○林百郎君 軽犯罪法につきましては、共産党といたしましては、本法の制定に対して全面的に反対するものであります。
本法は、本年五月二日以降失効する
警察犯処罰令の再生版であ
つて、
警察犯処罰令が
従來のわれわれの階級運動の抑圧のために、また労働運動の彈圧のために果してきた役割を見れば、
理由は明らかだと思うのであります。
まず第一に、現在労働組合が爭護手段としてと
つておるところの生産管理はもちろんのこと、團体交渉をする場合におきましても、たとえば第一條の二十八号におきます、他人の進路に立ちふさがり、あるいは身辺に群が
つて立ち退こうとせずと云ふようなことを
理由にして彈圧を浮ける危險があるのであります。
また隠退藏物資を摘発しようと思いましても、三十二号にありますとろこの、「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な
理由がなくて入つた者」というような條文が利用され得るのであります。
また農民運動をなさつた経験のある方はおわかりだと思いますが、たとえば地主の不法土地取上げ等に対抗するために、農民組合が共同耕作しようと思いましても、他人の田畑に正当な
理由なくしてはいる者というような
理由が
濫用されて、これが抑圧される危險が多分にあるのであります。
また配給物資の適性たる監視をしようと思いましても、たとえば十三号にあります通り、配給物を待
つている列を乱した者は処罰するというような
理由で、この十三号で処罰される危險があるのであります。
また街頭演説をしようと思いますと、五号で、公共の会堂またはその他の場所において粗野または乱暴な言動で迷惑をかけた者というようなことを
理由にして、街頭演説を禁止される危險が多分にあるのであります。
政府の言明や、いろいろな附帶の決議はありましたけれ
ども、
立法するときは
政府は非常に民主的なことを言いますけれ
ども、具体的な
法案の
適用になりますと、この
立法の際の
精神が忘れられるのであります。そうして、
政府の
行政的な要求に基いて
濫用される危險が多分にあるのであります。
殊に本法は、第ニ條におきまして、たらいまわしをどんどん適法にする拘置と科料と二つを併科することができるのであります。従前ですと拘置だけで三十日であ
つたのが、科科が併科されまして六十日検束されることが可能にな
つているのであります。
政府の弁明によりますと、各外國の
立法にもこういう例があるのだということを
説明されておりますが、たとえば
政府提出の資料を見ますと、フランスの刑法を調べて見ましても、非常に具体的な例が示してあるのであります。客観的にして、具体的な例が示されておるのであります。
たとえば、本軽犯罪法におきますところの三十二号、はいることを禁じた場所または他人の田畑に正当な
理由なくしてはいつた者をいうふうに「正当な
理由」というような非常に抽象的な言葉が使われておるのに対しまして、フランス刑法の例を調べて見ますと、非常に客観的に具体的にな
つておるのであります。たとえば、フランス刑法第四百七十一條の八号、九号、十号、十四号にわた
つて、この三十二号が
説明されておるのでありますが、その例を見ますと、八号の、
法律また規則によ
つて田畑または庭園の毛虫の駆除を
規定したる場合においてこれを怠つた者、九号の、その他に
法律の定むる格別な
状況なくして他人に属する果実をその場所において摘取しまたはこれを食いたる者、第十号の、他に格別の
状況なくして未だ全部の収穫を了せざる田畑において、日出前または日没後に落穂を拾い集め、または取残した葡萄を摘取した者、第十四号の、収穫前に他人の地所に自己の家畜または車あるいは乗馬等に用いる獣類を通過せしめたものというように、非常に客観的に具体的な例示がされておるのであります。
ところが本軽法犯罪法によりますと、單に正当な
理由なくして他人の田畑にはいつた者は、すぐ拘留三十日ということにな
つて、非常に乱暴な、
濫用される危険のある
法律のきめ方にな
つておるのであります。たとえば、この第二号を見ましても、正当な
理由なくして刃物、鉄棒その他の生命を害し、または人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯している者は、三十日の拘留というのであります。隠して携帯しているということになると、隠しておる危険のある者に対しては、いくらでも手を触れ、取調官が調べるということになるのであります。これは明らかに不当な人権蹂躪の危険を冒すことになるのであります。
この点につきまして、フランス刑法の四百七十一條の七号を見ますと、街路、道路、廣場、公の場所または田野に、すき、はさみ、鉄棒、鉄柵またはどろぼうその他の凶徒の使用し得るその他の器具、機械、
武器を放置した者というように、非常に具体的に詳しく
説明してあ
つて、こういう場合には処罰することにな
つております。ところが本軽犯罪法によりますと、
凶器を隠し持つた危険のある者は、もうこれが取調べの対象になるのであります。こういう点から見ましても、この軽犯罪法が非常に人権蹂躪の危険をも
つておるということは言い得ると思うのであります。
要するに、本法の各本條の
規定は、それぞれ刑法だとか、道路交通取締法だとか、その他の各單行法規ですでに
規定してあるものでありまして、あらためて軽犯罪法のごときものを
立法する必要はないと思うのであります。結局そのねらいは、一に
政府の政治力の貧困を、
法律の力でも
つて、
立法形式によ
つて合法化しようとする魂膽の露骨な表現だと思います。これによ
つて大衆行動を抑圧し、あるいは人権を蹂躙しようとするものだと思うのであります。
こういう意味におきまして、われわれは、新
憲法によりましてわれわれの人権が確保された際、かかる軽犯罪法というがごとき人権蹂躪の危険が多分にあり、またその
運用いかんによ
つては多分に労働運動、農民運動、われわれの正当な権利が抑圧される危険のある
法律に対しては、全面的に反対するものであります。これらの
規定の條項は、それぞれの單行法によ
つて取締ることによ
つて十分なのであります。あえてこういう
法律を新しくつくる必要は絶対にないと思うのであります。こういう意味で、わが党としては、本軽犯罪法には全面的に反対するものであります。
簡單に
意見を申し上げます。