○
政府委員(
森下政一君)
只今議題となりました
所得税法の一部を改正する等の
法律案外一
法律案につきまして、提案の理由を説明いたします。政府は最近における
賃銀物價等、経済諸情勢の推移に即應して國民の
租税負担を調整合理化すると共に、
財政需要に対應して
租税収入を確保する等のため、税制の全般に亘り改正を加えることといたしたのであります。即ち今次の
税制改正に当りましては、租税の中枢たる
所得税につきまして、
賃金物價等の変動に伴う
所得状況の推移、課税の実情に照らし、
財政事情の許す限り負担を軽減するため、
基礎控除、
扶養控除及び
勤労控除を
相当程度引上げると共に、税率を大幅に引下げることといたしたのでありまして、
勤労所得者等の負担は、これにより著しく軽減されることとなるのであります。又
法人税につきましては、産業の振興、外資の導入、株式の
大衆化等に資する見地から、
法人税について所要の改正を行うことといたしたのであります。
次に、物價の変動に即應して、間接税中
從量課税の酒税、
清涼食料税、
砂糖消費税、マッチ、飴類に対する物品正税並びに
定額税率による
登録税、
印紙税等について、相当の増徴を行うことといたします反面、
物品税を課せられる物品中、
負担加重と認めら仰る特定の物品について税率の調整等を行うことといたしました。尚最近における徴税の実情に顧み、
加算税、追徴税、罰則等に関する規定を整備強化すると共に、直接國税に関する
調査権限の拡充を行うことといたしたのであります。
更に政府は今回新たに
取引高税を創設することといたしたのであります。即ち
経済情勢の変動に即應して、
租税収入を確保し、財政の基礎を堅実ならしめますと共に、これにより
所得税、
法人税の減収の一部を補填するため
取引高税を創設し、各
取引段階に対し百分の一程度の課税を行うことがこの際適当であると考えられるのであります。
尚
地方財政の確立に資するため、今回
狩猟免許税を地方に委讓し、入場税も地方に委譲する方針であります。
次に各税に関する改正の大要について申し上げます。先ず
所得税でありますが、先程も申しましたごとく、
賃金物價等の変動、課税の実情に照らし、負担の軽減を図ることに重点置いて所要の改正を
行つたのでありまして、物價の改訂が
勤労所得者などに加える重圧所、これにより
相当程度緩和される見込であります、
所得税の負担の軽減を図るための措置といたしましては、先ず第一に税率を大幅に引下げることといたしました。即ち
所得税の
現行税率は、最近における名
目的所得の増嵩等に顧みるときは相当量くなつておりますので、
最低税率現行一万円以下の金額百分の二十を二万円以下の金額百分の二十とし、順次税率の引下げを行い、
最高税率現行百万円を超える金額百分の八十五を、五百万円を超える金額百分の八十といたしたのであります。又百分の五十の税率の適用を受けるのは、現在は五万円を超える金額であるのが、改正後は二十万円を超える金額となるのでありまして、相当大幅な引下げを行なつておるのであります。第二に
給與所得の計算について、その
収入金額から控除する金額を、現行の五万円までの金額の十分の二・五から十五万円までの金額の十分の二・五に
引上げることといたしたのであります。従いまして
控除額の
最高限度は、一万二千五百円から三万七千五百円に
引上げられたのであります。第三に、
基礎控除額を現行年四千八百円、即ち月四百円から年一万五千円、即ち月千二百五十円に
引上げたのであります。両
基礎控除につきましては、
同居親族の中に
事業等所得を有する者と
給與所得を有する者とがある場合における負担を軽減するため、
事業所得の金額及び
給與所得の金額から、それぞれ
基礎控除を行うことに改めたのであります。第四に
扶養親族の
控除額を、
現行扶養親族一人につき年四百八十円、即ち月四十円から、年千八百円、即ち月百玉十円に
引上げたのであります。而して
給與所得に対する
源泉徴収につきましては、六月十五日以後の支給に係る給與から右の
勤労控除、
基礎控除及び
扶養控除の
改正規定を適用することといたしております。これに対應して昭和二十三年分の課税に当りましては、前に申述べました
給與所得の控除は、
収入金額五万円までの金額の十分の二・五と、五万円を超える十五万円までの金額の十分の一・三五四に相当する金額の合計が、その最高額は二万六千四十円とし、
基礎控除は年一万三百二十五円とし、又
扶養控除額は年千百九十五円といたしておるのであります。今回の改正により、
扶養親族三人の場合の
所得税の負担を御説明いたしますと、
給與所得者については、
給與月額四千五百十一円程度以下の者、
事業所得者については昭和二十三年分の課税について申しますれば、
所得年額二万八千二百五十円程度以下の者は、それぞれ課税されないこととなるのであります。又
給與所得者については
給與月額五千円の者の
現行負担は千一円であるのが、改正後は九十一円となり、
給與月額一万円の者の
現行負担は三千七百三十六円であるのが、改正後は千百九十五円となるのでありますし、又
事業所得者については昭和二十三年分の課税について申しますれば、
所得年額五万円の者の
現行負担は一万三千百五十円であるのが、改正後は五千三百三十三円どなり、
所得年額十万の者の
現行負担は四万三十八円であるのが、改正後は二万千三百一円となるのでありまして、それぞれ
相当負担の軽減と相成る次第であります。
その他
所得税につきましては、外國人及び
外國法人に対する
利子所得、
配当所得等の税率を、内國人及び内
國法人と同様百分の二十といたしました外、
簡易税額表の適用を受ける者の範囲を
所得金額二十二万円以下の者にまで拡張し、大多数の
所得者の
税額計算の手数を省略すると共に、
予定申告書及び
確定申告書の提出を要しない者の範囲を拡張する等の改正を行なつたのであります。又
源泉徴収額表中一部の表を省略することとし、賞與等の
給與所得に対する
源泉徴収額表の税率の適用を
給與所得に対する年末調整の場合の負担等を考慮して、若干
程度引上げることといたしたのであります。尚当分の
間所得金額の中に
配当所得があるときは、
所得税額から
配当所得の百分の十五に相当する金額を控除する特例を設くることとし、証券の民主化に資することといたしました。
次に、
法人税でありますが、先にも申述べましたごとく、産業の振興、
外資導入等に資する見地から負担の調整を図るのを目標といたしたのであります。先ず税率でありますが、最近における
法人課税の実情、資本と所得との間の不均衡等を考慮いたしまして、
超過所得の
階級区分を
引上げ、又税率を引下げたのであります。即ち
現行資本金の一割
超過額百分の十を三割
超過額百分の十に、二割
超過額百分の二十を五割
超過額百分の十五に、三割
超過額百分の三十を十割超掛額百分の二十にそれぞれ引下げることといたしました。これと同時に今回資本に関する
法人税は現在その実益に乏しいことを考慮いたしまして、これを廃止することといたしました。又
外國法人に対する
普通所得の税率、現行百分の四十五を
内地法人と同様百分の三十五に引下げ、
外國法人を
内地法人なみに取扱うことといたしたのであります。尚
同族会社に対する
加算税の税率につきましても、
所得税の税率の引下げに対應せしめるため、所要の改正を行うことといたしたのであります。
次に、
特別法人税法を廃止いたしまして、
特別法人に関する規定を
法人税法に統合することといたしたのであります。ただ
特別法人に対しましては、從來通り
事業分量に
應ずる配当はこれを損益に算入することといたしました外、当分の中
普通所得に対する税率を一般の法人に比し百分の五軽減することといたしました。更に
法人税の課税の
充実徹底を図るため、必要に應じ納税地を指定して、営業の事業上の中心地において課税する途を拓くこととし、併せて、支店等の
所轄税務署長等に
当該支店等の調査権を與えることといたしました。荷法人が
私的独占の禁止及び
公正取引の確保に関する法律等に基き、株式その他の資産を処分した場合の課税上の特例に関する規定を
組税特別措置法に新たに設けることといたしました。
次に、
有償証券移轉税につきましては、有價証券の中、株券に対する税率をこの際増徴して、千分の二乃至千分の八程度といたしたのであります。
伺企業再建整備法等に関連して有
價証券移轄税を課さない特例を設けることといたしました。
次に、相続税につきましては、
課税價格に算入しない少額贈與額の限度を、現行千円から三千円に
引上げ、その他の免税点についても
相当程度の
引上げを行うと共に、
年賦延納を求めることができる税額の限度を、現行一万円から三万円に
引上げ、納税の困難でないと認められるものに対しては、
延納年限の短縮、
延納年割額の変更等をなし得る等の規定を設けることにいたしたのであります。
次に、通行税につきましては、現行一キロにつき一等四銭、二等二銭、三等五厘の從粁税でありますのを、今回料金百分の五の
從價税率に改め、急行及び
寝台料金の税率を一律に百分の二十といたしたのであります。尚二十キロ以下の三等乗客に対する
非課税規定はこれを廃止いたしましたが、三等定期券についてはその性質に鑑み、從來通り非課税といたしております。
次に、酒税でありますが、
財政需要の現状、物價の現状に鑑み、清酒については一升壜詰の小賣
價格一級酒現行二百九十五円を四百五十円程度に、二級酒現行二百四十円を三百五十円程度に、又ビールにつきましては壜詰一本の
小費價格現行四十一円五十銭を七十円程度にそれぞれ
引上げる程度の増徴を行うと共に、その他の酒類についても品質に感じ
税負担に差等を設けてこれに準ずる増徴を行うこととし、又
特別價格で販賣する酒類の價格につきましても、
一級清酒現行六百円を九百円程度に、二級
清酒現行五百四十円を七百五十円程度に、
ビール壜詰一本
当り現行百一円五十銭を百五十円程度にそれぞれ
引上げ、総税額において平年度五割程度の増徴を行うことといたしました。
清涼飲料税につきましては、酒税の増徴に対應して第二種サイダーの税率を一石につき現行六千九百円を九千五百円に
引上げ、その他の
清涼飲料についても同程度の税率の
引上げを行うことといたしました。
次に、
砂糖消費税につきましては、税率の区分を簡素化すると共に、第二極分蜜糖に対する税率を百斤につき現行の千五十円又は千八十円を二千二百円に
引上げ、その他の砂糖、糖蜜、糖水、についても同程度の税率の
引上げを行うことといたしました。尚
輸入砂糖については
砂糖消費税を非課税とする等の規定を新たに設けることといたしました。
次に、
物品税につきましては、最近における物價の状況等に即應し、
從量課税の税率を
引上げることとし、マッチについては十割程度、飴類については五割程度の税率の
引上げを行いますことといたします反面、第一種の物品中負担過重と認められる特定の物品即ち時計い文房具、漆器、陶磁器、電球類、ミシンなどにつき税率を一段階引き下げると共に
課税最低限の
引上げを行うことといたしました。尚
食糧配給公園の配給する
葡萄糖等であつて、
主食強制代替配給のものに対する
物品税を免税する規定を設けることといたしました。
尚
登録税のうち定額税のもの、印紙秘、
取引税及び骨牌税につきましても、それぞれ物價の変動に即應して税率の
引上げを行うことといたしたのであります。
以上申述べました外、今回改正しようとする二、三の点について申しますれば、先ず直接國税に関する
犯則事件の調査を強力且つ迅速に行い、課税の徹底を期するため、
収税官吏の
調査権限を拡充強化すると共に、國税の
課税標準の申告をしないこと、國税の徴収又は納付をしないこと等を煽動し、又は強要した者を処罰する規定を設けるため、
間接國税犯則者処分法を改正して、
國税犯則取締法を制定することといたしたのであります。尚関税法の
犯則事件に対する罰則等の規定を整備することといたしました。その他
所得税、
法人税等各税に亘り
加算税、追
徴税罰則等の規定を整備強化すると共に、
國税徴収法の延滞金を
引上げ、新たに國税の
過誤納金に
還付加算金を附することといたしたのであります。又土地の
賃貸價格の
一般的改定は、諸般の事情を考慮し、一年延期することといたしました。
次に、
取引高税についてその大要を申上げます。先にも申しました通り、
所得税及び
法人税の軽減による減収の一部を補填し、財政の基礎を堅実ならしめるため、諸外國にも多く実施されている
取引高税をこの際創設することが適当であると考えられるのであります。即ちこれにより極めて低い税率で相当額の税收が物價その他の
経済情勢の変動に應じて確保されることとなり、特に
國庫収支の時期的調整を図る上からも極めて必要であると考えられるのでありまして、
財政需要の著しく増大している現状におきましては、本税の創設は眞に止むを得ないものと考えるのであります。
さて
取引高税の内容につき主たる点を申上げますが、本税はこの法律の施行地において
営業者が営業として行う取引に対し課税するのであります。その営業の範囲は、
物品販賣業、製造業、
銀行業等概ね從來の営業税を課税していた四十種目であります。又営利を目的としない法人が右に申述べました営業と同種の事業を行う場合におきましても、
取引高税を課税することといたしております。本税は廣く一般的に課税するところに特徴がありますので、非課税のものはできる限り認めないのを適当とするのでありますが、
主要食糧の
製造販賣、小学校、中学校の
教科用図書の発行又は販賣、國が
價格調整補給金を交付する
重要物資の取引、自己の収穫した農炭物、林産物、水産物の販賣又はこれを原料として製造した物の販賣、
輸出取引等には本税を課税しないことといたしております。
取引高秘の
納税義務者は、取引の対價として
取引金額を領收する
営業者でありまして、その
課税標準は取引の対價として領収する金額といたしております。即ち物品仮賣業にあつては賣上金額であり、問屋業、代理業にあつては手数料又は
報酬金額といたしております。又銀行業にあつては
貸付金利息、
手形割引料、
手数料等であり、保險業にあつては
拂込保険料額のうち、
生命保険の場合においては百分の七十玉に相当する金額を、その他の保険の場合においては百分の三十に相当する金額を控除することといたしております。尚その他の常業にあつてはその取引から生ずる
収入金額を
課税標準といたしております。本税は以上申述べた
取引金額に対し百分の一の税率により課税することといたしておるのであります。即ち取引の各段階毎に百分の一の極めて低率で課税するのでありますから、物價等へ及ぼす影響はさしたるものではないと考えられるのであります。
次に
取引高税の
納付方法でありますが、本税は原則として
取引高税印紙を以て納付することといたしたのであります。即ち
営業者等は
取引金額を領収の際、その税額に相当する金額の印紙を消印して、これを取引の相手方に交付しなければならないのであります。但し五十円未満の取引等については手数の点等を考慮して三ヶ月毎に
一括現金納付の方法といたしております。尚一取引の
取引金額が一万円以上の取引につきましては受領書に印紙を貼用して消印する方法によることにいたしたのであります。而して
営業者等は毎三ヶ月分の
取引金額及び税額等を記載した申吉書をそれぞれ三月十日、六月十日、九月十日及び十二月十日までに政府に提出しなければならないのであります。銀行業、信託業、保険業、
電気供給業、
ガス供給業、運送業中鉄道業、海運業、公園等につきましては、申告及び納付に関して特例を設けまして、毎月分の
取引金額及び税額を記載した申告書を翌月十日までに提出し、申告と同時に納付することとし、一般の
申告納税の方法を採用することといたしたのであります。尚
取引高秘の印紙による納付を確実ならしめる措置といたしまして、二、三の規定を設けているのであります。即ち一面
印紙購入通帳制度を設けて、
営業者の
印紙購入及び使用の実績を常時明らかならしめると共に、他面学校、
社会事業、
保護施設等の職員、生徒等の組織する團体が交付された印紙を政府に提出したときは、政府は、当該印紙の額面額一円以下のものについては百分の五、二十円以下のものについては百分の三、二十円を超えるものについては百分の二に相当する金頭の交付金を交付することといたしたのでありまして、これにより印紙による納税を確保する一助とした次第であります。
以上各
法律案につきその大要を申上げたのでありますが、昭和二十三年度の租税及び印紙收入の総額は二千六百三十二億円余に上り、総歳入中和税の占める地位は六六%というように決定的に重要となつているのであります。その各税につきまして、本年度の収入額を申上げますれば、
所得税は千二百八十三億六千百万円で全体の四八%、
法人税は百三十億円で全体の五%、酒税は四百五十七億七千六百万円で全体の一七%、
物品税は百七十五億八百万円で全体の七%に達するのであります。又
取引高税の本年度の収入額は約二百七十億円であります。
今飜つて昭和二十二年度の相税収入の状況について申述べまするに、昨年末以來國会を中核として租税完納運動が全國に亘り展開され、官民挙げて徴税の確保に努力した結果、徴税の成績は本年一月以降著しく良好となり、四月末目まで昭和二十二年度の予算額千三百五十四億円を若干上廻る程度の税収を確保し得たのであります。而してかような徴税の促進により、通貨の増勢は著しく抑制され、インフレーションの進行を阻止するのに多大の寄與をなし得たのであります。この成果は國民の深き協力と理解によるものでありまして、誠に慶賀に堪えないところであります。本年度におきましては、先にも申述べました通り、
所得税、
法人税を中心として
相当程度負担の軽減を図ることとしたのでありますが、國民生溝が一般に相当窮迫しておる実情に顧みるならば、中央及び地方を通ずる国民の
租税負担は必ずしも軽くはないのであります。而も二千六百三十二億円に上る
租税収入を確保することは、経済再建の基盤をなす財政収支の均衡を図るために不可欠の要請でありますから、この際全國民正が租税の完納につき一段の努力をいたされたいのであります。政府といたしましても、國民所得の分布が激変しつつある現在におきまして、
租税負担の公正を図りつつ
租税収入を確保するため急速に徴税機構を整備強化し、税務の運営面を刷新改善して特に大口利得者等の課税の充実に努力し、負担の適正を期すると共に、國民の納税に関する負担の認識の普及徹底に大いに努めるつもりであります。國民各位も亦この際租税を完納し、インフレーションの防止に寄與せられんことを切望するものであります。何とぞ御審議の上速かに賛成せられるよう切望して止まない次第であります。