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鬼丸義齊君
只今議題となりました青年補導法の
提案理由を
説明いたします。
現下犯罪の激増は曾てその例を見ない程の
状態であります。中でも青年の犯罪が非常に多いこと、及び初犯と累犯の割合が、戰前の三対七に比べて、戰後の七対三と逆轉をいたしておるのであります。民主日本の再興の上に大きな暗影を投じまする問題でありまして、誠に遺憾に存じております。この問題の原因は
種々ありましようが、
一般的に申しまして、敗戰後の我が國が置かれておりまする、政治的、経済的乃至は社会的情勢、例えば
國民道義の頽廃、政局の不安定、物價の奔騰、失業の瀰漫、飢餓一歩前の
國民生活等を挙げることができると考えます。殊に青年は、誤れる一部の指導者によ
つて惹起されました戰爭により、その大
部分が、好むと好まざるに拘わりませず、戰線へ、或いは軍需工場へと送られたのであります。そうして終戰と共に、家を、家庭を、職業を失いまして、これらの青年は全く前途の目標を失いまして、そのまま社会惡の渦中に投ぜられまして、遂に道を踏み誤
つて罪を犯すに至
つたのであります。このような
事情によりまして、罪を犯しまする青年に対し、直ちに刑を科しますることは、果して適当でありましようか。そもそも罪を犯した者に対して刑罰を科する所以のものは、復讐的又は應報的観
念によるべきではなくして、社会的に犯罪を防衞すると共に、犯罪者を教化して、正常な社会人として再出発せしめることにあるのであります。いわゆる近來新らしき觀点に立ちまする学者間におきましても、こうした進歩的の考えを持
つておりますることは御承知の
通りであります。併し我が國の現状から申しますると、その結果は必ずしも満足すべきものではありませんし、殊に青年の犯罪者に対しましては、極めて不適当な場合が多いのであります。更に刑を科しますることは、その者に前科の刻印を押すことになります。そうして社会の嫌惡を買いまして、結局再び惡の道に踏み込ませる結果になるのであります。さればとい
つて、青年が罪を犯した場合に、直ちに執行猶予を言渡しますることは、更に犯罪を誘発するような虞れが多分にあるのであります。
ここに刑罰に代えまして、職業補導を中心といたしました適切な施設に收容し、正常な社会人として再生せしめることが絶対に必要であると考えるのであります。本
法案提出の
理由もまたここに存する次第であります。
法案の
内容につきまして、簡單に御
説明申上げます。
法案は、一、処分の性格、二、青年補導所の構成、三、補導及び処遇の
内容より成
つておるのでございます。先ず第一に処分の性格は、手続その他は刑罰に準じた取扱いをいたしまするが、純然たる保護処分でありまして、刑罰に代えてなされまするものであります。先に述べました本
法案の
措置の必要性から生じまする当然の結果であります。第二点の青年補導所の構成でありますが、これは
最高法務廰総裁の管理に属する國立の施設でありまして、その運営に関しましては青年補導所運営
委員会を置きまして、所長の專断に陥らしめず、極めて民主的に運営する建前にな
つております。第三、補導及び処遇の
内容でありまするが、補導は必要な教養を施し、勤勉で規律のある生活の下に、主として在所者の適應性を考慮いたしまして、職業の補導を通じて正常の社会人として再生させるようにこれを行うのであります。その処遇につきまして重要なる
事項は、補導所運営
委員会の議を経ることといたしまして、公正な取扱いが行われるようにいたしております。
以上
青年補導法案の
提案の
理由につきまして御
説明申上げましたが、何卒
愼重御審議の
上速かに御賛同賜わらんことを希望いたします。