○重富卓君 私は、
民主自由党を代表し、
食糧確保臨時措置法案が國民の食生活安定に少しも役立たぬばかりか、逆に
農業者の
生産意欲を弱め、ますます國民の食生活を不安ならしむるものであるというゆえんを明らかにし、
本案に対し
反対の
意見を表明せんとするものであります。(
拍手)
與党三派の諸君が最も良心的に加えられた
修正さえ
本案の欠点を補い得ず、かえ
つて本案のもつ欺瞞性を高むる結果と
なつたことは、大変お氣の毒に思います。
申すまでもなく、食生活の安定は増産と出荷意欲を高むることによ
つてのみ得られるのであります。その増産並びに出荷意欲は、第一に
生産條件をよくし、第二に取引
條件をよくすることによ
つて得られますることは、御
承知の
通りであります。しかるに
本案は、第一の
生産條件の改善という点についてはきわめて消極的であり、第二の取引
條件の改善ということについては、買受側に立つ
政府の都合のみを考え、相手方である
農業者の立場は全然考えず、かえ
つて逆にこれに権力と威圧をも
つて臨んでおるのであります。(
拍手)
從
つて、
本案が成立し、
実施されるに至りました曉は、
生産意欲は弱まり、出荷はますます不円滑となり、國民の食生活はかえ
つて今日よりも不安定なものとなるでありましよう。(
拍手)
すなわち、
生産條件につき
本案はこれをいかように取扱
つておるかと申しますと、
本案が直接問題にしておりまます
肥料、農具、農藥等の
生産配給については、きわめて
本案は消極的であります。すなわち、「確保するために必要な事項を
指示することができる。」とあ
つて、「
指示する」とか、「しなければならぬ」とかいう積極性は少しもないのであります。
食糧の
供出は「
指示する」または「
指示しなければならぬ」と
義務づけておりまするが、
生産資材に関しては選択的にいたしておるのであります。
元來、
肥料、農具、農藥等
生産資材の量と農産物の
生産量は、他の
條件が同一であれば必ず正比例するものでありますから、
生産量が決定的な命令をも
つてなされる限り、その
生産に用いられる材料の供給もまた決定的な命令でも
つてなされなければならないのであります。(
拍手)しかるに
本案によれば、
資材に関する命令は選択的であり、
生産量に対する命令は非選択的であります。
政府は明らかに、みずからの
責任となることは逃れ、
農民の
責任はあくまで追求していこうというやり方であります。
このようなことは、
本案の至るところにあるのであります。たとえば、
農民の責に帰する
生産減のときは
肥料を
配給しないとか、取上げるとかいうことは明記しておりまするが、
肥料や農藥を
配給し得なかつたとき、
政府はいかなる
責任をとるか、また
生産高の減少を認めるかということにつきましては、何らの明記もないのであります。また質疑應答中にも、それに関する答えは、そのようなことのないように
努力するとか、そのときに善処するとか、まことに誠意のない、紋切型のものであつたのであります。あまり重ねて質しますと、そのようなことを一つ一つ明文で表わすことは不可能だから行政
措置でいたしますというがごとき返答であつたのであります。要するに、
生産資材の
農民への供給については、
本案はきわめて消極的であります。
それでは次に、第二の
條件、すなわち取引
條件の改善ということについて、
本案はいかようにこれを取扱
つておるかと申しますと、まつたくの天降り式で強圧的で、
農業者の立場は少しも考えず、
政府側の便利のみを考えておるのであります。
そのおもな例をあげてみますと、まず第一に
供出量の決定であります。
原案では、
政府は
知事や中央
審査会の
意見を聽くだけで、その
意見を採用するしないは大臣の自由であり、
審査会には何らの権威ももたせないのであります。大臣の独裁であります。不都合な大臣が出たときには何ともならない状態であります。從
つて與党の諸君は、それはいけないというので、「聽き」とあるのを「基き」と
修正されたのであります。まことに結構な
修正でありますが、しかしながら、
審議会の組織及びその権限を
修正しなかつたために、この結構な
修正も、
農民をだますによい材料を官僚に與えただけにすぎないのであります。(
拍手)すなわち
審議会の正体は、大臣がその
責任を轉嫁する対象物以外の何物でもないのであります。
参考資料として配付されました
中央農業調整審議会官制要綱案を見ますると、
委員はすべて
政府の任命するところであり、人選は
農林大臣がやるのであ
つて、戰時中の專制政治の姿そのままであります。しかも、この
審議会の会長は
農林大臣でありますので、
農林大臣が
農林大臣に
諮問したり、
農林大臣が
農林大臣と監督したりするというやり方で、まつたく何のことかわからないのであります。このような点を改めず、「聽く」を「基き」と改めてみたところで何にもならなことは、皆様のおわかりのことと思います。
かような次第でありますので、
割当量の決定は
農林大臣の意のままであり、それは絶対的なものであります。その專制政治をこの際本議場において法制化しようというのであります。封建政治を打破し、民主國家を建設していこうとする本
國会において、
與党の諸君がこれに賛成されんとするのは、私ども、どうしても了解に苦しむものであります。(
拍手)
一事が万事、
割当に関しては、この
法案はすべてこうした考えのもとにつくられております。縣以下の各
委員会も割り当てられたその数字は過大であるとか過小であるとか批判し、
修正することは、一切許されておりません。もし
市町村委員会が、その
市町村に計り当てた数字を否決したり
修正いたしましたならば、
本案第十七條第一項で、
市町村長はこれを取消し、
委員会などはこれを追求して、
市町村長の一存でや
つてのけることができるようにな
つており、
委員会は、その
割当が過大であろうとなかろうと、ただ各個人に割り当てる役割のみが課せられているだけであります。すなわち、過大
割当を受けた縣の
知事または村長が、縣民または村民から、
割当が過大で、とてもや
つていけないと非難されても、それに対しての答えは、それは自分の
責任ではない、君らが選出した
委員がやつたことだから、その
責任は
委員にある、
委員にあるということは君らにあると、うそぶいておればよいのであります。これが
民主化というものだ、
割当がいけないというなら、君らは第十五條を活用して
委員をとりかえるがよいと言
つて、ごまかしてしまうのであります。しかして、その間に強権発動だ、供米阻害だと
農家を威し、
農家を素裸にして
供出させてしまう、それに法的根拠を與えようとするのが
本案であります。
かく申しますならば、そのようなむちやなことをさせないために
異議の申立ができるように、第六條でその途が開けてあることを、
提案者側は
説明されるのでありますが、この第六條は、およそナンセンスであります。山間僻地の寒村の一
農民の
異議を容れてやろうといたしますならば、その村長は
農林大臣の
承認まで得た上でないとできないのであります。かようなことが実際できるということは、まつたく夢の限りであります。また、
農林大臣にその
承認を
知事が求めに行つたといたしましても、その実情もわからない大臣に、何の判断ができるでありましようか。それを
説明する
知事でさえできるものではありません。ときによると、その村の村長でさえ
説明するのに困る場合があるのであります。また、ただの一件や二件、その数量も三俵か五俵というものを一つ一つ取上げることも、実務上できないことはわかりきつた話であります。しかしその場合でも、その一
農家に対しては致命的な場合があるのであります。しかるに、このような複雜な手続をとらねばならぬ第六條はまつたくの
責任逃れのための
條文であ
つて、羊頭を掲げて狗肉を賣るものであります。いかにも
民主化されたかのごとく裝うための
條文にすぎないのであります。
このほかにも、いくらでもこのような例は
本案中にあるのであります。
農家が最も関心をもち、もつと合理的にや
つてほしいと毎年々々血の涙をも
つて政府に陳情しておる米價についても、またしかりであります。
本案が
食糧確保という銘を打
つて提案される限りにおいては、当然に
本案中にそれの決定に関する民主的な
條文がなければならぬのであります。何とい
つても取引
條件の最大し
條件でありますこの
條件が、
農民の納得のいく
方法で決定されさえすれば、あとの問題はいかようにでも解決するのであります。しかるに、それは
食管法にあるからとて、その非民主的な戰時立法の遺物をも
つてこれに臨んでおるのは、まつたく遺憾千万であります。
また、
農家に対しては
作付命令、
作付禁止命令、財産の共用命令等を
本案は出す法的根拠を與えるものでありまするが、そのために生ずる損害の補償には全然考えを及ぼしていないのであります。石炭や
肥料の製造につきましては赤字補償をしながら、それにもまさる重要
物資である米麦をつくるために、しかもそれを強要されたために、他の有利作物がつくれなくなるために家計が赤字にな
つても、
政府はみずからの目的である
食糧さえとれればそれでよい、一貧農の赤字など問題でないという態度をも
つております。これは憲法第二十九條第三項違反であります。
要しまするに、取引
條件の改善ということについては、
政府側の有利なことのみ
規定し、そのためには、すべて
農民側には不利益になるように、
本案はしておるのであります。しかも、憲法違反まで冒してや
つておるのであります。
本案が成立すれば今後は
追加供出ということはなくなる、
責任量をあらかじめ定めたから、その量以上をつくればつくり得るということになるから、
農民のためになる
法律であると、
政府は
説明しておられますが、そのことには、大臣が決定する要求高とその
割当が適正公平であるという前提が要るのであります。適正な量を定めるということが前提でありますが、昨年の三千五十五万石でも過重であつたために、五百万石の反還要求があり、百六十万石をしぶしぶながら
政府は還しておる。本年は、その量にまた百五十万石増した三千二百万石が要求量で、過重であることは明らかであります。この行き方で最大限にまで
供出をさせて、あとはとらないと第七條第四項で定めてみても、およそ意味はないのであります。また、あえて第四項に違反する行爲をしなくとも、大臣は
農業計画を立てるとき、何人にも制約されずにその要求量を定め得るのであります。すなわち、そこにりつぱな抜け穴がつく
つてあります。
要するに、本
法案のほんとうのねらいは、
農業者の経済約立場は全然考えておらず、
作付命令と
作付禁止命令であ
つて、
農民を奴隷化するところにあると申しても過言ではなく、悪法中の悪法と言わざるを得ないのであります。
以上、
反対の
理由を述べ、
討論を終ります。(
拍手)
〔的場金右衞門君
登壇〕