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政府委員(
濱野規矩雄君) 大変有難いお言葉を賜わりまして
大臣から申しましたように私らとしまして感激いたしておるのであります。
結核の問題は全く重大問題でございまして、私も役人になりましたのが昭和七年、それ以來ずつと
結核と一緒に行動を共にして今日まで参
つておるのでありますが、昭和十二、三年頃からいよいよ情勢がむつかしく
なつた時におきまして、
結核に対する
費用は
國民一人あたり四銭三厘九毛という勘定でありますが、それを世界各國に、例えばドイツにおきましても、アメリカ、イギリスにおきましても約ツー・マルク、ツー・シリングという一円の單價にな
つておる
結核を或る
程度まで抑えて行きまするには一円内外の金が要ろと國際聨盟その他においていわれておりました時に、私たちの國におきましては安達前内務
大臣の御盡力によりまして、ラジオの放送金が全部
結核の方に寄せられました。それと約百万円の寄附金を加えまして、それを全部合わせて
國民に割りますと四銭三厘九毛という金であ
つたことが未だに私の頭から消えないのであります。四銭三厘九毛の金を以て、一人あたり少くとも
結核を
撲滅するのに一円かかるという外國の例に対して如何ように我々が努力をするかという点については我々はいつも惱まされた問題であります。今度終戰になりまして、
衞生の
方面のいろいろな問題はやはり金を食うものであります。或る一定の
程度の金を使わなければ、これほど重大な使命の問題、人の生命を預か
つております問題はやはりそれだけの效果は挙り得ないということは一應
考えますから、私共微力でありますが、できるだけ科学的に努力いたしましていわゆる私たちがいいます医術行政なるものを十分一同腕を相組みまして、そうしてこれから努力いたしてみたいと思いますので、何分とも御盡力、御鞭撻を願いたいと思うのであります。
結核の
蔓延につきましては、御承知の
通り世界の國に例のない現状でございます。これは今数字としてお
手許に差上げてありますが、
人口一万に対して二十八幾らという数字にな
つております。この数字はどこの國にも例のないことであります。又昨年は少し下りまして二十三という数字、これはいろいろなものを推定しましたものでありますが、非常にどこを見ましてもひどいものであります。この間遠藤繁清さんがお書きになりました本の中に、
結核を
撲滅し得ない
日本が戰争をしたのはどうかということを書いてございますが、アメリカにおきまして戰争中と雖も
結核は滅
つて参
つております。まして
撲滅し得ない國が戰争し、その間非常に殖えておる、敵の方が減
つておるこういうようなところに
日本の惨めさがあるのじやないかということをこの間自分の著書の中に書いておりまして感を深くしたのでありますが、非常な数であります。その
一つの
原因を私たち見ておりますというと、
都市における
結核は、明治三十二年以來
日本では統計ができましたが、確かにずつと見ておりますが、
都市における
結核は若干ずつ減
つております。
農村における
結核は多いのであります。これは昭和十二、三年頃から厚生
当局といたしましては僅少の金を以ちまして今
お話の
農村に帰
つて参ります方々の
健康診断を強制的にいたしております。その時の率は今はつきり覚えておりませんが
結核で
帰つて來た者が約三分の二であります。要するに
工場から帰ろうが、都会から帰りましようが、あらゆる所から
帰つて來た者につきまして、医師会の方にお願いいたしまして
健康診断をいたしました統計では約三分の二が
結核であ
つたのであります。それで私たちがそういう村へよく見に参ります。参りますと、要するに処女地である村から製糸
工場に賣られて行く、という言葉を使
つてどうか知れませんが連れられて参ります。そこでその子供さんは、これをただ私たちの一番間違
つていない医学的の常識から申しますならば
結核に対して罹
つておらん人、それが
工場に入りましてそこで初めて罹るのであります。
工場の中の
衞生状態は御承知の
通り余り完備したものではありません。いい会社等におきましては相当冩眞なといろいろなものがございますが、併しながらあの中におると暑さとか、いろいろな点から過労の面、又疲労の殖えるような條件に充たされたものが
工場の
内容でございます。又小さな部屋に数名づつ住まうのでありますから、そこで初感染なるものが起るのであります。全部の者を調べて
結核に感染した者は、ピツクアツプしてのけておればいいのでありますがそうでありませんので、そこで
結核に感染するのであります。
結核に感染すると一年から二年の間が一番発病し易い時であります。その時期を過ぎますれば割合に発病せずに済んで行きます。感染してから約一年乃至二年の間が一番発病し易いのであります。昔脚氣なとが玄米食その他のことが行われなか
つたために多か
つたのでありますが、脚氣は十六、七の者に多いのであります。それを過ぎた者が
結核年齢に入るのであります。それでそういう年頃の人が一番多人数の中に入
つて行きます。それで丁度その感染した人が悪條件の下におりまして、加うるに榮養の問題は現在可なり、戰争の中頃から改良されましたが、昔はひどいものでありました。そんなような
関係から栄養等の不足、過労、それから空氣の流通の悪い点などによりまして、
結核におのずから感染する率が多くて、感染した者が発病いたしました。この発病いたしました者が氣管枝炎とか感冒とかいろいろな名前で、先程仰せの如く帰
つて参
つた。家へ帰りましても青白い顔をしております。そうするとその
農村では
工場に人を送らなければならんような
農村でありますから、可なり困
つておる
農村であります。又多人数
一つの家に住んでおります。ひどいのは万年床に住んでおるような人もございます。そういう人が不
衞生的な
農村に帰りますと、次々に感染して行
つて処女地の人にうつるのであります。それで奈良縣と三重縣の境の或る村で全滅した所があります。全滅しますと村の人達は初めて知
つたというようなことがあります。これらは或る期間じつとしておると栄養もよし、村の空氣もよし、又じつとちじこまりまして
工場へも行かいない、その時期が十数年位続きます。そうすると又困難な時期が参りまして、又村の人が
工場へ参る、この循環をどうしても切らなければ、
結核は如何ようにもしようがないのであります。
結核に対しましては今度
保健所を設けましたが、
保健所においては
早期診断をいたしましてこれをみてやる。戰時中
保健所が、
工場衞生の
方面のことも相当入りまして、この
方面にも努力いたしまして、又今度
保健所が活躍いたします。そこにおきまして徹底的に……これまでの
工場医の方は、大変失礼ないい分でありますが、やはり
工場医としてその
工場からいろいろと面倒を受けておられますから、そういう
指導その他については、利益本位でありますれば、若干困難であります。これと同じ現象を
日本の紡績と非常に
関係がありますイギリスのランカシア、有名な縣でありますが、これはやはりイギリスでも有名な
結核の多い
地方で、同じ條件を呈しております。併しながらリザント・コツクスという若い人がおりまして、
結核については発病から癒
つて行くまでの経過が大体分
つておりますので、これに対しましては
保健所その他が強力に入
つて、又栄養の改善その他あらゆる問題について、要するにそういう点についてよく理解のある人が中に入
つて指導いたしますれば割合に急速に囘復して行く尚
結核に罹りますと、皆びつくりして慌てまして心配いたし、いろいろ迷信をいたしますが、これは避けなければならん。要するに
結核に罹
つた人を治しますには要するに安静、休息それから活動とをはつきり区別しなければならん。これをはつきりと会得した人が
結核を克服したわけであります。こういう人は体から後光の出るような努力をした人であります。そういうよわけで
結核に奮闘する医師の
指導によ
つて直
つて行くのでありますから、そういうことがおのずから分
つて行きますことが
結核を撲減する大きな途であると確信いたしておる次第であります。今後
保健所並びに
地方の人が協力いたしましてや
つて行きますならば、又
工場その他もそれに刺戟されて段々と悪い弊風が直
つて行くのじやないかと思います。又
結核の治療はどうしても患者を除けましてベツトに入れまして治療方法を本人に会得させることが必要であります。今度五万床程できておりますが、併しながら食糧
関係で今のところ患者は約半分しか入
つておりません。これは非常に残念でありますが、尚戰時中なく
なつた長興又郎博士が中心になりまして学術研究会で作りましたBCGワクチンがございます。これについては二、三疑義があるという人もありますが、今日まで南百万人という者にやりました結果によりますというと死亡を八分の一に減ずることは統計上はつきりいたしております。これらのものが昔からありますが、使い方によりまして非常にうまく行くということを我々の先輩が発見して呉れました。又それを強力にや
つて成績を挙げております。そういうような学問時なものを強力にいたしまして、どうか一日も早く
結核でありますとか、その他のあらゆる
傳染病、
傳染病もこの頃減
つた減
つたといいますけれども、併し戰前の
日本の
傳染病から見ればまだ殖えております。加うるに
日本の國内にまだ天然痘が出ております。発疹チブスが出ております。天然痘などは昔から
日本には殆どなく、一人でも出ますと私共
当局は本当に晝夜兼行で努力したものでありますが、この頃は毎日私の机の上に電報が入
つて参るような次第でありまして、まだまだ私は
衞生状態について非常に寒心に堪えないものがあります。教育と
施設と正しい
指導というものを
保健所を中心にいたしまして、医師会の各位、その他と連絡を取
つて一日も早く安心できるようにしたい。これにはどのように申しましても先程
お話がございましたように全
國民が協力して呉れなければならん。昔からずつと調べて見ますと、明治の初めにおきます
衞生費用、昭和の日支事変の始まる前の
衞生費用は縣に対するものは同じでありますが、それを縣費について見ますとどんどん減
つております以前挾間
衞生局長が調べたところによると僅に縣費の二パーセントの
費用を以て縣民全体の
衞生の
費用とするということは困難じやないかと思います今後ともこの点については私共粉骨碎身努力いたしますが、どうか皆様方の御
指導協力をお願いいたします。