一献献じようということがはつきりしております。こういう官僚は單に商工省の電力
関係の官僚だけではありません。現在の
國家機構に巣食う全部の官僚がこうなんです。
問題をもう少し具体的に結び付けまして、
軽犯罪法、これを実施した場合に、これを
運用するのはやはり我々と同じように貧乏な階層から出ている巡査です。この人達も
生活が安定されていない。
從つていろいろな、今まで過去二年間においてみたような、あの誠に我々の同士とい
つてもいいわけですが、同輩の巡査諸君に対してはお氣の毒な
言葉ですが、余り感心した態度をと
つておらない。それはやはり食えないからである。そういう
ところへこれを持
つて行つたらどうなるか。今日は三つ事件を挙げたからこれだけの褒美を上げる、今日は五つ事件があれば今月の賞與はこんだけやる、こういう政策も過去において採られている。それからやはり官僚機構の
建前として、手柄を少しでも挙げようと思う、ここへ全部精力が集注するわけです。だから大きな事件は皆お留守にな
つてしまう。而も
警察官諸君の質或いは量の点から
考えてみましても、ほぼその結果はどういう形になるか、堕落の上塗りをするばかりなんです。こういう点で、この
運用の面におきまして。これは完全に実施されない。むしろ
警察官の表情を惡くする。それから
國民自身がまだまだ民主化されておらないというのは、別に
國民が惡いわけではないのです。その責任は全部過去の、むつかしい
言葉はいろいろありますですが、要するに一部のつまり惡い支配階級ですか、そういう方がいじめつけた。私なんかも貧乏の生まれですから、やはり表情は立派でありません。物の言い方もまずい、粗野だ。やはり金持の坊つちやんで大學でも出ている人は、物事もよく知
つておる、お上品だ。これはやはり
國民全般に一致するのでないかと思う。だから、ここへこれを持
つて行けば、実際問題として食えない、或いは実際問題として
自分たちの感覚が鈍いという
建前から、これくらいのことはやはり犯し易い條件だとか、そういう制約の中にある。
法律が出れば、やはり犯せば惡い。びくびくびくびくして、
國民の表情がこの二年の間に非常に惡く
なつたわけなんですが、ますますとんがらなか
つたような表情にな
つてしまう。これを連合軍当局あたりが見られれば、
日本人というのはもつと立派だつた。
ところがどうだ、ますます惡くなる。だからもつとこういう形でやらなければいけないという見方も或いは生まれるかも分らないわけなんです。皆さんも
自分のお子さんを持
つておられますが、叱
つては、或いはいじめては、決して子供はうまく成長するもんでないのです。本当に愛を以て、寛容な態度で、そうして
自分もお妾さんを持つたり、或いはいろいろなことをせずして、本当にその家をうまく持
つて行こうという心構えであれば、おのずから家運も整
つて來る。別にがんがん叱り付けなくても、子供はすくすく美しい明るい表情にな
つて來る。それと同じように、問題の本質はそういう
ところにあるんだろうと思うのです。そういう
意味合から私はやはり、平和
國家或いは文化
國家というようなことを言われておりますが、それを推進する点から見ても、この実施はどうかと思う。
尚これは
警察犯処罰令の裁判ですか、それに代るべきものとしてこれを出したのだという
説明にな
つておりますが、我々の先輩が
警察犯処罰令によ
つてどれだけ、
日本を明るくする或いは正しく延ばすという努力とか、そういう心が無残に踏みにじられたか。丁度御存じのように、やはり今から三十年ですか、一九二九年ですから、
昭和四年になります。
昭和四年のあの二月十八日の第五十六議会ですが、ここで労働者、農民の代表者としての輝かしい鬪爭をやられた山本宣治代議士、この方が檢束され
警察犯処罰令によ
つて非常にいじめられたその例を挙げております。それは昨日も平野さんがおつしや
つておられましたが、あれとよく似通つた形なんで、法の上でははつきり誰が見ても可なり正しく書いてあるし、これは濫用されないような形に見えますが、あの当時どういう
方法をやつたか。今から我々が見れば、誠にこれは兒戯に類するような、又その本質においては非常に老獪獰猛極まる態度であつた。山本さんが言われる
言葉としましては、私がこの檢束で非常に不当な待遇を受けた。その例はこうだ——
自分のお父さんの葬式で郷里の宇治へ帰つた。そうして葬式を済まされて約二週間目に、宇治の
警察から、
ちよつと來て貰いたい、要件は、丁度山本さんがインターナシヨナルという雜誌の発行……印刷物でしたか、そういう
関係上、
ちよつと聽きたいことがあるから、來てくれというので、引つ張られた。
ところがそういう要務で引つ張られたのだと思つたら、全然そういう要務でなくて、直ぐブタ箱に入れちやつた。それからのやり方が、六日間入れて置いたらしい。第一日目はこれは後で分つたわけです。六日目に出るときに
自分の所持品を返されますから、そのときにたまたま図らずも檢束文の内容を見ることができた。第一日目は山本宣治は宇治町の公園を徘徊しておつた、その廉によ
つて檢束した。第二日目はやはり宇治町の或る神社を徘徊しておつた。第三日目は宇治町の非常に風光明媚な所をうろついていた。こういうわけで六日の間豚箱に入
つてお
つて、宇治の風光明媚な名所旧跡を全部廻つたことになる。これを帳面ずらを合わすためにどういうことをやつたかといいますと、その係部長が朝
ちよつと出して、「まあ帰
つてくれ」、少し歩かして又「戻
つてくれ」と言
つて、直ぐ豚箱に入れる、同じことをや
つておる。部長も
ちよつと調書を書くことを忘れて、その措置を忘れた場合には、全然その措置を取らずして、やはり同じことを書いておる。見方によれば非常に可愛らしい、子供らしい。これがあの立派な
警察行政かと思われるくらいなやり方なんですが、これは先程も申しましたように、非常に惡どい、その狙う
ところは、我々としましては非常に何と申していいか、恐しい仕打であるということが分るわけであります。これは代議士だけではない。このためにこういう
方法によりまして、どれだけ
日本の解放
運動を進めた
人たちがやられたか。大正八年には一万何千人。それから
昭和元年には五万人が警視廳管内だけで、治安を
ちよつと乱したという、こういう
関係でやられた人がある。先程の井伊さんも言われましたように、情勢は成る程幾らか民主的な形で進んでおりますが、昨今の階級対立の激化した情勢から申して、これが実施されれば、やはり
運用の面においてこういうことがないとは、絶対保証できないと思うのであります。
要するに、時間が参りましたので
結論を申上げますが、衆議院では先程申しましたように、ああいう形で、非常に非民主的の態度で我々の申入を取扱つた、と同時に、中には
労働運動に
適用しないことを入れてくれと言うたら、或る議員でしたが、
言葉ははつきり分りませんが、これはいいじやないか、これによ
つて彈圧すれば尚いいじやないかという量見の人が、我々の選良の中に一人でもいる限り、
運用の面においてどうなるか、この面においても、我々としましても愼重に扱
つて、撤回できれば撤回して頂きたい。特にそういう点につきましては、衆議院の方々よりずつと進歩的な、而も我々が尊敬する当司法
委員の方に特にお願いしたわけなのであります。單にこの
軽犯罪法の軽い
條文を審議するということが、曾て過去の
警察犯処罰令が
日本の大きな民主化をうんと後退さした、そうして悲惨な帝國
主義を惹起さしたという役目を持
つておると同じようにこの
軽犯罪法案に対して我々の尊敬する先輩方が若し眞劍にこれを取扱い下さいませんでしたならば、將來これによ
つて日本の民主化が如何に多く、どれ程多く後退させられるだろうかうといたことを心配しております。そういう点から申しましても、ここで一つ特に当
委員会の
委員長初め
委員の方々、それから廣く参議院の我々の代表としましての
委員の皆樣に、我々労働者としてこの
法案に対する革命的、英雄的な態度を懇望して、私の共同鬪爭
委員会の方の代表の
公述といたします。