○田中久雄君 私は、
片山総理大臣の
施政方針演説に対しまして、きわめて重要なる数点に関して、ここに
質問を試みたいと存じます。
まず第一は、
行政機構の
改革整理の構想並びに範囲についてであります。
総理大臣の御
演説では、中央官廳の権限を地方に委譲する、同時に出先官廳の
整理による
人員の縮小、これを協議会を開いてやるというお話でありますが、現在の
行政機構というものは、戰時
状態と大差のない厖大なるものでありまして、わが國の現状から見まして、
根本的に大
改革を加えなければならぬものであると
考えまするが、
総理大臣は、この点いかがにお
考えになるか。たとえば、省の廃合を断行して、農林、商工、安定本部を一本として産業省をつくるとか、厚生、労働両省を合わせて民生省とするというがごとく、現在の十省を五省くらいに縮めて、そうして
國家再建のもとにしなければならぬと
考えるが、いかが
総理大臣はお
考えになるか。今日の
國民の
経済力、
インフレの高進並びに官廳事務の複雜化より見まして、なかなか困難なことではあるけれども、勇氣をも
つて断行すべき、日本の最も大切なことであると
考えますが、
総理はいかがお
考えになるか。
また船舶運営会のごとき、戰時中つくり上げられた機関が今なおそのままに存在しており、そうして非常な
國費を食
つておるということは、大いに
考えなければならぬと思うが、こういうものをなるべく早く廃止して、そうして民間
企業の復興をはかるべきだと思うが、
首相並びに運輸省はいかがお
考えになるか。
官廳事務はきわめて複雜であり、現在むだが多いことは、全
國民のひとしく知
つておるところであります。農業の電化が盛んに唱えられ、かりに電氣器具を
一つ欲しいと思
つて申請いたしますと、地方から中央へ來て、往復二十数名の手を経なければならぬ。ようやく配給の切符が手にはいりましても、現物はやみでなければ手にはいらぬという現状において、もつと徹底的に簡素化し、そうして、譲るべきものは地方に譲
つて、
官吏の責任を明確にして、認可とか許可とかいうものは、一々中央までも
つてこなくてもよいように、徹底的な大
整理を行
つてほしいと思うが、具体的にいかがお
考えになるか。この数点についてお伺いする次第であります。
質問の第二といたしましては、新警察制度実施後におけるボス警察化の防止と、治安維持の具体策についてお伺いをいたします。最近、特に年末年始に、かけましては、全國的に強盗や殺人という凶悪犯罪が激増しておりますが、善良なる
國民は、きわめて不安を感じて生活をいたしておるのであります。
インフレの激化とともに、終戰以來過去の蓄積によ
つて生活しておりました多くの人々は、もはや行くところまで行き着いてしま
つて、ほとんど生活に脅威を感じております。また多くの生産会社は、赤字
経済を続けて、今や
整理、閉鎖、縮小のやむなきに
至つておる。おそらく本年の梅雨期には、この失業の大群が洪水とな
つて現れるでありましよう。しかして、労働爭議も非常に深刻なものとな
つて現れると
考えますが、現在警察制度が改正せられ、殊に自治体警察制度が改正せられ、殊に自治体警察というものが非常に無力化しておる現状を見まして、これに対していかなる処置をおとりになり、ボス警察化の排撃と同時に、治安の確保をいかにおとりになるお
考えであるか、この点、重ねて
首相の御
意見をお伺いするものであります。
第三に、産業復興の具体策について、商工、労働両
大臣に
お尋ねをいたします。わが國の現状において、
労働基準法は、
企業の面に少からぬ負担の過重とな
つております。
從つて、生産コストは上昇し、ひいては貿易上、外國の商品とわが國の商品との價格の両面において、はなはだしい不均衡を來すことと
考えますが、この
労働基準法と貿易價格の均衡についての調和をいかにおとりになる
考えであるか。
また次に、
官業一切の給與については、現在のような賃金制度では、とうてい
能率を上げ、あるいは経費の縮減をはかることは不可能である、思い切
つた徹底的な
能率給制度を採用しなければならぬと思うが、この点、労働
大臣その他のお
考えはいかがであるか。
わが國の
労働組合は、終戰後、一部を除いては、きわめて順調な発達を遂げつつあることは、まことに
國家のため喜ぶべきであります。わが國が完全な独立
國家となり得るためには、労働大衆のなみなみならぬ努力をおいてはないのでありますが、現在の労働運動にさらに一歩を進めて、祖國の完全独立のための勤労倫理の確立を
考える必要があると思うが、米窪労働
大臣は、この点いかがお
考えになるか。
質問の第四として、
インフレ問題に関し、
大藏大臣に二点をお伺いいたします。
第一は、政府の非常なる努力にもかかわらず、また
大藏大臣しばしばの御声明にもかかわらず、通貨に何らかの手が打たれるのではないかという声が、ちまたに絶えずうごめいております。しかも、これはますます廣くな
つてくる。これはひとえに、
インフレの速度がきわめて急調をたど
つてきたところに一種の不安が生じているのであ
つて、抑えても抑えても当然起
つてくる、全
國民の不安の現れであると
考えます。政府は、
インフレーシヨン食い止めの目標を
一体どこに置かれるのであるか。か
つて戰時中、大本営はガダルカナルをも
つて天王山と言い、サイパンを天王山と言い、レーテ島を天王山と言い、遂に沖縄を天王山と言いました。
大藏大臣は、大本営の言うような天王山ではなしに、はつきりと、
インフレの食い止めの最終線をどこに引くかということを明らかにせられたい。タバコの値段は七十円を最後としてもう上げないとか、百円として上げないとか、二百円で上げないとか、はつきりとせられたいと思うのであります。
その次に、産業復興金融金庫の融資の問題でありまするが、た
だいまもいろいろと御説明がありましたけれども、復金設立当時の
事情と、今日におきましては、金融の内容がま
つたく姿をかえてきておるのであります。すなわち、現在の復興金融金庫の融資というものは、事業会社の赤字補填金となり、失業手当金と変
つておるのであ
つて、産業復興のためには実際に行われないのみならず、これが
インフレの大きな温床と化しておることは事実であります。金融の中央集権の行詰まりであ
つて、これは事業会社の内容を克明に調べ、その信用をよく知
つている地方銀行の活用を一日も速やかにしない限り、私は恐るべき
インフレの激化となると思うが、
大藏大臣はいかがお
考えになるか。(
拍手)
次に第五として、農林
大臣にお伺いをいたします。農林
大臣は、農産物の價格に逓増制をお用いになる氣持はないか。
総理大臣は、農業生産の一割増強を力説せられました。まことに当然のことであ
つて、現在の
食糧事情より見まして、もとよりわれわれの望むところでありますが、
演説だけでは一割は出てこないことは、
総理大臣もよく御存じのことと思う。現在の供出制度というものは、戰時中の軍閥の思想でありますところの徴発制度、この徴発するという思想から行われている、独善的な、官僚独善の、きわめて無能であ
つて、きわめて愚劣であ
つて、きわめて最惡の制度であります。鶏が卵産むと、三つ産めば三つ、五つ産めば五つ飼主は取上げていくのであります。現在の農民が必死にな
つてつく
つた米でも、麦でも、さつまいもでも、とればとるほど、とれた高に應じて、保有米を残して取上げていくのであ
つて、人間と鶏を間違えておる制度がこれである。
総理大臣は、農具や報償物資に責任をもつから、農民は供出に責任をも
つてもらいたい。お氣持はよくわかる。お氣持はよくわかるが、いやしくも一國の
総理大臣ともあろうものが、報償物資を出すから、お前たちは責任をも
つて供出をせよなんという、そんななさけない、たわけたことを
言つては困る。私は農村に多くの知合いをも
つておる。今日農村の連中は、自分らが眞檢にな
つて増産をしなければ、いつの日に独立ができるかという念に燃えておる。いかなる苦難も忍んで出すという念に燃えておるのである。報償物資をあてにしておるのではない。さようなことで、一割出るなんということは、も
つてのほかであると私は
考える。
そこで、現在の供出制度を
根本的に改めるお
考えは農林
大臣にないか。すなわち、收穫を見てから割当をするのではなしに、植付前に割当をして、農民の責任の限界をはつきりする。これだけつく
つてもらいたいということをはつきりする。しかして、そのつく
つた以上のものに対しては、誇りと滿足のできるように、價格に段階をつけようというのであります。わかりやすく申しますならば、かりに十石の米を供出する農民は、五割の五石に対しては、一石の値段をかりに千二百円とする。残りの三割に対しては、一石当りの値段を二千円とする。最後の二割、すなわち二石に対しては、一石当りの値段を二千五百円とする。割当以上出した者に対しては、一石三千五百円として買い上げる。ここに、農民がほんとうに喜び、滿足をするのであります。と
つただけずつとられたのでは、幾ら努力をしましても、安い値段で取上げられてしまいましのたでは、耕作を適当にしておいて、他の金もうけにはしる方がよほど利口者とな
つて、ここに
正直者がばかを見るのである。どうぞ農林
大臣は、この問題を眞劍にお
考えにな
つて、一割増産が完全にできるように、農民に喜びと誇りと滿足を與えるようにお
考えを願いたいと思う。
なおこの
機会に、さらに農林
大臣にお伺いいたしますが、御新任早々で、
実情はお詳しくないかもしれませんが、本年の甘藷類は、米や麦の代替には認めない。そうして、取締りはきわめて嚴重に行われている。その結果といたしまして、供出をした後のさつまいもが、全國の農家にまだそのままにな
つております。二貫目以上動かすと、すぐに縛られる。供出は完納しておる。ここ一月を誤るならば、全國数億貫に近いさつまいもが腐る。(
拍手)もし、これを腐らすようなことがあれば、全國の農民は、現内閣をのろうでありましよう。農林
大臣はいかがなさるか、はつきりと、この議場を通じて御声明を願いたいと思う。
第六には、水害防止の
根本策としての山林対策について、農相並びに建設院総裁にお伺いをいたします。この問題は、往々にして山林だけを
考えたり、あるいは治山治水の面だけを
考えておるために、非常な誤りが起
つております。最近、山林の細分化であるとか、あるいは山林の開放であるとか、あるいは
國家管理であるとか、いろいろな説が巷間に傳えられまして、山をも
つておる者は、非常に大急ぎで伐採をいたしております。また、数十年先に利益を見るところの植林に対しては、ほとんど熱意をも
つておりません。これは、この不安から起
つておるのでありまして、前議会におきましても、当分の間やる氣持はないという御
答弁であ
つたようでありますが、当分の間やる氣持はないというようなことでは、とうていこの伐採は食い止められません。やるなら、やるでよろしい。やらぬなら、やらぬでよろしい。もつと
根本的に安心をするような御声明をいたされない限り、本年度の降雨期を
考えますと、まことに戰慄するものがあるのであります。水害防止対策としての山林に対する御措置並びに御
意見をお伺いいたしたいのであります。(
拍手)
第七に、文部
大臣に
お尋ねをいたします。六・三制を完全に実施して、その効果をあげるために、國字國語の改良について、いかなるお
考えをも
つておるか。六・三制は、まことに合理的な、結構な制度でありますけれども、日本の現状においては、漢字というきわめて複雜なるものを、千も千五百も学ばなければならぬという現状においては、六・三制をせつ
かく実施いたしましても、外國に見るような、非常に
能率的な学術の進歩は、望めないと
考えるのであります。二十六のアルフアベツトを組み合わせて、僅々八百語で、雜誌も読めれば、新聞も読めるという外國に比べて、わが國においては、下級中学を卒業しましても、新聞やあるいは雜誌が滿足に読めないようなことでは、とうてい六・三制の成果は期し得られないと思います。もとより、漢字に非常な執着をも
つた大勢の人々がおる國でありますから、た
だいま、ただちにこれを全廃することは不可能でありましようけれども、六・三制の実施の完全な成果を得るために、少なくとも將來漢字を全廃するという線に沿
つていかれる御意思があるかどうか、この点、文部
大臣にお伺いをいたします。
第八に、
片山総理大臣は、資格審査委員会を
國会の監督下におくべきであると思うが、お
考えはいかがであるか。本來追放は、ポツダム宣言に言うところの、軍國主義の根絶というところから発して、極端なる
國家主義者及び軍國主義者は追放すべしという原則によるべきであ
つて、いやしくも、追放はきわきて嚴粛であり、公正でなければなりません。その間、
國民全般に一点の疑惑ももたすべき筋合のものではないのであります。われわれは、昨年の三月に、多少明朗でない追放の一端を前内閣の末期において見ておる。さらに、今度の平野農相の追放に
至つては、事の眞偽は私は存じませんが、おそらく、いかにひいきな人がいえども、この追放は当然であるとは
考えないであろうと思います。こういう
考えを
國民にもたすということ、そのことが、ポツダム宣言の精神を冒涜するものであり、祖國再建の障害であると
考える。(
拍手)今や
國会は、最高の
國家機関とな
つて、新憲法下において最も大切なる機関とな
つておるので、委員会を
國会の監督下におくべきがよいと思うが、
総理大臣はいかにお
考えになるか。
第九には、選挙法の改正について
お尋ねをいたします。
首相は、金のかからぬ選挙公営の徹底を期したいというお話であります。まことに結構であ
つて、政界の腐敗は、選挙費用の多寡によ
つて起ることが多いのでありますから、これは徹底的に金のかからぬ選挙の実施を切にお願いしたいと思いますが、新聞の一部に傳えるところによりますと、ついでに選挙区もお入れになるやに傳えられておるのであります。民主
政治というものは、選挙民、すなわち
國民と、その代表である議員とのつながりがあ
つて初めて民主
政治でありますが、昨年の選挙法改正に見たことく、結果はとに
かくとして、與党だけの喜ぶような選挙法の改正は、断じて愼まなければならぬ。いわんや、第一回は大選挙区、第二回は中選挙区、この次はまた選挙区をかえる。選挙のたびごとに選挙区をいろうがごときは、民主
政治を冒涜するものであ
つて、断じて愼むべきであると
考えるが、
総理大臣は、この点いかがにお
考えになるか。
最後に、新憲法より見たる議会の
解散と内閣の総辞職について、
首相のお
考えを伺います。言うまでもなく現内閣は、新憲法に基づく
國会の
総理大臣指名によ
つてできておる内閣でありまして、もとより、議会
解散の権限はも
つておりますけれども、一方において、議員の任期は四年と明らかにきめられております。現在のわが國の國情は、一方に
インフレの激化、一方に治安の混乱、実に大切な時期に遭遇しておるのであ
つて、やむを得ない時でない限り、
解散は愼むべきものであると私は
考える。
解散をやれ、
解散をやれというのは、戰爭をやれ、戰爭をやれと言
つた軍人と同じく、まことに勇ましくて結構でありますけれども、
國家の大局を
考えて、やむを得ざる限り
解散は避くべきであると私は
考える。今や、流通秩序の確立という
國民全体の非常な希望をも
つたこの
言葉も、あわれ、流通秩序の混乱と不通に終り、
経済緊急対策に失敗した政府が、長期建設計画を唱えられても、
國民の信頼を回復し、
國民の失望を希望にかえることは、すでに手遅れとな
つておるのであります。(
拍手)現内閣は、三派の連立によりできたものでありますが、現在、そのうちの二派の
社会・民主の両党が、一部分裂を見ておること、さらに先日の
社会党大会において、四党協定が破棄せられたということは、いくら
首相が弁明せられても、現内閣がすでに
國民の信を失
つておるという点において明らかである。(
拍手)時局はまさに重大である。天下に信を失
つた内閣は、速やかに退陣すべきだと思うが、
首相のお
考えはいかがであるか。
以上十点についてお伺いをいたします。
〔
國務大臣片山哲君
登壇〕