○姫井伊介君 院議に基きまして
中部地方厚生状況視察班は草葉、千田、小杉、井上及び姫井の五人の
委員でありまして、それに本院の木村專門
調査員及び岡主事と一緒に去る三月十三日から三重縣、愛知縣、
静岡縣の
各地方を
視察し私共同十九日帰院いたしました。その
視察に
計画いたしたその個所に懇談会等二十七に亘
つての事柄は別紙に讓りまして省略いたします。この
視察に際しましては予ねて
計画の
調査要目によりましたが、尚できるだけ廣く民間の実情並びに要望を知るため
各地における座談会、懇談会に
出席いたしまして短時日ではありましたが、
各種の問題についての官民のそれぞれの意見要望を聞き、事件によりましてはできるだけ現場において即座に解決の
方法を取りました。幸い
政府からは
厚生省の
事務官二名、又地元
地方廳及び
市町村の
関係吏員が同行又は同席されましたので、各班の
処置がまことに円滑に行われ、好都合でありました。尚私共施察班は便宜上三名の主査を定めまして、各縣を分担主査の任に当ることといたしました。即ち三重縣
姫井委員、愛知縣草葉
委員、
静岡縣千田委員、それぞれ各縣の主査より
報告を願
つておりましたが、今日は草葉、
千田委員が支障欠席のため、私より全部纒めて御
報告申上げます。尚その
報告の要領といたしましては、
調査要目の項目に從がいまして、縣別、或いは
視察別によらず
調査要目を追いまして、
視察の概況を御
報告申上げます。
第一は、
厚生及び衞生
行政に関する
地方機構でありますが、これは文書によりまして
報告いたすことといたして省略をいたします。ただその機構上の
関係から附加えて申上げたいことは、
行政の不統制による欠陥であります。その
一つは
兒童福祉法関係におきまして、民生部と衞生部との間に
事務の混乱が生じ、縣廳内において
一つの爭いを生じておつた実例が即ち愛知縣であります。
二は、水道の復旧工事を進行する上において、建設院と
厚生省衞生局との二元
行政のために、地元廳、市
行政又混乱に陥り、非常に困
つておつたことがあります。
更に
労働行政につきまして、縣吏員の職員
組合が、縣
事務機構及び人事権に介入する権利を主張いたしまして混乱をいたしておりました実例があります。即ちそれは三重縣であります。
第二は、新らしい法律の
実施状況についてであります。その
一つは、
兒童福祉法で、本法施行後三ケ月後の今日、まだ施行令並びに
施設の最低基準が出ておりませんのみならず、本法施行の精神がよく透徹しておりませんので、
施設は旧態そのままの精神内容が現われておる。甚しいのは、本法の立法当時、本院において特に強調された事柄が全く正反対の現実を示しておる例があ
つたのであります。尚本法
関係施設視察に対して、たまたま
静岡縣における問題は、先程
千田委員から御
報告ありましたから省略します。その二は、災害扶助法、特に本法による資材の備蓄について、
行政並びに施策上の不完全なることが指摘されます。赤十字社の災害時非常裝備に関する
用意が不完全であることも地元から声が挙
つてるります。その三、
日本医療團解散後の
処置状況、これは地元優先還元の問題が尚未解決の
状態にあるのであります。
原因の多くは、評價價額の点にあると思います。その四、
保健所法、本法成立当時の企画はまだ殆んど
実施されていなか
つたのみならず、戰災にとり失つた
保健所の復旧は殆んどできておりません。
予算の計上は全く名目だけに終
つておる
状態であ
つて、無医村問題は尚更に解決の曙光すら見えていないところがあります。その五、
保健婦、
看護婦は拂底しておる、又現在勤めておる者も漸次退職する傾向にあります。この
原因は、申すまでもありません。
予算計画と同時に処遇問題が主なものだろうと思います。
三は、
結核予防の問題、
BCGの接種運動が漸く緒についた模樣であります。療養所は國立か、
地方府縣立か、どれの制度にすべきや、
各地方とも相当強く論議されております。けだし
財政企画と相俟
つて、
厚生施設上檢討を要する点であります。現在
收容患者の多くは旧軍人患者であるが、
一般患者も漸くその利用をしておる
状況であります。死亡率は非常に高い率を示しておりますが、これは入院者が、相当病勢の亢進した患者が治療本位で長期入院をするための現象と認められます。療養所、サナトリュームは経度の患者が闘病生活の訓練を体得する場所であるというところまで進まねばならんと思います。入院患者共通の悩みは、
生活保護法による
医療費補給が、患者の住居地
町村における
負担金制度のために、
町村がなかなか補給の取計いをしてくれないので困
つておるのであります。これは患者、
病院双方に多大の影響を與えております。又國費支弁の交付金が非常に遅れていることが、
地方に甚だ弊害の伴
つておる例も多いことは申すまでもありません。
第四は、性病予防の問題であります。社会生活の混乱と道議の問題は、種々な事象を伴
つておりますが、性病問題はここに多大の
関係を示しております。性病届出の問題はなかなか実行がむづかしい模様で、いわゆる素人療法の横行の結果、傳染治療共に現在公衆衛生上の重大問題であります。接客業者の更正に関しては、小規模の
施設実例を見ましたが、全般に観察しては殆んど見るべき施策はありません。
第五、
都市衛生問題、大多数の
都市が戰禍を受け、この問題は殆んど未着手と
言つていい
状態であります。上下水道、清掃事業において殊に甚だしい
状態にあります。これは
都市計画に関する企画及び
行政系統がまちまちであり、資材が不十分且つ配給不円滑であることが大なる
原因である。例えばさつき申しました建設院と
厚生省の二元
行政がその例でありまして、更に
都市計画中、
厚生工学の問題が特に綜合企画に重要な地位を占めることが望ましいのであります。
第六、
病院診療所等の問題、
病院診療所等
施設は甚だしい不足を告げております。これは必ずしも病人が多く
なつたためというのでなく、
施設が不足なのである。設備、資材、
藥品、患者の処遇が眞に困難な
状態にあります。医師もその事業を行うに非常に困
つておる
状態にあることは、十分檢討を要する重大な問題であります。
國立病院における例といたしまして、職員の待遇の問題がありますが、詳細は略します。
第七、衛生
組合、
社会保險組合の問題、衛生
組合は殆んど不振の
状態にありますが、衛生
組合は本質的に單一の
組織として從來の活動に委して置くか、或いは
社会保險組合等の、即ち國民協同
組合との有機的
組織院に整理して、その
機能を発揮させるか、即ち公衆衛生確保の協同
組織として発達せしめるかどうかは、十分檢討を要する問題だと思うのであります。健康保險
組合は例外なく維持困難に陥
つていることは、先程御
報告のあつた通りであります。殊に國庫交付金の支拂遅延が
組合経理上の難関の
一つとな
つておることは申すまでもありません。この制度の改革は痛烈に要望されております。
第八、優生問題、愛知縣における座談会にに際し本問題が話題に上りました。その節の要望は、優生保護制度を確立されたいということでありました。
第九、
藥品衛生資材の問題、
藥品の拂底、粗悪品の横行氾濫、高價等が主要点でありました
ペニシリンの増産と廉価配給、サントニンの配給、看護衣、繃帶、衛生綿等の配給が要望されております。
第十、
生活保護法、これについてはいろいろな問題があります。その一は
地方財政窮乏の折柄、
地方負担の制度を止めて全額國庫
負担として貰いたいとの希望が多か
つたのであります。
医療費の点において長期疾患者の困難を招いているから、せめて
医療費だけでも全額國庫
負担にして貰いたい。その二、保護費の交付が非常に遅れて困
つておる。又
市町村では國庫補助金の交付が半年くらい遅れるので、本法が運用できない
状態であるとの実例があります。その三、民生
委員の生活指導は不十分であると思われます。その四、保護費扶助額の標準限度を引上げて貰いたいとの要望。その五、現在の
生活保護の中の扶助種目がありますが、その外に教育扶助を認めて貰いたい。その六、
住宅扶助を認めて貰いたい。これはいろいろの理由がありますが、略します。
第十一、民生
委員制につきまして、民生
委員の活動が不十分であり、ケースワークとしての働きが十分でないことは申すまでもありません。丁度民生
委員は改選中であ
つたのであります。御生
委員法制定に際しては公設性に反対するとの意見が民生
委員代表者から強く出ております。その三、御生指導專任職員制を設けて貰いたいということであります。即ち民生
委員制度を徹底せしむるために、例えば
兒童福祉司の
ような
性格を持つた民生保護司といつた
ようなものが必要ではなかろうかという要望であります。
第十二、私設社会事業につきましてであります。その一は、公私共に社会事業の分布は全く自然発生的に放置散在されたままでありまして、その
地方性、民度、保護対象等に関して、社会福祉事業が何の
組織も企画性もなく、科学性が欠けでおる。か
ように任意的に自然発生のまま、ただ散在孤立する社会事業
施設は、御衆の利用には極めて不便な存在であ
つて、
施設経営者の苦心経営に反比例した事績があるのであります。
從つて社会事業の
機能は旧來より一歩も前進していないのみならず、戰災による
施設の復旧すらできていないのに、対象の数も種類も甚だしい増加を示しておる。これは社会福祉施策樹立上の重要問題の
一つでありと思います。
施設における保護指導は、少数の例を除いては、概ね良好とは言えません。殊に母子寮、
授産施設、兒童
保護施設等の改善を要すべき実例が多か
つたのであります。甚だしいのは建物及び装備が相当の
施設であ
つて、その活用及び事業活動が殆んど停頓しておる実例もあります。又從事者その人がその実例もあります。又從事者そ全く無視されて、單に先人が差し繰
つて補充されておるに過ぎないというふうな例もあるのであります。社会事業は例外なくその事業に從事する人材が適所に活動するか否かで決する事業であることを、施策上十分
考慮されなくてはならないと思います。その三、経営
状況は例外なく赤字であ
つて、その補填の途は寄附金にあるのでありますが、それで現在においては
共同募金の適正配分に俟つ外ないと思うのであります。その四、從業者の処遇問題は、あらゆる事業に比較して、その最低級にある。
收容施設において被
收容者用、事業專用の物資が從事者に横流しされておるという流言の起るのも、この辺に何かの消息が窺われるのであります。その五、授産事業用の原料物資の問題も又なかなか重要問題でありまして、作業品の選定が殆んど旧態そのままの選定
方法であ
つて、殆んど今日の我が國の
生産経済上の
考慮が拂われていないという
ような例も少くありません。作業
労働の
状態は、
労働基準法運用上においても、再檢討を要する例が多くありました。その六、
施設相互間を連絡し、これをその
地方性及び民度並びに対象と勘案して、適正な社会福祉企画を定めて、その
機能を発揮せしむる活動を期するということは、最も重要な問題でありますが、この部面は殆んど全く欠如しております。これはこの前その一において指摘した通りに綜合企画性がないのと、社会福祉に関する
組織的活動が欠けておるためであります。その七、社会事業
関係の全國的團体が旧態そのままにて存在しており、放置されておるので、これらのものは任意的に旧態そのままの
機能を以て、社会事業界に主座を占めんとするため、甚だしきは巨額の資産を擁し、その
施設は又多額の
予算を計上し、大規模な事業
計画をなし、これを
生活保護法による
施設として、
共同募金の大
部分の配分を優先確保に努めるという弊害も見逃すことはできません。よ
つて社会事業に対しては國の認可制度を確立し、不適正の團体を整理すると共に、適正のものを助長振興する方途が必要である。又我が國社会福祉
組織を定めい、それに伴
つて社会事業
中央各團体の適正なる整理を断行することが強く要望されております。
第十三、
共同募金について、募金は
各地方いずれも好
成績であるが、目下配分が問題であります。その一、適正配分が期待される通りに行われるか否か。その二、次年度の募金が果して今年度同樣の
成績が期待できるかどうか。その三、
共同募金に法的根拠を附與することがよいかどうか。右がいずれも十分なる檢討を要する重要
條件でありまして、この際特に強調したい点は、
共同募金遂行に当
つての連合軍の多大の援助に対して滿腔の感謝を捧げたいということ、又社会事業遂行に当
つての救援物資特配に関し、ララ救援
中央委員会を通じ、同
委員会に対し深甚なる感謝を捧げたい。誠にこの
共同募金とララ救援物資とは現在我が國社会事業遂行上の唯一の力であ
つて、又それが基礎であることが
各地方の現実が最も雄弁に証明しております。その他の問題は、社会事業從事者、即ち適材適所の活動に期待しなければなりません。
第十五、未亡人援護問題、母子寮の増設、これはその一であります。その二、
保育所の増設、その三、適性授産による生業補導、現在特に右の諸点に関して
各地とも熱烈に要望しておりますが、産業の振興と伴
つて、漸次その線に沿
つて授護事業を進めんとする機運にあることは喜ばしいことであります。その例の
一つは
静岡縣の弁天島の
施設であります。
第十六、
住宅問題、その一、資材の統制緩和方を要望している。その二、
住宅解放問題は却て問題を生じつつあります。詳細は略します。その三、木材と共に、硝子、セメント、釘等の
建築資材の配給の要望が熱烈であります。要するに
住宅対策は、民生安定の基本要件の
一つであり、現下最も緊急の事件であることは申すまでもありません。
第十七、民生の安定について、
國土の荒廃と民生の混乱は、
各地方とも尚痛歎に堪えない現状にあります。併し
各地方共に新
日本建設のために、民主的な起ち上りを示しつつあることは確認されます。要するに、諸般の國政がまだ混屯たる
状態にあることが、即ち如実にこの民生の
状況において実証されるものであ
つて、速かに政治の十分なる檢討を盡し、施策の徹底を図ることが緊切であると痛感されます。就中憲法第二十五條の民生安定の基本要目であるところの、社会福祉の徹底、社会保障制度の確立及び公衆衞生の普及徹底は、
各地方の実情に照らし、強力に速かに断行せらるべき喫緊の國策でなければならんと認めたのであります。以上
報告を終ります。