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鬼丸義齊君 丁度
大藏省の主計局長がおいででありまするからこの際お伺いしたい。戰爭から續きまして戰後、道義の頽廢によりまして著しく犯罪
事件が増加して參
つたのであります。恐らくは他官廳もさることでありましようが、殊に著しいのは裁
判事務の激増であります。私共
辯護士として常に
事件に接觸いたしておりまするが、毎日や
つておりまする
裁判の模樣から見ますると、一人の
判事が十數件の
事件を持
つております。而も一件數十人に及びまする
事件もございます。それを極めて短時間の間に處理いたしておりまするが、
裁判は豫審を廢止いたしまして直接審理主義にな
つております。而も御承知の通り
裁判官は全然他に副
收入はないのであります。
事件は激増し、而も治安は重大なる
國家の問題とな
つておりますに拘わらず、
裁判官は今日の食
事情のために中堅になる
判事の
諸公が段々と辭職いたしておりまするのみならず、恐らくは現在のような状況でありましたならば、今年一杯いたしましたらば、本當に
裁判所は崩壞するのではなかろうかと私共心配しております。
實は一昨日も當
委員會において、
裁判、檢察竝びに刑務官の
待遇改善に對しまする決議案を全會一致を以て決議いたしたのであります。尚又
衆議院の方におきましても、司法官竝びに檢察官、刑務官の
待遇改善について聲を大にして叫んでおります。これはただ簡單なる問題ではなくして、戰後の國内秩序の治安の維持ということは、今日何を措きましても焦眉の急だと思います。ところが先程局長の御
説明によりますると、
從來の型のごとくに、他官廳との比較であるとか、こういうことを常に
考えておりますることから、段々追い込まれて參りまして、司法の
現状というものは、私は先般來しばしば申しておりまするが、本當に崩壞寸前にあると私は思
つております。
政府の方で以てこのままの状態に放
つて置きまして、治安の維持に對しまする
大藏省の責任は負えるかと思います。
只今事件の激増について中村委員から局長に御見解を伺えば、御存じないという、
事情を知らずしてただ徒らに帳簿だけのことを
考えておりまするから、そういうことになると思います。
裁判官の補充ということは容易ならんことであります。特別なる技術を必要とするのでありまして、若しも今堪能なる
裁判官を一人失いましたら、この補充につきましては恐らく容易なことではないのであります。例えば
辯護士會といたしましても、
人材を
辯護士から得るということは今日の場合は到底できないのであります。何としても練達堪能なる人をして職に留ま
つて貰わなければならんという必要に迫られております。
この際
大藏省におかれましては、特に
裁判、檢察事務の
現状につき、竝びに今後の社會情勢から御覧を願いまして、日を逐うて増加しておりまするのみならず、その増加振りたるや、驚くべき數字に上
つております。現在の警察の活動は、憲法の改正によりまして強制力を用いることができませんために、捜査が非常に鈍
つております。併しながら段々と落著いたようでありまするが、若しも警察が一段と活動をいたしましたならば、
事件の數におきましては驚くべきことになると私は思います。全國津々浦々に至りまするまで、戰後恐らく強窃盜の被害に遭わない人は殆んどないくらいであります。
從つて犯罪の檢擧數というものはそれに隨伴していない。殊に警察に屆けておりまする被害の
程度でも、今日の警察は殆んど頼むに足らない、こういうようなところから
實際の被害に遭いましても屆け出ないものが殆どその大部分であります。でありますから被害檢擧數なんという
政府の統計といものは全く
事實に即せざるものでありまして、恐らくは
一般社會の全部の人が、白晝安心して旅行もできないというような治安の状態にな
つておるのであります。私は私共の人間の住まう場所は、何といたしましても治安だけは本當に保
つて安心して居らなければならんだろうと思います。ただ他の
官吏との比較だとかいうことに囚われまして、
從來のごとき態度を以て副
收入なき
裁判、檢察、刑務官のの
待遇に對しましては私はこの際破格の
待遇をして、何としてでもこの治安の維持だけはして貰わなければならんと思います。
頻々として起りまする各所の刑務所の逃走
事件、設備の不完全、
待遇の惡いこと、殊に刑務官の
員數が足りないがために、既決囚人を刑務官の補助に使
つておりまするところから、過般の静岡の刑務所の
事件も起り、又すでに
新聞に報じられておりまする某所の
事件のごときも、皆いずれもこの刑務官の補助に既決の囚人を使
つておりますることによ
つて生じておりまするのであります。これはいずれも各刑務所共に過剩拘禁の上に看守の
増員がない。警察の方からは段々と
事件を送
つて來る。適當なる
裁判をしていかなければならん。そうして
裁判をして入れる場所は設備がない。扱うものは
増員しない。先般も司法大臣がこの席において申されましてごとく、全く
裁判官というものは聖なる
仕事であります。私共は平素よく申しておるのでありますが、
仕事は非常に過重であ
つて而も
待遇は全く薄い。殆んど
裁判官は霧を吸うて生きておらなければならんというような現在の状況でありましては、人間として耐え得るものではない。
私は
大藏省の方は特にこの際活眼を開かれまして、この恐るべき
現状を直視して格段なる施設に對する御協力を願いたい。今
一級官の
待遇がどうとかいうような區々たる問題ではありません。敢えて驚いて馳せ參ずる必要はない。むしろ私はこの司法の
現状を見て、その方にこそ私は一段と御關心を持
つて頂きたいということもこの際主計局長に申上げまして、尚この點に對しまする局長の御所見を伺いたいと思います。