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羽仁五郎君 私のこの問題についての考は、先日の
文教委員會の席上で申上げた通りでありまして、私の根本精神はこの
請願をお出しにな
つた方、又御紹介にな
つた梅原委員と全く同じであ
つて、
國民の間に
宗教的情操を高めたいという目的においては全く同じなんです。私
自身も
實際日本人の間には、必ずしも現在の若い人と言いませんが、
從來の
日本人の間には
宗教的情操が非常に低いということを、歴史的にも痛感いたします。例えば江戸時代の
日本の儒者が無神論であるというふうに普通言われているのですが、よく
研究して見ると全然深い
哲學的な無神論じやないですね。つまり佛教なり、
宗教についての理解のない、つまり機械的なものであるのです。ああいうふうな江戸時代の錚々たる儒者がああいう
宗教に對する低級な理解しか持
つていない、それを今日の
日本思想史を
研究される方も、江戸時代の儒者のああいう
宗教に對する無理解を無神論であるかのごとくに、思想的な
内容を持
つた無神論であるかのごとくに誤解しておる。そのためには實は
宗教的情操を高める問題と、今
一つは
日本における無神論というものが信仰の自由の上から、健全に成長する上からも、私は
宗教的理解を高めたいということを實に切望するわけなんです。
宗教的理解というものがないところに無神論が發生する、これは
實際非常に危險です。そういう滅茶苦茶な無神論は、本當の思想的な
内容を持たない。
宗教に對しては全然無理解の無神論が起
つて來る。そういう
意味から
日本では
宗教は理解されていないし、無神論が理解されていないし、全くつまり我が
國民のモラルというものは實に歎くべき状態にある。そういう
意味で私も實は永年に亙
つて、我々が一般に
宗教的な理解を高め、
宗教的な情操を高めたいということを
實際切望して來たのでありまして、この目的においては全くその
請願を提出された方、又御紹介にな
つた方々に深く訴えたいと思うのですが、目的は全く同じでありまして、私もその點完全に御同感なんです。この點に御同感であればある程、そういう目的を實現する
方法が、こういう
方法において取られることが
適當ではないかということを非常に心配するわけなんです。
實際問題として我々が
教育の上で體驗をして參りました場合にも、人の内心に關する問題は、外面的な強制が少ければ少い程
實際の效果があるということは、先輩の諸君のよく御承認下さるところであると思うのです。外面的の力が加われば加わる程、内心の問題が逆の效果が常に發生して來る。これは我々
教育に
關係しておる者の痛切の體驗であり動かすことのできない眞實であると思いますので、私はこの
宗教に對する理解を高め、
宗教的情操というものを高めるということを切望すればする程、これが公立學後において教
科目に組み入れられるということが、悲しむべき結果を生みはしないかということを非常に恐れるのです。
日本の青年は過去においてそういう點で非常に氣の毒な目に遭わせ過ぎておるような氣がするのです。私
自身もまだ青年であるからその感じが非常に痛切なんですが、内心の問題に對して指圖されることが餘り多過ぎる。
從つて内心からそれを
研究したいと思
つておるときに、形式の上から教
科目として公立
學校でこれをやれということを言われると、青年の純情の
氣持としては、どうしてもこれを純情に受入れることができない。そうして素直に
宗教を理解し、素直に
宗教的情操を高めることとは反對に、
日本では絶えず
宗教がそういう公的な權力の力を借りるという點において反撥を感ずる、こういう
實情が非常に多いのです。現在
師範學校の
實際を見ても、實は私共の高等
學校時代の體驗を顧みても、
宗教に對する講義どころじやない、倫理學についての講義ですら我々率直に言
つて反感を非常に懷いたということを申上げなければならないと思うのです。善をなすということを
學校で公式に講義をされるときに、我々
自身の内的な善に對する意慾というものは、むしろ逆の效果を發生するのではないか、惡をすることもできるのだ、惡をなすこともできるが、自分たちは善をなすのだというところに我々倫理的行爲の價値があるのである。
從つて宗教的情操を高め、
宗教的理解を深めるということは、そういう便宜を與えられたからそういう活動をするとは限らないのであ
つて、これは
宗教の歴史自體が示しておるように、
宗教はむしろ迫害された場合にその信仰が非常に純粹のものになる。優遇せられた場合にその信仰が非常に腐敗するという歴史上の事實が示しておる通りである。何も私は
宗教なり思想なりが迫害せられることを少しも希望するものではございませんけれども、併し優遇されることによ
つてそれが高められるということはないのである。で現在の公立
師範學校に入學されるところの青少年諸君の心理状態を
考えますと、どうかこの委員においてもその點を十分お汲取り下さ
つて、御裁斷を願いたいというふうに訴える次第であります。先日の
文教委員會におけるものと同じ
趣旨であります。たびたび同じ
趣旨を操返して申譯けないと思いますが、御了解を願いたい。