○日向
公述人 私は扶桑金属工業株式会社総務部長経理部長の日向であります。私は、従いまして
事業といたしましては、基礎
産業の
立場をと
つております。また職能といたしましては、経営技能者の
立場をとりますが、半面において一人のサラリーマンといたしまして、経営の技能に携わ
つておる者の
立場から、二、三感じたことを申し上げまして、他山の石に供したいと存じます。
まず第一にわれわれは最も関心をもつことは、先般発表せられました経済再建五箇年計画の成否でありまして今回の
予算の成否ということも、根本においては、この五箇年計画に左右せられることは、申すまでもないことであります。それゆえにこの
委員会におきましても、五箇年計画を御聽取に
なつたように聽いているのでありますが、この五箇年計画をわれわれ專門の
立場から見ますと、
自分の
事業の分野から見ますと、いろいろ
意見はあるのでありますが、とも
かくも今日におきまして、
一つの目標をも
つてこれに邁進するという、その目標を掲げた
意味におきまして、先般の五箇年計画は、たいへん賛成であります。ただこれに対して、さらに今後批判を加え、一層精密なものにしていくことと、またそれに
実行性を與えて、着々
実行していくという面において、はたして
政府当局は、いかなる案をも
つているかにつきまして、疑問をも
つております。私の従事しております鉄鍋業の
立場から見ましても、本年度第一年度のいわゆる百二十万トン計画につきましては、多大の疑問があるのであります。たとえば鉄鉱石を現実に入れられるかどうか、あるいは強粘結炭をいかにして輸入するか、その相手がどこにあるか、輸送の
方法はどこにあるかというようなことを
考えますと、大分懸念が多いのでありまして、最近においても、海南島の鉄鉱石入手がきわめて困難であるというような情報を聞いて、われわれ
國家のためにまことに寒心にたえない状況であります。
かくのごとき状況にあるのは、その原因がどこにあるかというと、要するに計画の組織的立案性がないという点が
一つ。その
実行についても、組織的な
方法がない。單なる
安定本部の二、三の優秀なる
人たちが頭の中で描いた机上の計画をそのまま発表して、それをう呑みにしているのが現実の姿であ
つて、これに対して、それぞれ專門の実務家の
立場から檢討を加え、一々その隘路に打開の
方法を加えていかなければ、とうていこれを実現することは不可能であると断言して疑わないのであります。その
意味において、この五箇年計画にさらに組織性を與え、
実行方法を
考えていくことを、ぜひ
國家において
考えていただきたい。すなわち立案官廳である安本の当該部門を拡充強化して、さらに科学的なる資材に基いて計画を立案し、また年を逐うに從
つてその欠点を是正し、完全なものに仕上げてい
つていただきたい。またその
実行についても
民間その他の專門家の衆知を集めて、隘路打開の
方法を
考え、またその隘路に向
つて官廳においても、たとえば資金の問題とか、輸送の問題とか、いろいろな面において協力して、ぜひともこれを敢行していただきたいと思うのであります。御承知のように、今日において長い計画を立てるということは、基礎的問題において、いろいろな問題があるのでありますが、それを一々
考えてお
つたのでは、
一つも前進できない。そこでわれわれとしては、とも
かくも今日われわれが知り得る材料に基いて最善と
考えられる案をつく
つて、それに一歩々々前進していきたいと思うのであります。ソ連における五箇年計画の経過に鑑みても、また私、
自分の話をするとおかしいのでありますが、わが社扶桑金属は、戰前における生産割合よりも、現在において約三倍の生産割合を示している。つまりよその会社の三倍くらいの増産を敢行し、ほとんど民需に轉換し得る全設備が活動しております。それに至りました経過を申し上げますと、まず終戰直後において、ただちに整理を断行して、從業員の圧縮を試み、経営の建直しをはかつたと同時に、ただちに再建計画に着手して、毎四半期に
予算を立て、隘路打開に向
つて邁進していく、その結果石炭の
不足のときにおいても、電力
不足のときにおいても、それぞれ危機を突破して、目標の約八割見当を達成して今日に至
つております。これはもちろん
國家計画にそのまま適用できるとは思いませんが、
事業というものはそういうものだ、生産というものはそういうものだと思うのであります。今日為替をどうするとか、外資をどうするとかいうような先に立つ知惠に敗けてしま
つて、少しむ足が出ないというようなことでは、この五箇年計画の達成は困難であろうと思うのであります。この辺はよくお
考えの上、
政府において、五箇年計画達成の組織的行動という点に重点をおかれんことを希望いたします。
次にこれに関連して、この五箇年計画は御承知の通り、わが國経済のある
意味における再編成を
意味しております。すなわち
從來の軽工業本位の立國から逐次重工業本位の立國、すなわち石炭と鉄鋼を基本どする重工業に立脚する、つまり東洋の
工場と
なつていこうという
考えでありまして、われわれもかねてから
考えていたことでありまして、その方向にはまことに賛成であります。しかしながら、それでは現実に
國家の政策がそこに向
つて動いているかどいうと、これはまことに寒心にたえないものがあるのであります。たとえば戰後におきまして、傾斜生産の最重点といわれました鉄鋼業、これはわれわれ身をも
つて体驗いたしておるのでありますが、鉄鋼業にはたして
政府がどれだけ力を入れだかと申しますとまことに力を入れていない。傾斜生産というのは新聞や論文の上では言うておるが、決して力を入れていない。その一例といたしまして、鉄鋼行政の官廳である鉄鋼課というものは、商工省の鉱山局の一課にすぎない、一課である。しかるに一方石炭についてはどういうものができておるかというと、石炭廳というものができ、その中には五つくらいの局があります。その中には二、三十の課があると思います。はなはだしいのは亞炭局というものがあります。
皆さん亞炭のために一局があるのに鉄鋼のために一課だけしかないというこんな言語道断なことがありますか。私はまことに痛憤にたえない、これは
政府の組織の上ばかりでなくして、実際の上においてそうであります。鉄鋼業に対する昨年度における復興
金融金庫の融資額は十五億であります。しかるに石炭に対する融資額は三百二十億くらいだと思いました。はなはだしい例を申上げますると、某化学工業会社に対する融資金は、実に二十二、三億に達しております。全國の鉄鋼業に対する融資額よりも、一化学工業会社に対する融資額の方が多い、こういうべらぼうなことがありますか。われわれは鉄鋼業の
立場からいかなる形でいかなる理由で融資したか、まことに疑問にたえないのであります。これはわれわれ鉄鋼業の
立場から見ただけでありますが、ほかの面におきましても、重点
産業に対して重点を入れていくということがかけ声ばかりであ
つて、実際行われていないという事例が、多々あるのではないかと思うのであります。この点をひ
とつ十分お
考えになりまして、ここにあります
行政整理の何とかいうような項目がありますが、一律天引き一五%ということを言わずに、重点に向
つて必要な資金は出していただきたい。その代りに要らないところはぶつ切
つて重点的にや
つていただきたいと思うのであります。時間がありませんから端折
つて申し上げます。
次に物償改訂と賃金の点につきまして、卒直に申し上げますると、今回の
物債改訂に伴う債務
補給金等の問題につきましてはいろいろありますが、要するに物償抑制と
財政均衡ということは矛盾を來すのであります。今日いろいろ
意見はありますがここで一遍に
補給金をなくして債務一本でいくということは、実は今日の償格水準をまるで一変した価横路水準をつくるということになる。鉄鋼業でいいましても、
補給金をなくしますると、一挙に十倍くらいの慣絡水準をつくらなければならないことになるのであ
つて、これはわれわれとしても好むところではないのであります。われわれ生産に邁進しておるのは、一に
物資の増加を通じて経済の安定を思えばこそであるのであ
つて、單に
企業だけが必要な採算をとろうというけちな
考えは毛頭ない。その
意味におきまして、
補給金は実際少いのでありますが、まずあの程度の
補給金でがまんして、
あとは
能率の増加で何とかや
つていきたいと思うのであります。ただそれにつきまして問題になりますのは、賃金水準でありまして、三千七百円の賃金水準は、私は低いと思います。卒直に申し上げます。現に重工業におきましては、三千七百円水準に基いて四千三百二十円でありますが、この水準は
とつくに突破いたしておる。從いまして、價路改訂ののちに、その物價改訂のほね返りでいつた賃金水準は、どうしても三千七百円では維持できないと思うのであります。重工業
方面におきましては、大体五千円水準というものになるのではないかというふうに
考えております。そこで賃金水準三千七百円を全般的にかえるかどうか。これは
國家財政の面からいろいろありましようから、お任せするといたしまして、これについてわれわれ
企業者として希望することは、たとえ三千七百円できめた場合にも、
政府の態度として、三千七百円を維持するように御努力願いたい。このことであります。われわれも三千七百円で固定化させようという
考えは毛頭ない。
事業の経営が許す限り、少しでもその賃金を増加しまして、從業員の生活安定に資したいと思うのでありまするが、根本において價絡決定の要素である賃金水準が三千七百円であるならば、これ以上のものは
能率の増進であるとか、増産であるとか、何かの要素がなければ出てこない。このことをはつきり言いたい。このことをはつきり
言つてないから、いつも問題が起る。殊に昨年の賃金、物價改訂の
あとの様子などを見ましても、
政府の態度が実にはつきりしない。そうして何かというと、すぐ
企業者の方に押しつけておる。そういうようなことでありますから、組合と
企業者の実力抗争を承認した形になる。そこで組合の勢力が強いところは、そのままどんどん行
つてしまう。そうするとそれは賃金水準を次々に改めていよから、ここにさちに新たなる物價水準の改訂ということに
なつて、これでは賃金と物價はいつでも追いかけつこになる。そこでわれわれとしましても、これはもう
企業と從業員と
國家とが三者で協力して、少しでも安定させていくように努力していかなければいかぬのでありますから、
事業の方も極力
能率を上げて、賃金の増加をはかりますが、
政府においても昨年のような空手形でなく、実際はいわゆる実質賃金の増加、傾斜配給というような面に力を入れてもらいまして、またその上いろいろ紛爭が起きたときにはほんとうに今日の
國民生活水準として、どこに水準を置くかということを、中正妥当なる判断を願いたい。ただ力
関係に放任してお
つたのでは、いつに
なつても解決しないと思う。すなわち
政府の態度並びに中労委のあり方、そういうような問題につきまして、十分ひ
とつ今回の物價改訂と関連して、はつきりした態度をお願いしたいと思うのであります。
それから次に資金の問題について申し上げてみたいと思います。御承知のように
インフレが進行しますと、賃金と物價が次々に追いかけつこしておりますから、
企業というものは大体そろばんがとれないようにできておるのであります。これは
インフレ下における生産続行に伴う不可欠な問題でありまして、殊に基礎
産業におきましては、
價格改訂がありましても、三箇月か四箇月の間そのままもてますが、次は必ずしももてないようにできておる。そこで、どうしてもこれを復興
金融金庫その他の
國家資金によつ七補充してもらう以外に
方法はないと思うのであります。ところが最近の日銀その他の
金融の方針を見ますと、復興
金融金庫にも
つていくのを極力引締めまして、市中銀行にも
つていくことに努力しております。いわゆる資金斡旋をしてや
つておるのであります。これも
金融引締めの
方法としては、
一つの
方法であろうと思います。また先ほど
お話がありましたが、
金融などというむのは、表向き緩和すべきではなくて、大体は引締めていくのが当然であります。從いまして、
日本銀行の方針必ずしも悪いとは思いませんのでありまするが、この
方法をあまり強行するがために、
企業金融がきわめて逼迫しておるような状況に
なつておるのであります。じやあなぜそうなるかと申しますと、まず第一に市中銀行の資金というものはないのであります。
皆さんこれは御承知と思いまするが、今日の市中銀行に集ま
つている金というものは、戰前の集ま
つている金に対して、比較してみますと、約十分の一に
なつております。これは通貨の流通量との比較とか、あるいは実際の物價で割
つてごらんになれば、わかるのであります。市中銀行のも
つておる金は、戰前も
つておつた金の十分の一に
なつておる。この市中銀行に対して、厖大なる基礎
産業の資金を全部押しつけようというのですから、はなはだこれは無理であります。これが、もう
一つは市中銀行は、かりに金がありましても、基礎
産業などに融資することを好まない。これはそのははすであります。基礎
産業というものは、さつき申し上げましたように、
インフレ下においては大体において
赤字になるようにできておる。かりに一時は黒字でも、次は
赤字になるようにできておる。これは銀行家の方が先刻よく御承知でありますから、どうしても貸そうとしない。殊に今日におきましては、いはゆる財産の償却などというものは、全然
價格に見込んでありませんから、
企業はその設備を毎年毎年食いつぶしておるのが実情であります。從
つて市中銀行はこれに融資することを好まない。また
國家としてもそういう
事業に市中銀行の金を押しつけて、
國民の貯蓄よりなる
金融機関を弱体化せしめることは、必ずしもよくないと思うのであります。そういうような面からいたしまして、市中銀行に重要
産業の資金を賄わせるということは、きわめて不合理であると思うのであります。殊に最近におきます物價改訂と同時に、いわゆる
價格改訂のずれというものがありまして、
價格の改訂と同時に、莫大な資金が必要になるのであります。すなわち物は賣りましても、代金はただちにはいらない。しかるに買付の代金はそこから上
つてくる、賃金も上
つてくるということによりまして、莫大な資金の必要があるのであります。このときにおきまして、むし
從來のごとく、重要
産業の
金融を市中銀行一本やりでいくならば、重要
産業は必ず破綻を來すのであります。そこでどうか、今回こめ
予算にもありますが、復金の増資の問題、この問題をどうか
將來も繰返して取上げていただいて、今後は復金を中心に重要
産業の
金融を見ていくようにお願いしたいと思うのであります。要するに復興
金融金庫につきまして、
從來いろいろな惡用などがありましたならば、それは大いに監督願いまして、是正願いたいのでありますが、善用すべくして、活用すべきものであろうかと思うのであります。
その次に、時間が少しなくなりましたが、國有
事業の点につきまして、これはむしろ
國民の一人としてお願いしたいのでありますが、この
予算にも、國有
事業に対する厖大なる
補給金が載
つております。また今回の價絡改訂におきましても、二倍、三倍の増賃を行うということに
なつておるようであります。この國有
事業の増賃ということが、今回の
價格改訂のきわめて大きな原因に
なつておるのでありまして、それが
一つと、またその國有
事業の増賃その他が
國民生活に及ぼす影響、それが物價、賃金水準の高進に及ぼす影響などを
考えますと、國有
企業の増賃、
値上げの問題は、きわめて
國民的に見ましても、大きな問題であります。もちろん國有
事業と言いましても、そろばんをと
つていかなければならぬのでありますから、ある程度そういうことが必要でありますが、われわれ
國民としてお伺いしたいのは、その
赤字が何によ
つて生じておるかということであります。われわれはよそから見ておりますと、どうも國有
事業は整理が十分い
つていないのではないかというふうな漠然たる疑念をも
つております。よく
政府の高官が見えまして、
企業の整備を
実行するとかいうようなことを言いますが、
民間の
事業におきましては、厖大なる冗員などを抱えておるようなゆとりはございません。多少でも
事業経営にまじめな会社は、冗員などありません。今日はむしろ從業員の補充難にあるのが通常であります。われわれから見ますと、冗員を抱えておつたり、
企業整備を必要とするのは、むしろ國有
事業ではないかどいうふうに、卒直に思
つております。今回
補給金を出されるにあたり、あるいはその
値上げを行うにあたり、一体國有
事業が戰前に対してどの程度の
能率であるか、またそれに対して年々どの程度の
能率改善をしておるかというような資料を、
國民に明示していただきたいと思うのであります。われわれの
事業におきましても、
價格改訂のある都度、その
能率増進をはか
つております。
價格改訂をしたときその賃金水準では、そろばんは決してもてない。そこでいつでも
能率を増進しながら賃金を上げていく。そのようにしまして、
價格改訂後三、四箇月は何とかして賃金は拂
つておる。そのように努力しておるのであります。どうかひ
とつ、今回の
料金値上げを機会といたしまして、官有
事業におきましては、
能率の増進という点に具体的な方策をも
つて臨んでいただきたい。そうして願わくは
民間企業に卒先垂範
——もう卒先垂範じや全然ないのでありますが、
あとからでもよいから、
企業の経営合理化をはか
つて、
國民の
負担を軽減せられますように、特にお願いをいたします。たいへん失礼いたしました(拍手)