○田口
委員 私の民主自由党を代表しまして、
競馬法案に対して反対の意を表明したします。その理由といたしますところは、競馬ほ、一種の賭博行為であ
つて種々なる弊害を伴うものでありますことは、私が今さら申し上げるまでもないことであります、しかも刑法が賭博行為を処罰している本質的理由は、経済秩序の基礎にな
つているまじめな労働によ
つて財産を取得するという社会道徳的原則に反する行為であるからであります。すなわちいわゆる遊人や遊惰な人間の発生を防止し、働かざる者は食うべからずという社会道徳的原則を維持せんとするがためにあるのであります。
從つて競馬の開催を認める場合におきましても、その社会的一般原則に從うことのでき得ないより高次の社会目的がなければならないのであります。現在のように著しく道義が頽廃し、かつ勤労意欲が低下しておるわが國におきましては、一層高次の目的のある場合においてのみ競馬は許さるべきであり、また競馬を認める場合におきましても競馬に伴う弊害を最小限度に止めなければならないことは当然であります。しかるにこの法案に盛られている内容を檢討いたしまするに、これらの根本的考え方に対して何らの考慮を拂われていないという点であります。私たちをして言わしめますならば、社会道徳的一般原則に從うことのでき得ないより高次の競馬の目的は畜産振興、特に馬の改良増殖にあるのであります。また國民に健全なる娯樂を與えることであり、また國家公共團体の財源を取得する三点にあると思うのであります。しかるにこの法案によ
つては決して畜産の振興にもならなければ、また健全なる娯樂にも寄與はできないのであります。例を申しますならば、競馬の施行
方法によりましてあるいは馬産を阻害し、あるいは馬産を振興するに重要な役割を演ずることは
從來の経験に徴して明らかであります。現在
日本の必要とする馬は産業用馬特に農耕馬、輓馬であります。それをつくることこそわれわれ國民に與えられたる最も必要なることであります。競馬に走る馬は、この産業用馬をつくるためにはわずかにサラブレツトにおいてほ三頭くらいあればよいのであります。しかるに競馬が開催されることによ
つて不必要な馬が非常に氾濫し、生産者は一獲千金を夢みて産業用馬に生産に從事せずに、この不必要な競馬の馬を盛んにつくる傾向があり、また競馬にも走らず、一獲千金は夢と消えて、この馬が産業用馬にもならず、困つた馬が農村にもあるいは都会にも反乱する結果を生じ、國家的大不利益をもたらすものと私は思います。
また多数の馬産及び畜産の振興に弊害がありましても、資金の面において寄與する点があればまた是認してもよいのでありますが、今回の競馬法によりますと競馬の伴
つて生じた利益金は畜産に利用せずに一般会計に送られます。これからの
日本は有畜農業を主体といた科学的立体的農業経営にならなければならない。特に遅れている畜産をもつと振興させなければならないのであ
つて、その資金のために競馬を開催するのならば是認できるのでありますが、一般会計に振り向けるという本法案によ
つては決して畜産の振興にはならない。
從つて最も重要なるベき競馬の目的に沿うものではなく、かえ
つて破壊している点があるのであります。また健全なる娯楽という面からみて、本法案が正しく健全なる娯楽になるかどうかということになりますと、ただ單に主催團体が國家または道府縣に変つたというだけでは、決して健全なる娯楽にならないのであります。
從來におきましても健全なる娯楽とするためには、一般國民に著しく射倖心をそそらず、勤労意欲を低下せしめないような諸種の考慮を拂
つてつくられてお
つてのでありますが、本法案においては、これらの
從來のよき制度ほ全部取除かれておりまして、いたずらに射倖心をそそるのみであると考えておるのであります。例をあげてみますならば勝馬投票権の販賣枚数の制限もなければ、あるいは拂戻金の制限もないのであります。
從つて射倖心はいやが上にも起るのであります。また今度の改正法案によりますと、
政府の配当金は非常に高率にな
つております。
從つてのみ屋が発生することは当然考えられなければなりません、國家が、あるいは
地方公共團体が三割近くの金を天引いたしますならば、当然のみ屋は起るのであります。
從つて馬場及び馬外においてのみ屋が必ず跋扈して、收拾することのできないことになるおそれが十二分にあるのであります。また
從來競馬を不明朗、不健全にしたものは、決して主催者團体が悪いのではなくして、それを取巻く人々、あるいはのみ屋とか、ギヤングとか、あるいはボス的存在のあつたことが大きな原因であ
つたのであります。これが國営にな
つても決して施行の人も変らなければ、その他の問題を抑止することも全然できないであろうと思います。從いまして競馬の根本的目的、すなわち競馬ほ賭博行為であるけれ
ども、より社会的に重要なる目的があるために、例外的に許すという本質も全然認めていない法案でありまして、その本質からも反対せざるを得ないのであります。
次に反対すべき理由は國営または都道府縣営にしたことであります。世界のうちで國営で競馬を営んでおるものはソビエツト・ロシヤ
一つであります。他の小さな國でも國営で競馬を営んでおるものはないのであります。何がゆえにソ連以外の國が國営で競馬を行わないかと言いますと、競馬は賭博である、
從つてその胴元たるべきような行為をすることは、國家あるいは
地方公共團体の恥辱であると考える精精面もあるでありましよう。またそのほかに監督者と開催者とが同一であるということは、公明なる、健全なる競馬が実施できないということであります。すなわち競馬は諸種の弊害を伴うのでありまして、嚴重なる監督を必要とする。ところが國営でやりますならば、監督すべきものはなくなるのであります。
從つて道義頽廃し、國民に官僚の信用がなく
なつた現在において、何ら監督の制度もなしに行うことは、弊害があ
つて利益がない。國営にすれば、あるいは都道府縣営になれば、公明なる、公正なる競馬ができるように考えるのは、素人の考えであると私は思います。從いまして私は國営にいたしましても決して公明、公正なる競馬にはならずして、かえ
つて不公明、不公正なる競馬が起ることを信ずるものであります。私はこの点からも反対するものであります。
最後に本法案に反対する理由といたしまして、競馬から收益が上る、非常にもうかると考えておる点であります。すなわち
政府の予算においては十五億の利益を見積
つております。
地方競馬については二億円の競馬の收益金を見積
つております。公認競馬については、あるいはこの予定
通りはいるかもわかりません。しかし相当の疑問があります。のみ屋が相当跋扈して、
政府の窓口から買わずに、のみ屋から買うというようなことを十二分に考えなければなりません。この点は
政府の予算にまず一歩譲るといたしまして、
地方競馬においてはわずかに二億円であります。しかも現在五十四の
地方競馬場があるのでありますが、利益を上げておる競馬場は、昔の安いコストでできた設備を使
つて、なおかつ十箇所程度であります。その他六箇所がやつとプラメ、マイナス、ゼロというところ、その他は大部分赤字であります。普通の人は、戰災都市につくつたならばもうかるであろうと思うが、それは素人考えであります。馬を一頭飼うためには、現在において大体月に一万三千円かか
つておるのであります。
物價改訂に伴いまして、競馬馬一頭飼うのには、馬主協会では、一万九千五百円かかるとい
つておるのであります。かくのごとき非常なる費用のかかる馬をもち、また何千万円の設備をしなければならない競馬場をつくりまして、どうして收益が上るでありましようか。これは
地方公共團体の利益というよりも、一部のボスの利益に墮してしまう場合が、
從來も非常に多かつたし、これからそういう危険性を十二分に考えておかなければならないと私は思います。
これらの点を考えまして、本
競馬法案は非常に不備であり、また非常に杜撰である、かかる法案はよろしく撤回されて、もう一遍ねり直す必要があると考えるのであります。特に競馬の空白時代をつくらないようにということを、
政府その他の人で考えている向きもありますが、大体公認競馬におきましては年に二回、
地方競馬においては四回であります。春競馬は大体済みでおりますから、
あとに残るものは公認競馬の一回であり、
地方競馬の二回であります。
從つて次の臨時議会に出しましても、決して一年間を通じて空白状態をつくるということはあり得ないと考えます。從いましてこの際
政府は撤回して、もつとよりよき、弊害のない、しかも馬事振興、畜産振興になる、健全な娯樂に資するような制度に改たむべきであると考えます。われわれはこれをただちに修正したいと思
つてお
つたのでありますが、本法案の
提出されたのは一昨日の午後であり、わずか二日半ではとうてい根本的修正の暇がないので、この法案に対してはまず反対の意を表明するものであります。