○
加藤國務大臣 ただいまの
川崎君の御
質問にお答えいたしたいと思います。第一の点は
労働組合法第二條に関連して、いわゆる
組合專從者の給料をいずれが負担するかという問題であります。これは
労働組合運動の理論的な
立場に立てば、ほとんど問題はない事柄でありまして
労働組合の運動があくまでも
労働者の自主的なものであるという点からい
つて、
組合の仕事をする者のすべての経費が
組合によ
つて負担せられるということは、理論的には爭ひの
余地のない点であります。ただ
日本の
労働組合の
情勢は
川崎君も十分御
承知の通り、戰爭が終
つてわずかの期間に、世界のどこの國のいかなる時代の歴史にも見ることができないような数的な異常な発展を遂げたのであります。この短かい期間に非常な数的発展を遂げた
組合は、先ほど前田君あるいは
島上君が指摘されましたように、若干行き過ぎもあり、まだ十分その質の伴わない点があることは爭われない事実であります。こういう点についてこの
組合の現実をながめましたとき、またほとんど至上命令としてわれわれが義務づけられておる
日本民主化の基本的な推進力としての
労働組合の存在を、現実に見るような存在として見まする場合に、どうしても
労働組合自身の質的な向上をはからなければならぬと思うのであります。そういう点から見まして理論的にはなるほど純理的ではないが、
組合の現実はこの数的に膨脹した
組合を質的に伴わしめるために、すなわちほんとうの
意味においての自主的な堅実な健全な
労働組合として発展せしむるためには、いましばらく
組合の内部において
組合員自身を教育する必要が十分にあると思うのであります。そういう
組合員に対する
組合内部においての教育を充実せしむるために、しばらく專從者の問題を取上げて、経済的には十分基礎をも
つていない
組合の現状でありますから、從來の職務は職務としてそのままにして、
組合への内部教育のために專從する、こういうことで私は過渡的な現象としてこれを認めざるを得ないのではないか、こういう解釈をと
つておりますので、この過渡的な期間がどのくらいのものであるか、これはもつぱら
組合の質的な充実向上によ
つて決定せられる問題でありまして、あらかじめ半歳とか一年とか、あるいは三月とか区切るべきものではない、
組合が質的に完全に自主的なものとして一人歩きができ、そうして数と質とが相均衡のとれた
状態に置かれる、ここまでを大体過渡的時期と見て差支へないのではないかと
考えております。
また第二の点であります。これは先ほど
芦田総理が、
自分が手がけた
労働組合法であるから、愛着を感じておると言われましたが、実は
労働組合法が制定されます当時、私は
労働法制委員会の一人ではなか
つたのですけれども、ある特別な
関係でこの
法律については
相当意見を問われております。また私もその
意見を問われるままに
相当強く主張しまして、その
意見が盛り込まれております。しかしでき上
つた法律そのものを見ますと、これは
労働者側にと
つても、なおこれこれの点はこうしてほしいというような、いわゆる
改正への
意思といいますか、
要求といいますか、そういうものはあるのです。これは他の
労働関係調整法について見ましても、また同様のことが言われるわけであります。また基準法などについては、
日本の経済的現実にそぐわないものがあるという点から、あるいは中小企業者
方面においてはこれを何とかかえてほしいという希望のあるということも、よくわか
つておるわけなのであります。そういうように、それぞれいろいろな
方面から、なお現在の
法制がいずれにしても完璧なものであるとは見ておられないのでないか。私もまたそのように見ております。しかしながら今日、今
川崎河が指摘されましたように、
労働者に與えられた大きな命題は、何と申しましても
日本経済再建のため、どこまでほんとうに熱情をも
つて盡し得られるか、これを
労働者が自覚するかどうかという点にあると思うのであります。そういう点にから見まして、私は
労働者がそういう
日本経済再建への熱情をも
つためには、まず
生活への不安がなくならなければならぬ。
生活の不安をなくするということは経済的の問題でもございますが、同時にまた心理的にも非常に大きな問題であると思うのであります。経済的に今十分にその
生活を保障することができぬ現状であります。
從つて私どもは経済上の問題としては生産能率を向上することによ
つて、
生産復興への熱意を強め、同時にそのことは
労働者の
生活を安定化せしめ、安心感をもたしめるという、この
生活給と能率給が織り込まれた経済的な主張、すなわち賃金体系もそこから生れなければならぬと
考えておりますが、同時に心理的にもまた常に、とにかく
労働者の基本的な権利を擁護する
法律として存在しておるものが、いつどのように改められるかわからない。
労働者側から見れば
改惡と思われることも、あるいは資本家側から、世間からは
改正と見られるという点から、これがいつどのように変更せられるかわからぬということがあ
つては、私はこれは心理的な不安が起
つてくると思うのです。心理的な不安が起
つてくることは、経済的な不安と相ま
つて、やはり経済再建への熱意を失わしめることになるのでありますから、そういう大きな命題の点からい
つて、経済的にも心理的にも不安を感ぜしめぬようにする。その経済的な点は能率給を加味した賃金体系が確立せられ、心理的には
労働者の権利を擁護しておるところの基本的な
法律が変更されないという、この安心感の上に立づということが必要である。こういう点から私は現在の段階においてはこれらの
法律には手を触れないのが最も賢明な対策である。こういう
考えから私は手を触れるべきでない、こういうふうに見ております。