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武藤運十郎君 五月中における
不当財産取引調査特別委員会の
調査審議の状況について御報告申し上げたいと存じます。
去る四月三十日の本
会議において、本
委員会が目下
調査審議中の
案件は
辻嘉六氏をめぐる
政治資金に関する件ほか六件であることを御報告いたしておきましたが、右のうち
辻嘉六氏及び
龜井貫一郎氏をめぐる
政治資金問題は、ここに一段落を告げましたので、その結果をやや詳細に御報告いたします。
第一、
辻嘉六氏をめぐる
政治資金に関する件。本件は
政界淨化の上においてきわめて重要な
案件と
考えまして、
委員会としては愼重なる
調査審議を重ね、今日までに
関係証人五十三名を喚問すると同時に、必要なる書類の
提出を求め、その
眞相究明に異常なる努力を傾倒いたしました。もちろん
眞相究明の点においては、末だ必ずしも満足すべきものとは
考えませんが、本
委員会は、
委員会に與えられました権能の
最高限度において遺憾なく活動し、その最善を盡した次第であります。
辻氏をめぐる
政治資金究明の焦点は、
中曽根幾太郎氏より辻氏に
献金せられました金二百五十万円及び
緑産業株式会社社長吉田彦太郎氏ほか三名より辻氏に
献金せられました金六百五十万円について、その
献金の
理由を明らかにすると同時に、これが
政界に散布せられた
散布先並びに
目的を追究し、かかる形による
政界裏面の
金銭授受がいかに好ましからざる影響をもたらすものであるかを
調査するにあ
つたのであります。そもそも
中曽根氏が、いかなる意味において辻氏にかかる多額の
献金をしたかについては、
軍服拂下げについて辻氏の盡力を御るための
條件附運動資金であ
つて、單純なる
政治献金ではないとする
中曽根氏の
証言と、何ら
條件のない
政治献金であると主張する汁、
塩月両氏の
証言との間に、
関係者相互の供述がはなはだしく相違いたしておるのであります。しかしながら、そのいずれなるかにせよ、本
委員会といたしましては、かかる大金が公然と政党に寄附せられることなく、
政界の
裏面に動く特異な
存在人物としての
辻嘉六氏個人に対し
隠密裡に
献金せられたところに、
政界の不明朗と腐敗との大なる原因を見るのであります。
次に、この金二百五十万円がいかに使用せられたかを
調査いたしました結果、そのうち金八十五万円は、昨年四月の総
選挙に際して
衆議院議員に立候補した左の二十六名に、大
部分は
陣中見舞の
趣旨において分與せられているのであります。その
明細を申し上げますれば、一、当時
日本自由党所属の
尾関義一氏に十一万円、
倉石忠雄氏に二十万円、西田当元氏に一万円、
高原正高氏に三万円、
木村公平氏に三万円、
三宅則義氏に一万円、
石田左近氏に一万円、
渡辺治湟氏に二万円、
河野謙三氏に二万円、
坂東幸太郎氏に三万円、
草場一平氏に四万円、
大塚令三氏に二万円、
三浦寅之助氏に三万円、
磯崎貞序氏に二万円、
小澤佐重喜氏に二万円、
橘富士松氏に二万円、
高木松吉氏に五万円、
加藤睦之助氏に二万円、
杉田馨子氏に三万円、
井上卓一氏に一万円。二、当時
民主党所属の
保利茂氏に二万円、鈴木彌五郎氏に二万円。三、当時
國民協同党所属の
宇田國榮氏に二万円。四、当時
無所属ないし中立の
山本喜助氏に二万円、
矢野晋也氏に二万円、
中野寅吉氏に二万円、以上の
通りでありますが、右二十六名のうち、
河野謙三氏を除いては、おおむね
金銭の受領とその
趣旨を認める旨の
証言をいたしております。しかして、これら二十六名のうち
議員当選者は八名でありました。
なお、ここに一言申し添えて遺憾の意を表しておきたいことは、右二十六名のうち、
議員木村公平、
磯崎貞序、
三浦寅之助の三氏は、本
委員会における
証言に関し
偽証罪として、また
河野一郎氏は
偽証罪とともに
追放令違反を併せて、先般
東京地方檢察廳より起訴せられたことであります。本
委員会もまた、その嫌疑濃厚なりとして、
法律の命ずるところにより
告発の
手続準備中、右のごとく
東京地方檢察廳の起訴がありましたので、あらためて
告発の
手続をとる必要がなく
なつた次第であります。
次に辻氏は、
右献金のうち金三十五万三千円を、昨年四月の
参議院議員選挙に立候補した、一、当時
日本自由党所属の
淺岡信夫氏に三十三万円、二、当時
日本社会党所属の
岡田宗司氏に二万円、三、当時
無所属の
高柳太壽氏に三千円を、それぞれ
選挙應援資金として分與しておりますが、
右淺岡氏が、
右金三十三万円のうち金三十万円は
引揚同胞の
促進運動資金として受領した旨を
証言しておるほか、両者の
証言は大体一致いたしておるのであります。なお、以上三名のうち
議員当選者は二名であります。
残金の
使途明細を申し上げますと、
東京都
会議員立候補者山口久吉、
白石錦太郎、
松葉武の三氏に各一万円、牛込区
会議員選挙費用として
佐久間徳太郎氏に三万円、
森山邦雄氏には、
同氏長男立候補選挙費用として二万円、
原玉重氏には、
矢野富太郎氏
立候補應援費用として八万円、
金子力三氏には、当時の
日本自由党立候補者選挙應援演説費として八万五千円、
下沢秀夫氏には、
中曽根幾太郎氏の
選挙應援費用として二十万円、
岡村吾一氏に十万円、
中島次男氏に三万円、当時の自由党本部
建設資金として二十万円、自由クラブが集会場として使用した我善坊に接待費として十七万円、料亭桂に招待会食費として二十万円、以上合計金百十三万五千円をそれぞれ支出しております。
以上が、
中曽根氏を中心として辻氏になされた
献金問題の概要でありますが、次に辻氏をめぐる
政治献金第二の
案件を御説明いたします。
これは、ただいま申し上げました
中曽根氏
関係とは別途に、終戰直前より直後にかけて、
緑産業株式会社社長吉田彦太郎、元新夕刊新聞社長高源重吉、旭工機株式会社社長杉山嘉市、元貿易商青木勇の四氏より、合計金六百五十万円が辻氏に
献金せられたものであります。右四氏の辻氏に対する
献金について、
献金者等は、あるいは辻氏の生活援助のためとか、あるいは漠然と提供したとか述べております。またこの多額な金円の出所についても、吉田氏は兒玉機関の副隊長をしていた
関係で、終戰時多額の金を所持してお
つた旨を供述し、高源氏は、大
部分他より借金してきた金であると述べ、杉山、青木両氏は、
事業上利得した金の一部であると称しているのでありますが、その
事業の実体、なかんずくその收支状況はすこぶる明白を欠き、確たる根拠に乏しいものでありまして、辻氏の
政界における特異な地位及び
献金者との
関係を
考えまするとき、かかる
献金の
趣旨並びに出所については、にわかに信をおきがたいものがあるのであります。しかして、かかる
献金が
政界をはなはだしく不明朗にし、これを腐敗せしめる原因となるべきものなることは、
中曽根氏の場合と毫も異なるところがないのであります。
献金せられた金六百五十万円の使途については、本
委員会は重大なる関心のもとに、鋭意
調査いたしておるのでありますが、辻氏の
証言及び
提出書類等によ
つて明細を申し上げますれば、次の
通りであります。生活費約百八十万円、交際費約八十万円、病氣療養費約四十五万円、税金約三十五万円、立替金二百三十万円諸寄附金約二十五万円、自動車車庫及び家屋修理費約十五万円、鳩山一郎氏のための会食費等約四十万円。辻氏のこの
証言についても、また
委員会はにわかに信をおき得ないのであります。
要するに、
委員会は、
右金六百五十万円の
献金の出所並びに
趣旨及びその使途について、首肯し得る
調査の結果を御報告申し上げることのできないことをはなはだ遺憾に存ずる次第でありますが、しかし、現在
委員会に與えられている権限内においては、眞実発見のためにこれ以上の強制的措置をとることを許されませんので、この点に関する糾明は、これを後日に讓らざるを得ない実情であります。
以上、辻氏をめぐる
政治資金関係の
調査の大要を御報告申し上げましたが、この
調査の結果を総合的に判断して、次の二点に要約し得るのであります。
一、前
日本自由党総裁鳩山一郎氏が、辻氏より甘んじて建物の新築提供を受け、鳩山氏初め多くの著名なる政治家が、しばしば我善坊及び柱等の料亭に集まり、辻氏の計算において飲食していることが明白とな
つたのみならず、常に大小無数の政治家が辻氏の門に出入して、あるいは立候補の公認を依頼し、あるいは政務官その他の高級人事の斡旋を求め、なかんずく
選挙に際しては、数十人の立候補者が辻氏より相当額の資金を與えられるを例としていたこと等を知り得るのであります。かくして辻氏は、当然
政界に対する強力な発言権をもち、いわゆる黒幕の中より、見えざる糸によ
つて政治と政治家を繰ることに
なつたものと
考えられるのであります。
二、辻氏に対する
献金は、
献金者の
事業と身分とに比較して、いずれも不相應に高額であり、
献金の
理由もまたおおむね首肯しがたいものが多いのであります。隠密のうちになされるかかる
献金は、必ずや辻氏の
政界に対する発言権を利用した利権の供與または斡旋を交換
條件とすることを推定し得るのであります。
かくのごとく、以上の二つは互いに因果
関係を有して
政界を腐敗せしめることは明らかであります。
第二、
龜井貫一郎、綿引喜一氏等をめぐる
政治資金に関する件。いわゆる龜井事件なるものも、
中曽根幾太郎氏事件と同樣、龜井、綿引、小川、西山氏等が、
軍服拂下げを名目に、全國各地の農業会その他の團体より、数回にわたり金千九百四十余万円を集め、その一部を軍服拂下運動の資金として政党及び政治家に
献金もしくは提供したという
案件であります。本件は、すでに詐欺被告事件として
東京地方裁判研の公判に付されておりますが、犯罪の成否はしばらくおき、本
委員会としては、前記金円のうち
政治資金として政党もしくは政治家に
献金提供せられた金額並びに
趣旨等に重点をおき、眞栢糾明に努力したのであります。
委員会は、今日までに
関係証人十四名を喚問いたしたのでありますが、その結果、次の
通り政党並びに政治家に
献金または堤供せられたことが判明いたしました。一、亀井貰一郎氏より、当時の
日本社会党所属代議士西村榮一氏に金五十五万円、同松太淳造氏に金十万円。二、綿引喜一氏、小川美武彦氏等より、水野繁彦氏に金三百三十万円、河野彌吉氏に金二十万円、当時
無所属の戸澤盛男氏に金八万円、当時
日本自由党所属藤二雄氏に金三十万円、当時
日本自由党所属谷川昇氏に金十万円、当時
日本自由党所属本田一郎氏に金二万三千五百円。以上合計金四百六十五万三千五百円であります。しかして、
右金員の提供を受けた側も、谷川昇氏を除く他の諸氏はいずれも受領を認めておりますが、諸氏の中には、
右金員は全然政治に
関係のないものであると主張する者もありますので、この点についていささか説明を加へたいと存じます。
一、西村榮一代議士に交付せられた金五十五万円は、龜井氏が、
昭和十八年中数回にわたり、西村氏を介して三恵冶金工業株式会社社長太田勝眞氏より金二十一万円を借受けていたのに対し、西村氏はこれを自己の資金
関係において決済しておいたところ、たまたま昨年の総
選挙前、西村氏より龜井氏に対し金の必要なことを告げましたので、龜井氏は三回にわたり
右金五十五万円を西村氏に提供し、西村氏はこれをも
つて、前記太田勝眞氏の龜井氏に対する金二十一万円の貸付元利金の弁済に充てたことにして、太田、西村、龜井三者間の貸借
関係を決済したというのであります。しかし、その間龜井、西村、太田三氏の
証言は必ずしも一致していないのであります。なお、龜井、西村両氏の
委員会における
証言は、檢察廳における同氏等の供述といささか齟齬するのでありまして、西村氏は、檢察廳では、最後の金二十万円は
選挙資金として受領した旨を陳述しているのであります。
二、河野彌吉氏に交付せられた金二十万円は、檢察廳においては、世耕弘一氏の隠退藏物資等処理
委員会副委員長就任の運動資金として提供せられたものとせられていたのであります。しかしながら同氏は、これを否認し、自己の主宰する終戰残存物資
調査会の活動資金として使用したと主張し、この点に関する綿引喜一氏の
証言と相違するのであります。
三、谷川昇氏に対する金十万円は、
日本経済新聞記者三厨正氏に渡した金二十三、四万円中の一部でありまして、三厨氏は、谷川氏に直接手交したのではないが、最初谷川氏祕書に金五万円、また
選挙末期に谷川氏夫人に金五万円をおのおの交付したと
証言しているのに対し、谷川氏は、受領の記憶がないと
証言しております。
四、本田一郎氏分の金二万三千五百円也は、單なる貸借
関係であ
つて、全部弁済したと申しております。
五、水野繁彦氏分金三百三十万円については、内金二百五十万円は、
中曽根幾太郎氏の手を経て
辻嘉六氏に交付されたのでありまして、辻氏が
右金員をいかに処分したかに関しては、先程御報告申し上げた
通りであります。なお別に水野繁彦氏分金八十万円は、軍服拂下事件につき同氏が政治工作をなす資金として提供せられたものでありますが、その使途は、塩月、藤川、
中曽根氏その他軍服拂下運動
関係者との会食の
費用等に充てられたという以外、詳細は判明しないのであります。
六、松本淳造氏の五万円、藤二雄氏の三十万円、戸澤盛雄氏の八万円は、いずれも
選挙に際しての
陣中見舞であります。松本氏への別口五万円は、同氏の主宰する社会文化協会への寄附金であると言われております。右三君に対する
関係については、各人の
証言も大体において一致いたしております。
そもそも
政治資金について公明を欠くことは、政治腐敗の最も大なる原因をなすものであります。本委員によ
つて明らかにせられた辻氏及び龜井氏をめぐる
政治資金関係のごときは、新らしき
日本政治のあり方よりして、今後においては断固排斥せねばならぬことと信ずる次第であります。政治家は、その出処進退において公明正大でなければならないことは、申すまでもありませんが、さらにその
政治資金についても、一点公明を疑われるようなところがあ
つてはならないのであります。
昭和二十一年勅令第百一号第五條第二項は、政党に対する有力なる財政的援助者の住所、氏名並びにその援助金額を、團体の主幹者より主たる事務所所在地の市町村長に届出ずべき旨規定しておりますが、これは
政治資金の公明を期しているものにほかならぬのであります。政党及び政治家にして本法の
趣旨を蹂躪せんか、公明なる政治は望むべくもないと言うも過言ではないのであります。本
委員会において、
辻嘉六氏及び
龜井貫一郎氏をめぐる
政治資金関係を
調査審議いたしたゆえんのものは、実に政治の
民主化と政治の公明化とを期する
目的にほかならないのでありまして、ここに本
委員会は、辻氏、龜井氏及び同氏等より
選挙その他の資金を收受した多くの
関係者に対し、深き反省と格別の自重とを切望してやまない次第であります。
なおこの際私は、本
委員会に関する今後の見透し等について、いささか所見を申し述べておきたいと存じます。
まず、今後本
委員会はいかなる問題を取上げるかということでありますが、これはただちに具体的に申し上げることはできません。要するに、終戰以來の不当財産取引であ
つて、いやしくも
政界・
官界・財界淨化のために必要な一切の大問題は、順次これを取上げて糾明しなければならないのであります。しかして、かかる大問題は、現在
委員会が取上げている諸問題のほかになお相当多数に存在するものと
考えられる次第であります。
次に、
調査の方法についてでありますが、ここ数箇月にわたる
調査の経驗は、われわれに
調査の方法に関する
委員会の権限の不足を痛感せしめ、
調査を徹底するためには、どうしてもさらに強力なる
調査方法の受権を必要とすることを教えるに至
つたのであります。よ
つて委員会は、近くみずから家宅捜索並びに書類の押收等をなし得る
法律案を立案し、これを院議に諮りたいと存ずるのであります。
最後にわれわれは、去る五月七
日本会議において可決せられました不当財産取引
調査鶴徹底に関する決議に
勇氣づけられ、この決議の
趣旨を体して一層の努力を傾注すべきことをここに誓
つて、御報告にかえる次第であります。
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