○
伊藤修君
只今上程になりました
法案につきまして、
委員会の
審議の経過並びに結果について御
報告申上げます。
先ず
國家賠償法案より申上げて見たいと存じます。この
法案は御承知の
通り憲法附属の重要なる
ところの
法案でありますので、
委員会といたしましては、
文字通り
愼重審議これが
審議をいたした次第であります。七月十日、二十六日、二十八日、八月十三日、二十七日、九月十七日と、以上六回本
委員会を開催いたしました。又小
委員会といたしまして、八月十五日、「八月十六日に開催いたしました。又治安及び
地方制度委員会との
連合懇談会を一回、九月十六日に催した次第でありまして、又
委員会における
ところの
懇談会を二回催した次第でありまして、以上通計いたしまして、十一回の
審議を重ねて参
つた次第でありますから、その間各
委員の御
発言は相当多量なものでありまして、その
内容におきましても貴重なる御
意見が多々あ
つた次第であります。先ず
松村委員、
松井委員、
小川委員、
山下委員、
岡部委員、齋
委員、
大野委員、
鬼丸委員、阿
竹委員らの各氏より十分なる御
質疑がありまして、これに對しまして司法省におきましては、
鈴木法相並びに
奥野民事局長より詳細なる御
答弁があ
つた次第であります。この
内容は実に数万言に達しまして、この要旨をここに掻い摘んで申上げるのみでも数時間を要する次第でありますから、甚だ遺憾ではありますが、この
質疑應答の
内容につきましては
速記録に讓りまして、ここにはこれを省略さして頂くことを御了承賜わりたいと存じます。
憲法第十
七條に、何人も、
公務員の
不法行為により、
損害を受けたる場合は、
法律の定める
ところによりまして、
國家又は
公共團体に対し、その
賠償を求むることができる旨が
規定せられておる次第であります。これは
從來國家が
公権力を用いる場合は、即ち「王は惡をなさず」と、こういう
法律的な公法上の
観念からいたしまして、いわゆる斬捨て御免であつだのであります。
國家はその
公権力の下に
國民に
行爲不行爲を強いまして、その結果
損害の生じた場合におきましては、
國家はこれに対しまして、特別な
規定のない限りは
賠償いたさなか
つたのであります。然るに
日本國憲法におきましては、
民主主義の
徹底と
基本人権の
確立、この二大原則の
徹底を図る
意味からいたしまして、この
憲法第十
七條が
規定せられました次第であります。この
國家賠償法なるものは、この
憲法第十
七條の骨組に対しましていわゆる肉附けをいたす
法案でありまして、誠に重要なることは申すまでもない次第であります。
憲法第十
七條によりましてこの
法案が立案せられましたのでありますが、
從來におきまして
國家がそれでは
賠償しなか
つたかと申しますれば、
從來におきましても、
公証人法、或いは
執達吏の場合、
戸籍法、こういうような特別の
法規におきましては、僅かに国民の
権利擁護のために
賠償責任を認められた場合があるのであります。又
郵便法におきましても、時代遅れの
規定が設けられておる次第であります。かような
從來の不合理極まる
ところのものを、ここにはつきり單行の
法律といたしまして
規定するという所以のものは、我が國が
民主主義及び
基本人権の
確立を達成せんとする
ところの熱意に外ならないと確信する次第であります。故にこの
法案に盛られておる
ところのものは、本來
民法において
規定せられても亦よいのでありましようが、前言申上げまするごとく、
法案の
重要性に鑑みまして、ここに
單行法律として立案せられましたような次第であります。
先ずその第
一條から御説明申上げて見たいと存じますが、第
一條におきましては
國家又は
公務員が、
故意又は
過失によりまして違法に
他人に
損害を加えたる場合におきましては、
國家又は
公共團体は、これに対しまして
賠償の
責任を有する。その第二項におきましては、
公務員に対しまして、
國家又は
公共團体はその
賠償した場合におきまして
求償権を持つ、こういうことが第
一條において
規定せられておるのであります。この
法律案の最も生命とする
ところはこの第
一條であるのであります。
憲法第十
七條におきましてさように立派な
規定が置かれましても、それが骨抜きになるか、実際において
憲法の
趣旨が
徹底せらるるかということは、この第
一條の
規定の
内容いかんによ
つて定まる次第であります。故にこの点に
委員会といたしましては論点を集中いたしまして、深く掘り下げて研究いたした次第であります。故に
原案通りといたしますれば、
故意又は
過失という
主観的要件に伴いまして、違法にという
客観的要件を具備しなか
つたならば、
國民はそこに
損害が生じたた場合におきましても、
國家又は
公共團体に対しましてこれが
賠償を要求することができないのであります。然るに実際の場合におきまして、
故意又は
過失という
公務員がさような
主観條件を具備してお
つたかどうかということを挙証することは、なかなか実際問題として困難であります。殊に
客観的要件の場合におきまする
ところの違法という問題に対しましても、これ亦非常に困難なる
ところの
要件であるのであります。故にこれに対しまして
委員会といたしましては、むしろこれを
無過失責任に持
つて行つた方が
憲法第十
七條に
規定する
ところの
趣旨を普く
徹底することになるのではないか、こういうような
意見があ
つたのであります。これは最も進歩した
ところの
法律理念でありまして「
理想といたしましては、この方向に將來とも
損害賠償の
基本観念を進めるということは、全く賛成せられる
ところであるのであります。今日の
日本の
情勢から考えまして、若しさような飛躍的な、
理想的な
法規を定めるということになりますれば、それによ
つて國家が多大なる
ところの
負担を負わなくてはならんという結果を昭來するということが予見せられるのであります。何となれば濫訴は勿論起り得る
ところであります。又
苟くも損害がありますればそこに
國家の
責任を認めまして、これが
賠償請求の場合におきましては、
國家が幾許の、幾数千億の予算をここに計上いたすと難も、この
賠償に應じ得ないというようなことをも予見せられることになるのであります。かたがた以ちましてかような大きな結果をもたらす場合におきましては、
公務員は自然に
行政行爲の
運用に当りまして臆病なり、控え目になるということになるようなことをも招來せられることが予見せられるのであります。かような
状態にな
つて参りますれば、いわゆる牛の角を矯めてその牛を殺すという譬に洩れすいたしまして、法は
理想的に構成できるといたしましても、実際の
運用の面におきましてこれが非常なる障害を來し、今日の
日本の
財政の面から考えましても由々しき結果を招來することが予見せられる場合におきましては、我々
政治家といたしまして、この点に対しまして遺憾ながら
原案につきまして賛成せざるを得ないような
状態に立ち至
つたのであります。本來申しますれば、
故意、
過失という
主観條件を除く、或いは違法という
客観條件を除く、こうした方がこの
法案の
理想であります。例えば違法という
條件がありますれば、
檢事が
不法に
勾引をいたし、
逮捕状を発した場合におきまして、その
逮捕状を発する権限は
檢事は適正に持
つておるのであります。この場合におきまして、その
檢事が
故意若しくは
過失の
主観條件を具備してお
つたかどうかということを証明するにあらざれば、この第
一條を以て
國民は
損害賠償を請求することができないのであります。故にさようなことはなかなか
賠償を請求する実際問題として困難である、
從つて少くとも違法という
観念をここから除いてはどうか、こういうような
意見を度々繰返したのであります。
政府当局といたしましては、この点に対しまして、
憲法は、
不法行爲ということを明らかに明記しておる、その
不法行爲の
観念は
民法の即ち七百九條の見出しにある
ところの「
不法行爲」をここに取
つて以て
規定してあるのでありますから、
民法第七百九條のいわゆる
他人の
権利を侵害しだという場合に正に相應するものでありまして、これは特段に違法という
文字に
意味を附けたものではないのである、こういうように極力これに対する
ところの
弁解をせられたのであります。要するにこの違法は、
民法七百九條に
掲ぐるところの
権利侵害より多少廣い
意味においてこれが表現せられておるのであります。今日
立法の形式といたしましては、
権利侵害ということを、違法という
文字を以て表わすという
傾向にあることは、我々も承知しておりますが、この
特別法におきましてかような
文字を使用することは、実際これを
運用する
ところの人々において、その
趣旨が十分咀嚼せられてその
完璧を期することを得ないというような危惧も我々に抱かれるのであります。
從つてこの点に対しまして
十分討議を重ねた次第でありますが、
政府当局は、極力これに対しまして
弁解に努められまして、即ち違法というこの
文字の表現は、
只今申上げましたごとく七百九條の
権利侵害に相應するものであ
つて、客観的にその
行爲が違法である、不正である、そういう場合は即ちここに違法となるのである。或いはその
行爲自体は、例えば
檢事は
勾引状を発する、こういう場合にその
行爲自体は正に
適法行爲である、併しながらそこに
故意若しくは
過失というものが主観的に加わ
つた場合におきましては、これは客観的に見まして、その
逮捕状を正当に発しました場合におきましても、尚且つ客観的にこれが
違法性を認められるという
意味合にこれを解釈すべきものだということを言明せられたのであります。又ここに違法という
文字を特に掲げたゆえんのものは、即ち
不法行爲の成立の場合におきましては、違法を阻却する場合におきましては、
國家若しくは
公共團体におきまして
損害賠償の
責任を負わないのであります。その
意味からいたしましても
違法阻却の本体を明らかにするために、ここに時に違法という
文字を使用したのである、こういうような御
弁解がありました。これに対しまして、いわゆる今日の
日本の
法律の体系から申しますれば、全般に亙りまして
過失主義を探
つておるのである。この
過失主義を飛躍いたしまして、
挙証責任を轉換せしめ、延いて以て
無過失責任までこの
法規の
立法体制を進めるということは、今日の
情勢におきましては少くとも尚早であるというような御
趣旨の御
答弁があ
つたのであります。我々といたしましても前言申上げましたような今日の実情に鑑みまして、この点に対しましては、折角この法を作る以上は、
完璧を期したいと考えたのでありまするけれども、さような事情によりまして遺憾ながら
原案に賛成いたした次第であります。又かたがた以ちまして
衆議院におきましても、この第
一條に対しましては
原案通り決定しておる次第でありまするから、この
意味におきましても、
衆議院の決議をこの点においては尊重いたしまして、止むを得ず第
一條は
原案通り賛成いたした次第であります。
尚第
一條におきまして、
公務員がその「
公権力を行うについて」とこういう
規定がありますが、この「ついて」という
文字は、「際して」ということよりは狹いのであります。併しながら
職務行爲自体よりは廣いのであります。
職務行爲自体は当然この場合に適応されます。又「ついて」と申しますれば、いわゆる
関連性のある場合に、たまたま
職務行爲を行う場合におきまして、
個人の不
正行爲があ
つたり、
個人の
不法行爲があ
つたりした場合に、いわゆろ本條によ
つて國民は
賠償を請求することはできないのであります。言い換えて申しますれば、繰返して申上げますれば、いわゆる「際して」よりは狹く、
行爲自体よりは廣く、いわゆる「ついて」と
規定した次第であります。次に二項の
趣旨は、これは多く申上げるまでもないと思いますが、二項は
國家が
賠償した場合におきまして、その
公務員に対しまする
ところの
求償権を
規定した次第であります。併しながら
國家は先程申上げましたごとく、
故意芳しくは
過失、
過失と申しますれば、その間におきまして重
過失、軽
過失共に含まれるのであります。軽
過失の場合におきましても、
國家はその
責任を負わなくてはならんのでありますが、併しながらその
國家の
公権力を行使する
ところの
公務員自体に対しましては、重大なる
過失のある場合に
限つてのみ
國家はこれに対しまして求償し得るということを
規定いたしまして、
公務員に対する
ところの親心を示した次第であります。若し
公務員に対しまして軽
過失までその
責任を問うというようなことがありますれば、これ亦
公務員の
一般行政の運行の上に差支えを生ずるような結果を招來するということになります。この点におきましてこの
法條は、いわゆる
國家が
公務員に対する
ところの
求償権をこの範囲に限定した
趣旨であるのであります。
第二條は、いわゆる
民法第七百十
七條に相当する
ところの
規定でありまして、
國家若しくは
公共團体が河川その他公の
営造物の
設置若しくはこれが
管理に当りまして、その間に
瑕疵がありますれば、いわゆる疵があ
つた場合、欠点があ
つた場合におきましては、それによ
つて損害を
國民に被らせたときは、
國家はこれに対して
責任を負う。
賠償の
責任を負うということを明らかにした次第であります。この問題に対しましては、
從來の
判例の
傾向はまちまちでありました。少くとも
量近の
判例におきましては、例の有名なる
ところの
東京都下でありましたか知らんが、
遊動円木事件というものがありまして、
遊動円木にたまたま小学生が乗
つてお
つて怪我をいたしました。これに対する
ところの父兄から
公共團体に
損害賠償を請求した
事件があ
つたのであります。この有名なる
遊動円木事件から
大審院の
判決の
傾向は、
國家も亦私人と同様にかような場合におきましては
責任を負うのであるという
判決をいたした次第であります。さような次第でありまして、必ずしも
大審院の
判決は一定していなか
つたのであります。故にここにおきましては
民法七百十
七條と同
趣旨に基ずきまして、
國家及び
公共團体のこれらの
施設物に対する
ところの
瑕疵に対して
責任を負うべき旨を明らかにいたしだ次第であります。
第三條は、これらの
國家及び
公共團体の
責任の
負担者を何人にするかということであります。これは第三條に表現せられたる
ところのものを以ていたしますれば、即ち
設置及び
管理をいたしますとこるの
國家及び
公共團体は、その
賠償の
責任を持たない。ただ俸給若しくは
設置保存に当
つて費用を拂う
國家若しくは
公共團体が
賠償の責に任ずるのであると、こういうふうに
費用負担者にこの
賠償責任を負わしめたのであります。これは
從來の
大審院の
判例から申しますれば、正に逆なことを
規定したのであります。
從來の
大審院の
判例から申しますれば、この場合におきましては
管理をする者において
責任を負うということが通例であ
つたのであります。然るにこの
原案によりますれば
費用の
負担者にのみその
責任を負わしめたのであります。故にこの
責任に対しましては我々
委員会といたしましては、第
一條は讓ると雖も第三條はこれを讓ることができない。若しこの第三條まで讓るといたしますれば、これは全く
憲法第十
七條によりまして折角この
國家賠償法案が立案せられましても、全くこの実用を爲さないことになる。
國民の
権利保護の上において全きを得ないことになる。こういうような
趣旨からいたしまして、この第三條を修正することにな
つた次第であります。この修正に対しましては後程申上げることにいたします。
第四條は「國又は
公共團体の
損害賠償の
責任については、前三條の
規定によるの外、
民法の
規定による。」こういうことを明らかにしておるのでありますが、これは
民法によると申しましても、
民法から援用する
ところの
法規は例えば
損害賠償の主体として、胎兒をすでに生れたるものとみなすとか、時効であるとか、或いは
過失相殺、こういうような
民法規定がここに準用せらるることと思う次第であります。かような
趣旨を
政府においては
答弁せられてお
つた次第であります。
第五條は「國又は
公共團体の
損害賠償の
責任について
民法以外の他の
法律に別段の定があるときは、その定める
ところによる。」こういう
規定があるのでありますが、これが今日の
状態におきましては
郵便法に特別に
損害賠償の
規定が定められて、
郵便一通を紛失した場合においては何程を
賠償するという
規定があるのでありますが、或いは他の
行政法規の上におきましてさような
規定があるかも存じませんが、今日例示的に申上げますれば
郵便法のごときものであるということを申上げて置きたいと思います。
第六條は、「この
法律は
外國人が
被害者である場合には、
相互の保証があるときに限り、これを適用する」。これは
国際法上少くとも
國家主義の色彩が濃厚であるのであります。いわゆる
相互主義に
基ずくところの
規定であるのでありますが、今日の
東洋方面における
國際情勢から考えますれば、この
相互主義を探ることも又止むなき次第であるということを我々は了承した次第であります。
附則の第六條は先程申しました
公証人がその
職務行爲を行う場合におきまして
依頼者に対しまして
損害を與えた場合におきましては、その
公証人が
損害賠償の
責任を負う、或いは
戸籍法の一部におきましても
戸籍官吏がその
届出人に対しまして不測の
損害を被らしめた場合においては、
賠償の
責任を負うということが
規定せられておるのであります。又
不動産登記法においてもさようなことが
規定されております。
民事訴訟法の五百三十二條においては、
執達吏の
職務行爲に対しまして
依頼者に対しまして
損害を蒙らしめた場合におきましては、これ又
執達吏が
責任を負うことが
規定されておるのであります。ここに
國家賠償法を制定せられまして第
一條に先程申しまするごとく
國家が先ず
責任を負い、而してその
公務員が重大なる
過失のある場合に
限つてのみ求償するということを明らかにいたしました以上は、これらの
特別法によりまして各
個人が
職務行爲について
責任を負うということは相矛盾する次第でありますから、附則において経過法といたしましてこれらの各
法律を削除いたしました次第でありまして、多く説明を申上げるまでもないことと存じます。
かような次第でありまして
委員会といたしまして第三條に対しては前言申上げますごとく、これに対しまして
原案に賛成することができないのでありまして、ここに松村議員より修正案が提出せられた次第であります。第三條中「
費用を
負担する者が、」を「
費用を
負担する者もまた、」と、この「もまた」という三字を入れたのであります。そうしてその二項に「前項の場合において、
損害を
賠償した者は、内部関係でその
損害を
賠償する
責任ある者に対して
求償権を有する。」こういうふうにいたしまして、その
賠償した者の間における
ところの
求償権の原則をここに定めた次第であります。かようにいたしました所以のものは、大体
不法行爲によ
つてその
責任を負うという者は、
不法行爲をなした者である。即ち公の
営造物、例えば河川、港湾、建築物、そういうものにおいて、少くとも相当なる注意をいたしまして、
瑕疵のないことを期しなくてはならん
國家及び
公共團体が、漫然とこの
瑕疵を徒過いたしまして、よ
つて以て
國民に対しまして
損害を與えた場合におきましては、
損害賠償の原理原則から申しましても、この
賠償に対する
責任は、その
営造物を
設置若しくは
管理しておる者それ自体が負うべきが当然であるのであります。
民法七百十
七條においてもその原則を定められておる次第であります。特段に
國家なるが故にその
賠償責任を免がれしめるということは、私は不合理であると考えられるのであります。殊に
公務員を使用する
ところの
國家が、
公務員の俸給をたまたま支拂う
公共團体に、いわゆる月給を拂うということのみによ
つて、その
公務員が何千、何百万の
損害を
國民に與えた場合におきまして、その僅かな月給を拂う
ところの
公共團体が全
損害賠償の
責任を負うということは、これ亦不合理であると考えられるのであります。
損害賠償の原則から考えましても、正に
責任ある所にその結果をもたらすことは当然のことであります。かような
意味合からいたしまして、我々はこの場合におきまして、
費用を支拂う
ところの者にのみ
責任を
負担せしめるということではなく、
國家も亦共に
責任を負うべきものであるという
ところの原則を定めた次第であります。又
政府の言う
ところによりますれば、この
損害賠償というものは、
費用を拂うという、その
公共團体のその
費用の中に
損害賠償金が入
つておるのだと、こういう
観念の前提の下にこの
法律を立案したのであるという御説明があ
つたのであります。この立案の糟神、
立法者のお考えというものは、根本的に
費用の概念の中に
損害賠償請求権が入
つておるということの矛盾があるのでありまして、純理から考えまして、地方
公共團体がたまたまその
費用を拂い、その月給を拂う場合におきまして、
損害賠償金まで拂うという意思を以てその
費用の
負担を認めたものではないということは自明の理であります。
又第三点に、例えば
國家が
管理をいたしまして地方
公共團体がその
費用を拂う場合におきまして、
財政の面の小さい
ところの、
負担力の少い
ところの地方
公共團体がその莫大なる
責任を負うということは、これ正に地方
公共團体の
財政を危くする
ところの基因をなすものど言わなければならんと思います。例えば河川法第六條及び第二十四條の但書の
規定によりますれば、河川は
國家においてこれは
設置いたしまして、而して
管理は府縣知事にこれを委ねられるのであります。それが原則でありまするが、その但書によりまして、
國家が
管理いたしまして、その
費用の一部を地方
公共團体が
負担する場合があり得るのであります。例えば大
利根川の堤防の工事に著しい
瑕疵がありまして、平水の場合に一夜にしてその堤防が決壊いたしまして、
関東平野一面が大洪水によ
つて数億円、数十億円の
損害を生じたような場合を想定いたしますならば、その場合において、或いは埼玉縣なり、千葉縣なり、茨城縣なりが、この損警の
責任を負う
ところの資格があるかどうかということを考えますれば、自明の理であると思うのであります。かような不合理を敢えてここに原則的に定めるということは、我々として賛成できないのであります。又第四点といたしましては、
憲法が第十
七條によりまして
國民に
損害賠償の請求権を與えたという以上は、容易にその
損害賠償請求権を行使し得るような体制を整えることが最も親切であると考えるのであります。請求権の行使がないものといたしますれば、それは有名無実であります。この
意味におきましても、
從來しばしば
國家の
不法行爲によりまして請求いたしました場合に、その当事者が的確でなか
つた。即ちそれは國が
責任を負うものでない、或いは
公共團体が
責任を負うものであるというので、その訴訟が却下されまして、その訴訟を度々繰返して、遂には貧困なる
ところの
國民は、厖大なる
ところの資力を有する
國家に訴訟上において実質上の
権利がありましても、これが
賠償の満足を得ることは得なくて泣き寝入りにな
つた事例も多々ある次第であります。かような点を救済する
意味におきましても……
國民は何人が
費用を
負担するか分らないのです。
その穿鑿をすることの煩を避けしむる
意味におきましても、
損害を受けた
ところの
國民は、
國家でも、
公共團体でも、いずれに対しましてもこれが請求し得るという途を開くことが、
憲法第十
七條の
規定の
趣旨に副うものと考える次第であります。以上四つの
理由からいたしまして、この修正案を我々は満場一致可決決定いたした次第であります。又修正案を除く部面に対しましては、
原案通り可決決定いたした次第であります。
かような次第でありまして、この修正の結果、果して然らばどうなるか、こういう問題が出るのでありますが、これは
國家若しくは
公共團体に対しまして、
國民が
賠償の請求をどちらに対してもできます。即ち一個の請求権に対しまして、二個の加害者に
責任を負わしめるのでありますが、本來一個の請求権でありますから、一個のいわゆる給付、一個の
賠償がありますれば、それによ
つて本來持つ
ところの
賠償請求権は消滅するのであります。手形の裏書者が数名ある場合におきまして、各裏書人に同時に請求ができると同一の
法律理念に立つのであります。
法律的に申しますれば、不眞正連帶ということになるのであります。かような次第でありますから、これを
賠償いたしまして……
國家若しくは
公共團体のその間におきまして、その本來
賠償をしなくてはならぬ者がたまたま
賠償しなか
つた場合、即ち
公共團体が本來
賠償するという場合において
國家が
賠償した場合におきまして、
國家は
公共團体に求償してその間の
賠償の結果を整理するということを、この
法律において原則を定めた次第であります。或いはこれに對しまして、この
法律においてさような点まで我々は考える必要はない。それは一般
民法の
規定によ
つて定めれば足るのではないかというような御議論もあるかも存じませんが、若しさような場合を想定いたしますれば、
民法の債権者代理、或いは連帶債務の
求償権、若しくは不当利得の
観念をこれに利用するか。いずれを似てこれを解決するか。今日までの場合におきましては、
國家の
公権力の行使によ
つて賠償した場合における
ところの、実際にかような問題が起り得なか
つたのであります。さような法制ではなか
つたのであります。して見ますれば、今後にさような難解なる問題を残すということは、法を作る者の親切が欠くる
ところと言わなければならんのでありますから、この
法律におきましてその点まで考慮いたしまして、結果の整理をいたした次第であります。ここに内部関係においてという表現をいたしたことは、これは今日までの行政
規定が区々でありまして、一々その
内容がどういうふうにな
つておるかということは、ここに想像ができないのであります。故にすべての場合を包含し得るように、内部関係においてと、こう定めた次第でありまして、内部関係が或いは一方に偏する場合もありましよう。分担部分が定ま
つている場合もありましよう。かようなことはいずれも内部関係においてこれを定むべきものである。そうしてその範囲において正しく
責任を負うべき者が負うということを明らかにいたした次第であります。かくいたしまして
委員会といたしましては、いわゆる
憲法第十
七條の
趣旨を
徹底いたさせ、而して
國民の
権利擁護を完からしめ、且つ又
負担部分の均衡を得せしめるという結果を狙いまして、これの修正をいたした次第であります。この点に対しまして、或いは
衆議院において反対があるかも存じませんが、我々は信念的にこの
法案に対する
ところの修正を可決いたした次第であります。以上簡単でありますが、御
報告申上げる次第であります。(
拍手)
次に
裁判所予備金に関する
法律案でありますが、これは極めて簡単な
法規でありまして、御承知の通り裁判所法によりまして、裁興所は
國家の経費の予算の上におきまして、独立して予算を持つことができるようにな
つたのであります。その予算の上におきまして予備金という項目があるのでありますが、これに封する
ところの
管理、支出についての
規定はないのでありまして、國会法の場合におきましては、
昭和二十二年
法律第八十二号によりまして、國会の予備金に関する
ところのこれと同様な
法規が制定せられておるのイであります。でありますから、この
法案にこの國会予備金に関する件即ち
昭和二十二年
法律第八十二号と同様な
趣旨に基ずいてこの
法律案が立案せられたのであります。
法律案の
内容は、ここに明記せられておりまするがごとく、この予備金は最高裁判所長官がこれを
管理いたしまして、そうしてこの支出に対しましては、裁判官会議によ
つてこれが支出することができる。事前、事後においてこの承認を経ることを要するということを明らかにした次第であります。この事前、事後という
文字の表現に対しましては、
委員より多々
質疑がありました次第でありますが、これはいずれも
速記録に讓りまして、省略させて頂きたいと存じます。かくて討論は省略いたしまして採決に入りまして、採決におきましては全会一致、
原案通り可決すべきものと決定いたしました次第であります。以上御
報告申上げます。(
拍手)