○田村文吉君 私は
修正案に全面的に
贊成する者であります。その
修正案は、
只今中川君から
提出されました
修正案であります。
大體この
臨時石炭鑛業管理法案が
國會の
議題と相成りましたことは、私は甚だ實は遺憾に考えておつたのであります、と申しまするわけは、今日の日本の國民があらゆる各種の
統制機構によりましてがんじがらめに縛られて參
つておりますることが、著しく個人の創意工夫を減退せしめて、經濟の
復興に甚だ妨害をしておるような
状況下におりまするときに、餘り大した效果もないこの
石炭管理法案が、衆議院において、又今日は參議院に、囘付になりまして、愼重に審議をいたした次第でありまするが、御承知の、初め生れました案が、次から次と
修正されたり、殆んど全くの混血兒とな
つて參らねばならなかつたこと、又衆議院においてあれだけの紛擾を起して參つたこと等から考えましても、かような
法案はむしろ出なかつたことが大變仕合せであつた。又かような機構いじりをしておる間に、電力は曾て見ざる
危機に遭遇して、今後非常なインフレーションを激成するような實態にまで突入して來たのであります。政府も
國會も、かような大して有效有益でもない問題を討議しております間に、差當り國民は非常な窮乏に陷
つて參つたような
状況下にありまするので、餘りかような問題で力を盡して、而も非常な紛議まで起してやるべきではなかつた、かように私は全般的に考えたのであります。尚今年の出炭
状況は三千萬トンを目標とされておりまするが、昨年の出炭量に比べて今年の出炭量は、凡そ商工大臣にも承つたのでありまするが、今年度の出炭が約二千八百五十萬トンになろうかというふうに伺
つております。そういたしますると、尚今年の九月までの實績で、昨年度の出炭量に比較いたしますると、凡そ二割七分六厘の出炭が増加いたしておりますわけでありますから、この比率を以て參りまするならば、今年の二千八百五十萬トンの數字は、必らず確保されることと考えておりますが、終戰後非常に荒れ果てたと考えます、物質的にも心の上にも荒れ果てたと考えておりました
状況が、逐次軌道に乘りまして、昨年よりは二割七分六厘、或いは十月以降の實績を見ますると、或いは三割にも増加して參ろうかという情勢下にあるのでありまして、
石炭の出炭
状況は、私から考えますると、大體に順調に進んで來ておるのであります。この數量は昭和七年の數量二千八百五萬トンであります。即ち滿洲事變の起りました直後における出炭量二千八百五萬トンをやや凌駕する數字に相成
つておるのであります。而も本年度は、未だに秩序の恢復が十分でありません、のみならず前半は價格の後決めでありまして、
企業者は努力して一生懸命や
つても、やらなくても、値段は後から
補償する、かような
状況下にございましたので、前半の出炭量は實は振わなかつたのでありまするが、幸いに賢明なる策が採られまして、今日は炭價の前決め制度に相成
つておりまするので、私は、この形を以て參りまするならば、本年度の二千八百五十萬トン、これを在來の昨年度に對する比率として明年度參りますならば、明年度は三千六百萬トンの出炭が可能と相成ると思うのであります。それに對しまして、政府では、この
國管案というものによりまして、來年度は三千三百萬トンを目標とされておるようでありまするから、私どもは、自然の推移のままでも、三千六百萬トンになるべきである。然るにいろいろ
法案を作
つて御努力なされても、三千三百萬トンにしかならないというようなことであります。無論これに對しては、政府は三千三百萬トンは最低であ
つて、もつと多く出す御期待はお持ちにな
つておるとは考えまするけれども、餘りに
實際の數字から考えますると、大した期待が持てないのでありまするが、併し本
法案が飽くまでも増産一本で、イデオロギー的のものは全然加えていない。これは總理大臣も商工大臣もはつきりと仰しや
つておいでになるのでありまするから、その見地で我々は檢討して參る上に、取敢えず現在の出炭情勢及び來年度における出炭情勢の自然の推移は、申上げて置く必要があると考えたわけであります。
そこでこの
法案の全般を見まして、私どもが直觀的に考えますることは、第一に、責任の所在が、今度
國家と
企業者とに分れるようなことに相成
つて參つたのであります。その點が、私どもは、
企業者は一生懸命で、從業員と一緒にな
つて努力して、そうして
自分の責任を全うしたいという考え方が、いくらか
國家管理というようなことになりまするというと、
炭鑛長初め、
自分の責任が、半分は國がやるのだ。うまく行
つても行かないでも、これは政府が責任を取るのだ、こういう形に相成りますると、即ち
炭鑛長、その現場におる諸君が、飽くまでも
自分の責任として、この
國家の
復興のために全責任を擧げて行くという場合に、血の通つた從業員と本當に手を組んで、一生懸命在來や
つて來た、又今後もやるというものに對して、なまなか
國家が關知いたすことに相成りまするために、その士氣を著しく沮喪せしめる。かような心配があるのであります。
第二に御覽の
通り、この手續は非常に煩雜にな
つて參つたわけであります。申上げるまでもありませんけれども、商工大臣、
石炭廳長官、
石炭局長その他に、いわゆる各種の
管理委員會が次いで參りますので、
實際の
運用をいたしますまでには非常な手數と非常な書類を要することになりまして、或いは
生産の
實際の責任を背負
つておる
石炭廳が、いろいろ事務のため、
會議のために時間を費されることが多くなりまして、殆んど
實際の
生産増強のために働くことができなくなるのではないか、かようの點を私は心配しておるのであります。第三に、
生産協議會の問題でありまして、この點につきましては、私は商工大臣にもしばしば御質問を申上げて參つたのでありますが、
勤勞者の經營參加によ
つて勤勞者の増産意欲を増進する、これが
目的であるという御意味でありましたが、私は經營という大きな面から考えますると、
勤勞者の一人々々が現在でも經營に參加していないとは申せないのでありまして、すべてが、一體とな
つて經營の一部を分擔し、或いは經營の一部を運行しておるわけであります。ただここに
生産協議會というものをお設けになりますことは、これは
勞働組合として經營に參加するという建前でこの
法案ができておるのであります。そこで私は
勞働組合の本質から考えますと、
勞働組合法は御承知でありましようが、
勞働組合法は
勞働者の
勞働條件、待遇その他經濟的の利益に關することの達成を
目的として
勞働組合法がはつきりと決
つておるのでありまして、今ここに
勞働組合がその組織體の計畫その他重要なことに關係をする、又決議
機關としてこれが運行を圖るというようなことは、決して
勞働者の利益にもならないのであります、と同時に經營の
運用上非常に面白くない點が澤山に出て參るのであります。その一例を申上げますならば、若しかような組織が増産に役立つ方法である、
勤勞者の増産意欲を増進する方法である、かように
國會が認められます場合においては、先ず政府のや
つておりまする官業、つまり
鐵道、
管理しておる電氣、遞信、又各官廳にある
勞働組合等々は、すべてこれが能率の増進であり、
生産の増強であると考えるならば、すべてがこの組合の經營參加でありまして、大臣が次官、局長と案を練
つて決めて來たこともすべて組合に一々諮
つて行かなければならず、かようなことになりますることは決して社會秩序を保ち、又その
運營を滑かにするゆえんの途ではないと考えるのであります。ただ併かしこの
勞働組合で認めておる
勞働條件の改善、待遇を好くするというようなことに關することは、これは
勞働組合法が、はつきりと決めておることでありまするから、この點についてただ
經營者側の方で勝手に決めるというようなことは無理なことでありますし、
勞働組合法において守られた權利を犯すことに私は相成ると考えますが、その他の
事業の經營全般について、その企畫等について一々組合がこれに容喙し、決議を以てやるというようなことは甚だ不穩當であると私は考えておりますので、この第三點についてこの
法案が缺陷を持
つておるのであります。
次に十三條において
指定炭鑛の條項があるのでありまするが、それは一般の
炭鑛は、先程申上げましたように順調な
生産増加をいたしておる。併し中には政府の強力なお手傳いがありませんと、例えば新鑛の開發のごとき、かようなものに對しては手を延べてやるということならば分るのでありまするが、この條章を拜見いたしますると、商工大臣は
管理委員會に諮
つて決定する。衆議院の
修正案によりまして品質、數量等々を勘案してやるというのでありますけれども、甚だこの點が曖昧でありまして、不十分極まるものであるのであります。私は反對にかようの
法案が出ましたときに心配いたしますことは、今日は
指定炭鑛にされるというようなことは、恐らくは全國の
炭鑛業者は喜ばない。これは
事實だろうと考えます。でありまするが、又世の中にはいろいろ變化もいたすのでありますから、私は戰時中における軍需省と申しては惡いが、あらゆる
産業人、會社が何とかして軍の
管理工場になりたい、或いは軍需會社にして貰いたい、或いは者督工場でもいいからして貰いたいと、非常な請託が行われまして、常に主食の饗應等誠に見るに堪えないようなことを想起するのでありまするが、
炭鑛の
經營者は如何にして
自分の
石炭を多く出すか。それには
資材が欲しい。今日は勞働力き餘るくらいでありまするから、その點には問題はありますまい。資金が欲しい等々、いろいろの點を官によ
つて助けて貰いたいというようなことが起
つて參りますると、必らずや戰時中に起りましたような請託、饗應等々
産業界を腐敗せしめ、官吏を腐敗せしめるような結果が必らず起
つて來はせんか。かような點を心配いたすのでありまするが、これは獨り
指定炭鑛の
指定の場合だけではありません。各種の問題においてかようの問題が起る缺陷が多いのであります。まだ外に私はこの
法案の全般を見まして甚だ不十分の點が多いのでありまするから、現在の
石炭増産の實績から考えて、而も先般マツカーサー元帥から首相に寄せられた書簡によ
つて、政府がこれを強力に實行するという氣構えさえおありになるならば、必ずしもこの増産
法案を考えなくても實行できる。十分にできるということを私は考えたのでありまするけれども、この
法案がすでに
提出され、すでに衆議院においていろいろの紛擾を起したけれども、曲りなりに問題とはなりましたが決議されて、本院に送付されたのでありますから、私は實はかような
法案は御返上申上げたいと、こう考えますけれども、その邊の事情を勘案し、できるだけ不備な點を
修正して、そうして眞に
石炭の増産に役立つような意味において
修正をして、我々の責任を果すことが參議院の本質から考えて當然である。若しそれ審議の日がないということで、良くても惡くても
實際の實情がこのような實情にな
つておるということを知りながらも、まあ面倒だから、とても審議の暇がないからとい
つて、この
法案を
修正すべきものを
修正せずやるということは、すでに五十時間餘り我々は
委員會においてこの問題を審議したのであります。而も尚これは直す點があるけれどもそのまま行こうじやないかというようなことは、私の執らざるところでありまするので、恐らくは、各條章において尚細かく
修正せねばならん點が多々あると思うのでありますが、大體の
石炭増産のために幾らかでも役に立たせ、幾らかでも邪魔になるものは
削除して、そうして曲りなりにも増産の
目的に適うようにということを考えられた中川君の提案に私は
賛成をいたすものであります。即ち責任の所在を少しでもはつきりいたしますために、第二十三條の「所轄
石炭局長の
監督を受け、」とかような點で煩雜な得體の分らないようなことは、はつきりと除いてしま
つて、
國家はその
事業主に對して
監督を飽くまでもやる。
事業主はそれによ
つて現場を
監督する。これで結構なんであります。いろいろの煩雜なものがないことが、先刻申上げた理由に適合する意味におきまして、二十三條の「所轄
石炭局長の
監督を受け、」という文字を
削除いたしたのであります。尚これは當然なことではありまするが、初めの
原案にこれが
事業に當るものは
指定炭鑛の
管理者がやることについては、資本家も
勤勞者も共に協力しなければならんと
原案にあつたのでありまするが、すでに資本家がその元ずけとして、これが
實施に對して強力な
命令を受け、而もこれには莫大の各種の罰金がついているのでありまするから、從業者はこれの
實施に關して協力をしなければならないということは當然過ぎる程當然でありまするので、私はこの
修正に對しても
賛成をいたすのであります。
生産協議會の點につきましては先刻申上げましたような意味において、而も先般來諮問機関か、決議
機關かというような問題で甚だはつきりしない。大臣の御答辯ではその中間を行くものである。法制局長官も、學者的には議論があるけれども、その中間を行くものである、そのようなことを申しておられますが、私どもははつきりとした決議であるということに了承いたしまして、これに對する
實際の
運用のできまするように、即ち
勞働條件の
適正化、その他從業者の待遇に關すること、これは勞働立法で決められて行くべき問題でありまして、又これに對しては、
勞働組合もあり、
勞働組合法もあり、又
勞働者の正當な主張を蹂躙するがごときことがあ
つてはなりませんから、この問題に對しては
經營者、從業者兩方の意見が假りに同數であ
つて合致しない場合には、それぞれの手續を經て、或いは商工局長の裁定に動き、或いは又勞働基準法の適用を受けるとありますが、その他の點につきましては、議長がこれが
採決に關することといたしまして、
勞働條件以外の經營全般のことは、同數の人の外に議長が最後に決をやると、こういうことにいたしまして、いわゆる諮問
機關と決議
機關について、在來非常の論爭が行われておりましたその中間を取り、而も
解釋をはつきりといたすことに本案が、
修正案が考えられておりまするので、この點につきましても、私はこの
修正案に是非皆樣からの御贊同を頂くように御主張を申上げるのであります。
次に先刻申上げました
指定炭鑛の
指定の問題でありますが、餘りに自然的に殖える、又個人の創意が十分に發表されるというようなものを、すく好んで
指定炭鑛にする必要はないのであります。さようのものはこれを放置して、できるだけ、或る程度の
監督は無論第一章においてございまするが、できるだけ創意工夫によ
つて、増産の
目的を達成せしめるように考えてやるのであります。併しどうしてもさような状態にない新鑛の
開發等につきましては、これを
指定炭鑛として
運營する。ただその區別が何らの標準を置きませんことは、前に申上げましたように、各種の弊害を伴う虞れが多分に多いことでありますから、この點で一歩前進して、第十三條の一項を
修正されました點に
贊成を申上げる次第であります。
以上私の
修正意見に對する
贊成意見を申上げた次第であります。