○岡本愛祐君 昨日及び本日に亘りまして、
関東大
水害の
報告を
調査團から拝聴いたしました。その中のご
意見をも参考にいたしまして、
水害対策について
意見を開陳いたします。大
水害に遭遇いたします度ごとに心ある國民が公開いたしますことは、我が國土が
崩壊し易い山岳を擁しながら、
山林を伐り過ぎ、而も植林を怠
つたこと、又
河川を治めることに怠慢があ
つたこと、これであります。我が國は戦争中、
山林の非常特別伐採を行いまして、
山林経営のマグナカルタとも言うべき施業案、これは林業上、山崩れの起らないよう、
山林の
状況に應じまして伐採の
方法を定めたものでございますが、これを無視して極度に林木を伐り過ぎたのでございます。戦争後におきましても、戦災復興用材や、薪炭林等の増産のため、過伐を余儀なくいたされました。現在におきましては、林地も農地同様取上げられるぞとの声に怯えまして、
濫伐が続いておるのであります。かくのごとくいたしまして、全國
山林面積二千四百町歩、その六分の一が裸山にな
つておるのであります。大雨が降ると、従来は
山林に蓄えられておりまして徐々に流れ出した雨水が、今ではどつと一時に流れ出します。而も裸山を崩しまして
土砂を運びますから、川床は降雨の度ごとに急速に上
つて参ります。かような
状態でありますから、一朝豪雨があると、
河川は忽ち氾濫いたしまして、
土砂を含んで比重が増した川水は堤防を押す力が甚だ強くて、決壊の
原因となるのであります。堤防工事に際しましては、
上流の
濫伐ということは当然計算に入れてないだろうと思います。それで水の出足も、水位も、堤防の圧力も、工事当時の予想外ということになりまして、堤防決壊の言訳に、何十年振りの豪雨とか前古未曾有の
出水とかいうことを言わざるを得なくなるのであります。併し冷静に考えて見ますと、これは天災ではなくて人災であるという場合が多いのだろうと考えます。かように考えて見ますと、
水害の恒久対策の第一は、
山林の伐採に当
つて治山治水を十分に考慮すること、これであります。一時の必要に迫られましても、施業案に背いた
濫伐を厳禁することが必要であります。木曽川筋その他
山林経営が良好な所では、峻嶮極まる山岳を擁しながら、いかなる豪雨にも長く
水害の厄を免れておるのを見ますれば、思い半ばに過ぎるものがあるのであります。新規の開墾地も大雨に際しまして抵抗力が非常に弱い。容易に
土砂が流されてしまいます。
終戦後の食糧増産対策といたしまして、大急ぎで作られた五ケ年間に百五十万町歩の
山林原野を開墾するという計画は年度割の延長とか、
予算の増額のみに止まりませんで、國土計画の一環として、
水害対策の見地からも至急再検討を要します。(
拍手)一町歩の山畑を無理に開墾することから、数百町歩の良田、良畑を失
つてしま
つては何にもならないのである。傾斜度が強くて崩れ易い産地は、開墾
予定地から速やかに除外すること、又開墾しても大して作物もできず、やがて外國から食糧が恒久的に入
つて参ります暁には忽ち放棄されて荒地に帰するような林地は、現在の
山林のままで置くことが必要であります。薪炭林についても、やたらに
濫伐してはなりません。石炭や電力の不足を補うために、家庭用の薪炭の増産はもとより必要であります。併しすでに
昭和二十一年度において、全國
山林の全伐採量二億九千二百万石の六一%に当る一億八千万石は薪炭林で占められております。薪炭林の伐採が用材林の伐採よりも、量においても、面積においても、遥かに多いのが現状であります。
東北地方の
水害、群馬、
栃木、茨城地方の洪水も、これら里山の
濫伐が崇
つていると認められております。これは
調査團の
報告でも明らかであります。政府は冬の燃料の綜合対策を樹立するに当りまして、余りに過度な薪炭林の伐採に期待してはなりません。
次に
水害対策上必要なのは植林の励行であります。これは柴田君もお話がございました。或いは説をなす人がありまして、現在の荒廃した裸山に対して、植林が
治水上の効果を上げるには、二十年の歳月を要するのであるから、植林よりも先ず
砂防工事が第一であると主張するのであります。又いかに完全に植林しましても、異常の豪雨に遭
つては
水害を防ぐことができないと主張する糸もあります。一應尤もであります。
砂防工事はもとより必要である。殊に
崩壊地の應急対策としてこれを至急に施行する必要があります。併し荒廃した山を植林しないで放任すれば、大雨ごとに
土砂を流して
崩壊を増します。折角の
砂防工事も効果が非常に減殺されるのである。又特別異常の大豪雨でなくても、しばしば洪水の憂目を見ることになります。加うるに、植林は國民の日常生活に欠くことのできない
木材の精算を永久の約束いたし、施業案に基く適度の伐採と相持
つて、年ごとに水を治め、山を治め、永遠に國土を守ります遠き慮りなければ必ず近き憂があることは、即ち
水害対策における植林の地位をよく言い表わしていると思います。
経済実相
報告書によりますと、
昭和十四年から十六年に至る造林面積は毎年平均四十九万町歩に達しております。ところが昨二十一年は僅かに七万町歩しかや
つておりません。
農林省ではすでに
昭和二十一年度から五ケ年計画で二百七十二万町歩に植林するという計画を立てております。ところが右の
通り、二十一年度は大失敗で、本年度も亦大失敗であります。それで明年度から五ケ年計画の出直しをしようとしております。この不成績の
原因は、苗木の不足とその高値、人夫賃の暴騰、人夫の食糧難等が植林の実施を阻み、その上、
山林の私有権に関する不安から植林をする民間人が殆どないからであります。平野
農林大臣は先きに、私有林の面積を制限しないこと、
山林の國有又は國管は考えていないことを声明されました。併しその声は非常に小さい。もつと声を大にして全國民に徹底して頂きたい(
拍手)これが間接に
水害の根本対策の一つとなるます。政府は尚進んで苗木を無償又は僅少の代價で民間に交付し、造林の補助金も入費の半額以上とするように努力をして頂きたい。かくすれば森林
所有者は安心して造林の実行に、
山林の愛護に当ること疑いありません。要は五ケ年計画というような机上プランを立てることではなくて、植林そのものを速かに実行するにあります。今や皇室御所有の御料林の全部百三十二万町歩と、もと内務省の所管であ
つた北海道所在の國有林二百四十六万町歩とを合せまして、全國の
山林面積二千四百万町歩の三分の一を占めますところの八百万町歩の大國有林を
農林省の林野局が一括経営するのでありますから、その責任は甚だ重大であります。これら國有林は峻嶮なる大山岳地帯に位するものが多く、その経営の良否が直接
治山治水の上に
影響を及ぼすのでありますから、一時の収入を図るに急にして、過伐、
濫伐に陥り、又は
予算難とか人夫難とかいうことに籍口して造林を怠ることは許されません。従来往々にして植林の
國家予算が、いつの間にか他の使途に流用されましたが、かかることは今後厳禁しなければなりません。國会は國有林の経営に重大なる関心を持
つておるものであります。(
拍手)
次の
砂防工事、
河川改修工事を徹底的に実施することは言うまでもなく必要であります。これには多大の資材と
予算を必要といたしますが、万難を排して至急に実施しなくてはならない。先ほどもお話のありましたように、大蔵省で
予算の出し惜しみをし、不完全な工事を施行しては何にもなりません。一文惜しみの百知らずということになります。先般木村内務大臣は本院で、今回の利根川の決壊
個所は戦争のために改修工事を中止した所に当ると御
報告になりましたが、利根川、
渡良瀬川、江戸川の合流点附近は昔から
治水上の要所であります。権現堂の堤が決壊すれば千住
方面に至るまで大洪水になるということは昔から言い丸られております。それ
がために膨大な
費用と永年の歳月を費やして築かれつつあ
つた利根川の堤防であります。それが今一歩というところでかかる要所の工事を延期したから、今回の大
水害を招いたということになると思います。歴代内閣の怠慢というべきであります。(
拍手)
水害対策上頂門の一針として長く國民の肝に銘ずべきことであります。堤防その他
河川改修施設の保全につきましては、当局はもとより國民一般も常にその重要性を認識し、堤防を菜園に使用して、「もぐら」の繁殖に任せたり、櫻を植えて地盤を緩めたりして、堤防を弱化するがごときことは断じて許されません。
橋梁の架設にも、耕地整理や田畑改良工事の実施にも、
治水上万全の用意を怠らず、一朝有事にこれらが
原因とな
つて堤防決壊を招くがごとき愚をえんじてはならん。内務省の荒川工事事務所職員が堤防上に菜園を設け、それが因となり、今次の
出水に際して堤防を決壊せしめんとしたと新聞紙は報じております。何という怠慢、何という不心得でありましようか。(
拍手)政府は厳かにこれを粛正して頂きたい。
以上申述べました諸見地から、ここに私は特に主張したいことがあります。それは現在の行政機構上、治山即ち植林と
山林の
砂防は
農林省の所管であり、
治水即ち
河川防砂と
河川改修は内務省の所管であります。然るに治山と
治水とは密接不離の
関係にありますから、今回内務省の解体に際し、須らく建設省を設置して、旧内務省の國土局に合せ、
農林省の林野局と開拓局、商工省の電力局、これらを建設省の所管に移し、
治山治水と併せて、大和水との利用
方面を綜合統一し、國土保安と國利開発の完璧を図るべきことを、ここに各位に提議するものであります。
最後に論及したいことは、
水害防備体制の確立であります。
水害に対する物的設備を補強するものは人的防備である。濁流が襲いかかり、堤防が崩れんとして、水防團員の決死の防禦により、これを救
つた事例は従来非常に多いのであります。然るに近年小康に慣れて、水防團の組織が弱体化していたとの評があります。
水害の危険を孕む川筋市町村の消防團は、平素から防火の訓練以上に水防の訓練を行い、又相互援助の組織を整えて置かなければなりません。(
拍手)進んで特別の水防組織が
関係各市町村を通じて結成せられるならば尚更結構であります。利根川のごとき大
河川については、数府縣に跨がる綜合的組織を必要とすると存じます。今回の
関東大
水害の苦い体験を教訓にして、一糸紊れぬ防備体制を確立することを政府に強く要望いたします。苦い経験も数年を経ると忘れがちになるのが我が國民の通幣でありまして、他國との戰争を全く放棄した今日、自然力との戰においてのも、治にいて乱を忘れざるの用意が必要である、これこそ
水害対策の要諦と存じます。(
拍手)