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中村嘉壽君
図書館運営運営委員長といたしまして、過去久しい間にわた
つて審議いたしましたこの
法案の
経過並びに結果について御報告申し上げます。
お手もとに
法案は差上げてございますが、まず、そのうちに少し訂正を要するところがありますから、これをひとつ訂正しておきます。すなわち、第十七條第一号中「
國家公務員法の
適用のない者につき」とあるのを削りまして、但書を次のように改めます。「但し
国家公務員法の
適用を受ける者については、同法の規定に從い、且つ、
当該部門の
長官の同意を得なければならない。」これだけ改めることにいたします。
本
法案は、わが
日本におきまして
文化國家を創立する、非常に重要なる
法律案でございます。すなわち、そのねらいとするところは、
知識の泉であること、
立法の
ブレーンであること、
整理の
元締、すなわち
能率の増進をはかること、かようなところがねらいなのであります。昨年四月二十八日に公布されました
國会図書館法によりまして、
りつぱな図書館をつくろうという
計画だ
つたのでありますが、この
図書館はきわめて有効なものにし、そうして少し違つたものにせなければならぬというわれわれの
考え方からいたしまして、
先進国、すなわち
欧米各國におきまして、
図書館がいかに
運営されておるかということをよく檢討してみますと、わが國の
一般が
考えておるような
図書館とは、すこぶる趣きを異にしておるのであります。
從來、われわれの観念におきまして
図書館と申しますと、書物が集ま
つておる、これを読みに行くということがわれわれの通念でありますけれ
ども、
欧米各國におきましては、実は
國会図書館というものは、先ほど申し上げましたような
知識の泉であり、
立法の
ブレーンであり、ものを
整理するところの
元締であるのであります。
かようなものが、わが國におきましては最も必要であるところから、私
ども、過去第一回
國会から今
國会にわたりまして、九回の
委員会と二十二回の
懇談会を開き、また十一回の
参議院図書館運営委員会との
合同会を開いたのであります。
法規委員会並びにこの
議会の
運営委員会ともしばしば
懇談をいたしまして、この
法案を産み出すことに相な
つたのでありますが、かような
計画をすることにつきましては、
先進國を範にとるというようなことから、わが衆議院におきまして、まずこれに
経験の深いところの
アメリカから
専門家のミツシヨンをお願いをして、これに指導していただきたいということを提議いたしましたところが、さいわいに
参議院の
方々もこれに賛成をしてくださいまして、ただちに両議院の
議長並びに
両院の
委員長が連署して、
マツカーサー元帥にこの使節の
派遣方を懇請いたしましたところが、
元帥はこれを受諾してくださ
つて、ただちに本國にその
人選方を求められた結果、ようやく、
アメリカにおける最も
図書館について堪能な
方々、すなわち
アメリカ國会図書館の次長であるところのヴアーナー・クラツプという人と、それから
アメリカにおきましては
図書館界のデイーンともいわれるような、非常な堪能なチヤールス・
ブラウンという人を選定せれまして、この御両名が、去る十二月十七日にわが國に來られました。両氏は、その即日からこれが
計画に参画をしてくだされ、われわれは、ほとんど日参をいたしまして、いろいろ
相談をいたしました結果、かような
法律案を遂にでつち上げるごとに相
なつた次第でございます。この間に処しまして、
司令部の
チヤスチン・ウイリアムス博士が特に
盡力をされ、C・I・Eの
ネルソン並びにバーネットという
人々の斡旋よろしきを得まして、今日の結果を得ましたことを、非常に感謝いたしますと同時に、
皆様方にこれを記憶していただきたいと思うのであります。(
拍手)
この
法案の一々につきまして説明いたしますことは省略いたしまして、個個のおもなる筋をお話してみますならば、この
國会図書館の
館長というものにつきまして、特にわれわれは力を盡しておる次第であります。
アメリカにおきましては、
図書館の
館長は、人によりましては大統領になるよりも名誉とする人があるのであります。また
大学の
総長になるよりも、もちろんこの方が適任であるならば、さようなものをやめて、これになるというようなことなのであります。現に
ブラウン氏のごときは、自分にある
大学の
総長を求められたけれ
ども、これを断
つてライブラリアンでおるんだというようなことを言
つております。
館長の地位は、特に政治と離れた、厳正で、人格の
りつぱな人であ
つて、政治的に、あるいは情実によ
つてこの人を動かすことがないように、きわめて公平な人を選ばなければならぬということが、非常な力を入れられておるところであります。しかして、この
館長は、
両院議長の
任命によるのでありますが、これにつきましては、
両院の
委員会が推薦をいたし、これらの
人々と
相談をして
議長がこれを
任命し、同時に、
任命するについては
議会の
承認を得ることに相な
つております。その
待遇は
大臣とひとしいことにするのでありますが、年限は、その人が職務上の何かの失策のない限りは、これを罷免せないというような、特別の取扱いが行われておるのであります。副
館長は次官の
待遇をするということであり、副
館長の
任命は
館長によ
つてなされますが、これまた
議会の
承認を得るということに相な
つております。その他
部局長というようなものも非常によく
待遇をして、これらの
部局におる
人々は、きわめてよく
訓練をされた人でなければならぬということであります。わが
日本におきましては、今ただちに
りつぱな人々を、すなわち
訓練をされた
人々を採用するいうことはできないから、一時的にこの二箇年の間はやむを得ないとして、その間に
適任者があつたならば、そういう
人々は更迭して、さらに一時的の
任命をせないというようなことに相な
つております。
そのほかに、
連絡調整委員会というのが置かれてあります。
連絡調整委員会というのは、
両院の
委員長と、それから
最高裁判所長官が
任命する裁判官が一人、
総理大臣が
任命をするところの閣僚が一人、これだけ加わ
つて、この
人々が
館長と
相談をしまして、いろいろ
図書館の
運営について、そのサービスについて注意を與えるというような役目を果すことに相な
つておるのであります。
図書館の最も主なところは、
リフアレンス・ライブラリーの機能を発揮するにあります。
リフアレンスという
言葉は、
相談をすることがあり、あるいはまた何か
材料を提供してもらうということがあり、いろいろな複雑な
意味をも
つておる、
日本語に翻訳のできない
言葉でありまするが、この
立法の
リフアレンスというのが、
國会図書館の一番の
眼目であります。それはすなわち、
國会図書館のうちに、
世界各國の、單に
法律だけのことではない、科学のこと、
社会のこと、
工業のこと、あらゆる
材料をここに集めてお
つて、それを
研究をし、これを
材料といたしまして、
文化の促進をはかり、
産業の
高揚をはかるというような仕組なのであります。この
國会図書館に期待するところが非常に多いのであります。
皆さん方も、おそらく私と
意見を一にしてくださることだろうと
思つておりますが、わが國の
役所に参りましても、あるいは、
事業所に行きましても、
事務所に行きましても、物の
整頓がよくついていない。あるいは資料をただちに出すというようなことが容易にできないのであります。
アメリカの
國会図書館のみならず、その他の
國会図書館なり、あるいは私立の
図書館に参りましても、何かの
材料を得ようと思えば、五分か十分の間に、ただちにその
材料が提供されるということに相な
つておりまするが、さような
整理がついておるから
事務が進捗していくのであります。殊にわれわれが非常に遺憾と思いますことは、
役所に
行つて、きのう出した
書類を探してもらおうといたしましても、これを探すのに半日かかつたり、よくそれがなくな
つているというようなことがあるので、はなはだ遺憾と存ずる次第でありますが、各國の
整理の
整つたところに行きますると、さようなことがないのであります。それのみならず、いろいろなことにおいて
整理がついておりますから、
從つて仕事の
能率が上るのであります。たとえば家庭におきましても、台所のすみから、掃除をするところから、あらゆるものが機械化されておりまして、いながらにして用事が済むようにな
つており、
整頓ができるようにな
つておるのであります。
從つて能率が上
つておる。まことに私
どもは、これをうらやましく
思つておるのであります。
日本におきましても、これをやろうとするならば、できないことはないのであります。ただ今日まで、これをやらなか
つたのである。わが過去の
日本におきましては、
予算のほとんど五割、六割というものが
軍備のために使われておりました。すなわち破壊のために使われておりましたが、
敗戰の今日以後は、その
予算は使わないでもよいのであるし、憲法によ
つて戰争を廃せられたのであるから、この
日本再建には、一に
文化的の施設あるいは
産業の
高揚、
社会の革新ということによ
つて、過去の失つたところ、停滞したところをば取返さなければならぬ
状態に相な
つたのであります。これを取返すということは、一にかか
つて、かような
國会図書館みたような
設備に依存することができると思うのであります。
この
國会図書館が
議会のそばにあるというだけでなしに、
各省におきましても、
國会図書館の
支部をつくりましで、
各省のいろいろな
書類を、そこにまとめて、先ほど私が申し上げましたように、
能率の上るように——しかも今日までは、
調査書類というものは、多くは
調査した人が独占するようなことにな
つてみたり、それがたなざらしにな
つてお
つて、だれかが見に行きましても、その
材料が無為にな
つておることがある。私の
アメリカ生活のうちに、しばしば
日本の
役人たちが、たとえば橋を
研究に來る。シカゴに有名な橋があ
つて、それを
研究に來るのがある。東京の都からも来る、内務省からも来る、
鉄道省からも来る、あるいは大阪府からも来るというようなことで、
一つのことを何人も來て、彼らがうるさく
思つて、もう後には
日本人には見せないという時代があ
つたのでありますが、こういうように重複することなしに、もし
りつぱな調査書があつたならば、この
調査に派遣した
役所にこれを整えてお
つて、ガラス張りの中に入れて、だれでも見ることができるようにしたならば、さような手数を省き、節約ができるのであります。そういうようなことを、わが
各省におきましても行うようにいたしましたならば、
ひとり各省の
人々が便利であるのみならず、われわれ
國民全体が
知識を得ることができ、これを普及することができるであろうと思うのであります。そういうようなことに対してこの
國会図書館が非常に役立つのであるいうことを御了承願いたいのであります。
それから、この
審議の間におきましていろいろ論ぜられたことの中に、先ほど申し上げました
言葉の問題、たとえば
リフアレンスとか、
リストとか、
カタログとか、あるいはそうしたようないろいろ
西洋式の名前があるものでありますから、これにいろいろな
議論があ
つたのであります。われわれは長い間
研究しまして、どうしても
ぴつたりした言葉がないのであるから、原語のまま残したらという
議論もありましたけれ
ども、
法律の
文面におきましては、あまりおもしろくないというようなことで、そういうような
文面は、
日本の
言葉に直したのであります。
日本の
言葉があるいは
ぴつたり來ないかもしれませんけれ
ども、その
意味は、新しい
意味において、
リフアレンスは
リフアレンスという
意味をもたせることが必要であると私
どもは
考えている次第であります。
そういうようなことで、一体どういう
國会図書館ができるのであるかというようなお
考えがありましようが、この
図書館の面積は、およそ四万二千坪くらいのものにする。それから書籍は一千万部を収容することができる。読書をする人の数が三千五百人、それから、ここに使用するところの
人々が千五百人を
程度とするというのでありますが、非常に厖大なもののように見えます。
ちようどアメリカの
國会図書館が、これと同じような規模のものでありますが、わが
日本の
財政において、ただちにこれを一時につくるということは、とうていできないことであるのであります。その点、
皆さん方が御心配なさるかと
思つておりますが、それは
日本の
財政の
状態とにらみ合わせまして、およそ二十五年の間にかようなものが完成すればいいじやないかというような見地から、かような案が立てられてあるのであります。
それから、もう
一つお話申し上げておきたいと思いますことは、上野の
図書館が、これは今
國立図書館でありますが、
國立図書館が
二つの流れにあ
つてはいけないということから、これを
國立國会図書館に取入れまして、來年の四月一日には
國立國会図書館の
支部ということになり、そうして後日は、なるべく早い機会におきまして、何か混乱の起らない範囲におきまして、これを都営に移管し、
國会図書館は一本にするという行き方なのであります。かくのごとくにして、
國会の一筋の
図書館ができましたならば、
カタログをつくるとか、
リストをつくるとか、そうした
整理の
方法を、單に
國会図書館にこれを行うのみならず、
支部にも行う。かつまた別の公共の
図書館が
文部省管下につくられるでありましようから、そういうような所にも
國会図書館が指導をして、統一したものをつくろうというのであります。こういうような
整理が行われてきましたならば、今わが
日本における
役所で五人
使つている
仕事が、おそらく一人で済むのではないかと思われるのであります。そうしたことに
眼目をおくのであります。
いま
一つ非常に問題になりましたことは、
立法リフアレンス局というので、
法律をつくるについて、いろいろな
材料をここが集めてくれる。
從來われわれ
議員が非難を受けますのは、
立法能力がないとか、
知識がないとかいうようなことであり、また
官僚が跋扈するということが多く唱えられておりましたが、よく
考えてみますと、
官僚が跋扈するということは、必ずしも
官僚が跋扈するのでなしに、
立法をしなければならぬ
議員の
人々が、彼らの
知識に及ばなかつたからということであり、また
議員がさような
知識をもち得なかつたということは、
設備が足らなかつた、さようなふうに企ててなかつたということにあるのであります。(
拍手)しかるに、
議会もそれに目ざめまして、今は
補助員というようなものを置くようにな
つて、この
補助員が
立法の
材料を集める役もむろんいたしましようし、それからまた
常任委員会の方には
専門委員がありまして、
材料を集めておるのでありますが、これを完璧にするためには、
國会図書館が非常に役立つのであります。
こうしたことをねら
つておるのでありますが、おそらくこの
國会図書館というものが、今までの
考えのように静的でなく、動的であり、すなわち、光の根源であると同時に動力の
蓄積所であ
つて、これが
日本の
再建に最も貢献するところが多かろうという
希望をも
つておるのであります。
從來われわれが
軍備のために
使つてお
つた金の一割でもよろしい。この方面に
使つていきましたならば、わが
日本の
再建は決して不可能のことではないと思うのであります。願わくは
皆さん、これを用いることによ
つてわが
日本の
再建ができるかということを試みていただきたいのであります。
今存在しておる
図書館におきましても、もしわれわれがかような
意味に用いるといたしましたならば、十分に用いることができるのであります。たとえば
石炭國管という問題につきましても、個々の今の
図書館に
行つて専門調査員に
材料をおもらいになりますれば、これが増産になるか減産になるかということは、ただちにわかる。また
政党法をどうするかという問題について、
世界の各國のどこに
政党法があるか、その利害がどこにあるかということを、今現存しておる
図書館に
行つて専門委員から調べておもらいになりますれば、ただちにこれがわかることに相な
つておるのでありますから、これをどうか十分に
利用していただきたい。今のうちでも
利用していただきたい。これから自身で
経験を得られましたならば、今後できるところの
図書館に対して、十分な御
利用が願いたいと思うのであります。この
利用がよく行きましたならば、おそらく
皆さん方は、五十年かかるよりも二十年、二十年よりも十年の間に、莫大な金を注ぎこんでも、この
國会図書館というものをものにしなければならぬというお
考えになることを、私は少しも疑わないのであります。(
拍手)
私はさらにここで御報告申し上げたいと思いますことは、この
國会図書館をつくる途上におきまして、さいわいに東洋で非常に有名な
図書館があるのであります。たとえば
岩崎家のも
つてお
つた静嘉堂文庫というものは、二十万冊の
世界に類例のない漢書をも
つております。この
図書館は、もし現時の相場にいたしましたならば、何十億の金を出しても買えないものであります。いま一方に、同じく
岩崎家の
関係であつたところの
東洋文庫というものがあります。これはロンドン・タイムスの
モリソン氏がこしらえた
モリソン文庫というものを根拠といたしまして、
一つの
財團法人ができて、今
東洋文庫という
りつぱなものになつておりますが、これが八十万冊の蔵書をも
つております。これも、数十億をも
つても購うことができないのでありますが、さいわいに
幣原喜重郎先生の御
盡力によりまして、この
二つの
図書館は、わが
國会図書館に移管されるという了解を得まして、今その手続中であります。これらの図書は、
中華民國において、あるいはまたイギリスにおいて、オーストラリアにおきまして、何とかして手に入れたいというような
希望をも
つておるのでありますが、ほんとうに
二つとほかにないようなものであります。かのようなものが手にはいつたということにつきましては、われわれ非常に喜ばしく
考えるのでありますが、これをこのついでに御報告し、かつ感謝しておく次第であります。(
拍手)
重ねて感謝いたしますことは、これに
手傳うために、はるばる
アメリカから來てくださつたクラツプ氏と、
ブラウン氏、並びにこれに
盡力してくださつたウイリアムス、
ネルソンあるいはバーネツト氏に対して深き感謝の意を表すると同時に、私
どもこの
國会図書館の
委員会は、昨年の暮から一日も休むことなく、クリスマスといえ
ども、日曜日といえ
ども、あるいはまた元日といえ
ども、これに
努力をいたしてきたのでありますが、われわれは別にいたしまして、特にこの
事務当局が非常な
努力をされたことに対しまして、感謝しておかない次第であります。(
拍手)
かような
経過でございますから、
日本に光をもち來さしめ、
日本の
再建をするについて最も有力な
法案だということをお
考えになりまして、何とぞ御
審議を願いたいのであります。
これに関連いたしまして、もう
一つの
法案、すなわち
國立國会図書館建築委員会法というのがありますが、これも併せて御
審議、お
考えくださらんことを切にお願いいたします。(
拍手)