○青木(孝)
委員 ただいま本
委員会の議題にな
つておりまする
昭和二十三年度の本
予算につきまして、私は民主自由党を代表いたしまして討論をいたします。
総
予算は御
承知のごとくに、
政府提出の当初
予算としては、三千九百九十三億という厖大なものでありましたが、その後数日來の
與党の
修正によりまして、
政府はこれを容れ、さらに百五十億の
増加がきまりまして、
総額四千百四十四億という厖大なものであります。これに関する討論をわずかに二十分でいたしますことは、はなはだ困難でありまするけれ
ども、今日は時間がございませんし、私といたしましては、多少抽象的に流れまするが、できるだけこれを制約いたしまして、なるべく簡單に申し述べたいと存じます。
まずこの
予算をわが党は最初より独自の
立場で、これに対する大幅の
修正意見を、たびたび新聞にも発表いたしておりまするので、この点についても申し述べたいのでありまするが、しかしこれは
西村君がすでに詳細に皆樣にお話を申し上げ、御了承を得ている点でありまするから、私がまずこの
予算について第一に
考えますることは、本年度
予算と中間安定策との
関係であります。
政府は
日本経済の最終的安定への過渡的手段として、外資導入を中核とする中間安定
政策を意図されているようである。しかしおよそ
政府の対策とその無能力とは、むしろ
事態をま
つたく反対の方向に押しやりつつあるのである。しかも外資導入に対する基本的な條件は、資本に対して、その安全性と收益性とを確保することでなければならない。しこうしてこのための根幹的対策は、言うまでもなく
財政の実質的均衡を確保するということである。この実質的均衡によるインフレの克服と、それに基く労働不安の除去でなければなりません。この点については、さきに來朝したる米國の使節團のいずれもが指摘しておりますし、強調されていることは、周知の事実であります。しかるに
政府は労働不安に対しては、單に社会党をそれに対する防波堤として利用し、しかも社会党も政権にありつくための役割を、甘んじて引受けているかのごとき観があるのでありまして、(拍手)何らの積極的な対策をも講じておりません。またインフレ克服の契機とすべき本
予算は、
政府が健全
財政の
原則を貫徹し得たと、厚顏にもこれを誇示しておりましたにかかわらず、実は未だか
つてわれわれの見ざる不健全
財政であります。(拍手)インフレ激成剤的
財政であることは、
政府以外にすべての
財政専門家の一致しと認めるところであります。本
予算における投資的支出とは、終戰処理費、賠償施設処理費、連合軍財産返還費等、巨額な不可避的出費が計上されているとは言え、一対四という大きな不均衡を示しており、また價格調整費、公共事業費、
政府出資金は、実際上赤字を構成すべき性質の費目であります。殊に
政府出資金の大
部分を占めている復金出資は、ただ
財政收支の形式的なつじつまを合わせるためだけの目的から、むりに百八十億円に止められておりますけれ
ども、現在及び見透し得られる産業の需給状況を考慮いたしますならば、正に年度内に数倍に達することは、避けることのできない事柄であろうかと存じます。わが國民経済の順当な再生産循環の軌道への推轉という國民的期待が、ドレーパー使節團來朝以來の
情勢の好轉によりまして、裏打ちされようとするその矢先にあたりまして、このせつかくの好轉の
機会をすつかり破壊するような不健全
財政は、他力本願主義の
芦田首相の意図され、かつ國民に宣傳されてきた外資導入による中間安定
政策と、ま
つたく矛盾するものと言わなければなりません。インフレを仰えるどころか、むしろかえ
つて、これを激成する火樂箱を藏しております。本
予算の前提としては、インフレの進行の急歩調を仰えようとする
政府の中間安定策は、一箇のカリカチユアにすぎないとい
つても決して過言ではないと思います。また
政府当局のこの二十三年度
一般会計についての
説明によりますれば、本
予算編成の根本方針は、
收支適合せる
予算を編成することが、当面の経済安定に対する総合的施策の大宗をなすものである。もう
一つは、インフレの高進を阻止する最善の
方法は、
收支の適合せる
財政計画を確立することにある。この根本方針は、それ自体としてはまことに何人も非難の余地はありません。かかる根本方針から、赤字のない均衡
予算が編成されたのでありますが、しかし遺憾ながら、われわれは、これに対しまして、ただちに讚辞や祝意を表することはできません。何となれば、均衡ということは、必ずしも一義的なものではないのであります。均衡には少くとも二つの種類がある。実質的均衡と形式的均衡とである。しかしてこの両者は本質的に異るものであり、形式的均衡は実は不均衡し同穴の存在たり得るのであります。本
予算は、表面上の構成では、確かに均衡がとれておる。そこには赤字はない。しかしこれを立入
つて檢討するときは、この均衡は單に外観的、名目的、形式的なそれであるということを、明らかに暴露しておるのであります。形式的な
予算の均衡は
予算編成の技術的操作によ
つて容易に得られることである。しかし
予算の均衡が問題とされるとき、その
意味せられる均衡は、あくまでも実質的なそれでなければなりません。しかるに、かかる実質的な
意味においては、本
予算はむしろ未だか
つてわれわれの経驗しないところの不均衡
予算であるということは、よく記憶していただかなければなりません。本
予算は、インフレを阻止するどころか、これを一層激発するところの爆樂であり、國民経済の生産循環の展開に対して、恐るべき破壊作用を営む破壊力であります。私は單に本年度
予算が、昨年すなわち二十二年度の二度の
追加予算を合わしたのの九割強の
増加という厖大な数字であるからというのではない。本
予算があまりにも大きな裏口をも
つており、かつ消費的であり、自己膨脹の必然性をそれ自体の中に内有しているいうことを強く指摘しておきたいと存するのであります。
まず
歳出の面におきまして、先般の参議院における公聽会において、大内教授が指摘しております
政府出資金、價格調整費、公共事業費は、実際上赤字となるものである。しこうして價格調整費は、インフレの高進とともに、膨脹を余儀なくされるであろう。これはその
通りであります。さらに、たとえ一割五分の行政整理を強行したとしましても、インフレの高進による一般物價の上昇の不可避性に伴い、三千七百円ペースを目的として全面的に闘爭を展開しており、今後の
情勢の進展とともに、これを抑えることは不可能であると思います。
補正による現行公定價格の引上げは、全体として現行公定價格のおおむね七割
程度の引上げに止め、やみ價格は三割六分
程度の上昇に止まるという予想のようでありますが、やみ價格がはたしてこの線でおちつくかどうか。たとえ購買力の減退を勘定に入れても、物價上昇の速度が、通貨のそれを追い越して進んでおる現在、はなはだ疑問と見なければなりません。なるほど今年に入りましてからのやみ價格上昇の足取りは緩慢である。しかしこの現象は、
政府の強行的租税の
徴收と、極端な
政府支拂の抑制に基困するものであ
つて、抑制された
政府支拂はいずれは撒布されざるを得ない性質のものであります。しかも物價上昇の先駆を承るタバコの
値上げ、
運賃、通信料金の恐怖的大幅
値上げに加うるに、本
予算において実質的に赤字となる
政府出資金、價格調整費、公共事業費の支出や、終戰処理費を初めとする厖大なる消費的支出が、物價上昇を不可避ならしめようとすることは、疑問の余地がございません。
從つて今回の安定帶の再版が崩壊することは必然であると言わなければなりません。このことは、当然價格
補正を参酌し、実質賃金を確保することを目的として設定された賃金三千七百円ベースを根底から覆すこととなるのであります。かくて物價と賃金との惡循環は、一層拡大された規模において再生産されて、それがまた
政府の各支出費目の
増加をさらに不可避ならしめ、結局
政府をして
追加予算計上のやむなき
事態に追いこむことは、けだし明瞭であろうと存じます。すなわち
財政インフレの拡大された高進が、ここに不可避的なものとして招來されざるを得ないのであります。
これに対して
歳入はどうか。
政府は本年度の國民所得を一兆九千億円と算定しておりますが、國民所得は、その算定のしかたによ
つて、大きくもなりあるいはまた小さくもなる。昨年度を基準とすれば、これほど大きな数字とはならないはずであります。おそらく一兆二千億円
程度のものであろうと
考えますが、算定のしかたでどんな結果でも出るおばけのような國民所得を算定の基礎を明らかに示さずして、しかも
政治的に利用することは、國民を欺瞞するものであると言わねばなりませなん。國民の担税能力が、すでに限界に達しておるということは、各方面より指摘されておるところであります。しかも金融面は、民間資金が資金需要に及ばず、事業界の金づまりは、インフレの高進に比例し一層悪化しつつある。これはインフレに固有な特徴的現象ではありましようけれ
ども、この点から
考えても、現在の機構のもとにおきましては、税率をいかに
変更し、また新税を設けましても、國民の担税力がもはや限界に達しておるこの事実を
考えますならば、
予算と徴税実績の大幅な時期的ずれは、再び避け得ないと見なければなりません。
從つてまたこの点からも相当巨額の
追加予算の計上が不可避である。
政府の言を借りて申しますならば、本年度
予算は、ただに
財政収支の数学的均衡に止まることなく、安定せる均價と安定せる実質賃金とを通じて、経済再建に向う國民経済の合理的体制を確立する一應の構想を得て、ここにその編成を見た。こう
予算説明書に書かれておりますけれ
ども。かくて編成された
予算の正体は、まさに以上述ベたごときものであります。
さらに、
鉄道運賃の
値上げ、郵便料金の引き上げ、これらの問題でありますが、殊に
鉄道運賃を一挙に三倍半あるいは二・五五倍の大幅
値上げを断行せんとすることは、國民に非常な衝撃を與え、インフレの激成に拍車をかけるものである。さらでだに窮迫せる國民生活を一層重圧し、彼らの生活に対する絶望感を與えるものとしか言われない。郵便料金の四倍
値上げは、かえ
つて相対的に著しい
減收を來し、國民に與える犠牲を考慮するならば得るところはきわめて少い、こう言わなければなりません。(拍手)二倍
程度の
運賃料金の引上げは、諸般の
情勢からやむを得ないといたしましても、かかる大幅の
値上げに対しましては、われわれは断固として反対せざるを得ないのであります。
政府はまた、わが國鉄及び通信事業の世界的非能率性を閑却し、いたずらに
運賃料金の
値上げという安易な
方法と、國民の重大な犧牲とによ
つて、独立採算制の確立を企図せんとするものにほかなりません。しかもかかる大幅な
値上げにもかかわらず、鉄道はなお二百九十一億余円の
一般会計よりの補給、及び通信会計におきましては、六十億余の赤字を拂拭し得ないということは、皆様の御
承知の
通りであります。(拍手)合理化を前提とせざる独立採算制は無
意味であり、また國民の経済活動並びに生活の動力たるベき両事業のごときは、むしろ将來民間にこれを委譲して、その合理化と能率化をはかるベきであると信じます。さしあた
つては、鉄道、通信料金の
倍率引下げによる
減收は、諸経費の節約、鉄道公債の発行等によ
つて補填する
方法をとり、國民の重大な犧牲を要求し、彼らの将來生活に対する絶望的な不安を與えるところの大幅
値上げに訴えるベきでは、断じてないと
考えるものであります。
次に
取引高税及び
地方税としての事業税の設定に対しても、わが党は絶対に反対であります。これが廃業を主張するものであります。
取引高税は、結局消費大衆に轉嫁されるものであり、
所得税の軽減によ
つて與えられたものを、
地方の手によ
つて收奪しようとするところのものであります。これも
政府の欺瞞
政策の
一つにほかなりません。(拍手)しかも轉嫁の困難な中小企業においては、これによ
つて受ける打撃は、金づまりに呻吟しておるだけに甚大であり、彼らの復興をはなはだしく阻害するものであることを忘れてはなりません。また農業事業税や、漁業税の賦課は、明治
政府の高率な地租が彼らの低生産性を固定化したと同樣な作用をもつものである上に、彼らの生産及び供出意欲をはなはだしく減殺するであろうし、また納税に対する協力心を喪失せしめるものであ
つて、強く反対をせざるを得ないのであります。
取引高税及び
地方税としての事業税の廃止による
歳入減は、祖税過年度價格調整費、人件費、
物件費の削減、酒の造石高の
増加——この点については、世間でとかくうわさされておりますように、どぶろくの生産が到るところに行われておることを痛感いたしまするわれわれといたしてましては、まず酒の造石高を
増加して、そうしてこれによ
つて増收をはかるという
一つの
考えであります。
次に、軍事公債利拂延期についての問題でありまするが、ここで特に私が申し上げます。わが党は純経済的な見地から絶対に反対するものであり、軍事公債の利拂問題に対する観念上の論爭については、世上すでに展開済みであります。今ここにこれを繰返す必要はない。われわれは純経済的な見地から見て、軍公利拂いの延期が、経済の再建に及ぼすマイナス的影響に鑑みて、これが撤回を主張するものであります。
最後に私は、このわが党の
修正案を
提出いたしましたところの、いわば理論的根拠と申しますか、われわれの
政策の裏づけをなしておる点を申し述べて、この討論を終ることといたします。すなわち一、行政整理を前提條件とするところの統制経済の漸次的改廃を期し、人件費、
物件費の節約及び價格調整費の減額により、三百億の軽減をはかり、さしあた
つて人員の新規
増加を禁じ、欠員の不補充の
原則を確立する。二、
取引高税及び事業税の廃止、
鉄道運賃、通信料金等の
修正により、大衆負担を大幅に軽減する。三、六・三政、災害復旧費の國家負担を増大し、
地方財政の負担を大幅に軽減する。四、
地方財政確立のため、酒、消費税の
地方税を
徴收する。五、産業再建の基礎を培い、食糧増産の実をあぐるため、治山、治水、土地改良費その他公共事業費に二百億を増額する。六、軍公利子を計上する。七、農業及び中小工業金融確立のため、農林中央金庫及び商工中央金庫に対する出資を、それぞれ百億、五十億とするの
法的措置を講ずる。
以上、わが党はこの論理的基礎に基きまして、わが党の
修正案を
提出し、ここに各位の御反省を求めまするとともに……。
〔発言する者多し〕