○深川タマヱ君 十月二十三日から二十七日の五日間に互りまして、予定の
通り愛知縣、京都府、大阪府の
労働行政を視察いたして参りました御
報告を申し上げます。
愛知縣におきましては、二日間、川上先生と赤松常子女史と私と三名、それから京都府では一日間赤松先生と私と二名、それから大阪府では二日間私一名、おのおのの場合、
事務局から高橘さんが同行してくれておりました。
先ず第一番に人員の問題でございますが、最初はもう少し大勢さんいらして下さる御予定であつたそうでありますが、急にお差支えができた由で、こんな少人数にな
つてしまいましたが、それでも京都府における赤松先生と私と二人の場合は何とか恰好がついておりましたが、大阪にな
つて、私一人になりましたときは、
ちよつと考えさせられました。私一人参ることには躊躇いたしませんけれども、何分私が参るといたしますと、相当の経費を先方に使わせることでありますのに、果して私が
日本一の大工業都市の大阪に参
つて、それにふさわしい收穫を得て帰ることができるかどうかという不安と、もう
一つは、六人視察に参るということを頼んで置きながら、現われて來たのは婦人議員一名であつたとなりますと、受入れ側の方で軽くあしらわれたという印象を持たれはしないか、最もそれを恐れましたので、私はむしろ北海道の視察が残
つておるといたしますれば、その際までに体制を整えて、再出発する方がよくはないかと存じましたので、一應
東京へ電報で交渉いたしまして、
委員長樣の御決裁を仰ごうといたしました。
事務局の方が
手続を執
つて下さ
つたのでありますが、何分出先のことでございますので、絡連がうまく付きにくく、出発の予定の時刻となりましたので、致し方なく、どうせ視察をいたさなければならない必要があるとすれば、他の方にお差支えができたら、私一人でもできるだけ多くを視察して帰
つて、御
報告いたさなければならない責任があると存じましたので、意を決して、私の健康と私の智能の続く限り、できるだけ注意いたして多くの收穫を得ることに努めました。私の氣の付く範囲におきましては、幸いにして大過なく、何とか恰好を付けて帰つたと存じております。
で、私が今囘視察いたしましたとき特に注意いたしましたことは、將來の
日本の
労働立法及び
労働行政に対して改革すべき建設的な
意見を発見しようと努力いたしたことでございます。要点を先に申上げまして、後に又懇談の時間でも持たせて頂くことができましたら、補足したことを申上げることにいたします。
先ず第一番に
労働行政の一元化ということを痛切に
感じました。いずれの府縣におきましても、基準局と労政局
安定所が別々に分立割拠いたしておりまして、若干摩擦を生じておる所もございます。
事務の
内容の絡連が付きにくくて、なかなか仕事がしにくい。故に
一般民衆も相当不満足らしく、第一は
予算が非常に節減されておりますために、むしろ行政機構の整備が爼上に上
つておるときでありますので、こういうものは一元化した方が却
つていいのではないかと私も考えますし、出先の
官廳の方も一樣にそういうことを提案されていたようであります。殊に基準局のごときは、先程栗山さんもおつしやいましたように、開店後末だ日が浅くて、諸般の準備が十分整わないためでございましようか、いずれも
安定所の片隅で、一坪か二坪かを借受けた
状態で、備品もなくて、机や椅子を二三脚借受け、人員も整わない。それに第一
中央から
報告を求めて來ても、紙さえもなく、それから基準法の趣旨徹底に街頭に進出しておるけれども、日当もなく、切符だけを貰
つて、労力奉仕しておるというような
状態だそうでありますので、極論された一吏員の話では、基準局というようなものは監督局であるにも拘わらず、これほど
予算がなくては、当然企業者からの経済的援助を求めるために、監督局としての職賣を十分果すことができなくて、いろいろ障害を起しつつあるということでございましたので、私はこれは棄て置きならん言葉であると存じて、特に御忠告を申上げたいと存じます。こういう事情もありますので、むしろ
労働行政を一元化する方がよくはないかと第一に
感じました。
これは基準局の問題でございますが、それで九月から時間ともう
一つ何かが特に施行されておるようでありますが、その中でこの基準局が経営者側から歓迎されないということは、予め予測できたことでございますけれども意外にも保護さるべき
立場におる勤労者から歓迎されておらないことであります。これは大体この頃電力危機のために無
警告の電休があります。それからその外資材の入手難などがございまして、突発的な休日が多い。そのために実收入が少い。殊に印人の場合はその上に生理休暇があるしその上日直があるし、それから深夜業の禁止、こういう問題のために非常に手取金が少いということでございます。
從つて保護する目的のために
労働時間を節約されることが、果して保護の目的に適
つておるか。或いはもう少し働かして実收入を多くして、生活をよくすることが却
つて保護の目的に適
つておるか。ここまで來ておるようでございます。それでこの
労働基準法の第三十
二條の第二項の但書
適用の必要に迫られておるようであります。
労働基準法では、一日に八時間
労働で、一週に四十八時間ということにな
つておりますが、但し四週間内の
平均で一週間に四十八時間を得えない限りにおいては、一日八時間
労働を超過してもよいし、又一週間に四十八時間超過してもよいという但書がありますので、あれの
適用に迫られておるようであります。
それから特に注意しなければならないことは、折角婦人を保護するためにいろいろな時間の調節をしてくれてあるようでありますけれども、かくのごとき
状態では、婦人を雇
つたのでは非常に不利なので、男子のために
職場を奪われようとしておる現状でございます。生理休暇などは、重
労働の場合は別でありますが、その名の示すごとく生理的現象でありまして、病氣でないのでありますから、この
日本が生産力を旺盛にして経済復興を急がなければならない時期においては、再考慮の必要があると
感じました。
それからその次、安定局
関係のことを一
通り申上げます。つい最近までは求人者の数が
求職者の数を上廻
つておるそうでございますが、最近はややこれが伯仲し、殊に大阪府のごときは
求職者の数が幾らか上廻
つて來ておるそうであります。これは闇の取締りが嚴重なために、將來の見通しがつく安定した職業に就きたいという意向があるのと、もう
一つは、求人側におきまして、資材難と資金難と、それから電休などの
関係で、足踏みの
状態にあるからだそうでございます。併し全般的に見まして、潜在失業者も合せた人員を比較いたしますと、
安定所の戸を叩いて職を求めに來るのは一割で、これはいつかも私が申上げましたように、將來の
労働安定所は、來るお客樣だけを相手にしておるのではなく、積極的に
國民の経済生活の実情を調査いたしまして、まじめに働いて生活の立
つていけないような家庭に対しては、積極的に必要な職を與えるというようなことまで、出て行かなければならんのではないかと思います。併しそうして縛
つてみても、收入が生活を支えることでなければ、結局元の木阿彌でございますので、どうしても早く経済復興を急いで、收入で生活が立つように、実質賃金を上げることを急がなければならないと存じます。
その次、これは特に御注意いたしたいと思いますことは、家族手当がありますために、三十五歳以上の中年で係累者の多い人が、非常に就職難をいたしておることでございます。それにつきまして考えますことは、將來は家族手当というものは、これは雇主の負担にすることは止めた方がいいと考えました。そうして子供のない家庭は、
日本の経済復興に対して協力しておる点が少いのでありますから、子なし税というふうな露骨な名前ではなく、何か婉曲な名前で税を取立てて、それで子供が多い家庭の生活を援助するようにして、個人を雇いますときは、この子供のある人もない人も同樣に、一人として雇い入れるのでなければ、子供の多い人は浮ぶ瀬がないと
感じました。
それから住宅難で失業者が二重の負担を被
つております。住宅があ
つて通勤するのであれば雇い入れるけれども住み込みはいけないというところが非常に多うございます。特に私は寺の開放とか、料飲業者の貸座敷というものを
労働者の共同宿舍に明け渡して貰いたいというのが
一つ。それから今の
日本の住宅の統制が、これはいけないのじやないかと存ずるのでございます。これは資材を持
つておる人でも建てられない。罹災者を優先的ということにな
つておりまして、資材を持
つておる人でも供出せなければならないことにな
つておりますが、人情としてなかなか供出いたしませんから、資材を持
つておる人にはどんどん建てさせる。そうして新らしく建つた家の使用の当
つては、それは十分
政府が監督して、住宅を優先的に、こういうことにいたしますならば、資材を持
つておる人が家を建ててそれに住むならば、今まで住んでおる建物が空くのでありますから、そういう
状態にすればどんどん家が立ち並んで行くと思います。これほど全國的に燒けたのでありますから、相当家が立ち並びつつあるのが目撃されるのでなければならんのに、汽車の中から見ても、どこにもなかなか建てておるところが少いので、住宅の問題は急がなければならないと思いました。
それから火力発電所の問題であります。御
承知の
通り最近は電力飢饉で、これが癌になりまして、
日本の傾斜生産が浅瀬へ乘り上げて、三割か五割くらいしか基本産業が行われていないような実情であります。それで特に火力発電所をよく調査いたしましたところここは戰爭中以來労務者が非常に虐待を受けておりまして、労務加配米もC級だそうでございます。この問題は急いで採り上げなければならないのと、これは統制がうまく行
つていないために、民間の会社に比べて
給料が少い。それと電力というものは、他の会社と
違つて、田舍に持
つて行
つて物交できるような品物ではありませんので、現物支給ということがない。そういうものを加えて、非常に火力発電所には就職者が少いので、人員が不足だそうでございます。いろいろ問題はありますけれでも、特に
労働関係からみましてこの点を改良いたしまして、火力発電所の就職者を多くして、早く火力発電の改良をいたさなければならないと
感じました。ここの話によりますと、
日本の汽車などは、石炭が非常に不経済に焚かれておりますから、あの石炭を火力発電所へ持
つて行
つて電力化すれば、五分の一の石炭で間に合うそうでございます。これは非常に私は耳寄りなニユースであると思
つて聞いて参りました。腐朽老廃されておる発電所も復興いたしまして、こういうふうにすればいいと
感じました。
その次、同じように紡績会社が非常に人員が拂底いたしております。これも
待遇が惡いためであります。輸出貿易を控えておりますので、この
給料も上げなければならないと存じます。
それから全体を通じて、非常に主人公が生活難でありますので、婦人で内職を求めておる人が多うございます。内職はあるのでありますけれども、このごろ盜難とか火難の虞れがありますので、來てくれたならば職を與えるけれども、持
つて帰るのは困ると一樣にいわれておる。早速婦人が困りますのは足手まといの子供の処置でありますので、是非公の手でところどころに托兒所を設けなければならないのと、
一つは配給機構が非常に混乱いたしておりますので、一家の主婦は一日中、家に待機の姿勢を取
つておらなければならないような
状態でありますので、こういうことは改良いたしまして、外へ働きに出られるようにしてやらなければならないと存じます。同時に防犯のこともございます。それから輸出向の家庭工業のことが
ちよつと話に出しましたが非常に歓迎されまして、貿易廳の長官が引受けてくれたのだから、いえさえすればこちらへも廻してくれるというような話がありました。
それから、補導所でありますが、一二申上げますと、名古屋の自動車修理工の補導所は非常に成功しております。これは本人としても経営者としても意外なことであるそうでございます。最近自動車の修理は非常に代金が高い。そうして需要者も多うございますので、これは
予算がないけれども、もう少し
予算を殖やして貰
つて拡張したいという意向であります。
それから大阪の傷痍軍人相手の職業補導所、これについて
ちよつと
感じたことは、傷痍軍人は一度病院を退院してから職業習いに六ケ月ばかり通うのでありますけれども、その間の経費がないために、一週間くらいは他に働いてその金を持
つて行
つて職業を習
つておるというような実情であります。傷痍軍人はお國の誤つた政策の犠牲に
なつた人であります。然るに一時金も恩給も貰えない今日の
状態でありますので、せめて一生の生活を支えるに足るだけの職業を與えるときだけでも、國家が補助して上げて貰いたいと痛切に
感じました。
それから労政局
関係のことで
ちよつと。このごろ全國的に工場閉鎖ということが行われております。その理由は資材難とか資金難のためというのが口実であ
つて、その事実は、永年勤続してそうして家族を持
つておる人は
給料が高いので、採算がとれないので一應首にして、若い安い
給料の人と首のすげ替えをしたいというのが趣旨のようであります。これに対して
労働委員会ではもう少し進んで、資材難とか或いは資金難のところまでも監督して、こういう口実を與えないように、
労働者を保護しなければならないと痛切に
感じました。
それから官公吏の千八百円ベースの問題は出ましたけれども、これは全國的な問題でありますので、いずれ機会を新らたにして、皆樣と御一緒に協議いたしたいと存じます。
それから工場視察で特に
感じますことは、將來の工場に対してはもう少し科学を導入いたしまして、勤労者を必要以上に苦しめないことであると存じました。一二の例を挙げますならばガラス工場において、非常に高熱作業に從事しておりますので、相当朝晩冷えるこのごろでも、眞つ裸で汗だらだらでありますので、夏の
労働の苦しさはどんなであろうと痛切に
感じました。ガラスを熔かす焜炉の中の高熱は必要でありますが、その工事内の温度をあれほど高くしなくても、何とか改良の
余地があるだろうと考えました。
それから火力発電所では石炭を粉末にしておるのが盛んに飛散しまして、眞黒な顔になりまして、呼吸器を害するようでありますが、ああいうものも工場内に飛散させないような設備はもうそろそろできていいのではないか知らんと考えます。ガラス工場の中でガラスを割る大きな音なども防音設備もできるだろうと思います。
それから
一般の
労働者の
状態を調べておる間に私立寄
つていろいろ生活の実情を聞いて見ましたけれども、非常に賃金が安くてとても食
つて行けない。何をして食べているか、いろいろ聞きましたが、皆それぞれ
立場々々であらゆる
方法で違反行爲をして生活をしているようでありますが、將來は眞面目に働いていたならば別に惡いことをしなくとも暮らして行けるように、
日本の政治を根本的に改革しなければならないと痛切に
感じたことでございます。
詳しいことをもつと申上げとうございますが、大変遲くな
つておりますので、いずれ又改めて申上げることにいたします。