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政府委員(奧野健一君)
戸籍法を
改正する
法律案につきまして、提案
理由を御
説明申上げます。日本國
憲法の施行に伴い、
民法の親族編及び相續編が全面的に再檢討いたされ、その
改正が行われることになりましたが、かかる人の身分關係に關する實體
法規が變更いたされますると、身分關係を登録する戸籍の
制度につきましても、必然的にその
改正を要するに至ることは申すまでもありません。ことに
民法から戸主、家族その他家に關する
規定が全部削除いたされますと、家を單位に且戸主を本として編製しておりました現行の戸籍は、その編製そのものの根本からこれを改めて參らなければならなくな
つたのであります。よ
つて政府は
民法の
改正事業と竝行して、
戸籍法改正につき所要の準備を進めて參り、又
民法改正案中、親族、相續編の條文が口語體に書き改められたことに對應いたしまして、本
改正案もその條文全部を口語化し、
國民一般の理解を容易ならしめることに努めたわけであります。以下
改正案の重要な諸點について簡單に御
説明申上げたいと存じます。
先づ第一は曩に一言いたしました
通り、これまで家を單位として編製されておりました戸籍の編製
方法を改めた點であります。從來戸籍は各家ごとに編製され、謂わば家の登録とも申すべきものでありましたが、
民法の
改正によりましてこの家の
制度が廢止されることになりますので、戸籍を編製する基本的な基準が全く失われることに
なつたわけであります。併しながら戸籍を各個人毎に編製することにいたしますと、各個人相互間の續柄が不明瞭となりまして、
國民一般に非常な不便を感んぜしめると共に、他方戸籍事務の取扱い上豫測すべからざる困難を招來することとなります。從いまして他にその編製の基準を求めなければならんわけでありますが、その基準としては、夫婦親子を單位とする以外に他に
適當なるものを見出し難いのであります。仍て本
改正案におきましては、その第六條におきまして、戸籍は夫婦及びこれと氏を同じくする子をも
つて編製することにいたしました。そしてこの編製
方法は、戸籍をして或る
程度現實の親族共同生活體に即應せしめることにもなろうかと存じておるわけであります。か
ようなわけでありますから、子が婚姻いたしますと、その夫婦について新たに新戸籍を編製することになるのでありまして、第十六條がその
規定であります。
又夫婦親子を單位として戸籍を編製いたします關係上、祖父母と孫とは戸籍を同一にすることはないのでありまして、そのために第十七條で戸籍の筆頭に記載した者、又はその配偶者以外の者が自己と同一の氏を稱する子、又は養子を有するに至つたときは、別に新戸籍を編製することにいたしておるのであります。右の
ように戸籍の編製
方法を根本的に改めることといたしましたが、併し經過的には、現行法の
規定による戸籍全部を直ちに編製替いたしますことは、無用の混亂と繁雜を來すのみでありますから、第百二十八條によりまして、かかる戸籍はこれを本
改正案の
規定による戸籍とみなし、唯今後十年を經過したときにこれを改製することにいたしましたのであります。又轉籍の場合も第百三十七條によりまして、從前の戸籍によ
つてそのまま同じ戸籍を編製することにいたしております。
第二は、從來戸籍を表示するには戸主の氏名及び本籍でいたしておりましたが、本
改正案では戸籍の筆頭に記載したものの使命及び本籍で表示することに改めました。そして戸籍の筆頭には夫婦が夫の氏を稱するときは夫、妻の氏を稱するときは妻を記載することにな
つております。尚從前は戸主が死亡その他の事由に因りまして、戸籍から除籍されたときは、他にこれと戸籍を同じくする者があ
つても家督相續届によりまして、新戸籍を編製しておりましたが、これを改めまして他に同籍者がある限り、戸籍の筆頭に記載した者が除籍されても、その戸籍はそのままとし、唯全員除籍にな
つて始めてその戸籍を除籍簿に移すことにな
つております。從いましてかかる戸籍の表示は、その筆頭に記載した者が假令除籍とな
つても、その者の氏名及び本籍でこれを表示することといたしました。第九條、第十二條、第十四條等がこれらに關する
規定であります。
第三は、現行
戸籍法では如何なる場合に一定の戸籍に入り又は新戸籍を編製すべきかは、一に
民法上の入家又は一家創立に關する
規定に據
つておりましたが、
民法上かかる
規定が削除されます結果、本
改正案では入籍、新戸籍編製又は除籍の事由は、それぞれ戸籍上これを列擧的に
規定いたしました。第十六條乃至第二十三條がそれでありまして、大體、
民法上の氏が改まれば、これに應じてその者の戸籍を改めることにいたしております。
第四は、新
憲法の施行及び
民法の
改正に伴い、現行
戸籍法から隱居、家督相續、推定家督相續人の廢除、家督相續人の指定、離籍、復籍拒絶、廢家、絶家、分家、廢絶家再興、族稱の變更及び製爵に關する
規定を全部削除するとともに、他方、後見監督人、姻族關係の終了、推定相續人廢除及び分籍に關する諸
規定を新たに設けることにいたしました。分籍については、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者を除いては、成年に達した者は、自由に分籍できることにいたしております。
第五には、我が國の人口動態統計は、從來より戸籍上の出生、婚姻、離婚及び死亡の届出に基いて集計されておりましたが、昨年七月以降、この人口動態統計が聯合軍總司令部の指令に基いて畫期的に改善され、これに即應して
戸籍法も數次の
改正を見たのでありますが、更に又その要請に應えるため、本
改正案第四十八條、第四十九條等で、出生届に醫師、助産婦その他の者の出生證明書を添附させ出生の年月日等に關する不實な記載を防止し、他方また届書等につき或る
程度その公開を制限する等の處置を講ずることといたしました。尚
昭和二十一年
司法省令第四十七號で、出生又は死亡届をそれぞれ
事件發生地で届け出さすことにな
つておりますが、本
改正に當り、これを
戸籍法中に織り込み、右省令は廢止することにいたしました。第五十一條、第八十八條、第八十九條及び第百三十八條等が、これに關する
規定であります。
第六は、子の名には、常用平易な文字を使用せしめて、も
つて當用漢字表
制定の趣旨に添うため、新たに第五十條の
規定を設けております。又更に、この趣旨を徹底するために、明治五年太政官布告第二百三十五號(改姓名に關する件)を廢止して、家事審判所の許可の下に改姓名を比較的容易ならしめることに改めました。第百七條及び第百三十八條がその
規定であります。尚明治六年太政官布告第百十八號(御歴代の御諱及び御名の文字の使用に關する件)は、新
憲法の精神に反しますので、この際これを廢止することといたしました。
最後に、戰時
立法たる
昭和十五年
法律第四號(委託又は郵便による戸籍届出に關する
法律)を廢止するとともに、同法中郵便による届出で死亡後到達したものの效力を認めている
規定は、本
改正案第四十七條にこれを織り込むことといたしました。尚國籍法を
改正する
法律案は、諸種の事情のため、この
法律案と共に本
國會に提出することが困難となりましたので、
戸籍法中國籍得喪の届出に關する
規定は、本
法律案では一應これを現行法
通りといたして置きまして、近く御
審議を願うべき國籍法を
改正する
法律案において、この部分につき更に所要の
改正を試みる所存であります。
以上が本
法律案の大要であります。何率愼重御
審議の上速かに可決せられんことをお願い申し上げます。