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國務大臣(
木村小
左衞門君) 今回の
関東、
東北地方水害の
状況に関しまして、私の所管に属しまする部分について御
報告を申上げたいと思うのでございます。
九月八日
マーシヤル諸島附近に発生いたしましたる台風は、漸次発達しつつ北上いたしまして、十五日の夕刻頃では
中心示度九百六十ミリバールとなりました。
東海地区において本土に上陸の氣配を見せていたのでありまするが、その後進路を
東北に轉じますると共に、これが二分いたしまして、房総半島南方洋上を三陸方面に通過いたしましたるために、
関東地方一体の風速は概ね二十メートル内外に止
つたのであります。この風によりまする被害は思いましたよりも極めて軽微でありましたが、今回の台風が多量の降雨を伴
つておりましたことは、各地に水害を発生いたしましたことは誠に遺憾でございます。
関東、
東北各縣に亘りまして雨量は二百ミリ乃至六百ミリの多きに上
つたのであります。六百ミリという雨量は実に稀有な数字に上りまする雨量でありまして、このために各河川、特に利根川及びその支流は各所において氾濫いたしまして、群馬、栃木、埼玉を
中心とする地区に甚大な被害を與えるに
至つたのでございます。その概要を現在までに入手いたしました
報告に基ずきまして、綜合いたしますれば次の
通りであります。
第一は埼玉縣であります。埼玉縣におきましては十四日來の豪雨で水量は未曾有の激増を來し、遂に十六日午前零時三十分頃、利根川中流の栗橋上流地点におきまして堤防が約四百メートルに亘
つて決壊いたしたために、水位約八メートル九十九に達していた利根川の濁流は、一時にこの決壊個所より流入いだしまして、栗橋より幸手に至る一帶は忽ち泥海となり果てたのでございます。一方十五日午後十時過ぎ荒川の上流熊谷附近の堤防決壊による氾濫は菖蒲、久喜方面に至り、この両者は杉戸附近で合流し、帶状とな
つて漸次南下いたしまして、現在同縣東南隔に達せんとしておる
状況でございます。そのため同縣下の約四十ヶ町村は泥水に被われております。この中、栗橋及び幸手附近の逃げ遅れました住民は、附近の高所又は堤防上に孤立するに
至つたのであります。以上の
状況を生じた被害の概数を申上げますると、死者が四十三名、傷者が十六名、行方不明が三十四名、家屋の倒壊及び流失三百五十九戸、家屋の浸水が六万六戸田畑の流失五百八十五町歩、田畑の冠水三万六千百六十九町歩、道路の決壊が多数、これは水の下にな
つてお
つて正確な数字がまだ判明いたしません。橋梁の流失が三百四十九、堤防の決壊が四十八ケ所に及んでおるのであります。この数字は被害の最も著しい栗橋、幸手附近の浸水地区のものを含んでおりません。これはまだ水の下にな
つておりまして詳細を知ることを得ないのであります。これが判明いたしましたるときには、被害は更に今少しく大きいものと予期しておる次第でございます。
次は栃木縣であります。栃木縣の被害の
中心は縣南下都賀郡の渡良瀬川及び巴波川、いずれも利根川の支流であります。この合流する地域でありまして同所附近部屋村、生井村の両村は堤防の決壊と同時に忽ち九メートルの水底に没しまして、約一万余の住民は身を以て逃れ附近の堤防に蜿々三里の長きに亘
つて難を避けておる
状況でございます。次いでこの被害の著しい地区は足利及び宇都宮附近でありまして、これらの被害を総計いたしますれば、死者が百六十大名、傷者が五十七名、行方不明が千四百九十八名、家屋の倒壊及び流失が一千七百八十六戸、家屋の浸水四万二千二百九十戸、田畑の流失三十五町歩、田畑の冠水一万千二百八十八町歩、道路の決壊は一千六百十八、橋梁の流失百四十、堤防の決壊一ヶ所でありまするが、この数は前同様被害調査の進むに連れまして更に増加するものと思われます。次は群馬縣であります。群馬縣の被害は主として赤城山麓から西部高崎に通ずる線以東でありまして、殊に渡良瀬川流域の被害が大きい模様でありますが、縣下全般に亘り交通と通信が全く
只今でも杜絶いたしておりまするため、被害害詳細を知ることは甚だ困難の状態であります。群馬縣
当局が徒歩連絡その他あらゆる方法で行いましたところの調査の結果、
只今まで判明いたしておりまする数を申上げますると、死者が二百九十四名、傷者が二百九十三名、行方不明が三百五十八名、家屋の倒壞及び流失三千二十戸、家屋の浸水七万二千九百四十八戸、田畑の流失冠水が五万六千町歩、道路の決壞が百八十六、橋梁の流失が二百七、堤防の決壞が七十三ケ所であります。これも前同様調査の進むに從いまして数字は更に増加するものと思われるのでございます。以上の外に茨城縣では死者が四十名、傷者が十三名、行方不明十七名、家屋の流失及び倒壞が二百六十三戸、家屋の浸水が一万四千四百七十八戸、田畑の冠水一万五千百七町歩、道路の決壞百十七、橋梁の流失百三十一、堤防の決壞百十六、尚宮城縣では死者が一名、行方不明九名、家屋の流失二十五戸、家屋の浸水が一万千三百八十三戸、田畑の流失が五百八十町歩、田畑の冠水が三万二千四百五十七町歩、道路の決壞が八ヶ所、橋梁の流失が七百八十六ヶ所、堤防の決壞が百二十五ヶ所でありまして、尚岩手縣では家屋の倒壞及び流失が六戸、家屋の浸水が一千百六十八戸、田地の流失が百三十九町歩でありまするが、この外一関方面に相当の被害を蒙
つておるような模様であります。これも
東北は
只今のところ十分なる連絡が付かないような状態であります。福島縣では死者が七名、家屋の浸水三千二百一戸、田畑の流失百二十六町歩、田畑の冠水が三千八百四十五町歩、道路の決壞が二十六、橋梁の流失が三十二、堤防の決壞が九十二の被害が発生しておりまして、その詳細は目下急いで調査を進めておりまする次第でございます。尚東京、千葉、神奈川、山梨、長野、新潟、靜岡、愛知、山形、北海道、その他にもかなりの被害がある模様でありまするが、その
程度は先に申上げましたる六縣に比してやや軽微である模様であります。
次に以上の被害に対処いたしまして、各府縣のとりました警防、救護等の対策について
簡單に申上げます。今次水害によります被害を蒙りました各縣におきましては、それぞれ被害の甚大な地区に対策本部を現場まで前進いたさせまして、各縣廳幹部職員を出張いたさせますると共に、
関係現地諸機関と緊密な連絡の下に、給食、避難、医療その他
各種の救護措置に当
つておるのであります。又台風に伴う豪雨の襲来に備えて、各縣では逸早く警察官、警防團員等を召集し、危險地域の住民に警報又は避難命令を発し、或いは防水作業に当らせる等、万全の事前措置を講じておりましたために、堤防の決壞により濁流に呑まれました地域におきましても、被害を相当範囲に軽減することができた模様であります。尚未だに埼玉縣栗橋、幸手方面におきましては廣汎な地区に亘
つて濁水に被われておりまするために、逃げ遅れましたる住民の一部は水中に孤立して救いを求めておりまするので、埼玉縣
当局におきましてはこれが救出にあらゆる苦心を拂いつつありまするが、二ヶ所の決壞部より流入する水勢に妨げられまして、救出作業は思うように十分にできかねております。併し幸いに現地進駐軍の非常な厚意によりまして、昨十七日より軍用舟艇数隻の出動による強力な援助を
受けることになりましたために、救い出し作業は大なる威力を加えて来たのでございます。更に又岩手縣下一関におきましては、交通通信杜絶のために
罹災者の救護及び連絡等が全く不可能に陷りまして、これが対策に窮していたのでありまするが、現地軍
当局の大なる厚意によりまして、直ちに大型飛行機三機を出動せしめて落下傘による食糧の投下連絡等に当
つておる
状況でありまして、これらの措置により示されましたる進駐軍
当局の厚意は誠に感謝に堪えない次第であります。又埼玉縣東部を栗橋、熊谷方面より南下しつつありますところの濁流は、最悪の場合には東京都の足立、葛飾、江戸川の各区にも及ぶ虞れがありますので、警視廳におきましては、これに対しすでに万全の対策を講じておるのでありますが、尚中央においても、被害府縣の救援につきましては視察連絡員等を各地に派遣いたしまして被害の実相を把握するに努め、強力な救援に全力を挙げておる次第であります。決壞いたしました堤防その他公共土木施設の復旧につきましても、極力迅速にこれを行う所存であります。又中央には水害対策本部を今日の閣議で決定いたしまして、
関係各省相互に緊密なる連絡を取
つて万遺憾なきを期しておる次第であります。
最近山林の過伐に加うるに、戦時中における河川工事の縮小、繰延又は維持補修の不十分なるため、河川は極めて危殆に瀕しております。現に今回決壞いたしましたるところの栗橋約四キロの上流の箇所は、この大利根の改修ということにつきましては、内務省は御
承知の
通り殆んど三十年に亘
つて心血を注いでこれを努力いたしました。計画水位初期からありまする限りの記録を取りまして統計を取
つた水位、これを計画水位と名づけまして、計画水位の高さの堤防を築いて來たのでありまするが、今回決壞いたしましたる所まで参りまして戰爭となりまして、遺憾ながらそこで繰延べられて打切らざるを得なか
つた状態にな
つております。今回決壞いたしましたのはその辺から決壞いたしたのであります。こういう極めて危殆に瀕しておりますことを
承知いたしておりますので、先ず河川の維持管理をできるだけ十分にいたしまするために、本
年度は前以て河川の
災害防除施設補助費を、前年は一千万円でありましたのを五千百万円に増額いたしまして、河川改修費も
追加予算等にできるだけ増額に努めて参
つたのであります。尚又府縣に対しましては、河川愛護観念の徹底及び水防活動について遺憾なきを期するよう、機会がありまする
ごとに指示督励をいたして参
つて来たのであります。尚
只今の水災の應急対策としてどういうことをいたしましたかというと、取敢えず應急の策といたしましては、決壞個所の水位が低下いたしまするまでは手が着けられません。約四百メートル乃至四百四十メートルという決壞個所の切断の幅員でありますから、もうすこし水位が低下いたしませんと手が着けられません。この水位低下を待ちまして一刻も早く決壊の切り崩れました個所を締切りますことを急がねばならんと思
つております。これが刻下の対策でありまして、各方面に手配いたしまして、これに要する資材の蒐集に努めております。利根川の決壞個所の締切り用といたしましては、すでに空俵、土俵二万俵、丸太杭二千本の手当を各その所に置いてあります。これに対する緊急処置といたしまして、公共事業費より取り敬えず一億円を支出いたしまして、人夫五百人、一週間の予定を以てこの切り崩れ個所を締切りたいという考えでおります。水位が低下いたしますれば、多分その作業も完了することと信じます。以上
簡單でございますが、御
報告申上げます。(
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