○今泉政喜君 我々厚生常任
委員は、
政府付託の
藥事法案について逐條
審議するに先立ちまして、
本案の骨子である藥剤師調剤法について本員は総括的に
意見を述べ、且め
大臣に暫く御清聽を煩わす次第であります。
そもそも我が医療制度は明治七年太政官布告以來医療分業を建前として参りましたが、旧態依然として今尚医師が調剤としても、亦今日薬剤師が調剤しても、この
法案趣旨は任意分業にな
つているものであります。表面民主主義のようなことになりますが、医師
法案の二十
二條に、訟察上特に支障ある場合はその限りでない云々という大きなキヤップが掘
つてあり、今日は医師優先の調剤とな
つている次第であります。今日、世界いずれの國と雖も文明の國においては全部強制分業でありまして、(
理事谷口弥三郎君退席、
理事宮城タマヨ君
委員長席に著く)英米は事実においては強制分業の形にな
つておるわけであります。私は藥剤師であるゆえんを以ちまして、特にこの問題に対して関心を持
つておりますが、大体藥学の基礎的学科を終えない医師に、調剤権を與えるということは、つまり資格のない者に資格を與えるということであります。若しそれが行われるものでありますならば、医学の基礎的学科を修めないところの藥剤紳が聽診器を握り、又身体を診るというような医師的行爲をすることと同じことではないかと思います。ただ單に知識があるとか、又経驗があるとかいうことのみにおいて、調剤ができるものであれば、好んで中学を出、昔であれば專門学校、大学の課程を苦しんで受けるわけはないのであります。私は先日來この
法案の先議であつた衆議院において、衆議院の
厚生委員会におきまして、医藥分業に対して
政府のお答えが、今日の情勢においては時期尚早であるという三つの点を挙げられたことを私記憶しておりますが、本日その
速記録をと
考えましたが、まだ印刷中であるために、ここではつきりしたことを申すのには一應
速記録をと思いましたけれども、大して間違いはないと思います。
先ず第一に藥剤師の分布状態が思わしくない。つまり藥局の分布が少い。つまり藥剤師が少いということであつたと思いますが、今日藥剤師は五、六万ありますが、もともと調剤権というものが獲得されないために、折角学校を卒えて來ても、官廳に或いは製藥会社に行
つて奉職している状態であります。若しこれが藥剤師に調剤権を絶対的に與えるものであれば、藥剤師の数は自然に多くなることと
考えるのであります。
第二には藥品の不足ということでありましたが、これは厚生省の方の御調査によれば明らかであると思いますが、今日患者に投藥するという程度の藥品も不足であると思うのであります。例えば統制品におきましても四百三十があつたものが、今日では百二十七か、又近々八十になるようなことを聞いておりますが、いずれにしても藥品の不足ということは、私
考えます。のみならず、この藥品の生産と藥品の配給ということにつきましては、藥品はむしろ医師の方に偏在してしておるということは、これは僅かでありますけれども、内科に要るものが外科にある、耳鼻科にあるべきものが婦人科にあるという、その弊害は十分存在しておると
考えます。若し
政府の言われるような藥品の少いということであれば、むしろこの調剤が医師と離れて藥店に行きますと、その数量は半減されるわけだ。私はこの問題は恰かも鶏と卵のお話のように、これは分業が確立されれば自然この問題は解決されると思います。
もう
一つの点は医師より藥品を貰うことが便利であるというお答えのようでありましたが、この便利という面に対しては。私むしろ藥剤師の藥局において、処方箋によ
つて調剤して貰うことが非常に便利であると思うのです。これを約言いたしましたならば先ず第一に藥品が安くかかる。この安くかかるについては当然藥價礼というものが伴うものであ
つて、医師より貰う藥品よりも、藥剤師の藥局の方から貰う方が安く貰える、第二には時間的に非常に便利である。先ず寒村僻地は別といたしまして、市並びに町には必ず藥剤師がおる。医師の処方箋によ
つて、間近に、而も往診先において直ぐ調剤ができると思うのであります。殊にこの
藥事法案を見ますと。第二十
二條に載
つておるように、医師みずから調剤するということになりますと、これは時間的に非常に不経済になると思うのであります。なぜかといいますと、今の二十
二條の
法案から
考えますと、医師が患者を診る、そうして実際藥室に行
つて調剤をする、又患者が來る、又藥室に調剤に行くというようなことは、むしろ時間において非常に
相違があると思いますので、これは藥剤師の下において調剤をするということは、時間的に非常に経済になるということを申したわけであります。田舎において一々医者通いするということが、これを以て解消せられることと思います。又そういう処理箋というものが、秘密主義を離れて公開されることになれば、よりよき藥品がここに出まして、不良藥品がすべて影をひそめるものと私は
考えます。のみならず大衆はこの藥品に対する薬名並びに効用その他に対して、十分知識が高まるものと思うものであります。
以上の点について、私はこの医藥分業の促進を冀うのでありますが、もう
一つここに私大いなる悩みの問題としては、実は医師と藥剤師は、車の両輪のごとくというように密接して、社会の保健を最も大衆的に又民衆化せねばならんのでありますが、今日現状において、開業されておる医師の下に患者が参りますと、この患者の心理状態は、医師に処方箋の強要ということを言い得ないのであります。非常に医師に信頼を持つために、遠慮をしております。それに加えて医師の方では、又処方箋をやりたくない、これはいろいろ理由がありますが、やりたくないという点は、非常に重大なる問題であ
つて、これは一外人に聞きましても、医師が患者を診たならば、直ぐ処方箋を出す、
自分の家には藥室は持たないという。今日諸外國はすべてそういうふうにな
つておるのでありますから、
法案としては医師は、患者の請求の有無に拘わらず、必ず処方箋を発行すべしという絶対的
規定の下に、処方箋の交付を命ぜざる限りは、今日の医藥分業は、空文に等しいものであると私は
考える者であります。要するに
政府は國民大衆の保健上医藥制度の
民主化を図るために、処方箋の義務的発行をさせる意思があるかどうかということについて、竹田
厚生大臣のお答えを願うわけであります。
最後にもう
一つでありますが、これは
法案の総括的のことでありますが、未だ藥剤師の身分法である藥剤師
法案が出ていないようでありますが、藥剤師は医療機関として
公共的身分を有しておるにも拘わらず、その実現を見ないのは甚だ遺憾に思うのであります。医師なり又歯科医師なり助産婦なり、又近く馬の蹄に鉄を打つ者にも馬蹄師
法案が出るように聞いておりますが、藥剤師に対してこの差別的な措置を採られないで、是非藥剤師
法案を
一つ実施して頂きたいという、この二点に対して、
大臣のお答えを願いたいと思います。