○
政府委員(
上山顯君)
失業保險特別会計法の御
審議を願いますに当りまして、御参考のため目下参議院において
予備審査を
願つております
失業保險法、
失業手当法の大体の
趣旨並びに構想について御
説明申上げたいと思います。
失業保險法の
立案に対しましては、昨年八月十五日衆議院の
生活保護法案委員会の
附帶決議におきまして、
失業保險の創設に前進すべしと
希望決議をされておるのでございます。
政府におきましても昨秋
以來社会保險制度調査会において
審議しました答申に基ずきまして、その
調査立案の
準備を進めて参
つたのでございます。然るところ去る六月現下の
経済危機突破の綜合的な
対策としまして樹立しました
経済緊急対策の中で、
失業手当乃至
失業保險の
制度を実施いたしたいということを申しておるのでございまして、爾來
立案を急ぎました結果、成案を得まして本
國会に
失業保險法案、
失業手当法案の両
法案を
提出いたしておるような次第であります。
失業保險法制定の
目的といたしましては、この
法案の第一條に明記いたしておりますごとく、
失業保險の被
保險者であります
労働者が失業いたしました場合に
失業保險金を
支給いたしまして、その
生活の安定を図ることにあるのでございます。申すまでもなく
失業対策の理想といたしまして、
完全雇用乃至
完全就業を実現することが望ましいのでございまして、これがためには産業を振興して、これに
労働力を吸收し、
國民生活の
安定向上を図ることが必要でございまして、
憲法第二十五條におきましても、
國民が健康で文化的な
最低限度の
生活を営み得るように、國が
社会福祉、
社会保障の
向上及び増進に努めなければならないことを規定いたしておるのでございます。
政府はこれらの
目的達成のために
一般経済再建のための
施策と相俟ちまして、
職業紹介機関の効率的な
運営を始めとして、
公共事業、
職業補導の
拡充等、
失業対策には鋭意努力しておりますが、止むを得ず出る
失業者に対しまする恒久的な
制度といたしまして、すでに欧米におきましては長い歴史を有しております
失業保險制度を創設することといたしたのであります。而してこの
失業保險制度は
社会保障の一環としてその重要な役割を持つものでございますが、
生活保護法のような單なる
社会救済制度と根本的にその性格を異にするものでございまして、
職業紹介機関の
運営と
密接不可分の
関係を保持させることによ
つて、
失業者に
就業の
機会を與えようとする積極的な
意味を持
つておるのであります。
次に、本
法案の各條章の概要を御
説明申上げたいと思います。先ず本保險におきましては、第二條に規定しておるのでございますが、保險料を徴收し、保險給付をいたします等、
保險事業経営の主体であります
保險者には
政府がこれに当ることといたしておるのでございます。それで実は御承知かと存じますが、健康保險等におきましては、かように
政府が主体とな
つておりますいわゆる
政府管掌の保險の外に、健康保險
組合という
組合組織のものもございますが、
失業保險といたしましては、危險分散範囲をなるたけ廣くする必要がございますことと、もう
一つは、
只今も申しましたように職業紹介組織と密接な
関係を持
つておりますが、その
職業紹介機関としましては、現在國営を以ちまして公共職業安定所を設けております等の
関係を考慮いたしまして、全部
政府管掌ということにいたしてございます。
次に、本保險の適用範囲でございますが、これは第六條に当然被
保險者の規定がございまして、健康保險の強制適用を受けておる
事業所に雇用されております者を当然被
保險者といたしておるのでございます。即ち被
保險者の範囲といたしましては、一應健康保險の被
保險者と同じ範囲に相成
つておるわけであります。尚当然適用の
事業所以外の
事業所に雇用されております者につきましても、健康保險と大体同じような規定があるのでありまして、任意包括加入をなし得る途を開いたのであります。即ちこれらの
事業所に雇用されております者が、一人だけ取り出しては適用を受けることができませんが、工場におります者が全部纒
まりまして、この保險の被
保險者になりたいという場合には、
失業保險の被
保險者になることができるという、かような規定を設けておるのでございます。
尚海上
労働者でございますが、船員保險の被
保險者に関しましては、船員が陸上
労働者と異なる特殊な労働
事情を有しておりまする点に鑑みまして、本保險の被
保險者からは除外いたしまして、船員保險中でこれを実施いたしたいと考えておるような次第でございます。尚國、都道府縣、市町村等に雇用されております者については、第六條におきまして一應この
法律の適用を受ける建前にな
つておりまして、但し第七條におきまして特別規定を設けておるのでございます。即ちこれらの者につきましては離職しました場合に、
支給いたしました諸
給與の内容が実質上本法の給付の内容を超えると認められます場合には、これを
失業保險の被
保險者としないことにいたしておるのでございます。
それから本
法案の眼目でありますところの
失業保險金の
支給に関してでございますが、これは第三章の保險給付として規定いたしておるのでございますが、先ず第十五條におきましては、被
保險者が失業しました場合に、
失業保險金を受け得られますところの資格期間といたしまして、離職の日以前一年間に通算して六ケ月以上被
保險者であることを要件といたしておるのでございます。即ち必ずしも継続して六ケ月間の勤務は必要といたしませんが、断続してでも結構でございまして、通算しまして少くとも六ケ月以上被
保險者であつたことを必要としておるのでございます。それから第十六條におきまして、以上のような資格期間を持ちました者が
失業保險金の
支給を受ますには、離職後政令の定めるところによ
つて公共職業安定所に出頭し、求職の申込をした上失業の認定を受けなければならないということにいたしておるのでございます。
失業保險に対しましての欧米等の
從來の
失業保險の施行の成績に鑑みまして、
失業保險法については惰民を養成するとか、いろいろな批評もあるのでございますが、この
失業保險法におきましては單に失業したことのみを以ちまして当然に
失業保險金が貰えるという建前ではございませずに、先ず失業いたした場合には安定所に出頭いたしまして求職の申込をして、極力仕事を探して貰う。そうしてどうしても仕事がない場合に初めて保險金の給付を受ける、かようなことにいたしておるのでございまして、私たちとしましてはむしろこの
失業保險法の実施によりまして就労の
機会を多くするという働きをさして参りたいと考えておるような次第でございます。又
支給日数は受給期間の一年間において通算して百八十日とな
つております。
それから十七條に給付額の規定があるのでございまして、これは一日につきまして、標準報酬日額の百分の六十に相当する
金額が大体の
基準と相成
つております。併しながら報酬が相当高いものにつきましては、標準報酬日額の百分の四十まで下げることもできる。又報酬が非常に少いものにつきましては、百分の八十まで高めることができる。かようにいたしておるのでありまして、而してその具体的な決め方といたしましては、これは賃金等が始終動いておる等の
関係もございますので、政令で決めたいというつもりで考えておるのであります。
次に、本保險の運用に関する費用でございますが、これにつきましては第二十八條以下に規定があるのでございまして、國庫は、保險給付に要する費用の三分の一を負担いたしますと共に、
失業保險事業の事務の執行に要する経費を負担するということに相成
つておりまして、事務費の全額を國が負担することに相成
つておるのであります。而して給付に要する費用のあとの三分の二につきましては、
事業主及び被
保險者がそれぞれ三分の一ずつを保險料として負担するということにな
つておるのでありまして、即ち國庫、
事業主、被
保險者が給付の費用の三分の一ずつを負担するという建前に相成
つておるわけでございます。而して
事業主、被
保險者の負担する保險料の料率でございますが、これにつきましては第三十一條に規定してございまして、おのおの標準報酬の千分の十一ずつを負担するということにな
つておるのでございます。それでこの千分の十一という保險料率の出ました根拠につきましては、
失業者の失業率の予想、それから更にその
失業者の中で資格期間でございますとか、給付日数の制限でございますとか、いろいろの
支給の制限がございますが、そういう点を考えまして、
現実に
失業者の更にどの程度が保險金を受けることになるだろうというようなことを考えまして、前に社会保險
制度調査会等において研究しておりました
数字等をも勘酌いたしまして、千分の十一という
数字を出したのでございます。而して保險料率の変更につきましては、第三十一條に詳しい規定がございますが、一口に申上げますと、保險料率は三十一條の第一項によりまして、千分の十一と、
法律上決められておるわけでございます。從いましてこれの変更につきましては、原則としては議会にお諮りいたしまして、
法律改正の
手続による、但し緊急の場合には取敢えず労働大臣が
失業保險委員会の
意見を聽きまして、保險料率を変更して置きまして、後程議会におかけして、
法律改正の
手続を取るという
趣旨に相成
つておるのでございます。
それから本
保險事業の
運営につきましては、これは第三十九條に規定があるのでございますが、
事業主、
労働者、公益を代表する者より成る
失業保險委員会を設けまして、重要事項の
審議に当らせまして、本保險を民主的に
運営いたすことに相成
つておるのであります。
更に第四十條以下に保險給付に関しまする異議の申立がありました場合においては、
失業保險審査官及び
失業保險審査会を設置いたしまして、簡易に裁決を行うことに相成
つておりまして、詳しい規定を設けたわけでございます。
以上が大体
失業保險法案の概要でございます。
次に、
失業手当法でございまするが、
只今説明いたしました
通り、恒久的な
制度といたしましては、
失業保險法を
提出したのでございますが、
失業保險は先刻も御
説明いたしましたように、保險給付が開始されますには、最短六ケ月の資格期間が必要なわけでございます。從いまして仮に
失業保險法が十月一日から適用に相成りましても、來年の四月にならなければ
失業保險金の給付は始まらないということに相成るわけでございます。併しながらその間におきましても
失業者の発生することは予想されるわけでございまして、而もその六ケ月間の期間といたしましては、
失業対策上何らの手を打たずに放置はできないということを考えまして、ここに
失業保險法案の足りません所を補う
意味を以ちまして、
失業手当法案ができたようなわけでございます。即ちこの
失業手当法の方におきましては、対象者は
失業保險の被
保險者をそのまま対象といたしておるのでございますが、それが
失業保險金の受給資格がまだできない間の過渡的の期間に
失業手当を
支給するということに相成
つておるのでございます。即ちこの
失業手当法の第二條にその資格者が書いてあるのでございまして、第二條の第一項の第一號に、離職の日まで継続して六箇月以上、
失業保險法に規定する
事業所に雇用されたこと、即ちこの場合、ただ一ケ月とか、二ケ月雇用された人は
失業手当は貰えないのでございまして、
失業保險法の方で六ケ月の資格期間が設けられておりますのと相照應いたしまして、
失業手当法の方でも、離職の日まで継続して六ケ月以上、
事業所に雇用されたことが必要なのでございます。但し
失業保險の被
保險者としましては、まだ一ケ月にしかな
つていないとか、二ケ月にしかな
つていない、そういう人達は
失業手当金が貰えるのであります。それから第二号に、この
法律施行の日から、昭和二十三年三月三十日までの間において離職したこと、ということにな
つております。而して
失業手当金は三月三十一日までの間は
失業手当金という名前で貰いますが、四月一日以降におきましては、同じ内容のものを
失業保險金という名前で
支給しようということにな
つております。而してこの
失業手当金の内容につきましては、大体は
失業保險の内容と似ておるのでございまするが、但し
失業保險金の方は六ケ月間の資格期間を備えた人達に
支給するものでありますに対して、
失業手当の方は六ケ月の資格期間がない人につきまして、國が特別に
手当金を
支給するということにいたしておりますので、いろいろの條件につきまして、
失業保險金よりも
失業手当金の方が若干嚴格に相成
つておるのでございます。細かい一一の規定は省略いたしたいと存じます。
それから費用負担の点については、
失業保險金の方は先刻申上げたように給付に要する費用については三分の一のみの國庫負担でありますが、
失業手当金については三月三十一日までは全額國は負担するということにな
つておりまして、四月一日以降においては
失業保險金という名前に変えて、負担割合についても國は三分の一を負担するということに相成
つておるのであります。
以上が保險法、
手当法の概要でありますが、尚若干
数字に亘ることを申上げます。お手許にも資料を差上げてあるかと存じますが、
失業保險の被
保險者の予想数であります。これは先刻申上げたように
法律の上では一應官公吏にも全部適用されますが、一定の條件の下に適用を除外し得るよう特別な規定が設けられるようにな
つておるわけであります。先ず民間の
事業に雇用されておる者で、被
保險者になる予想数が約四百七十万、それから官公吏、現業も含めてが約二百万でございます。その中には教
職員は含んでおりません。それで
合計で約六百七十万とな
つております。
次は
予算ですが、平年度の
予算の概数を申上げますと、仮に四百七十万を被
保險者の数といたしまして
失業者をどの程度に見るかということは、これは非常にむずかしい問題でありますが、一應四百七十万の被
保險者であつた者の中、現に失業しておる人がいつも四十七万、一〇%という想定で考えております。解雇される者、任意退職する者、即ち離職する者はこの数よりも多いだろうと思いますが、一方又新規に外の工場等に採用される者もあるので、いつも失業しておる者が被
保險者数の一〇%即ち四十七万あると見ております。その中で資格期間であるとか、
支給日数とか、いろいろの
関係で受給できない者がありますので、受給者はいつも四十七万の五〇%、即ち二十三万五千あるという想定で計算いたしております。そうして標準報酬の月額は平均どのくらいになるか、これ又賃金の
事情によ
つて変るわけでありますが、
只今千八百円ということが言われておるので、一應千八百円として計算いたしております。そうして給付の平均額は下の方は六〇%、上の方の俸給の高い方は四〇%まで下げる。下の方の俸給の低い方は八〇%まで上げるわけでありますが、平均は六〇%よりも上廻るかと考えまして、一應千八百円の六六%の平均給付額といたしております。そうすると大体千二百円になるわけであります。そうすると年間の給付
支給総額は約三十三億円になるわけでありまして、これを國、
事業主、被
保險者おのおのが約十一億ずつ負担するということになるわけであります。尚國としてはこの給付費の三分の一としての約十一億の外に、事務費として二億乃至三億の金が必要でありますので、
合計は十三億乃至十四億の経費ということになる予定であります。