○
政府委員(笹山茂太郎君) それでは
只今から
自作農創設特別措置法及び
農地調整法の一部を
改正する
法律案につきまして、提案の
理由を御
説明申上げます。
農地改革の進行状況は、各位の御承知のごとく、略々順調であります。
政府はすでに三月三十一日、七月二日及び十月二日の三囘に亙り、六十九萬七千町歩以上の農地の買收を完了いたしました。この外財産税として物納された農地で、八月末日現在市町村
農地委員會で判明いたしております分だけでも二十二萬九千町歩に上ります。兩者を合計いたしますと、少くとも九十二萬六千町歩の農地が小作農に解放される状態にあるわけでありまして、これる解放
豫定面積の略々半ばに達するものであります。他方農地の賣渡しにつきましては、まだ八萬六千町歩程度に過ぎないのでありますが、これは市町村
農地委員會におきまして、先ず以て買收に全力を盡しているからでありまして、今後は賣渡の方も併行して處理して行けるものと期待しているわけであります。かくのごとき大事業がかくも短期間に、而も平穩裡に行われているということは世界における農地改革史上空前のことでありまして、本事業が完成いたしました曉には、耕作農民はただに經濟的に獨立し得るばかりでなく、精神的にも
從來の地主的秩序から解放されて、日本農業發展の礎がここに定まるものと信じて疑いません。
農地改革の進行状況は概ね以上の通りでありますが、さて農地改革の目的とする所を更に推し進めて考えますると、農業經營上も重要な
意味を持
つております放牧採草地に對しても、農地と同樣の改革を行うことが必要でありまするけれども、又山林中農業經營と密接不可分の
關係にある農用林についても、農業經營を安定せしめるため必要な範圍において、適切な措置を構することが必要であります。これと同時に
關係法令、即ち
自作農創設特別措置法、及び
農地調整法の規定中、
實施の經驗に鑑みて、若干改善を要する點も發見いたしましたので、ここに兩
法律の
改正法案を提出いたしますわけであります。
次に兩
法律の
改正案について大體の御
説明をいたします。先ず
自作農創設特別措置法の一部を
改正する
法律案から申上げます。
先ず第一に、農地改革の一環として自作農の創設及び土地の集約利用を
促進する目的を以て、新に牧野の開放を行うことといたしました。戰後の我が國として、國土の完き有効利用を圖ることの急務であるのは言うを俟たないところでありますが、飜
つて現在の我が國牧野の利用状態を見まするとき、極めて粗放的であ
つて、集約利用の餘地が甚だ多いのであります。從いましてこの牧野に可能な限りにおいて、自作農を創設して、人口收容の餘地を作ると共に、かくして分割された土地の利用度を高めんとするわけであります。かかる趣旨より、通常の牧野經營には一定の制限を設け、その制限を超えるものはこれを開放することにいたしたわけであります。即ち牧野と農地と合せて北海道では平均二十町歩、都府縣では平均五町歩を超える場合には、その超える部分の牧野を買收いたします。この農地と合せて北海道平均二十町歩、都府縣平均五町歩という數字を各地域について
具體的に割當てますについては、各地域の
具體的な實情を考慮して、安定した有畜農業が成立
つて行くように定めるわけでありますが、その最高限は四十町歩であります。尚村落又は協同
組合等の所有にかかる共同牧野及び公共用、公用に供している牧野で、農林大臣の指定するもの竝びに畜産の改良増殖上特に必要な種畜の供給牧場として主務大臣の指定したもの等は買收いたしません。買收した牧野は先程申し述べましたように、これを分割して畜産を主とする自作農の創設に供するのでありますが、土地の形状、地味等によ
つては分割による集約經營を期することができないものがあります。そのような場合には、適當な形態において
農家の共同利用に供することにいたすつもりであります。
買收の對價は現在行な
つております未
墾地買收の對價と同樣、近傍類似の農地の對價の四割五分以内であります。尚買收に
當つて原則として
昭和二十年十一月二十三日現在の事實に基ずいて買收計畫を立てることは、農地と同樣であります。これにより買收を
豫定されておる面積は、或る種の假定に立
つての推算でありますが、概ね北海道十萬町歩、都府縣十萬町歩、計二十萬町歩と推定いたしております。
第二に重要でありますのは、未
墾地買收關係の規定の
改正であります。現在は開拓用地のみを對象とする規定でありますが、これを大規模土地改良事業の施行上必要な用排水路の敷地等について買收又は使用をなし得るよう擴張いたしまして、
國營土地改良事業の
實施の圓滑を期することにいたしたのであります。
次に、買收又は使用
豫定地域を指定して、當該指定區域内においては一定の障害となるべき行爲を制限する制度を設けたのであります。
未墾地の買收におきましては、その買收を愼重に行うことが必要でありまして、買收に先行いたします適地調査には、相當の日時を要するのでありますが、
從來の調査期間中に、土地の轉賣、立木の伐採というようなことがとかく行われ、いろいろと支障を來している實情でありますので、これを豫防したい趣旨に外ならぬのであります。
第三に、本
改正の
機會に、農地の遡及買收についての原則を明確にいたしました。
昭和二十年十一月二十三日以後において土地の賣買、小作地の取上などがありました場合に、原則として
昭和二十年十一月二十三日現在の事實に遡
つて農地の買收計畫を立てることは、
從來とも
法律に規定いたしておりますが、何分規定が簡單に過ぎまして、市町村
農地委員會において事實處理上困難を來たしておる實情でありますので、これに關する規定を詳細且つ明確にいたしたのであります。
以上は
自作農創設特別措置法の
改正の要點でありますが、次に
農地調整法の一部を
改正する
法律案について申上げます。
第一は、農業上當然必要な自家用の燃料及び
肥料等を採取するところの
薪炭採草地及び放收地等の問題について解決を圖つたことであります。その一は、これらに關して耕作者の有している使用權の保護を圖つたことでありまして、貸主が使用權に關する契約を解除解約し、又は更新を拒絶する場合には、農地同樣市町村
農地委員會の
承認、これは當分の間都道府縣知事の許可でありますが、この
農地委員會の
承認を要することにいたしたのであります。その二は、
農家が
薪炭林、採草地等の利用を必要とする場合におきまして、森林經營にも
差支えない範圍において、當然その使用を認めることが妥當な場合、或る時によ
つては現在或る特定人の有する過大な使用權を活用するためには、これを他の者にも適當に配分、調整する必要がある場合等におきまして、若し當事者間に圓滑な協議が整わないときには、市町村
農地委員會の手によ
つて、新たに使用權を設定したり、既存の使用權の配分調整を行うことにいたしたのであります。この新らしく使用權を設定いたします場合については、いろいろの方面に
關係もあり、特に愼重に期することにいたしまして、市町村
農地委員會、
森林組合その他畜産、開拓などの専門家の意見を聽くことにしております。尚
自作農創設特別措置法で牧野の解放をいたすことに相成りましたので、牧草及び放牧地について移動
統制を行うことにいたしました。
第二の問題は、小作地取上げに關する制限の徹底であります。農地改革のことは申すまでもありません。
農地調整法においては、土地の返還は市町村
農地委員會の
承認を經ることを要することといたしておるのでありまして、かようにして耕作權の
確立を圖
つておるわけであります。ところがこの
農地調整法第九條第三項の解繹を廻りまして、合意の解約に
承認なり許可が必要であるか否かについて解繹上疑義があり、實際は一方的な取上げが、外見上双方の同意として、
委員會の審査を經ることなく、しばしば行われている實情であります。そこで本
改正案においては、明文を以て合意解約を含める趣旨を明らかにいたしました。
從つて一切の土地の返還は、市町村
農地委員會なり知事なりにおいて審査することに
なつたわけであります。
第三の問題は、小作料代物辯濟の廢止であります。現行法におきましては、或特定の場合、即ち小作料の支拂期が過ぎ、小作人の發意による場合は、金納によらずして代物辯濟の規定を削除いたしまして、脱法の餘地をなからしめたいと思うのであります。
第四は、不當な土地取上げの耕作權囘復の問題であります。
昭和二十年十一月二十三日以後不法不當な小作地の取上げがありました場合は、一般に市町村
農地委員會は、當時に遡
つて買收計畫を立て、その小作人に舊小作地を取得させることができますが、その取上げを行
なつた者が、平均一町歩以下の小地主でありますならば、その取上げがいかに不法不當でありましても、舊小作地、舊小作人に取得させることはできず、
法律上小作人の保護に缺くるところがあると申さなければなりません。それでは
昭和二十年十一月二十三日から、この
改正法律を施行いたす日までに、不法不當な土地の取上げが行われました場合は、市町村
農地委員會が審査の上、賃借權の囘復を決定できることにいたしたのであります。即ち舊小作人が市町村
農地委員會の
承認を受けて、舊地主に對して賃借權設定の協議を求めまして、成功いたしません場合は、市町村
農地委員會が裁定をいたすわけであります。勿論地主の生活が極めて困難である場合など、何人もその取上げを事情止むを得ないものと認めるような場合には、賃借權の囘復はいたさない旨
法律に明らかに規定いたしております。又賃借權の囘復に不服な地主は、都道府縣の
農地委員會に訴願する途も拓かれておるのであります。
以上が兩
改正法律案の主なる内容であります。何率御審議の上速かに御可決あらんことをお願いいたします。