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1948-05-27 第2回国会 衆議院 司法委員会 第21号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年五月二十七日(木曜日)     午前十一時二分開議  出席委員    委員長 井伊 誠一君    理事 鍛冶 良作君 理事 石川金次郎君       岡井藤志郎君    大村 清一君       佐瀬 昌三君    花村 四郎君       松木  宏君    明禮輝三郎君       池谷 信一君    石井 繁丸君       猪俣 浩三君    榊原 千代君       中村 俊夫君    中村 又一君       大島 多藏君    北浦圭太郎君  出席國務大臣         國 務 大 臣 鈴木 義男君  出席政府委員         法務政務次官  松永 義雄君  委員外出席者         參議院司法委員         長       伊藤  修君         參議院專門調査         員       泉  芳政君         專門調査員   村  教三君         專門調査員   小木 貞一君     ————————————— 五月二十六日  刑事訴訟法を改正する法律案内閣提出)(第  六九号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  裁判官報酬等に関する法律案内閣提出)(  第五一号)  檢察官俸給等に関する法律案内閣提出)(  第五二号)  人身保護法案参議院送付)(予第四号)     —————————————
  2. 井伊誠一

    井伊委員長 会議を開きます。人身保護法案を議題といたします。  本案については一應提案の説明を承つておりますが、その後参議院において改正を見たということでありますので、この点の説明を兼ね、さらに敷衍して内容説明を伺うことにいたします。
  3. 伊藤修

    伊藤参議院司法委員長 さきに提案理由として御説明申し上げておいたつもりでありますが、本日は一般に関しまして少し敷衍しておきたいと思います。  人身保護法は、憲法の保障する基本的人権の中の最も重要な、身体の自由の保護を表現するために、身体の自由を不法に奪われ、または制限された者に対して、刑事訴訟法普通手続をまたないで、人身保護命令をもつて、より実効的に、より簡便に、より迅速に、これを救済する目的をもつて、何人にも容易に利用し得る手続方法規定したものであります。これを端的に言えば、身体の自由に対する不法拘束のあつた場合の急場を救うために、裁判所に「かけこみ訴え」をする非常手続規定したものであります。  それゆえ身体自由拘束に対する刑事訴訟法救済手続(たとえば勾留に対する上訴)が、事実上効果を收め得ないと思われる場合、または急速に間に合わない場合に、本法手続が用いられるのであつて刑事訴訟法普通手続に対する非常例外的措置であります。從つて合法的に行われた刑事訴訟上の逮捕勾留その他の手続を否定したり、これを妨げるべきものでないのであります。  次に、本法手続刑事訴訟手続とは、その適用範囲を異にする部面があります。すなわち刑事訴訟法は、犯罪あることを前提として行われる刑事事件に関する手続でありますが、本法は必ずしも刑事事件のみに関するものではないのであります。犯罪には関係なく、また犯罪があるとしても、それが刑事事件として、取上げられる前に、たとえば從前の行政檢束のような行政取締処分によつて不法身体自由拘束があれば、これを排除して、被拘束者救済することをも、その目的としているのであります。  また本法公権力によつて身体の自由が侵害された場合に限らず、私力すなわち個人または團体の力によつて身体の自由が侵害された場合、たとえば法律上の正当な手続によらないで、精神病院または私宅監置室に監置したり、未成年者をその監護権のない者が懲戒場に入れたり、坑夫監獄部屋に入れて労役に服させたり、その他政爭関係選挙関係労働爭議等関係から、反対側の要人を抑留したり、軟禁したりする場合等にも、その不法自由侵害現実に排除して、被害者救済するために、本法が適用されるのであります。  また刑事訴訟法は、警察官または檢察官の手で犯罪の捜査をなし、檢察官公訴提起によつて手続が進行されるのであるが、本法手続は、身体の自由を侵害された者、またはその親族友人、その他関係者等、だれでもが、裁判所に対して、不法自由拘束を排除してその救済を求めるものであるから、私人の訴えによつて手続が進行するのであります。すなわち私人訴追であつて、公の訴追によつて行われるものではないのであります。  以上御説明申し上げた通り本法による身体の自由の保護救済手続は、その本質において、刑事訴訟とは異なるのであつて本法は、民法上の私権たる身体自由——民法七百十條に対する侵害を、現実に排除することを目的として、私権保護請求を行使する手続と見るべきであります。すなわち民法第七百十條は、身体の自由が侵害された事後において、その損害賠償請求規定しているが、本法身体の自由に対する現実侵害を排除して、被害者救済する途を與えたものであるから、私権保護請求について、新しい途を開いたものと信ずるのであります。そしてこの私権保護請求は、被害者または関係者が原告の立場に立つて裁判所に訴え、侵害者たる拘束が被告の立場に立つて答弁して、裁判所が取調べの上、不法自由侵害が行われているか否かを判断するのであるから、米國のある州では特殊の民事訴訟の性格を有するものとしているのであります。  本法は、英國法制において「ヘイビアス・コオパス」の手続、すなわち「身柄を差出す手続」として、一六七九年に発布された人身保護律にならつたものであります。すなわちこの法律人身不法に拘禁した者に対して、被拘束者身柄をただちに裁判所提出し、かつ拘禁の理由を明瞭にせよという命令、いわゆる人身保護令状手続を定めたもので、人権尊重保護を主眼とする民主主義憲法の裏書をなすものであります。  この人身保護令状手続は、アメリカ独立戰爭当時にすでに確立された制度となつていて、一七八七年九月制定のアメリカ合衆國憲法においても「身体自由保護令状特権」として認められているのであります。  それゆえに、この人身保護令状に関する法制は、英米法系の國に固有ののであつて大陸法には存在しない制度であります。  日本國憲法は、民主主義憲法として、基本的人権尊重保護をその中核とするものであつて、殊に人の身体の自由を保護することをきわめて重要視して、これに対する侵害を排除して、被害者救済を與える趣旨から、第十三條、第三十一條、及び第三十四條等規定を設けているのであつて、新憲法の実施とともに、これらの規定趣旨を十分発揮し得るような立法を必要とするのであります。殊に第三十四條後段は、如実に人身保護方法を指示しているのであるから、この規定趣旨を十分に実現し得るような法律を制定することが要請されているのであつて本法はこの要請にこたえて立案されたものであります。ゆえ本法は新憲法の直接附属法として、必須かつ不可欠の立法であることを、特に御留意願いたいと存ずる次第であります。  以上一般的御説明を申し上げまして、各逐條に対しましては專門調査員より御説明申し上げることにいたしたいと存じます。
  4. 泉芳政

    泉参議院專門調査員 便宜私より本法案の逐條について御説明申し上げたいと思います。  第一條でありまするが、この法律は憲法の保障する身体の自由に対する不法侵害を排除して、簡便な方法で被害者を現実に、かつ迅速に救済することを目的とする、非常例外的な措置を規定した法律であつて、本條はその適用範囲を明らかにしたものであります。この法律によつて救済の対象となるものは、現に身体の自由を拘束されている者でありまして、その自由拘束が法律上正当の手続によらないで、不法に行われた場合に、この法律が適用されるのであります。「自由を拘束される」と申しまするのは、身体の自由が侵害されるすべての場合を包含するのでありまして、逮捕、監禁、抑留、抑制、拘束、軟禁等々、いやしくも身体の自を奪われ、または制限される、いかなる場合をも含める趣旨であるのであります。拘束という文句は、この廣い意味を表わす言葉として用いたのでございます。そうして拘束されておるかどうかということは、事実問題として決せられるわけであります、「法律上正当な手続によらないで」というのは、身体の拘束が法規に定める手続に從わないことであります。拘束が実体法上正当であるかどうかということは問わないのであります。從つて拘束が犯罪に基くかどうか、有罪であるか無罪であるかというようなことには関係ないのであつて、たとえば犯罪を構成していない場合でも、適法な勾留状で拘束されているという場合には、人身保護の請求は棄却されることになるのであります。これに反して勾留状に形式的の欠点があれば、たとい犯罪が成立しておりましても、人身保護の請求は認められることになるのであります。  それでありますから、法律上正当な手続ということの要件は、拘束が形式的に法規の根拠に基いておるということ、それから拘束が法律の定める手続、方式に從つておるということ、三番目に、拘束がその権限のある者によつて行われておるということなどでありまして、この要件を欠くときには手続上不法ということに相なるのであります。「法律上正当な手続によらないで」というのは、その意味であつて、相当廣い意味をもつておるのであります。それでありまするから、犯罪嫌疑によつて刑事事件として拘束された場上におきましても、拘束、すなわち逮捕、勾留が刑事訴訟法の規定に基く令状によらないような場合、また令状がその方式、要件を具えていないような場合、及び令状が権限ある裁判官によつて発せられないような場合には、いずれも不法な拘束となるのであります。  次に不法な拘束から現実に免れしめて、身体の自由を完全に回復せしめることがすなわち救済であるのであります。非常救済と称せられるわけであります。この救済を求めることが人身保護の請求でありまして、この請求は憲法によつて與えられ、保障されました権利であります。特権と称せられておるところのものであります。この権利の本質は、身体の自由、すなわち私権の保護を請求する、私権保護の請求権の一種にほかならないことは、先ほど申し上げた通りであります。本條に「救済を請求する」として、「請求」という文字を使つておるのは、右の理由からであります。また憲法第三十四條の後段に「要求があれば」という文句があるのでありますが、この人身保護の請求として現われたわけであります。本法によつて救済の対象となる不法な拘束には、公権力による場合と、箇人の私の力による場合とがあるわけであります。すなわち第一は刑事事件または行政事件に関して、公権力による不法拘束であります。たとえば司法官権の正当な令状がなくして逮捕または拘留しておる場合、拘留の原因が消滅したにかかわらず、拘留を取消さないで継続しておる場合、拘留の更新決定の手続をしないで拘留を継続しておる場合等があげられるわけであります。  第二は個人の資力または私的團体による不法拘束であります。たとえば政爭関係選挙関係、あるいは労働爭議等の関係から反対派の人物を抑留したり、軟禁その他の方法で身体の自由を奪い、または制限する場合、あるいは精神病者でない者を精神病者として、病院または私宅の監置室に監置しておるような場合、未成年者に対する監護権のない者が未成年者を懲戒場に入れておるような場合、あるいは坑夫をいわゆる監獄部屋に收容して、労役に服せしめておるというような場合に生ずるわけであります。  身体の自由に対する不法な侵害があつたときに、被拘束者本人みずからが現実の侵害を排除するために救済を請求するということは、事実上非常に困難な問題であります。かつ速やかに救済をなす必要があるということから被害者の親族、友人、隣人等、何人でも被拘束者のために、裁判所に救済を求めることができるということにしたのであります。これは本人の代理人としてなすのではなくして、本人のために独立して自己の名をもつてするのでありまして、本人の救済が簡便かつ迅速に実現されることを期待したわけであります。  次に第二條について御説明申し上げます。第一條に規定した身体の自由を不法に拘束された者が、救済を求める請求、すなわち人身保護の請求は、弁護士を代理人としてすることを原則としたのであります。人身保護の請求は、実際においてかなり濫用されはしないかということをおそれるのでありまして、少くとも本法施行の当初におきましては、相当濫用のおそれあるものと考えられます。そこで正当な刑事訴訟の手続が妨げられるようなことがあつてはならない。米國の判例によりますと、戰爭のために徴用された者の父親が、苦役のためにむすこが監禁されたのは不法だということで、人身保護令状の請求をしたというような例もあるというふうに聞き及んでおりますので、この人身保護の令状、すなわち命令の手続は、強力な効果的なものでありますから、これが濫用を防止するために、拘束が不法であるかどうかということについて、法律上並びに事実上の判断の能力を有する者、あるいは責任ある者というような趣旨から、弁護士を代理人として人身保護の請求をなすべきものとしたものであります。しかしながら特別の事情がある場合には、弁護士を代理人としないで請求者がみずから裁判所に請求することも、例外として許すということであります。特別の事情とは、たとえば請求者の所在地に弁護士がいないとか、あるいは弁護士を依頼する資力がないとか、急迫であつて弁護士を依頼する余裕がないという場合を言うのであります。  第三條に移ります。本條は人身保護請求管轄裁判所を規定したものでありまして、憲法の三十四條後段の規定に基く人身保護の請求は、身体に対する不法な拘束が、公権力または強大な私人もしくは私人團体の力で行われ、下級裁判所の手にのらないというような場合もありますし、またこの請求は全國的に統一して処理されねばならぬと同時に、その濫用を防ぐべきであるというような理由から、その管轄を最高裁判所の專属とすべきものであるというような強い意見もあるのであります。これはまた一面英國の沿革によりますと、人身保護令状は王の特権に属する令状であつて、また非常例外救済手段として王座裁判所、詳しく言えば最高裁判所の中の高等裁判所の王座部を構成する裁判官の管轄に属しているのであります。しかしながら英國のように人身保護請求事件が、一年間に十数件に過ぎないという國柄と違いまして、民主主義憲法のもとに出発した現在のわが國では、本法施行とともに、相当数の請求事件が提起されるものと思います。またそれのみならず人身保護命令の手続は、簡便かつ迅速に行われることがその使命でありますから、これらの点に鑑みまして、地方裁判所及び高等裁判所、もちろんこれはそれぞれの支部を含むわけでありますが、その裁判所をもつて人身保護の請求を受付ける初審裁判所としたわけであります。しからば最高裁判所は何ら裁判権がないかというと、そうではありません。最高裁判所は、人身保護の命令の手続については監督権を有するものといたしまして、かつ必要に應じてみずから審理をする権限を有するという建前をとつて、初審として人身保護の請求を受理する管轄権はありませんけれども、下級審である地方裁判所または高等裁判所に係属する事件をいつでも引取つて、みずから処理し得る権限を有するものとしたのであります。これは第十九條にそのむねの規定をおきました。なお最高裁判所上訴管轄については、第十八條に規定しているわけであります。  右申しましたごとく、人身保護請求管轄裁判所は、地方裁判所高等裁判所と競合しているのでありますから、請求者は任意に管轄権のあるいずれの裁判所にも請求することができるのであります。そうして裁判所土地管轄は、原則として被拘束者の所在地を基本として定められるのでありますが、その人身保護の請求にあたつて被拘束者の所在が不明であるような場合には、管轄裁判所がきまらないことになりますから、その欠陷を防ぐとともに、人身保護命令の手続が簡便かつ迅速を旨とするという趣旨に鑑みまして、当初は被拘束者その他の関係者の所在地を管轄すというふうに規定したのでありますが、どうもこの関係者というような言葉が、少し明瞭を欠くというように考えられましたので、参議院において第一次修正を考えました際に、この点は、被拘束者または拘束者の所在地を管轄すというふうに改めたいと考えたのであります。さようにいたしまして、この土地の管轄は、かなり自由廣汎なものとなつているのであります。  次に人身保護の請求は書面をもつてするので通例でありますけれども、請求者が無筆であるような場合、あるいは司法書士も存在しないなどの場合も考えまして、裁判所に出頭して口頭で請求することを得るということにしたのであります。この場合には裁判所は請求の趣旨、その理由等、請求の要件を聽き取つて調書を作成するのであります。これらの手続規定最高裁判所の規則によつて定められることになつております。  次に第四條でありますが、「請求書には、請求の趣旨及び理由殊に知れている拘束者並びに拘束の場所を開示し、且つ必要な疏明資料を提供することを要する。」というふうに規定されたのでありますが、その後いわゆる当事者の表示とでも申しましようか、被拘束者及び拘束者というようなものを、まず記載することが適当であろうというので、この点はお手もとに差上げました人身保護法案中修正案に書きました通り「請求書には拘束者及び被拘束者を表示し」ということを附け加えることにいたしております。本條は人身保護の請求の要件を規定しておるのであります。人身保護の要件は、人身保護の請求の開示と疏明資料の提供であります。請求書記載要件は、今申し上げました修正案と原案と参酌をお願いいたしまして、まず拘束者及び被拘束者の表示、それから請求の趣旨、請求の理由、殊にその知れておる拘束の場合などの表示であります。請求の趣旨は、御承知のように拘束者に対して人身保護命令を発給して被拘束者の釈放を求めるという申立を言うのであります。請求の理由と申しますのは、請求の趣旨の原因たる事実、すなわち拘束が不法であることの事実関係を言うのであります。從つて拘束された日時、拘束された方法、経過的な事情、拘束者には拘束の権限がないということ、殊に正式の令状によらないということなどを含んでおるわけであります。知れておる拘束の場所というのは、これに関連しまして拘束者もまた、だれであるかということがわからないような場合も考えられるのでありますから、その拘束者が何人であるか、また拘束の場所がどこであるか、それが知れておるときには、当然請求の理由の中の記載されるわけでありまするが、それが不明である場合も少くないのでありまするから、かような場合にはこれらの表示がないからといつて、請求が不適法となるのではないのであります。しかしこれらのことは請求の理由のうちの重要なることでありますから、確定的に明らかでないような場合でも、大体推定し得るような拘束者または拘束の場所を記載すべきものと考えます。請求を受けた裁判所は、これを調査する手がかりとするために必要があるからであります。それらがまつたく不明の場合には、請求書にその旨を記することが適当であろうと思います。人身保護請求の要件といたしましては、以上の要件を表示した請求書を提出するか、または口頭陳述をするとともに、必要な疏明資料を提供することを要するのであります。この必要な疏明資料と申しまするのは、請求の理由を疏明するに足る資料でありまして、すなわち不法拘束の事実、その方法、経過的事情などを疏明するのでありますから、資料としましては関係者の陳述書、証明書その他の文書、あるいは名刺、写眞というような類のものであります。口頭陳述による場合には、請求の際に裁判所に出頭した関係人の陳述もまた疏明資料となるというふうに考えております。  次に第五條に移ります。第五條は「裁判所は、請求がその要件又は必要な疏明を欠いているときは、決定をもつてこれを却下することができる」という規定であります。人身保護の請求を受けた裁判所は、請求の要件である請求書または口頭陳述の要件を欠き、または必要な疏明資料の提出がないときには、請求を却下することができるのであります。すなわち不適法として却下するのであります。この却下をするかどうかということは、受理裁判所自由裁量によるのでありますが、請求書または疏明資料が不完全であるからといつて、ただちに却下すべきものではないのであつて、必要に應じて補正せしめることが適当であります。この人身保護令の手続は非常例外的な措置であつて、迅速かつ簡便に、何人でも容易に利用し得ることを目的とするものでありますから、一應は適法としてこれを認容するという建前をもつて処理することが必要であります。ただ請求の理由自体で拘束が不法でないことが明白である、あるいは請求が濫用であるというような心証を得た場合、または補正を命じてもこれに應じないという場合には、却下すべきであろうと考えるのであります。その不適法で却下しますという場合につきましては、抗告その他の不服の方法は認められていないのであります。ある管轄裁判所で却下された場合に、他の管轄裁判所にさらに請求することは、これを許すべきものと解釈しておるのであります。これがすなわち再審査の請求とでも申しましようか、この再審査の請求を許すためには、却下の決定をただちに確定せしめることなく、権限のある裁判所に、いつでも繰返えし請求し得るものとするのでありまして、この請求の反覆を許すということは、弱者を保護するという趣旨から、沿革上認められておるのであります。この場合に一事不再理の原則は適用されないのであります。英米法では右と同樣に、権限のあるすべての裁判官に申し立て得るという仕組みになつておるのであります。結局人身保護の精神を徹底せしめるという趣旨から出ておるのであります。  次に第六條であります。「第一條の請求を受けた裁判所は、申立に因り又は職権をもつて、適当と認める他の管轄裁判所に事件を移送することができる。」この條文を参議院における第二次修正で「申立に因り又は職権をもつて」というのは、少し不明確であるから「請求者の申立に因り」と、請求者という文字を附け加えるということに考えられております、これは同じような内容の事件が、あちこちに提起されたという場合に、それをある一箇所に固めて処理することを適当とするような場合とかあるいは事件の性質上、ある地方の裁判所ではこれをすることが適当でないということも考えられますので、そうした場合には、請求者の申立により、または裁判所の職権で他の適当な管轄裁判所に移送するということを規定したわけであります。  第七條は「裁判所は、前二條の場を合除く外、審問期日における取調の準備のために、直ちに拘束者請求代理人並びに関係者の陳述を聽いて、拘束の事由その他の事項について、必要な調査をすることができる、前項の準備調査は、部員をしてこれをさせることができる。」という規定でありますが、このうち第一項の「関係者の陳述を聽いて」という関係者というのは、参議院おきまして「その他事件係者」というふうに改めました。また第二項の「部員」とありますのも、「会議体の構成員」というふうに改めております。本條は人身保護の命令を発するかどうかということを決する、準備調査に関する規定であります。人身保護の請求を受けた裁判所が、この請求を不適法として却下するか、または他の適当な管轄裁判所に移送する場合のほかは、請求が理由があるかどうかを審理するために、審問期日を開くかどうか、人身保護命令を発給するかどうかということを決定せねばならないのでありますが、請求書の記載、疏明資料だけでは、右の決定をするに不十分である場合が相当多かろうと思います。殊に請求書の記載等では拘束者が不明であるか、拘束者は知れているがその所在が不明であるという場合には、人身保護命令を発することが事実上できないわけであります。かような場合には拘束者が何人であるか、その所在並びに拘束の場所はどこであるかを、取調べる必要があるのであります。また人身保護命令発給の手続をするかどうかを決するために、拘束の事由、すなわち拘束の原因、事実、その方法、その法規的根拠、その手続方式等についても、ある程度の取調をする必要があるのであります。これらの必要事項の取調をいたしますのには、拘束者請求者の代理人、または請求者本人の陳述を聽くのでありますが、必要があればその他の関係者の陳述をも聽くべきであろうと思います。この取調の結果は、後日の審査期日における取調の準備となるのであります。  右の準備調査は、受理裁判所の会議体の構成員たる部員、すなわち言葉を換えますと、受命判事をしてさせることもできるということにしたのであります。準備調査民事訴訟の準備手続に類似するものでありまして、非公開で職権主義によつて行われるのであります。その方法、手続については、最高裁判所の規制をもつて適当に定める趣旨であります。準備調査は前に申しましたように、審問期日における取調の準備として、拘束の事由すなわち拘束の原因、事実、方法等を調査するのでありますが、拘束が法律上正当の手続によらない不法なものであるかどうかを、終局に決定し得るまで、徹底的に調査するのではないのでありまして、審問期日を開くために、拘束者人身保護命令を発する必要があるかどうかということを決し得る程度に、拘束の事由を調査するのであります。すなわち調査の結果、人身保護命令を発する必要がないまでに、請求の理由がないということが明白であるときには、決定をもつて請求を棄却することになるのであります。これが第九條に規定してあることであります。この棄却決定をなす場合のほかは、人身保護の命令を発することになるのであります。それは第十條の第一項にあります。それでありますから準備調査は、人身保護の請求が要件を具備して適法であつても、ただちに人身保護の命令を発しないで、審問期日を開いて取調をなす必要の有無を決するために、拘束の事由に関する一應の調査として行われるのであります。從つて人身保護の請求に対して、人身保護の命令を発することに、ある程度のブレーキを加え、制限を與えるという作用をすることに相なります。だから請求がその要件を完全に具備し、疏明資料も一應整つているという場合には、準備調査は必ずしもその必要がない場合もあるのであります。從つて裁判所はその自由裁量によつて、この準備調査を省略して、ただちに第十條の審問期日を定めて、人身保護命令を発することもできるのであります。  要しまするに準備調査は、一面においては審問期日の準備調べでありますが、他面においては人身保護命令がきわめて実効的であるだけに、これを発することを愼重にいたしまして、かつ当事者に濫用されることを防ぎますとともに、また刑事訴訟の手続を防げることのないようにする趣旨で設けられたもので、人身保護命令発給の橋渡しの作用をなすのでありますから、これらの点を考慮に入れて、準備調査を省略すべきか否かということが決せらるべきであると思うのであります。  次に第八條であります。第八條の原案は参議院の修正で大分直すことにいたしております。原案はお手もとにございますから、朗読を省略いたしまして、訂正の点を申し上げますと、「條件として、弁護士の保証の下に、又は保証金を立てさせ若しくは立てさせないで、一時釈放」ということを全部これを削つて、弁護士の保証ということをやめたわけであります。それで原案を訂正して修正案を申し上げますと「裁判所は、必要があると認めるときは、第十四條の判決をする前に、決定をもつて、仮りに、被拘束者を拘束から免れしめるために、何時でも呼出して應じて出頭することを誓約させ、その他適当と認める條件を附して被拘束者を釈放し、その他適当な処分をすることができる。」というふうにいたしました。そうして第二項を附け加えまして、「前項の被拘束者が呼出に應じて出頭しないときは、勾引することができる。」というふうに改めたのであります。本條は仮釈放に関する規定でありますが、裁判所人身保護の請求を受理しまして、請求書疏明資料を審査した上、準備調査を行つて、審問期日を定めて、人身保護命令の発給の手続をして最終の判決をなすまでには、相当の日時を要すると考えられますので、その間に不法と認められるような拘束を継続することは、人身保護の目的を没却することになると考えられます。また拘束者が被拘束者を遠隔の地に移動させたり、または隠したりするようなおそれがあるときに、審問期日に出頭せしむるために、被拘束者の身柄を適当に押えておく必要もあるのであります。そこでさしあたり一時的に被拘束者を拘束から免れしめるために、何時でも裁判所の呼出に應じて出頭するということを誓約させまして、その他適当な條件を附して、一時的にこの拘束者から被拘束者を釈放し、または特定人の監督のもとに置くということなど、適当の処分をすることができるということにしたのであります。  次に第二項を加えましたまは、さように制約をさせまして、一時釈放した被拘束者が、呼出に應じて出てこないような場合には、これは手続としてはどうしても勾引せざるを得ないのであります。提案当初におきましては、その不出頭の場合における勾引などは、裁判所の規則をもつてまかなつたらという考えをもつておつたのでありますが、事いやしくも基本的人権に関するようなことになりますので、これはやはり本法の中に規定した方が適当であろうというので、第二項を附け加えたわけであります。  次に第九條であります。「第九條準備調査の結果、請求の理由のないことが明白なときは、裁判所は審問手続を経ずに、決定をもつて請求を棄却する。  前條の処分をしたときは、裁判所は前項の場合に、被拘束者を出頭せしめて拘束者に引渡す。」ということに相なつております。これは準備調査の結果、請求を棄却する場合に関する規定であります。裁判所が第七條の準備調査をした結果、人身保護の請求の原因である拘束は不法ではない。正当の理由に基くということが明らかとなり、請求はその理由がないということが明白になつたときには、裁判所審問期日を定めて、人身保護命令書発給その他審問手続を経ないで、決定をもつて請求を棄却するのであります。右の請求棄却決定をなす場合には、請求の理由のないことが明白の場合に、たとえば裁判所の正当な公式な令状に基いて勾留されておることが判明した場合等で、請求の理由がないことが必ずしも明白でない場合、すなわち疑いのある場合には、請求を棄却することができないのであります。請求が不適法でない限りは、一應人身保護命令を発することが建前となつておりまするが、この準備調査をするのは、人身保護の請求の濫用を防いで、まつたく理由のない請求を棄却し、事件をふるい落すということが一つの目的でありまして、詳細な取調べは審問期日の取調べに讓られることになつております。準備調査の結果、請求が棄却されたときには、この第八條によつて一時的な釈放処分をされておる被拘束者は、これを裁判所に呼出しまして、出頭せしめた上、拘束者に引渡すのでありますが、その呼出しに應じないときには、第八條の第二項を適用して、これを勾引してその身柄を拘束者に引渡すということに相なるのであります。なお本條によつて請求が棄却されたときには、請求者は、先ほど申しました第五條の不適法として却下された場合と同樣に、他の管轄裁判所に、その事件について再び審査を求めるために、同樣な手続をするということができると解釈しております。つまりここにもまた一時不再理は適用がないという考えであります。  次に第十條であります。第十條がこの手続における根幹をなす審問手続の規定であります。修正の結果、この十條の「前條の場合を除く外」というのは、「第五條又は前條第一項の場合を除く外」というふうに改められることになりました。「裁判所は一定の日時及び場所を指定し、審問のために請求者又はその代理人、被拘束者及び拘束者を召喚する。  拘束者に対しては、被拘束者を前項指定の日時、場所に出頭させることを命ずると共に、前項の審問期日までに拘束の日時、場所及びその事由について、答弁書を提出することを命ずる。  前項の命令書には、拘束者が命令に服さないときは、勾引し又は命令に服するまで勾留することがある旨及び遅延一日について、五百円以下の過料に処することがある旨を附記する。  命令書の送達と審問期日との間には、三日の期間をおかなければならない。」その次にいつて多少修正をいたしまして、「審問期日は、第一條の請求のあつた日から一週間以内にこれを開かなければならない。」ということを挿入いたしました。そうして但書に続きますが、「但し、特別の事情があるときは、期間は各々これを短縮又は伸長することができる。」というふうに改めてあります。九條で御説明いたしましたように、準備調査の結果、裁判所人身保護の請求を理由ないものとして棄却する。それから第五條によつて却下する。それらの場合を除きましては審問期日を定め、関係者を召喚して、いわゆる人身保護命令書の発給及び審問手続を行うのであります。この命令書の発給及び審問の手続は、この法律の核心をなすものであります。本條はこの手続を規定したものであります。まず審問期日の指定及び当事者の呼出しでありますが、審問期日の指定は、裁判所において審問する日時場所を定めてこれをするのであります。その日時場所に人身保護請求者、本人またはその代理人たる弁護士、被拘束者及び拘束者を呼出すために、それぞれ召喚状を発するのであります。召喚状の樣式は最高裁判所の規則に讓ることにしております。二番目の人身保護命令書の発給でありますが、右の召喚状とともに拘束者に対していわゆる人身保護命令書を発するのであつて、この命令書をもつて被拘束者審問期日に出頭させること、つまり被拘束者の身柄を差出すことを命ずる。そうして審問期日までに被拘束者を拘束した期日、場合並びに拘束の事由を開示した答弁書を提出すべきことを命ずるのであります。右の命令書にはもし拘束者が命令に服從しないで、被拘束者を出頭せしめず、または答弁書を提出しないときには、勾引し、または命令に服するまで勾留することがある旨、及び遅延一日について五百円以下の過料に処することがある旨を附記せねばならないのであります。この附記に書きますところの制裁は、審問期日に、右命令に違背したことが判明した場合に科せられるということの警告であつて、命令に服從すべきことの間接強制となるのであります。この裁判はいわゆる法廷侮辱罪の性質を有するものでありますが、法廷侮辱罪の規定のないわが國では、民事罰、もしくは秩序罰と見るべきものであつて、その手続は最高裁判所の規則で定めるつもりであります。人身保護命令書は拘束者に送達するのでありますが、その送達と審問期日との間には、少くもと三日の期間を置かなくてはならないということにしております。この三日の期間を置くことは、答弁書をつくる準備のために與えられたのでありまして、三日以上幾日の期間を置いても差支えないという趣旨ではありません。答弁書の送達後、なるべく早い時期に審問期日が開かれることが要求せられますので、修正案中におきまして、第一條の請求のあつた日から、一週間以内にこれを開かなければならないというふうに規定をいたしました。なおこれらの期間は拘束者、または被拘束者の所在地と裁判所との距離、交通の関係など特別の事情も考慮に入れまして、これを短縮しまたは伸長することができるということにしたのであります。なおこの人身保護命令書の送達の手続は、最高裁判所の規則で定めることにしております。  次に第十一條でありますが、「前條の命令は、拘束に関する令状を発した裁判所及び檢察官に、これを通告することを要する。」第二項、「前項の裁判所の裁判官及び檢察官は、審問期日に立会うことができる」という規定であります。察判所は刑事事件について拘束に関する令状、すなわち逮捕状、拘留状などを発して、これによつて被拘束者が身体の拘束を受けるような場合には、前條の人身保護命令書を発した裁判所は、右の拘束令状を発しました裁判官の属する裁判所、及びその令状を請求したと否とにかかわらず、その事件を取扱つた、または現に取扱つているところの檢察官に対して、審問期日及び人身保護命令書をもつて定めた事項を通告せねばならないということにしております。右命令書によつて被拘束者を出頭せしめる手続は、拘束令状の発給に関與した裁判所、または檢察官に関係なく行われるのでありますから、この裁判所及び檢察官に対しては右の旨を通知いたしまして、審問期日に立会う機会を與えておるのであります。申すまでもなく、拘束の理由等について意見を述べることの機会を得ぜしめるわけであります。なおこれによつて、その審問期日の審理において、拘束令状の発給が形式的に、また手続上合法であるかどうかということの判断を正確にすることができると思うのであります。  次に第十二條であります。「審問期日における取調は、被拘束者及び弁護人の出席する公開の法廷において、これを行う。弁護人のないときは、裁判所弁護士の中から、これを選任せねばならない。」その次に第三項といたしまして次のように修正することにいたしております。それは「前項の弁護人は旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる」ということを新しく附け加えております。十二條は、審問期日における取調に、被拘束者本人及びその弁護人が出席せねばならないことにしております。それは被拘束者の立場からその弁明、意見を十分に聽くためであります。また取調を公開の法廷で行うものとしたのは、被拘束者の利益のために、公明正大にことを運ぶ趣旨であります。これは憲法第三十四條後段の趣旨にこたえるものであつて、人身保護命令書の手続として最も重要な要件であります。なお審問期日は延期することなく、迅速に運ばれなければならないのでありますから、この手続は他の事件に優先して進めなければならないのであつて、続行の必要があれば連日開廷せらるべきものと考えられます。この点についてアメリカの法典には、当事者が特に要求しない限り、人身保護命令書に対して答弁後五日以内に審理しなければならないことになつております。審問期日に被拘束者の弁護人を依頼していないときには、裁判所弁護士の中から弁護人として適当なものを選任せねばならないことにしております。この弁護人は刑事訴訟手続の國選弁護人と同性質のものであります。選任の方法については、これまた最高裁判所の規則できめることを予定しております。なおその弁護人に対しては旅費、日当、宿泊料、報酬等を支給することはもとよりでありますが、これも本法ではつきり規定することにいたしました。審問期日に出席すべき当事者は、被拘束者本人、その弁護人のほか、拘束者請求者及びその代理人等であります。拘束令状を発した裁判所の裁判官、檢察官は立会うことができるのでありますが、これは当事者として出席することを要するという意味ではございません。  次に第十三條、「審問期日においては、請求の趣旨、その理由及び拘束者の答弁を聽いた上、証拠資料の取調行をう。」本條は、審問期日における取調の順序方法を規定したのであります。審問期日の手続としては、まず人身保護請求者が、請求書に基いて請求の趣旨及び請求の理由を陳述し、これに対して拘束者が、拘束の事由を明らかにするために、答弁書に基いて陳述する。そうして審問期日の取調のために準備調査が行われている場合には、これの調査の結果を陳述しまたは援用することができる。また審問期日には被拘束者及びその弁護人も出席して、被拘束者の利益のために、弁明あるいは意見の陳述をなし得ることは当然でありますが、審問期日には拘束令状を発した裁判所の裁判官、檢察官も立会つて、拘束に関して意見を述べることができるわけであります。從つて審度期日における手続は、利害関係を有する多数当事者間において行われる特殊の訴訟手続ということになるのであります。しかしながら審問期日における取調の中心は、拘束の事由があるかどうかということを判断するのであつて、主たる当事者はやはり請求者拘束者である。殊に憲法第三十四條後段の趣旨に從つて拘束の事由を開示せしめる点にかかつております。かくし各当事者の主張、弁明、意見の陳述があつた上で証拠資料の取調が行われ、当事者の申立により、または職権をもつて証人の尋問、書証の提出、その他必要に應じて鑑定、檢証等も行われるのであります。証拠調が終つて、請求者拘束者の間に、拘束の手続が不法であるか、合法であるかという点について弁論が行われまして、その結果によつて裁判所が判決するということになります。審問期日は必ずしも一日で終るわけでありませんが、これを継続する間、判決に至るまで、拘束者が出頭せしめまして被拘束者の身柄というものは、これは裁判所の支配のもとに留置されておかなければならないのであります。どういう方法で留置されるかということは、これは最高裁判所のルールできめることにしております。たとえば被疑者または未決の被告人を收容する拘置所、あるいはもよりの警察署の留置場等を借りるということになると考えております。  次に第十四條であります。「裁判所審問の結果、請求を理由なしとするときは、判決をもつてこれを棄却し、被拘束者拘束者に引渡す。請求理由ありとするときは、判決をもつて被拘束者を直ちに釈放する。」これは審問期日において第十三條に從つて審問した結果、裁判所人身保護請求者のなした請求が、理由がない。すなわち拘束は合法であつて、手続上何ら不法の点がないと判断したときには、判決をもつてこれを棄却する。從つて拘束者が審問期日裁判所に出頭せしめた被拘束者の身柄は、これを拘束者に引渡すのであります。その引渡しは裁判所が事実行為をもつて現実の引渡しをな献すのでありまして、檢事の手を経てやるものではありません。この棄却判決に対しては、請求者またはその代理人から、最高裁判所に上訴することができることになつております。これは十八條に規定しておるのであります。審問期日において審問の結果、裁判所請求者の理由がある。すなわち被拘束者に対する拘束が不法であつて、正当な理由によらない拘束であると判断したときには、判決をもつた請求者を釈放するのであります。この判決の執行として、裁判所は判決の確定を待たないで、ただちに事実行為をもつて被拘束者を現実に釈放してしまうのであります。この釈放の判決に対しては、拘束者から不服の申立として上訴をすることができるのであります。しかしながら被釈放者に犯罪があるかどうかということは別問題でありますから、被釈放者に対して公訴が提起されておるときは、被釈放者といえども被告人として犯罪の有無について裁判所の判決を受けねばならないことはもちろんであります。この場合にこの釈放者に対して勾留状が発せられておるときは、その勾留状による拘束が不法であるとして釈放したのであるから、その勾留状は釈放判決によつてその効力を失うものと解釈せねばなりません。釈放の判決は、右の勾留状による拘束を不法としてその効力を奪えという趣旨だからであります。その後有罪の判決があれば、その判決によつて再び拘束されることになるのは当然であります。  次に十五條でありますが、十五條には原案の十五條以下を一條ずつ繰下げまして、新しく十五條として一條挿入することにいたしました。それは「第五條、第九條第一項及び前條の裁判において、拘束者又は請求者に対して、手続に要した費用の全部又は一部を負担させることができる。」  つまり費用負担の原則をここに設けたわけであります、從つて、今度はこの原案の十五條、つまり新しく十六條となるわけでありますが、これは拘束者が第十條第二項に規定する人心保護命令書をもつて拘束者に対してなした命令、すなわち審問期日には拘束者を出頭させること並びに審問期日までに、拘束の日時場所、及びその事由についての答弁書を提出することの命令に違背して應じないときには、裁判所は勾引状をもつて拘束者を勾引し、または命令に服するまで勾留すること、及び命令に違背して日数によつて一日について五百円以下の割合の過料に処することができるということを規定した條文であります。  次に、原案の第十六條でありますが、これは新しく十七條と相なります。これは「被拘束者から弁護人を依頼する旨の申出があつたときは、拘束者は遅滯なくその旨を、被拘束者の指定する弁護士に通知しなければならない。  被拘束者弁護士を指定しないか、又は指定した弁護士に事故があるときは、前項の通知は被拘束者の所在地の弁護士会にこれをする。」という規定であります。審問期日における取調は、被拘束者よりその弁護人の出席する法廷で行われるのであつて、弁護人を被拘束者が選任しないときには、裁判所が職権で弁護人を選定することを要するのであります。これは十二條に規定がございます。だから右裁判所の選任するいわゆる國選弁護人を附するよりも、なるべく被拘束者本人が選任する弁護人を立会わしめることが適当である。それでありますから、本條で被拘束者から弁護人を依頼する申出があつたときには、拘束者は遅滯なく被拘束者の指定する弁護士に通知しなければならないこととしたのであります。  被拘束者弁護士を指定しないか、まつは指当した弁護士が旅行中とか、あるいは病氣とかいうような事故があるときには、その通知は被拘束者の所在地の弁護士会にすることとしたのであります。右の通知を受けた弁護士会は、会則その他適当な方法で、右の依頼に應ずる弁護士を定めて拘束者に回答し、被拘束者から依頼を受けしめることになるのであります。  弁護士会の会則に右の通知に対処する規定のないときには、最高裁判所の規則でもつて、適当な方法が定められることと考えております。  次に原案の第十七條、新しくは十八條になります。「第一條の請求を受けた裁判所又は移送を受けた裁判所は、直ちに事件を最高裁判所に通知し、且つ事件処理の経過並びに結果を同裁判所に報告することを要する。」これは先ほど申し上げましたように、最高裁判所が本件についても下級裁判所に対する監督権などの行使を、ここに如実に規定したものであり、またこれによつて、その事件の審理経過などが手にとるようにわかるので、必要に應じて最高裁判所その事件を、みずから処理するために取上げることができることのよすがとしたのであります。  次に、原案第十八條、改め十九條でありますが、「下級裁判所の判決に対しては、三日内に最高裁判所に上訴することができる。」  本法でも上訴の制度を認めまして、結局一審は地方裁判所または高等裁判所ということになりますが、二審はあげて最高裁判所ですることにしております。なお上訴に関するこまかい規定は、最高裁判所の方で規定することを予定しております。請求書も被拘束者も、両方ともそれぞれ自己に不利益な判決に対しては上訴ができるわけであります。  次に、原案の第十九條、今度は二十條になります。「最高裁判所は、特に必要があると認めるときは、下級裁判所に係属する事件が、如何なる程度にあるを問わず、これを送致せしめて、みずから処理することができる。  前項の場合において、最高裁判所下級裁判所のなした裁判及び処分を取消し又は変更することができる。」ということにいたしました。下級裁判所から地方裁判所または高等裁判所において判決の言渡しがあるまでは、最高裁判所はいつでもこれを取上げて、みずから処理することができるという非常に強力な規定をおいたわけであります。  次に、原案の第二十條、これは改め二十一條でありますが、「最高裁判所は、請求、審問、裁判その他の手続について、必要な規則を定めることができる。」と書いてありますが、この原案も参議院における修正によりまして、「最高裁判所は、請求、審問、裁判その他の事項について」というふうに改めまして、單なる手続だけでなしに、相当廣範囲に本法運用の上に必要な規則を、最高裁判所が定め得ることをここに規定したわけであります。  次に、原案第二十一條、今度改め二十二條であります。「被拘束物を移動、藏匿、隠避しその他この法律による救済を妨げる行為をした者若しくは第十條第二項の答弁書に、ことさら虚偽の記載をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。」というように、本法の運用を妨げる者は、この規定に該当する限り、かなり重い刑をもつて処罰されることになります。  以上、非常に雜駁な説明でありましたが、御清聽を煩わしましてありがとうございました。何とぞ愼重審議を願いまして、御可決あらんことを願います。  ちよつと附加えておきますが、参議院で原案ができました後に、いろいろ檢討いたしまして、第一次修正を行つたわけであります。これはお手許に配付しておりますガリ版刷の「人身保護法案中修正案」四條、七條、八條、九條、十一條、十二條、十四條、それから十五條を新しく入れまして、十六條以下を繰下げ、なお二十條の中にも多少の修正をいたしました。その後また再檢討の結果、第一條、第三條、第六條について若干の修正をただいま関係方面と折衝中でありますが、先ほども申しましたように、第三條は「被拘束者その他関係者」とありますのを、「被拘束者又は拘束者」と直しますし、それから第六條のところは「申立に因り又は職権をもつて」というのを、「請求者の申立に因り又は職権をもつて」と改めました。それから第一條の方はかなり困難な折衝があろうと思いますが、まだ十分熟しておりませんので、第一條の修正は、いずれ関係方面との折衝が終りましてから申し上げたいと思います。御了承を願います。
  5. 井伊誠一

    井伊委員長 本案については、時間の都合上質疑は次会にいたすことにいたします。  それでは午後一時半まで休憩いたします。     午後零時二十二分休憩      ————◇—————     午後三時五十一分開議
  6. 井伊誠一

    井伊委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  裁判官報酬等に関する法律案及び檢察官俸給等に関する法律案の両案を一括議題といたします。両案については連日御協議を煩わしてまいりましたが、本日ようやく意見がまとまつた段階に到達いたしましたので、一應質疑を終了いたしたいと存じますので、この際総括的に補充質問がありますれば御発言願います。
  7. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 法務総裁にお伺いしたいと思います。両法案を比較檢討いたしますと、裁判官は、他の官吏に比較して特別優位の地位に置くべきものであるという建前をもつて、立案せられたものと考えるのであります。これはわれわれももちろん賛成するところでありますが、これを実際に現わすということにおいては、その前提として裁判官の採用制度を、根本的に解決することが必要でないかと考えるのであります。今日最高裁判所裁判官に対して、何人も異論なく優位の地位を認めるということも、ひとえに採用制度が特別の制度であるがゆえであります。そのほかの判檢事並びに法務廳の官吏等に至りましては、その出発を一緒にしているものでありまして、同一の年限を経ているものを、單に現われたる結果のみにおいて特別の地位に置くことになりますと、ほかの官吏の方からは、理論がどうであろうと実際においておもしろからぬ考えを持たれることがあると考えますので、まず採用制度を改めるということを前提とすべきものと考えまするが、法務総裁においていかなる御見解をもつておられるか、まずその点をお尋ねいたします。
  8. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 ただいま鍛冶議員の御質問はごもつともでありまして、政府といたしましても、新憲法においては、裁判官を他の官吏に比して優位の地位に置いていることは疑がないのでありますから、そういう精神を生かして制度を考えなければならぬということを考えているのであります。そのためには任用の制度から改正しなければ徹底しないということは仰せの通りであります。從つてこの任用制度をいかに改正すべきかということについて、十分愼重に考慮いたすつもりであります、但しこれは政府だけで決し得る問題とは考えませんので、最高裁判所等とも御協議をいたしまして、十分合理的にして妥当なる制度を確立したい、できるだけ速やかにこれを提案するように努力いたすつもりであります。
  9. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 抽象論としてはまことに結構でありますが、具体的にわれわれの希望を申し上げますと、これは今に始まつた議論ではありませんので、多年主張せられてきた議論でありますが、裁判官を特別優位の地位におくというこの原則は、要するに英米法における裁判官の採用と同一のものであらんければならぬ。この前提から出ておるものと思うのであります。從いましてわれわれはまず第一番に、多年の主張から、今の司法修習生の一元化を主張してまいつたのでありますが、これはようやく一元化いたしましたけれども、この修習生からまず裁判官なり檢事なりをとつていて、残りのものを弁護士にするというこの制度が、すでに私は根本的に欠陷があるものと考えるのであります。從いまして司法試驗を受けますと、裁判官になり檢察官になる。このプールをつくるところとなる。まずこれを考えてすべて弁護士にしておく。そのうちからまず五年経つたら成績優秀な者を檢事として採用し、さらに十年経つた後に裁判官に採用する。また五年経つて檢事になつて、それが辞めたらまた元へ戻つて弁護士になる、一旦判事になつても、これが辞めたらまた弁護士になつて、そうしてさらにあらためて後成績優秀な者をここから救い上げる。これがもつとも理想的でもあるし、またそうせざれば裁判官というものの特別の優位の地位が認められない。かように考えておるのでありますが、法務総裁のただいまのお考えでは、これに御賛成でありましようか。いかがでありますか。
  10. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 私個人としては鍛冶議員の御意見至極賛成であります。但し政府としてはそれも一つの参考意見として愼重に考慮いたしまして、立案をいたしたいと思います。政府としてはただいまのような御提案も、十分考慮の中に入れて、將來の制度を考えていく。かようにお答えしておきます。
  11. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 なおほかの問題でありますが、この両法案を見ますると、超過勤務手当というものをなくすることに立案せられておるのであります。そこでわれわれはなくしなければならぬ事情があるならば、あえて固執もいたしませんが、せつかく優遇せられたように出ておりましても、ほかの官吏が超過勤務において相当の收入がある。しかるに裁判官及び檢察官において、これを貰わないで本俸だけはよろしいのだが、オーバー勤務を入れるならばかえつて優遇にならぬとか、もしくはそれほどの優遇でないということになりますと、有名無実に終ると思うのであります。この点についてわれわれ大藏省当局に、他の官吏の超過勤務手当をどのように出しておるかを明確に資格を求めたのでありますが、遺憾ながら出ておりません。從つて本日ここできめることに相当躊躇するのでありますけれども、一應もし法務総裁において他の官廳の事情をお知りならば、その点をお聽かせ願いたいし、なおまたお知りでないならば、これではたして他の官吏よりも優遇になつておるものかどうか。また優遇にあらざれば——そういうことはないと思いますが、その点をまず第一の前提としてお伺いいたしたいと思います。
  12. 鈴木義男

    ○鈴木國務大臣 超過勤務手当の問題は大切でありますから、これを立案するにつきまして大藏当局とも協議いたしまして資料提出を求るたのでありますが、実際わが國の公務員の超過勤務手当というものは非常にまちまちでありまして、画一的な統計のようなものをもつて、ただちにお示しできるようには簡單でないのであります。そのためにごく大まかな観察しかできなかつたのでありまして、もう少しこれが正確にできるような資料を、速やかに整えたいとは考えますが、何しろ実際に行われておる慣例が非常にまちまちなのであります。しかしごく大体の観測におきましては、一般の官吏に比して超過勤務手当を入れても、比較する官吏との種類によつても違いますが、なお三、四割、五割くらいまで高い給料に相なる。こういう結論を得て提案をいたした次第であります。
  13. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 以上の質問に基きまして結論を申し上げます。多少の修正はいたすかもしれませんが、本委員会においては大体において御提案の趣旨をのむつもりであります。從いましてこれをのみますについては、裁判官の採用方法について根本的の改革あるものということを條件としてのむのでありますから、ただいま法務総裁の仰せられたお言葉のような改革を、至急でき得るだけ早くやつてもらうことを條件とし、第二は、オーヴアー勤務手当につきましては、他の官廳と比較して優遇でないというような事実が現われた場合は、ただちに本俸と両方を改正せられまして、裁判官及び檢察官に対する優遇の案を立てていただく。この二点を條件としてお願いいたしたい。これは私は本委員会の代表の意味で申し上げるわれであります。
  14. 井伊誠一

    井伊委員長 この際委員長のもとに、各党の共同提案になる裁判官報酬等に関する法律案に対する修正案が提案されておりますので、これを読み上げます。  裁判官報酬等に関する法律案の一部を次のように修正する別表中 東京高等裁判所長官 一万八千円その別の高等裁判所長官 一万七千円とあるを、東京高等裁判所長官 一万九千円その別の高等裁判所長官 一万八千円と改める。 この修正案に対する提案の説明を願います。佐瀬昌三君。
  15. 佐瀬昌三

    ○佐瀬委員 私はただいま委員長の御朗読になつた各党共同提案にかかる裁判官報酬等に関する法律案修正について、簡單にその提案の理由説明いたします。そもそも当委員会において審査中の裁判官報酬等に関する法律案並及に檢察官俸給等に関する法律案は、司法官たる裁判官の新憲法下における地位の優位を確認し、これに伴つた相当の報酬を給與するため、また檢察官についてはこれに準する地位に鑑みて、同樣一般官吏よりは異つた優遇を與える趣旨のもとに、この二法案が政府から提案されたように承知しておるのでありますが、その趣旨を貫徹するため、私はこの修正を必要と認めるものであります。現有通貨の不安定、経済社会生活の動搖等、諸般の事情を考慮いたしまして、現段階において與えられた報酬給與の水準は、この原案をもつてあるいは満足しなければならないかとも思われるのでありますが、特に裁判官の報酬については、東京高等裁判所長官及びその他の高等裁判所長官に対する原案の報酬をもつてしたのでは、その趣旨が徹底されない憾みがありますので、私はこの点についてのみ、國家財政上許された範囲のものであると信じますがゆえに、この修正を提案する次第であります。各委員におかれましても何とぞ御質問あらんことを切に希望する次第であります。
  16. 井伊誠一

    井伊委員長 それでは両案を一括して討論に付します。
  17. 石井繁丸

    ○石井委員 社会党を代表いたしまして意見を申し上げます。  社会党といたしましては檢査官に俸給等に関する法律案は原案に賛成をいたし、裁判官報酬等に関する法律案については修正案に賛成いたします。
  18. 中村俊夫

    中村(俊)委員 私は民主党を代表いたしましてただいま御提案の修正案に賛成いたします。
  19. 松木宏

    ○松木委員 民主自由党を代表いたしまして、ただいまの修正案に賛成の意を表します。
  20. 大島多藏

    ○大島(多)委員 裁判官檢察官の報酬並びに俸給に関しましては、わが党におきましても相当論議がありまして、必ずしま意見の一致を見なかつたのであります。しかしただいまの各派共同提案になる修正案は、両者の主張の均衝をはなはだしく失することもなく、かつ新憲法規定されておる裁判官優位の精神にも副うことになり、まことに妥当なるものと考えまして、ここに國民協同党を代表いたしまして、ただいまの修正案並びにその修正を除いたほかの部分に対する政府の原案に、賛意を表する者であります。
  21. 井伊誠一

  22. 北浦圭太郎

    ○北浦委員 私は判事と檢事とによつて待遇を異にするということは根本的に反対であります。殊に地域的俸給ということをこのごろ聽きますが、いかにもこれは東京あたりに住んでおる判事、檢事と、田舎に住んでおる判事、檢事とは、もちろん区別しなければいけない。そこで東京におる判事と檢事とを区別するということは、これは憲法的にも、法理的にも、今日のところでは何らの根拠がない。しかし鍛冶君の質問があり、鈴木総裁の御答弁を拜聽いたしますと、特に今後は判事に限つて、檢事よりも優位なる報酬を受くるべく任用その他の制度をかえるのだ、こういうお言葉でありますから、このお言葉に信頼いたしまして、修正案並びに原案に対して賛成いたします。
  23. 井伊誠一

    井伊委員長 これにて質疑及び討論は終局いたしました。  これより採決をいたします。採決は各案各別に行います。最初に裁判官報酬等に関する法律案について採決いたします。  まず共同提案になる修正案について採決いたします。提案のごとく修正するに賛成の諸君の御起立を願います。     〔総員起立〕
  24. 井伊誠一

    井伊委員長 起立総員。よつて満場一致をもつて提案のごとく修正するに決しました。  次にただいま修正に決しました部分を除いては、原案の通り決するに賛成の諸君の御起立を願います。     〔総員起立〕
  25. 井伊誠一

    井伊委員長 起立総員。よつて本案は滿場一致をもつて提案のごとく修正可決せられました。  次に檢察官俸給等に関する法律案について採決いたします。本案については政府原案の通り決するに賛成の諸君の御起立を願います。     〔総員起立〕
  26. 井伊誠一

    井伊委員長 起立総員。よつて本案は全会一致をもつて原案の通り可決せられました。  それでは本日の会議はこれをもつて閉じます。     午後四時十三分散会