○伊藤修君 只今上程になりました法案につきまして、その
内容並びに
委員会の
経過及び結果につきまして御
報告申上げます。
御
承知の
通り、戰災によりまして多数の人々が家を失いまして、住むに住む所ないというような状況でありましたので、これらを救済するために、
罹災都市借地借家臨時処理法というものが施行せられた次第であります。この法律はこれら戰災に罹つた借家人を保護するために、又疎開によりましてその家を失つた者を保護するために、これらの人が元の住居に帰つた場合に、その土地に対するところの借地権がないのでありますから、再びそこに住まうことができない。これを救済するために、借地権がない場合におきましては、その所有者に対しましてその借地を優先的に求めることができる。又借地権がありました場合におきましては、この借地権者に、即ち元の家主の持
つておる借地権者に対しまして、その借地権の譲渡を求め得られる。而も優先的に求め得られる。こういうことを規定せられましたところの各
條項であるのであります。然るにこの法律は昨年の九月十五日に施行いたされまして、これらの優先的に保護せらるべき規定の有効期間は、本年の九月十四日を以て終了する次第であるのです。併し現在
日本全國のこれらの不幸な罹災者諸君の現状から見ますならば、いずれも完全に復帰いたしまして、そこに住居の安定を得たという者は、その全数から申しますれば幾割でもないのであります。これは復興状況の現状から申しましたが、又都市に轉入を許さざるところのあの規定から申しましても、交通難の
事情から申しましても、資金、資材のこの逼迫したる時代におきまして、容易に建築をなし得ないという現状にあるのであります。又過般当院におきまして住宅問題で御
討論がありました際に、
皆様のお説の中にも多々拝聽せられましたが、現在の建築制度のあの制限規定というものが非常にこれを阻害しておる次第であります。これらの幾多の
條件によりまして、
事情によりまして、法律が当初期待いたしました一ヶ年間では、これらの罹災者が元の土地に帰
つて住もうということができないという現状であるのであります。即ち具体的に申しますれば、先に住ま
つておつた所に自分の住む家を作るということができなかつた。こういう
事情にあるのです。かくてはこの法律を作りました目的、又多数の罹災者を救済するという大きな目的が達せられない
事情にあるのでありまして、この法律を今一年延長いたしまして、以て東京都を始め全國百八箇所に亘るところの市町村の各罹災者諸君の住居の安定に対しまして資することを期したいと、かような
意味合からいたしまして、この法案は提案された次第であります。(
拍手)
この法案の
内容につきまして簡單に申上げますが、第二條の第一項中に、先程申上げました一ヶ年の賃借申入期間、即ち優先権を獲得するところの申入れ期間を、この法律施行の日から二ヶ年とするという変更であるのです。故に今日から申しますれば、この九月十四日から申しますれば、更に一ヶ年延長するということになるわけであります。それから「第七條第一項及び第三項中「六箇月」を「一箇年」に改める。」この
條項は、当時法律が六ヶ月として予定しておりましたが、これ亦先程の趣旨からいたしまして、これを一年に延長いたします。「第十二條第一項中「一箇年」を「二箇年」に、同條第四項中「區裁判所」を「地方裁判所」に改める。」これは御
承知の
通り裁判所法が施行されまして、從來の区裁判所というものが廃止いたされまして、地方裁判所若しくは簡易裁判所ということになりましたので、この場合におきましては地方裁判所の管轄に属するという
意味におきまして、当然区裁判所を地方裁判所と改められた次第であります。「第十八條申「區裁判所」を「地方裁判所」に改める。」これも前申上げました理由でありまして、第十九條第二項中「地方裁判所長」を「地方裁判所」に改める。」これは所長個人の推薦、鑑定
委員の推薦を所長個人であ
つたのを裁判所がこれを推薦すると改められたわけであります。「第二十二條中「
勅令」を「政令」に改める。」これは勿論でありまして、今日
勅令というものがございません。あり得ないのでありますから、これを政令に改める。こういうことにな
つたのであります。ここに第二十五條の二として新たなる規定が設けられた次第であります。この條文は非常に分りにくい條文でありますが、「第二條乃至第八條、第十條乃至前條、」即ち二十五條です。「及び第三十五條の規定は、別に法律で定める火災、震災、風水害その他の災害のため減失した建物がある場合にこれを準用する。」即ちこの法律は戰災による罹災者のために設けられた法律であるが、今日まで我々の知るところにおきましても、関西における風水害或いは飯田市の大火災、その他全國において数回大きな火災があるのでありまして、これに対しましては戰災による被害と殆んど同一のような
状態にあるのでありますから、これを同様にやはりこの法律を以て保護してはどうかと、かような
意味からいたしまして、この新らしい規定が設けられた次第であります。続いて「この場合において、第二條第一項中「この法律施行の日」及び第十條中「
昭和二十一年七月一日」を「第二十五條の二の法律施行の日」と、第十一條中「この法律施行の際」を「第二十五條の二の法律施行の際」と、第十二條中「この法律施行の日」を「第二十五條の二の法律施行の日」と読み替えるものとする。」と、非常にややこしい規定でありますが、これは先程申しました「別に法律で定める火災、震災、風水害、」これに対しまして別にその都度法律を出す。その出した法律の施行される日、発布せられる日を
基準にいたしまして、その日から起算するとこういう
意味合でありまして、でありますから、この條文中にあるその日を只今新らしく出るところの、今後出る法律の発布せられます日と読み替えるというのであります。かような
意味合でございますから、第二十五條の二はただ期間の起算点を定めた次第でありまして、且つ又本法を戰災による以外の災害にも適用しようという趣旨であるのであります。
次に「第二十七條 この法律(第二十五條の二の規定を除く。)を適用する地區は、法律でこれを定める。」「第二十五條の二の規定を適用する地區は、災害ごとに法律でこれを定める。」「第二十九條第一項中「一箇年」を「二箇年」に改める。」それから附則といたしまして、「從前の規定によ
つて定められた地區は、これを第二十七條第一項の改正規定によ
つて定められたものとみなす。」こういう
内容であります。
ここに先程申しました東京を初め全國百八つの地区が昨年の
勅令、即ち
昭和二十一年の四百十一号の
勅令を以てこの地区が指定せられておるのであります。併しそれは
勅令でありますから、この法律によ
つて改めてこれを法律の
内容とするということを二十七條の第一項に定めた次第であります。第二項におきましては、今後例えば飯田市にこの法律を適用する、或いは大阪にこれを適用するというように、新らしく適用する地区は、その都度法律を以てこれを定める、こういうふうにいたした次第であります。先に当院におきまして
労働省設置法案につきまして、すべて政令を排除し法律を以てするという当院の見解は、正に
衆議院においてその後かような法案として現われて
來たことを非常に欣快とする次第であります。(
拍手)つきましては
委員会としてはこれに対しまして、
審議を予備審査といたしまして二日、本審査として一回開いた次第でありますが、予備審査の時におきましては、只今申上げました法案と異なるものであります。殆んど
内容が違
つておると言うてもよいくらいの法案が出ておるのです。即ち第一條に、風水害及び震災、火災というものを規定いたしまして、第九條に、疎開建物に対する取扱規定を設けて参りまして、その他法案が、只今申上げました法案とは多少異同のあるところの法案が出て参りました。当時
委員会といたしましてこれに対して
質疑が重ねられまして、第一條の矛盾と第九條の各矛盾と、それから附則においての矛盾と、こういうものを指摘いたしましてこの法案に対するところの
政府の
意見も質しましたところ、
政府もこれに対しまして反対の意思を表示せられました。故に
委員会といたしましては、提案者に対しまして法案の整備を図
つて頂いて、改めて提出して頂く、こういうことを御希望して予備審査はそのまま審査を中止しておつた次第でありますが、昨日
衆議院におきまして、この参議院の意思を体しまして修正せられまして、本会議に上程し可決して、昨日午後四時に参議院に回付せられた次第であります。直ちに
委員会を開きまして審査をいたした次第でありますが、
委員会といたしましては、この期間の延長に対しましてはすべて
了承せられるのでありますが、二十五條の二の規定に対しましては非常なる疑義を持ち、これに対しまして
質疑應答が盛んに繰返されまして、遂には懇談会に移りまして、約一時間余に亘りまして、これに対して
審議をいたした次第でありますが、結局
委員会におきましては、これに対しまして或る点の
了承を得まして
質疑を打切り
討論に入つた次第でありますが、
討論の場合におきまして松村議員より、この二十五條の二に対しまして反対の
意見を強く主張せられた次第であります。その理由は、元來かような臨時法規の
内容に恒久的性質を有するところの法規を盛込むということは、立法の技術から申しましても、立法の建前から申しましても不穏当であるということが第一点であります。又この二十五條の二をここに挿入することによ
つて、來年一年を以て権利関係はその後十年続きますけれども、少くも法律の実体といたしましては、來年一年を以て終了すべきこの法律が、この規定によ
つて災害ごとに運行して來ることの実情に至るではないか、然らば永久法律となる。さような永久法律ならばむしろこの法律の体制に便乘せず、單行の法律として改めて提出することが妥当ではないか、こういう御
意見でありまして、ただ前段の期間の延長に対しましては、これは賛成する。こういうふうな趣旨の御
意見がありまして、
本案に対するところは絶対に反対するという強い御意思の表明がありました。その他齋君或いは松井君、小川君、來馬君、各議員の御
意見は大体におきまして松村議員の只今の御主張に対しましては賛成である。併しながら今日この法律がすでに旬日にしてその効力を失うことに立至
つておる場合におきまして、若しその点を以てここにこの法案を握り潰す、若しくは否決する、修正するということに立至りますれば、この法案全体が潰れることになり、延いて以て本法がその施行の効力を失うことに至りますから、多数の全國の罹災者諸君に対するところの迷惑は測り得べからざるものがあり得るものと考えらるる。故に理論としては松村議員の御主張に賛成はするけれども、今日の実情といたしまして、この法案に対して賛成せざるを得ない実情にある。尚松村議員の御主張にかかるところの御懸念は、将來この法律に対しまして、例えば飯田市にこの法律を施行するという場合においては、別に定める法律、即ち政令を以てはできないのでありまして、改めて立法
形式を以て上院、下院にこれを提案されなくてはならん。その場合において我々はこれに対して十分檢討をして、この法律を施行することの適否を
決定すれば足るのではないか。正に我々が立法権を握
つておるのであるから、その時においても遅くはない、故に本法においてその原則を定めるという、かような災害に対して戰災者と同樣な立場において保護するという原則を定める
程度であるから、これはこの場合においては我々はこの改正案に対して賛成せざるを得ないというような御趣旨の御
意見があ
つたのであります。
採決の結果過半数を以てこの
衆議院の修正可決
通り可決すべきものと
決定いたしました次第であります。以上御
報告を申上げる次第であります。(
拍手)