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國務大臣(
水谷長三郎君) その点に関しまして、総論的に先ずお答えいたしまして、そうして平岡さんの御
意見をお聽きしたいと思います。それは、今般
政府が臨時に
石炭鉱業を管理いたしまして、
増産を達成しようというのは、次の理由に基くものであります。第一に
石炭の
増産及び
生産に関する計画が、國家の要請に應じた國家計画の性格を有するものでありますと共に、
生産現場の実情に應じた計画たらしめるものとすることでございます。現在
石炭の
生産に関する從來の
一般方式を見ますれば、その方式は、
石炭の直接の機能と
責任とをすべて
企業者に一任いたしまして、
政府は
資材、
資金等の統制によりまして、側面よりこれを援助するに止まりまして、
政府みずから直接に
石炭の
生産に関與いたしまして、強力にこれを推進するというものではなか
つたのでございます。これがために、
石炭の
生産に関する実際の措置がすべて
石炭企業の意思と能力とに左右せられまして、
政府の意図が確実に
生産の
現場に徹底実施せられることは保障されなか
つたのでございます。半面
政府におきましても、
石炭生産に関する詳細徹底した実体把握をなすことができませず、
生産計画、
資金計画、
資材計画等、現実に即し適正且つ具体的に確立することが困難でございまして、その実行につきましても、必ずしも
関係者の全面的
協力を得ることができず、その間に不円滑の生ずることを免れなか
つたのでございます。ここにおきまして、
政府は
石炭増産に関する
資材、
資金等の從來の諸施策を一層強化実施するのは勿論でございますが、右に述べたような從來の方式のみでは、根本的に不十分であると認めまして、これより一歩前進し、
政府が直接に
石炭の
増産に関與し、
石炭生産の
現場を把握し、これに対しまして、積極的に必要な統制を加え、
政府の企図するところが、直ちに
現場に実施されていくことによりまして、
石炭の
増産を図らんとすることを決意するに至
つた次第であります。
これによりまして、大体次のことが可能になろうと思います。第一には、
石炭生産に関する
政府の実体把握が的確に詳細になすことができます。その結果、
政府は確実な基礎に基きまして、適正な
生産計画、
資材計画、
資金計画その他の計画を定めることができ、又これらの計画の実施を強力に推進することもできることとなろうと思います。從來は不確実なる資料に依存いたしまして、推定によ
つて計画を策案する場合もありまして、実情と
違つたこともしばしば惹起されたのでございます。第二には、
石炭の
生産に関する
政府の意図が、
増産第一主義によりまして、確実に
生産の
現場において実施することができるのでございます。第三には、
政府の定めるもろもろの計画と炭鉱における
業務計画とが、直接に連繋いたしまして、相互に遊離齟齬を來すことがない。その結果、
政府も炭鉱も統一をした計画に基きまして、一致した努力をなすことができると思います。第四には、
政府の定める計画の基礎に、
企業の
経営者も労働者も参加いたしまして、これらの者の
意見も尊重せられるので、計画はおのずから公正になり、且つ計画の実施に対するこれらの者の
責任意識を喚起することができるのでございます。第五には、
石炭の
生産に密接なる関連を持つ
事業部門の
協力を得る途を開きまして、所要
資材の現物化、設備の修理建設、貨物の輸送等につきまして、強力なる措置を講ずることができるのでございます。
その次に我々が問題といたしますのは、從業者の
経営参加よりまして、その
生産意欲を向上することでございます。
石炭鉱業は、
一般の工業部門と異なりまして、その
生産要素としての労働力の占める割合は極めて大でありまして、
生産実績は勤労意欲の如何によ
つて決定的に左右されると言
つても、決して言い過ぎではないと思います。終戰後労働者の大量離山によりまして
生産が崩壊した事例は、未だ我々の腦裡に生々しい記憶でござにますが、その後極力労務者充足の措置を講じました結果、労働力としては約四十万を越え、戰前の水準を凌駕する状態とな
つたのでございます。然るに一月一人当りの
生産量を取
つて見ますと、最近は大体五・五トン程度でございまして、戰前の約二分の一の水準に沈淪しておる次第でございます。これは固より設備の不完全な稼動状態、熟練坑内夫の総体的不足、労働者の生活不安等によるものと言わねばなりません。率直に言
つて、勤労体制に
関係するところなしとは言い難いのであります。即ち戰時中のごとき、強制労働による能率増進方策は捨てられまして、新たに民主的な労資関保が生れつつあるのでございますが、
経営者側にも、労働者側にも、この新らしい
関係をいかなる具体的な形体において
運用すべきかについて十分な確信がないということが、労働不安を斎らし、能率低下に至る要因の一をなすものと
考えております。
増産の見地から
國家管理を行う
立場に立つ限り、労働者の生活不安を除去するための諸方策を強力に実施することを前提といたしまして、炭鉱の
生産現場における労資
関係の
生産る繞
つての新らしい制度を
國家管理方式に織り込む必要があろうと思います。
経営者と労働者とが互いにその
立場を生かしながら納得ずくで
生産計画を設定し、その実施について積極的に
責任を以て
協力する組織を設定いたしまして、これによ
つて勤労大衆の過度的な不安と能率低下を克服する必要があろうと思います。管理
法案におきましては、
生産協議会に重要な地位を與えているのはかような要請に應えようとするものでございます。その次に問題になりますのは、
石炭鉱業の行政及び
経営の
民主化を図ることでございます。すでに述べましたように、
石炭増産のための諸施策の実施は、國民の犠牲の上に行われるものでございまして、
石炭増産のためにこそ國民の耐乏生活における
希望が繋がるのでございますが故に、
石炭増産のために豊富な知識
経驗を有する人事を野に一個の遺賢なく行政上その知識を活用せらるべく又その縦横の才能を
経営上の
制約なく発揮せられるべく、從來の行政上の慣例又は個々の
企業の利害
関係はすべて國民的感覚において合理的に調整されなければならないのであります。このためには、先ず行政と
経営との
関係におきましては、監督するものと、監督を受けるものとが直接的に対立している状態が捨てられねばならん。
石炭の
生産に関する技術労働経理それぞれの面における
民間企業のエキスパートが
生産行政に溶け込むよう措置すると共に、從來のような形式的な
委員会制度と異り、
経済民主化のための実のある組織の設定を考慮しなければなりません。管理
法案における
石炭局の人的
構成と
中央と
地方における
管理委員会の組織はこの必要に添うものである。又
企業内容の
関係におきましては、
企業がその経理上の不安乃至將來の危險負担を恐れて、
生産増強について意識的無意識に
制約を與えるように施策することを前提條件といたしまして、
生産現場である炭鉱がその
経営者によ
つて推薦され、從業者によ
つて支持せられる人物を
中心に
生産第一主義によ
つて運営されることを保証しなければなりません。管理
法案におきまして、このことは
指定炭鉱における
炭鉱管理者の選任及びその職務に関する規定として
相当、誠細に示されております。世上、ともすればこれを
企業形態の変革であるというようなことを言う人がありますが、
法案はいわゆる
中央の本社に
業務計画の
決定権を認め、この際による
現場の日常業務を
現場行政
機構と、
炭鉱管理者に委ねようとするものでございまして、現実に即した
生産の彈力性ある運営を求める以外に他意はないのでございます。以上縷々と述べましたことは、
只今平岡委員が申されましたこのいわゆる
國家管理法案によ
つて何故
増産ができるかということに対して総論的に御答えした所以であると思います。