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木内政府委員 お答えいたします。
起訴状だけてまず公判へ
起訴をするわけでありますが、先ほ
ども仰せられましたように、これは
裁判所に対して
事件に予断を抱かせないとい
うためでありまするか、しかしながら
起訴状一本だけで
裁判所に審理をしてくれということであれば、これははなはだ無理な注文だと思うのであります。それがために二百九十七條によりまして、まず証拠調べの範囲、順序、
方法等をきめることにな
つております。その前に申し落しましたが、二百九十四條で檢事が
起訴状を朗読したあとで、
檢察官の冒頭陳述と申しますか、
檢察官の方では、この
事件についてかような証人、かような
証拠物があるということを、まず述べることにな
つているのであります。しかしながら、どういう証人はこういうことを言
つているとか、あるいはこの証拠書類にはこういうことが書いてあ
つて、本件は
事件が明瞭だというようなことまで述べることが許されないのであります。
起訴状だけを公判にも
つていくという建前に反しまして、
裁判所に対しまして、
一つの
意見を出して予断を抱かせるということになる。しかしながら、ただ
起訴状一本では困るので、こういうふうな
事件について何々という証人がある、何という証拠書類があるという、いわゆる
名前あるいは題名だけを述べて、
裁判所の審理の
資料にするわけであります。そして二百九十七條によりまして、そけぞれ
檢察官あるいは
被告人弁護士の
意見を聽いた、それではどういう範囲で証拠調べをやり、どういう順序
方法で証拠調べをや
つているかということを、まずきめることにな
つて、そして審理を進めていくわけでありますから、
裁判所がかりに尋問をされる場合には、捜査記録がなくても困るようなことはないという建前にな
つているわけであります。それから捜査記録は、檢事の手もとにあ
つて、
被告人、弁護人側の方にこれを知ることができないのは、どういうものかという御
趣旨の御質問のように思いましたが、公判廷へ証拠を出すには、非常な制限がありまして、
檢察官の聽取書は、從來のごとく全部法廷へ提出することはできないのであります。
從つて檢事の手もとに、どういう聽取書なり、あるいは
証拠物があるかということを、全部
被告人側が知る必要もないわけであります。檢事の手もとには調べたものが全部ある。弁護人の方は
被告人に聽けばわかるが、しかし空手で法廷へ臨むのでは、非常に公平の
原則に反するのではないかという御質問の点につきましては、当事者訴訟主義は、
原則として公判以後の問題であります。捜査につきましては、檢事の方はさような
事件については、何ら白紙で知られないわけでありますそれを言葉は悪いかもしれないが、暗中模索をや
つて、檢事はいろいろ
資料を集めるわけであります。ところが弁護人の方、
被告人の方は、その被疑事実については、自方が一番よく知
つておることでありまして、この問題については、だれに聽いてもらえばどういうことがわかるというようなこと、またどういう書面を見てもらえば、こういう点が明らかになるというようなことは、一番
被告人が知
つておることでありまして、弁護人の方は、
被告人によ
つて十分の調査ができるわけであります。なお捜査はやはり
原則として密行すべきものであります。これは要するに公共の
福祉、
被告人保護主義とこの問題をいかように調和していくかということの問題にかか
つておるわけであります。なお捜査は敏速にやらなければならぬ。さような点も
十分考慮の中に入れなければならぬので
檢察官の捜査につきまして、できた
資料を弁護人が全部調べる必要も起きてこないのじやないか。檢事の方で証拠を公判に提出する場合におきましては、これは訴訟法の
改正案の規定にも明瞭に規定しておりますが、一應
被告人なり弁護人に、その提出すべき
証拠物を見せるなり、あるいは証人の申請をする場合においては、証人の氏名、住所その他のものを弁護人に知られなければならぬというわけでありまして、法廷へ出る前に、弁護人の方が十分知り得る機会を與えておるわけでありますから、決して捜査記録を弁護人の方において全部見なければならないという必要もないと考えるのであります。