○國務大臣(林平馬君) 小林議員の御
質問に対しまして御
答弁申上げたいと思います。それより先に一言申上げたいことは、何も鈴木司法大臣と爭う
意味ではありませんけれども、今申された中に誤まりのある点だけを先ず先に申上げて置きたいと思います。私の資格審査に掛
つておるのは「世界の推進力日本」というのと、「世界の黎明」という薄いパンフレツトであります。鈴木法相は、著書の方は戰時中に出された云々と言われましだが、それは戰爭の以前のものであるということをはつきり申上げて置きます。又パンフレツトは選挙後に告発によ
つて現われたものであると仰せられたのでありまするが、これも亦誤まりであります。未だ総選挙の終らない先において選挙区の或る党の党員より投書に
なつたものであ
つて選挙のまだ終らないときに現われて來たものであることを訂正して置きたいと思います。去る本月の十三日、衆議院の本
会議において、衆議院議員石原澄君、北浦圭太郎君たちから政局安定に関する緊急
質問がありました際、私の名指しもあ
つた由でありますが、私は恰かも十一日の未明に突然発病いたし、以來引続き静養をいたしておりましたので、今日まで
答弁の機会を持たなか
つたのであります。併し余り長引くことは甚だ心苦しいので、一昨二十二日に衆議院の方の本
会議において是非共御
答弁申上げたいと思いまして、病躯を押して登院いたしたのであります。然るに衆議院の
議長は
発言の機会をお與え下さいませんので、遂に余儀なく宅に戻
つて寢んだのであります。更に私は昨二十三日登院いたしまして、
発言の手続をいたしましたところ、片山総理は強くこれを拒みましたばかりでなく、すべて議会での
発言は是非思い止ま
つて貰いたいと言い、頑として承諾を與えてくれなか
つたのであります。今日も亦余儀なく病躯を押して登院いたしましたが、到頭私の
発言の機会は得られないでお
つたのであります。私はこうした次第でありまするから、遂に日本の議会においては述べる機会を永久に得られないであろうと失望をしてお
つたのであります。(笑声)然るにここに参議院の
諸君より是非出て事情を詳細述べろという御注文がありましたので、私はこの機会を得たことをここに感謝するものであります。問題の眞相究明についての御要求でありまするが故に、私はここに一切を御
報告して各位の御了解を願うつもりであります。或いは病躯であるが故に、
最後まで申上げられずに若しも中途で
発言不能に陥りました場合には、大要をここに記述して参りましたので、これをば
議長のお許しを得まして
速記録に御登載されんことを予めお願いいたして置く次第であります。
私が去る七日の定例閣議でいたしました
発言が、政局不安の
一つの
原因であるならば、私はその
内容の眞実をここに
報告して、実相を明らかにいたし、以て不安の
原因を一掃したいものであります。閣議の
内容を発表することについて異論を差し挟む者のために一言申上げて置きたいのでありますが、片山内閣の当初から毎回閣議の終りにおいてその日の閣議のどれとどれとは発表をしないことにしようという申合せをいたして参りました。併しそれでもと
かく常に漏らす者がありました。然るに私の
発言については、
性質上祕密にすべきものでないばかりでなく、閣議において発表せざることの何らの申合せがなか
つたのでありますから、異論のある筈がないと信ずるのであります。殊に私の
発言以來、問題の眞相が明瞭でないことが政局の不安に密接の
関係があるので、それを明瞭にされたいという衆議院での御
質問の御
趣旨でもあると理解いたしますと同時に、参議院におかれましても同様であると信じまするので、ここに当日私が参閣議で
発言いたしましたこと及びその後の
実情を具さにここに申上げて、事態の眞相を明らかにいたしたいと存じます。(
拍手)
私は去る七日の閣議における私の
発言を先ずここに申上げることにいたします。即ち「この際私は十一月一日の閣議における西尾、鈴木両君の御
発言に関連して、重大
発言をいたしたいと思います。鈴木君は去る一日の閣議の席上で私の身上に関して次のようにお述べになりました。即ち私は某所で
関係官から、君は林氏の書いたものを見たことがあるか。こちらで調査したものがあるから、それをお貸ししてもよろしいと言うて、部厚いものを見せられたが、それを借りて來れば
責任を生ずるから借りて來なか
つた。それから去る十月二十五日に某
関係官が内閣に來て片山、西尾両君に会見して、平野君の問題に言及された際、某氏は、平野以外にも、例えば林のごときもこの際更迭を考えてはどうかと言われたので、私は大層心配しておりましたところ、今朝突如として朝日新聞に林君の追放問題が発表されたので実に驚きました。どこから漏れたのか、実に不思議でならない云との御
発言がありました。又鈴木君の以上の御
発言が終るや、言下に、直ちに西尾長官は、あの記事の出所を早速調査して見たところはつきりしました。あれは朝日の記者が某所から聞いて來たものであることが確実になりましたとの
報告がありました云々であります。そこで私は、私の身上に関する重大問題でありまするが故に、直ちに
発言をいたしまして、私の資格審査の経緯を述べ、中央公職適否審査
委員会は、すでに去る六月二十日満場一致を以て、該パンフレットが該当せずと判定されたものである旨を述べまして、閣僚
諸君の御了解を願
つた次第であります。併し私はすでに解決された問題が今頃突如として問題化して來たことに余りに不思議を感じたので、早速、人を以て当日その場に立会
つた曾爾官房次長に事実を質しましたところ、某氏は林大臣に関しては一言も触れていませんとのことであります。そこで私は尚も正確を期するために、その日の午後の四時過ぎ頃曾爾君を私の自室に招いて尋ねましたところ、やはり同様で、当日何ら私に関しての
発言はなか
つた旨を確言いたされたのであります。私はますます疑問を深めたので、更に某方面にも眞偽を十分に調査したところ、最も
責任のある筋から事実無根を確かめ得たのであります。又十一月三日、即ち翌日の午後六時頃、私が総理大臣官邸を出ようとした際に、かねて懇意の記者が私の側に走り寄
つて、大臣、あの記事は某所から出たものではありません。この中から、内閣から出たものです。実に閣内から出たのですと鈴木法相の名指しまでして明瞭な
報告がありました。そこには私の外にもこれを聞いてお
つた者があります。又中央公職適否審査
委員会事務局について新聞の事実を取調べましたところ、十一月一日の朝日新聞に出たところの記事は、大要でありますが、審査
委員会は全閣僚の資格に関する再審査を終了し、林國務大臣の該当がほぼ確実と
なつたという記事は、事実無根であることが分
つたのであります。即ち審査
委員会は、最近閣僚の資格審査をいたしてはいない事実を確かめました。以上の事実により、一日の朝日新聞の私に関する記事は、全然虚構の誤報であることが明瞭であります。かかる誤ま
つた報道を朝日新聞が何故にいたしたかと深く疑いを持ちましたが、内閣から報道されたればこそ、朝日もこれを信じて、まさか虚構の事実とも思わず、むしろ近來の特種として大的に扱
つたものと信ずるのであります。而も西尾長官が、鈴木君の
発言終るや、言下に右の記事が某所から出たことを確かめ得たと断言されて閣議席上に
報告されたところに、更に疑問を深めるものがあるのであります。何となればさようなことは某所の中から漏れて來る筈が断じてないくらいのことは、長官ともあろう者の知らん筈がないからであります。その他調査すればする程、民主主義憲法下には余りにもふさわしからぬ陰險なる事実が次々に出て來るので、私は紳士として到底かかる席上で申上げるに忍びません。併し何としても閣僚の身上に関して、恰かも至上命令であるかのごとき暗示を與えて、虚構の事実を捏造し、閣議で、嘘、でたらめを申されたことだけは、もはや動かし得ざる事実でありまして、実に前例を見ざる惡質の陰謀と言わねばなりません。ついては致命的
被害者の私が十分納得の行く御釈明を願いたいのであります。而してその釈明は、問題の中心を把握しておらる片山総理、あなたから伺いたいのであります。殊に極めて正直なクリスチヤン紳士として私の今日まで尊敬して來た片山総理から願いたいのであります。私は何事も円満に事を運びたい性格であることは、
諸君御
承知のことと存じます。
從つてこのような
発言も差控えようかと幾度か逡巡躊躇したのでありますが、次の四点からして、ここに最も好まざる
発言を敢てなすに至
つたことを御了承願いたいのであります。
即ち第一点は、私にと
つては全然致命的の出來事であるから、到底このままには打ち捨てては置けないためであります。第二点は、かかる行動が引続き許されるならば、常に内閣の不安を來し、統一を阻害することになるから、内閣の統一強化を期する上に必要であると信じての
発言であります。第三点は、占領下にある我が國において、彼我共に特に特に関心を持
つておる事柄であります。即ち権威に名を籍りて、恰かも至上命令であるかのごとく称し、自己の意図するところを実行しようとする或る種の官吏の卑劣なる行動についてであります。私は
かくのごとき占領
政策の眞意を阻害するがごとき行動をばこの際断乎として根絶するためにも、この
発言をなす必要を痛感した次第であります。第四点は、國政の中心殿堂たる内閣は、極めてまじめに、明朗にして、一致協力、時艱克復の衝に当り、以て國民の信頼を博し、よ
つて以て政治力の強化に努めなければならないと信じます。殊に國民挙げて途方に暮れておるこの敗戰日本の現状におきましては、一層その必要を痛感いたしておりまするので、不明朗なる策謀や言動を内閣から拂拭一掃したい赤誠愛民の衷情から、この
発言をするものであります。
以上の次第でありますから、片山総理におかれては事態の眞相を率直に究明せられると共に、かかる虚構の事実の
発言者に対しては断乎たる
処置に出でられ、以て
將來来に向
つて、かかる事態の再発せざるよう、その禍根を一掃せられんことを要請するものであります。
私の調査したところによれば、某氏が二十五日來訪されて、片山総理及び西尾長官に対して言われたことは次の
趣旨であります。すべて罪のある者は、その地位
身分を問わず、公平に処罰すべきものであるとの眞理に基ずく原則を示された
発言であ
つて、特定の人名を指しての言葉はなか
つたのであります。又去る四日には
政府に対して、以上の原則を公式に通告してその態度を明確にされたのであります。
よ
つて片山総理が、あなたが、この指示されたる根本方針を尊重するならば、虎の威を仮りるがごとく権威を濫用して、かかる虚構の
発言をした鈴木法相、西尾長官に対しては、速かに両君の自発的善処を求められたい。万一にも両大臣がこれに應ぜざる場合は、内閣の統一強化のために、又政治の明朗化のために、速かに両君を罷免せられんことを要望するものであります。
以上私の
発言が終りまするや、片山総理は私に向
つて、私はあなたに対してどうこうしようと意図しておるものではありません。是非閣内に留ま
つてや
つて頂きたいのでありますから御了解を願いたい云々」と仰せられました。私はこれに対して申したことは、私はあなたに対して釈明を求めておるのではありません、虚構の
発言をした両君に対して善処するように取運んで貰いたいと要求するものであります」と申したら、片山総理は、「それでは、今ここで事実を究明することはむずかしいから、どうでしよう。この問題は私と芦田外相とにお預け願いたいのですが」と申されるや、芦田外相は、これは個人の問題であ
つて閣議の問題ではないから云々」と申されましたので、私はそれを反駁しまして、「飛んでもないお考えである。甚だ違
つたお考えを持
つておる。この問題は私個人の問題でもあるが、併しながら政治の中心を粛正して内閣の統一強化を図る重大なる政治問題であります。」と言うや、芦田外相は、それはそうです。だが今ここでは決められないと思うとの
発言がありました。続いて片山総理は重ねて私に、「どうでしよう。これは二人にお預け願えないでしようか」とのことでありましたので、私は、「それでは私はお二人を信じまするので、お預けいたしましよう。どうか私の納得の行くように、至急お運び下さるように願います。」と述べて、私は片山総理のクリスチャン的人格に滿腔の信頼を捧げて、快く善処方を一任した次第であります。尚私の当日の
発言に対しては総理以下なん人からも、私の述べたことに対して、間違いを指摘した者はなか
つたことによ
つても、一日の閣議で西尾、鈴木両大臣から私の聽き取
つたことに誤りのなか
つたことを立証して十分であると信じます。
然るにここに不思議なることは、片山総理から何らの回答も今以てないことであります。のみならず去る十日の午後五時半頃、中央公職適否審査
委員会の事務局長太田剛氏が総理官邸の私の部屋に訪れて参りました。そうして私に向
つて、かように申しました。「大臣誠に異例中の異例でありますが、大臣の資格について再審査をすることになりました。それも極めて急速に運ばなければならん情勢にあるのでありますから、若しも弁明書の御提出でありまするならば、明日の午後の
委員会に間に合うように、午前中にお出しを願いたいのであります。云々」と言われました。これに対して私は、明日は閣議があるので、そのような
処置はできかねると申しましたら、さらば來る十四日の正午頃までに願いたいとのことでありました。私は太田局長に対して、何故に異例中の異例であるという私の再審査をするかと聞いたら、局長は世間がやかましいからです。決して政治的の手が延びておるのではありませんと数回附加えておりましたので、むしろ私は何故の弁解であるかと疑問を深めたのであります。
又去る二十一日の午後四時半頃、木村内相は私の病床に來られまして、閣議に基ずいて君の辞表提出の勧告に來たのだとのことでありますので、私はこれに対して、君も知る通り、問題の解決は、片山首相が進んで引受けて置きながら、未だその返答もない中に、辞職を要求するとは何事か、私は勧告によ
つて辞職する理由も意思も毛頭ないと拒絶して置きました。然るに一昨二十二日の各新聞は、大きく私の追放が報道されてあります。未だ
審議中であるというのに、最初から決定と報じておるということに、誠に不可思議に堪えないのであります。果して私が追放と決定するかどうかはとも
かくも、若し果して事実でありとするならば、片山首相は回答に代えるのに、追放を以てするものであると見なければなりません。何たる不信の行爲でありましよう。私の資格再審査は、いかなる意図で始められたのであるかは存じませんけれどもが、前に申上げました通り、(「泥試合見つともないぞ」「泣言を言うな」と呼ぶ者あり)事実無限の新聞が出てから実に十日を
経過した去る十日の夕刻以後から正式に始められたのであ
つて、十一月の朝日新聞の記事が事実無根であることだけは、今や動かすことのできない事実であります。この虚構の新聞記事を本物に仕上げるための苦心は同情に値するが、いよいよ仕上げ得るとするならば、その陰謀技術の巧妙なるには舌を捲くものがあるのであります。而して一体
同一政府が
同一機関で
同一事項を判定するのに、昨日は白と判定したものを、今日はそれを黒と判定できるのでありましようか。法理的に又良心的に不能なことじやないかと私は信じます。若しできるとするならば、
國家機関に対する國民の不信、疑惑をいかにして拂拭し得るかを深く憂うる者であります。(「自分の書いた物がよいか惡いか言え」「やかましいと呼ぶ者あり」)私の書いた物に対しては、良心的に十分に弁明ができております。(「そうでもない」と呼ぶ者あり)十分にできております。(「そうでもない」「具体的に言え、具体的に」と呼ぶ者あり)陰謀を解決するに陰謀を以てすると疑われ、或いは追放問題を政爭の具に供すると誣いられても、恐らく弁解の辞がないでありましよう。去る二十一日の閣議で鈴木司法大臣は、かような
発言をしておることを聞きました。某出版者は林の著書を出したために、追放にな
つたのであるから、著者の林が追放になるのは、既定の事実であるとの
発言があ
つた由であるが、誣いるも甚だしいことであります。その出版社は、多数の該当書を出版しておるのであ
つて、敢えて私の著書によ
つて追放されたものでは断じてありません。又その出版社の追放は、多分本春一月頃であると記憶しておりまするが、果して私の著書が
原因であるならば、何故にそれよりずつと後であるところの、四月の私の立候補の際に私の資格を認めたのであるか、殊に入閣の際には、最も嚴粛に人選した筈なのに、すでに該当必至と称する私を、何故に推薦したか、むしろ大なる
責任問題こそが起らねばならん筈と存じます。
述べれば限りもありませんが、(笑声)今や國民挙げて塗炭の辛苦に悩み、廃都東京の眞ん中では、早くも凍死者を出しておる敗戰日本の現状に眼を向けるならば、心骨を砕いて、祖國再建に邁進せねばならん時、愛國の至情止み難く、陰謀を内閣より排除して、政治の明朗化と内閣の統一強化とを図り、以て救國の一遂に邁進せねばならんと痛感いたしました余り、遂に去る七日の閣議に、一身の利害を超越して
発言をいたした次第であります。私は公正なる判断を國民に期待して止みません。以上事実の眞相を申上げたところによりまして、問題の実体が十分御了解願われたと存じますので、私はこれを以て御
答弁に代えたいと思います。(
拍手)(「嘘を言え」と呼ぶ者あり)