○國務大臣(森戸辰男君) 六・三制については、兩院、ことに當院におきましては力強い御指示を頂きまして、心から感謝をいたしておるのであります。然るに私共が目途としておりました十四億が、後に述べるような事情で、差當り先ず七億と決定されたという事態になりました。この點につきましては、私自身としては極めて止むを得ない事態であるにも拘わらず、誠に遺憾と存じておるのであります。御
承知のように私共は新しい
日本の建設のために、
教育刷新ということが、極めて基本的な政策の
一つであり、その
教育刷新の中で、最も直接的なものが六・三制に現れた
新制中學の
實現であるということは、度々申した通りであります。勿論私共は六・三制の完遂というようなことを一度も申したことはないのであります。今日窮乏の
日本で六・三制の制度が完全に行われると考えることは、これは實は事態の正しき認識でないと存じておるのでありまするから、今日の窮乏の
日本に即しながら、できるだけ十分にこれを
實現して行こうというのが、
政府も亦私もしばしば世間にも申上げたところであります。そうしていろいろ考えがありましたけれども、閣内においても考えがありましたが、結局七月十五日の閣議で三十一億の追加
豫算、その中約半額十四億弱が
國費で支辨されるということに一應内定されたのであります。勿論これは内定であります。
政府も更に審議を續けて行き、それについてはいろいろ交渉する
方面もありますので、それが確定的のものでないのは皆さん御事情のお分りの方には
説明を要しないことと思うのであります。併しそれにしても冬が近くなりまして、來年の自然増加の生徒のための校舎は、來年に
なつてから
豫算ができたというて建てるのでは勿論間に合いません。殊に二部教授等の子供
たち、又假教室のひどいものについては、冬にはなんとか校舎が出來ればしてやらなければならんというような見地から、實はかようなまだ内定の状況にあるにも拘わらず、私共はこれを各府縣に割當を内示いたしたのであります。これは飽くまで内示でありまして、話す者も聽く者もこれが確定的の
豫算であるということは考えてはいないのであります。後に決まりましようが、大體こういう方向に決まるであろうというような考えでこれを聽き又これを話したのであります。併し他面先程申しましたような事情から所によ
つては建設を急ぎますので、府縣においては更に町村に割當をいたし、町村によ
つては計畫を立て着工している所も寒冷地帶においては存在してるような實情にあ
つたのであります。かようにして實は内示されまして、一
部分はそれに基いて冒險的ではありますが、止むを得ざる事態のために着工しているところもあるのでありましたが、かような事態を一方に持ちながら追加
豫算の審議が進められて參
つたのであります。ところが丁度不幸にも我々の豫期せざる關東の大水害がありました。これは全く私共の豫期せざるものであり、且つ何十年に一度という大洪水でありまして、その損失、被害というものは特に皆さんの御存じの通りで、而もそれの復舊のためには、いわゆる建設
資材というものが全く豫期せざる大量を必要とするという事態が生じて參
つたのであります。勿論私共はそれより前からも公共事業というものが、殊に盛られている内容から言
つても、もう少し大きな枠を持たなければならんと存じまして、かような考えから
豫算についていろいろ考慮いたしたのでありまするが、
矢野委員の申されたように、現在統計にとられている
材料に基いては、實は五十二億という大體の枠が決まりまして、その中から公共事業も支辨していかなければならないという事態に當面いたしたのであります。これは私共としては殊に六・三制の問題を持
つております者にと
つて誠に遺憾なことでありましたけれども、併し五十二億の中から支辨せざるを得ない状態に
なつたのであります。そうしますと、この夏の災害の復舊という誠に緊急な
費用と、他面新
日本建設に
なつては缺くことのできない六・三制という
費用とが競合するという事態に
なつたのであります。で私共は實はこの五十二億の公共事業費の割當については、今夏の災害復舊と六・三の制度を優先的に考えて行われるようにと考えたのでありますが、併し公共事業に盛られたものについては皆實は非常に切り詰められたものであり、取られては困るものだけとみてよい事態でありまして、なかなか適當なところに割當を落着けることが困難でありまして、結局總理に案を作
つて頂いて、それによるというような事態になりました。そうして今次議會に提出された五十二億の中におきまして、七億というものが先ず取あえず六・三制に當てられてるという事態に
なつたのであります。これは先程も申しましたように、私共前々から考えておりまする額の半分でありまして、なかなか豫定の通りには六・三制を運ぶことが困難な事態に
なつたのであります。更に先程申したように
地方によ
つては工事に着手しておるところもありますので、これらの
地方についても適當な處置を考えなければならんという事態に當面しておるのであります。これが今日の事態でありまして、この點について私の考えを申上げるならばただ
一つ忘れられておることは、
政府がこの窮乏な事態にも拘わらず、六・三制はやるという決意を固めたということは、これはしばしば忘れられておるのでありますが、重要なことであると思
つております。というのは、世の中には、こう困
つておるのだから、
資材も足らんのだから、六・三制は廢めたらよいじやないかという
意見が相當にあるのであります。それから廢めなくても當分延ばしたらよいじやないかという
意見もなかなかあるのであります。併し
政府は、それはいかん、六・三制はこういう窮乏の間にもや
つて行かなければならんということが示されておる。今年やるということは續いて來年もや
つて行くということが表明されておるということは往々にして看過され勝ちでありますけれども、この點は私は重點を置いて今日の事情から言うと考えて頂きたいのであります。併し七億では決して十分なものではないのであります。この事實も亦明らかでありまして、私共は單に私個人でなく、
政府が極力努力をして不足の額を充たしていこうという考えに立
つておるということであります。勿論それにはいろいろ手續も要りましようし、
資材との勘案も要りましようし、
只今直ぐその方途を具體的に申上げることはできないのでありますが、そうして、中には
資材を伴なわず支辨されるものもあり、又
資材が今後いろいろな形で餘計に生産されたり、又他面から出て來るという場合もありまして、そういうような事態を考えながら足らないところを補
つて行こう。こういう考え方に立
つておるということであります。併し仕事を始めておる者は、どういうふうになるのであるか、そういう人々がそれがために非常な損害を蒙るのでないか、という御心配もあるようでありますが、これを早速事務當局で、今日六・三制はいかなる進捗状態にあるかということを具體的に調べまして、そうしてそれの進捗の度に應じた適當な方策を立てたいと存じております。それがために
地方に迷惑を掛けるということは、斷じていたさない覺悟を持
つておるのであります。大體これが今日の現状でありまして、私といたしましては、最善の努力は、この得られました七億を更に我々の目標としたところに擴大して行くということであり、そうして閣僚の諸君もさような意圖を持
つておりますので、そういう方向に最善の努力を盡したいと存じております。そうしてそれをなすことが、この窮乏の間に六・三制度をどうにかして守り立
つて行くということが私の責任である。私の責任を問われれば、そのことが私の責任であると、私は申すより外はないと存じております。