○兼子
政府委員 ただいま議題となりました
判事補の職権の
特例等に関する
法律案の
提案理由を申し上げます。
新
憲法の施行によりまして、わが司法
制度に画期的な改革が行われ、司法の職責のきわめて重大となりましたことは、いまさら申し上げるまでもないところでありまして、
政府といたしましても、この重責を担う
裁判所の機構の整備充実に、でき得る限りの力をいたしてまい
つたのであります。しかしながら、終戰後のこの深刻多難な社会情勢のもとにおきましては、
裁判所の機構の整備は、容易ならぬことでありまして、
裁判所の廳舎、その他諸種の物的設備が十分に整わないことはもとより、人員の整備充実の点につきましても、困難を感じているのでありまして、本年三月末日現在の
裁判官の欠員は三百六名に達し、特に判事の欠員は百八十二名の多きに達しているのであります。この
裁判官不足の原因については、いろいろ
考えられるのでありますが、そのおもなるものとしては、
裁判官の待遇が、必ずしも十分でなか
つたことと、その負担があまりに過重であることがあげられるのでありまして、このため
裁判官の献身的な努力にもかかわらず、未済
事件は増加の一途をたどり、現状のままに推移するときは、司法の
運営に重大なる支障を來すおそれなしとしないのであります。このような事態に処する対策としては、
裁判官の待遇を改善して、廣く有為の人材を吸收して欠員の補充をはかることと、
裁判官を増員してその負担を軽くすることであります。
裁判官の待遇につきましては、さきに
提案して
法律案によりまして、相当の改善をみることにな
つたのでありますが、これとて決して十分のものでなく、これのみでは今日ただちに
裁判官不足の悩みを解消することは困難と存じますので、当面の措置といたしましては、現在活用し得る人材を、最も有効に活用いたしたく、その方策としては次の二つのことが
考えられるのであります。第一は、
判事補の活用であります。
裁判所法によりまして、判事の地位は著しく高められ、判事に任命せられるには、司法修習生の修習を終え、考試に合格した後、
裁判官、檢察官または弁護士等として十年以上の
経驗を積まねばならず、それまでは、
判事補または簡易
裁判所判事としてのみ、
裁判官の職務を行ひ得るにすぎないのでありまして、
判事補としては、原則としては一人で
裁判をしたり、同時に二人以上
会議体に加わり、または
裁判長となることができないというような、職権の制限を受けておるのでありますが、
判事補の中には
実質上判事たるにふさわしい十分な力量と
経驗とを有しながら、形式上の資格要件を欠くために、判事たり得ないものが少くなく、今日の情況にありましては、これらの人々を十分に活用してしかるべきことと存ずるのでありまして、
判事補のうち、
裁判官、檢察官またた弁護士としての
経驗年数が五年以上にもなり、最高
裁判所が、判事としての職務を行わしめるに適するものと認めた者には、判事として職務を行わせるようにすることが、この際きわめて適切であり、かつ必要であると信ずるのであります。
次に第二の方策としては、
裁判所法に
規定せられておりまする
裁判官の任命資格に関する
経過規定の
改正でありまして、現在これに関する
規定としては、
裁判所法施行令の第八條ないし第十條及び第一回
國会を通過成立した
裁判所法の一部を
改正する
法律(昭和二十三年
法律第一号)の附則第二項ないし第四項等がありまして、
裁判所構成法による判事もしくは檢事の在職、これらの職につく資格を有する者等の朝鮮、台湾、関東州、南洋廳及び満州國における
裁判官の在職、これらの外地もしくは満州國における檢察官の在職または行政
裁判所評定官、司法
研究所指導官、司法書記官等の在職の年数は、これを
裁判所法による判事、
判事補、檢察官、司法研修所教官または法務府事務官——現在の法務廳は、別に
法案を提出して法務府と改称いたしたいと思いますが——等の在職の年数とみなすこと等が定められておりますが、この際これらの
規定をさらに拡張して、内地、朝鮮、台湾、満州國または蒙古等で
実質上右に述べた諸官職と同樣な
法律的の事務を取扱う職にあ
つた者についても、一定の
條件のもとに、その在職年数をこれに算入することとし、なお、朝鮮、台湾及び関東州の弁護士の在職年数をも、弁護士法による弁護士の在職年数とみなすこととして、
実質上十分なる知識と
経驗とを有しながら、形式上の資格要件を欠くために、判事簡易
裁判所判事、または
判事補等となり得なか
つた者に、それぞれその資格を與えて、これを十分に活用することが必要であり、かつ適当であると存ずるのであります。
この
法律案は、以上申しましたよな趣旨で立案提出いたしたのでありまして、第一條は、
判事補で
裁判所法第四十二條第一項各号に掲げる
判事補、簡易
裁判所判事、檢察官または弁護士等の職の一または二以上にあ
つて、その年数を通算して五年以上になる者のうち、最高
裁判所の指名する者は、当分の間、
判事補としての職権の制限を受けないものとし、またその属する地方
裁判所の判所官
会議の構成員となり、管内の簡易
裁判官の職務を行う権限を有することを定め、第二條は、
裁判所構成法による判事または檢事たる資格を有する者が、同條に掲げる内地、朝鮮、台湾、満州國及び蒙古連合自治
政府等における各種の職にあ
つたときは、その在職年数は、
裁判官の任命資格に関する
裁判所法第四十一條、第四十二條及び第四十四條の
規定の
適用については、これを判事、
判事補、檢察官、法務府事務官または法務府教官の在職年数とみなすこととし、第三條は、弁護士たる資格を有する者が、朝鮮、台湾、関東州等の外地弁護士の職にあ
つたときは、
裁判所法第四十一條ないし第四十四條の
規定の
適用については、その在職の年数は、これを弁護士の在職の年数とみなし、外地弁護士の在職年数、もしくは外地弁護士及び弁護士令による弁護士試補として実務修習を終え考試を経たものは司法修習生の修習を終えたものとみなされることを定め、さらに附則では、この
法律の施行に必要な
規定を設けたのでありまして、その第四條は、この
法律の施行期日を定め、第五條は、第一條に定める
判事補の
裁判官、檢察官または弁護士等としての
経驗年数の計算についての
経過規定を定めたものでありまして、
〔
委員長退席、猪俣
委員長代理着席〕
その内容は一應前に申しました
裁判官の任命資格に関する
経過規定になら
つたのであります。また第六條は、さきに述べた
裁判所法の一部を
改正する
法律の附則第二項ないし第四項が、この
法案の成立によ
つて、その存在
理由を失うことになりますので、これを削除することを定めたものであります。
以上この
法案について概略の御説明を申し上げましたが、なお詳細につきましては、御
質問に應じてお答えいたしたいと存じます。何とぞ愼重御
審議の上、御可決あらんことをお願いいたします。