○森戸國務大臣 御承知のように、わが國が新しい國家として民主的な、平和的な國家を目ざしていることは、すでに法制の上でも、また実際の
國民の心構えの上からも明らかであります。かような
立場から私
どもは一日も早く
國際連合の一員となる時の來るのを待
つているのでありますが、かような事態に至りまする準備
段階といたしまして、私
どもは、
日本の國が眞実に平和的な、民主的なものとなるように
努力いたしているのであります。かような
努力の
一つが、私は
國際連合の
教育、科学、
文化機構である
ユネスコに対する私
どもの準備
態勢を整えることであると存じているのであります。
ユネスコにつきましては、当
委員会におきましてもすでに御
説明いたしましたし、
委員の皆さんも十分御存じのことと思うのでありまして、私
どもは
國際連合の一員となることを許される前にも、
ユネスコの
機構の中に
参加を許される時が來るのではないかということを、ひそかに待ち望んでお
つたのであります。先ごろの
電報につきましては、やや誤傳があつたようでありますけれ
ども、私
どもは
國際連合の一員として一日も早く認められることを心から望んでおるとともに、それに至らない前にだも
ユネスコに
参加することができるということが、実は望みのないことではないと考えておりまするし、
ユネスコに
参加しておる國々においても、
日本とか
ドイツとかの
参加を
希望しておるような傾向もありまするし、
國民といたしましても、これに対して非常な
希望と
熱意とをも
つておりますることは、昨年
東京で開かれました全國
ユネスコ準備大会における
決議においても明らかなことでありまして、その後諸
地方におきまして、仙台、
東京、名古屋、京都、大阪、三重、神戸、和歌山等における
ユネスコ協力の準備会が開かれておるていうことも、
國民一般がそのような方向に強い関心をも
つておることを示すものであります。なお
日本の
教育、
文化についての強い関心をも
つており、これらの再建の方向についての審議をいたしまする
教育刷新
委員会におきましても、最近この問題を取上げまして、
平和日本建設のためには、
教育、科学及び
文化を通じて、
世界平和を國際的に推進しようとする
ユネスコの
精神が廣く
國民大衆の中に浸透することが必要であ
つて、このためには
國民が十分に
ユネスコの目的と事業とを理解し、これを支持することが
要請される。われらはわが國が一日も早く
ユネスコに
参加することを認められるように
希望するものであるが、同時にわが國の現状を考え、左の点について政府が有効適切なる措置をとられるよう要求する。
一、
國民が
ユネスコについて深い理解と関心とをもつよう諸種の積極的啓蒙
運動を行う。
二、
教育、科学及び
文化的事項に
関係のある主要團体を
ユネスコの事業に
参加させ、廣い
國民的な基礎の上の立
つて運動を展開するために、これら團体の代表者を主体とし、政府代表者及び一般
個人を加えて、國内における
ユネスコ運動の民主的な中央
協力機構を組織すること。こういう
決議をいたされまして、総理に答申をいたしておるのであります。
かようにして私
どもは、
日本が平和的な國家として備えるための
一つの大きな準備どいたしまして、
日本の
國民の間に
ユネスコの
精神が普及するように、そうしてその上に
日本の
平和國家としての
態勢が整えられるようにということに強い関心をも
つておるのであります。民主的な國といたしましては、この
運動が
國民の間から、民衆の間から起ることが最も期待されることでありまして、この点におきまして諸
地方における
協力会が順次組織され、その
運動を展開されておることは、まことに喜ばしいことと存じておるのであります。これとともに政府におきましても、殊に私
ども文教の面を担当いたしておりまする者は、この点に強い関心をも
つておるのでございます。もちろん
ユネスコは渉外的の
関係もありますので、こちらの方面におきましては、当然
外務省の
関係の方々において、十分御盡力を願いつつあるのでありますけれ
ども、他面
ユネスコの
精神の普及と
運動の展開ということにつきましては、私
ども文教の府といたしまして強い関心をも
つておるのでありまして、
ユネスコのことが
日本に傳わりますや、この問題に対する
研究、調査を進めておるのでありますし、また最近
日本の
ユネスコ参加ということが、
國際連合に加盟を認められる以前に可能であるのではないかという強い
希望のもとに、國内
態勢を整えることにつきましても、実はそういう方向への準備もいたしておる次第であります。御承知のように、
ユネスコは
國際連合の外廓團体でありますが、加盟國におきましては、國内に
ユネスコの
國内委員会がもたれておるところが多いのであります。こういうやうな見透しのもとに、私
どもは
日本に中央の
ユネスコ協力準備会というようなものをもちたい、そうしてこれは政府、
民間一体とな
つて、廣く
國民的基礎に立
つてユネスコの
運動の展開をはかりたいというふうに考えておるのであります。これにつきましてはまだ具体的な形で御発表いたす
段階には参
つておりませんけれ
ども、大体アメリカの例等も参酌いたしまして、五、六十名ぐらいの準備
委員を選び、一部分は各種の
教育、科学、
文化團体の代表者から、他の部分は政府の代表者、他の
文部は一般
個人というような形で委嘱するというような方向で進みまして、そうして各界、各層の積極的な
協力を結集して國内に
ユネスコ運動を推進いたし、わが國が
ユネスコに加盟するにふさわしい準備を整えていきたい、こういうふうに考えておる次第であります。私
どもはこういう組織が一日も早く整備されますように最善の
努力をいたしますとともに、かような政府としての組織と並んで、
民間における
ユネスコ運動が力強く展開されることを強く
希望いたしておる次第であります。これが
ユネスコについての一般的の考えでありますが、次に
文部省の改組の問題について申し上げます。
御承知のように、新しい
日本の再建、殊に
日本が
文化國家を目ざしておるという状況におきまして、
文化といいますか、廣い意味の文教の
政治ということが特殊の
重要性をも
つておることは、当然のことであります。一部の間に
文部省というものは必要がなくなるのではないかというふうな考えが誤傳されておるのでありますが、これほど大きな間違い、
時代感覚のない誤傳はないと私は思
つておるのであります。むしろ文教の整備というものは、
文化國家を目ざす以上はきわめて大事であり、そうしてかような
政治を担当するところの政府の機関というものが
重要性をもたなければならぬという点こそが、強く理解されなければならぬと私は思いますし、また
機構の改革におきましても、かような考えが基本とるなべきと存じておるのであります。ただ問題となりますのは、
教育の民主化ということが
教育刷新の
一つの方向としてとられておりまして、本
國会には
地方教育委員会法が提出いたされることになり、皆さんの御審議を仰ぐことになると存じておりますが、これによりまして
教育の
地方分権ということが強力に実行されることになるのであります。
從つて從來
文部省が
教育の面においても
つておりました仕事が
地方に委讓せられるということになりますので、そのことがいろいろ誤傳を生んだことと思います。確かに
教育が他方分権化いたしますれば、中央の仕事はあげて相当の量において
地方に委讓せられて、それだけ
文部省における
教育の面における仕事は減るのでありますが、さしあたりのところとしては、実は
地方に完全に行かず、また中央の仕事は残り、場合によると、中央の仕事と
地方へ委讓するための仕事とが、たとえば六 三制の問的、教科書の問題というのは、教科書は國定教科書も編纂をしなければならず、同時に
將來檢定の方向に進みますので、檢定もや
つていかなければならぬというので、二重の仕事ができるという場面等がありますし、
地方に
教育が行きましても、
地方の
教育がある程度統一されますためには基準が定められなければならず、そういう基準を定め、なお
教育制度に対する内外の事態の
研究調査というものは、さらにもつと力強く発展されなければならぬというような面で、
地方に
教育が委讓いたされましても、中央の仕事というものはすぐに
簡單になるのではなく、ある期間においては、かえ
つて過重になるということもあります。かようなわけで、
地方の委讓ということは大きな方向から言いますと、
文部省における
教育の仕事のある程度の負担が軽くなり、それに伴う
教育のも
つておるところの重みが減るということは、私は大きな方向としては動かすべからざるものであると思う。ただ從來
文部省は
教育省というように考えられてお
つたのでありますが、
文部ということは、必ずしも
教育ということだけではないと思うのであります。むしろ翻訳すれば、ミニストリー・オブ・カルチユア・アフエヤーズ、ミニストリー・オブ・エジユケーシヨンと訳されて、
教育省と訳されている。
教育省で
教育の仕事が減るのだから、
文部省、
教育省はなくなりはせぬが、非常に小さくなるというように考えられておつたこともあ
つたのではないかと思います。
しかし実は
教育の
地方委讓という面もありますが、同時に
文部省のも
つておりますいわゆる文教の面では、二つの面がもつと強く強調される
時代に向
つております。
一つは学術の面であります。先ほど
ユネスコのことを申しましたが、
ユネスコは
教育、科学及び
文化機関ということにな
つているのでありまして、
教育が
一つ、それに続くものは科学であります。
日本の今日の現状において、殊に
文化國家を目ざすわが國におきましては、科学の発展、また廣い意味での学術の発展というものが非常に力点をおかれなければならぬのであります。この意味におきまして、新しい文教の行政につきましては、從來
文部省におきましては、科学
教育ということで取扱われておつた科学の面が、学術として、科学として取上げられて、科学の発展、殊に基礎科学の発展を助長していく面に力が入れられなければならぬと考えているのであります。この面において文教の整備というものは新しい力点を加えていかなければならぬと存じております。
もう
一つの面は
文化の面であります。先ほど申しましたように、
ユネスコが
教育と科学、それから
文化という三つの面とな
つているのでありますが、
文部省の組織におきましては、これは社会
教育局というものの中に藝術課、
文化課というものが課として存在してお
つて、
文化そのものがそれ自身として
重要性を認められる点が弱か
つたのであります。新しい
日本の再建におきましては、
文化というものはただ社会
教育としての面のみならず、
文化自身として重点がおかれなければならぬのであります。これは
日本古來の傳統的な
文化を保存、育成いたすとともに、
世界の
文化をわが國に輸入いたしまして、
日本の新しい
文化國家としての姿をつく
つていくのには、この面もまたきわめて大事な面であります。
從つて教育は從來の形から新しい刷新された形において維持されるとともに、他面においては学術あるいは科学というもの、また他面においては
文化というものが三つの大きな線として、文教行政の中軸をなすものと考えられるのであります。
なおこの
中心的な任務とともに、この任務を果していくのには、調査、
研究というものによ
つて基礎づけられなければならませんので、從來ややともすれば、これらのものは学問的な調査と
研究の基礎もなしに、十分な基礎づけなしに行われたものもありまして、殊に統計的の上においては必ずしも十分はと言えません。内外の事情の調査、統計的の調査、さらにもつは深い問題の
研究をも含めた基礎の上に、これらが打建てられなければならぬのであります。そういう面をも
つておると同時に、他面では、特に今日の事態におきましては、物的の基礎、つまり施設的な基礎が與えられていないということが、これらのものの発展を妨げております。学校で申しますれば、建築の問題等、かような問題に対する特別な施設のための施設局というものも置き、かようなものを加えながら、先ほど申しました
教育と学術と
文化というものの均衡を保
つていこくとろの組織とならなければならぬと私
どもは考えておるのであります。
文部省の組織が改められますならば、こういう方向に副うて行わめべきものであると存じております。
名称についてもいろいろ問題があるのであります。たとえば
日本の
文部省という名前は、英語では
教育省と訳されております。必ずしもそう狹い意味ではないと思われますけれ
ども、しかしやや從來の傳統的な
一つの臭みもありますので、この際名前をかえることも、一新する
一つの方途ではないかという考えもあります。これについてはいろいろな考え方があるのであります。たとえば刷新
委員会では、学藝省というようなものにするとか、あるいは文教省というような名前をあげているのもあります。これらの点では、もちろん皆さん方の御
意見を十分参酌しながら、いい名がつけられることを私
どもは
希望いたしておるのでありますが、これはむしろ二次的の問題でありまして、
中心は今申しましいような
教育と学術と
文化の三つが均等な形で取扱われ、これらの発展を期することによ
つて、
文化國家への方途が確立されてくる。また國際的な問題とな
つておる平和の基礎である
ユネスコの三つの線とも沿いますので、かような形において新しい文教行政の組織ができることを私
どもはめざしておる次第でございます。