○松本(一)委員 私は
片山首相に、
國民生活の重大なる問題と祖國再建の指針ということにつきまして、信念をお伺いいたしたいと思うのであります。
片山首相の御人格、人となりにつきましては、私
ども衷心から尊敬申し上げ、敬服いたしておるのであります。それあればこそ、過般選擧のときに首班として投票さしていただいたのであります。しかしながら
具體的なる國政御運行の
政策の面におきましては、はたして首相の政治的實行力、御
政策を忠實に實現させる御信念が奈邊にありやということを承りたい、か
ように思うのであります。
一昨日の
川崎氏の
質問に對しての御
答辯によりますれば、社會主義
政策を堅持して、一度に出せば
國民が食傷するから、小出しをするのだという御方針を明らかにされたのであります。このことにつきましては私
ども、いささか首相の根本的御信念と
意見を異にいたす點がありますので、お伺いをいたしたいと思うのでありますが、今日わが國の政治といえば、申すまでもなく
經濟に重點がおかれております。
經濟即政治と申しましても過言ではないと思います。その
經濟もわが國の再建と
國民生活の安定という線に注がれておると思うのでありますが、今
國民が、殊に働く勤勞大衆、戰災者、あるいは引揚者、大多數の
國民は今日の衣食住に不足して、いかにしてこの苦難を切り抜け
ようかということに日夜苦慮いたしておることは御
承知のはずであると思うのであります。私
どもは、どうしてもこの
國民生活を安定の域まで救い出すとともに、敗戰という不面目な大失敗を償
つて、祖國
日本を再建しなければならぬという熱意をも
つておるものであります。ともかく今日の
國民生活の安定には、何をおいても物を充足する、物をつくるということに重點がかけられなければならないのでありまして、できた物をどう配給するか、消費せしめるかということは第二の問題であります。しかるときに、物をより多くつくり、いい
品物をつくるということにおきまして、今日の
日本の國の
經濟政策、指導方針、すなわち統制
經濟は大きな缺陥をも
つておるのではないか、か
ように私は思うのであります。殊に間もなく開かれんとする自由
貿易の時代になりますれば、わが國は好むと好まざるにかかわらず、世界の競爭
經濟市場に乘り出さなければなりません。そのときにいい
品物を安く賣り、しかも多量につくるという
努力がなかつたならば、必ず落伍者とな
つて外貨の獲得は思いもよらないことだ。すなわちこの小さな島國に、またぞろ孤立しなければならぬのではないか、か
ように私
どもは心配いたします。その觀點に立
つて考えますときには、國内の
經濟状態を努めて競爭
經濟にも
つていかなければならぬのではないかと思います。今日國家公務員法が上程になり、その
説明を伺
つておりましたら、公務員の能率が低下しておるから、能率向上をはかるために競爭制にしなければならぬという御趣旨には
賛成であります。殊に
經濟面において、なぜ一日も早く競爭制にも
つていかないのであるか。このことを私
ども非常に遺憾に思うのであります。戰時中から今日までの
日本の統制
經濟の跡をたど
つて見ますれば、ことごとくが
實際わけのわからぬ素人で、月給さえもらえばよい、日が經てばよいという官僚のその日暮しの無責任なる
經濟のやり方でありまして、俗に餅は餅屋と申しますが、やはり
産業のことは
産業界人にやらさなければならぬ、ほんとうの苦勞を知らない人にやれるものではないということは申すまでもないことであります。か
つて戰時中に岸統制で私
どもは大きな憤激をもちました、せつかく育てた事業すらも私
どもは中小工業、
企業整備のために大事業に合同せよという
商工省の命令に憤激をも
つて、支那の華中水産に賣拂つたことがあります。戰時中國策に協力しなかつたかといえば、決してそうでないのであります。官僚統制の無知識、權力をも
つて國民を屈服させんとするこの方針に、私
どもは大きな憤激を感じ無抵抗の抵抗をいたしたのであります。今日
日本の
生産面に携る
國民のおそらく大多數の人は、この官僚の統制には大きな不滿をも
つていると思うのであります。その一例としまして、
政府は先般薪炭の値上げをいたされました。
生産者價格が從來の倍にな
つて、
生産者は喜ぶかと思います。反對に消費者價格が非常に高くなりましたがために、かえ
つて生産者の不滿を
買つて、依然として薪炭は
やみなら買えるが、
マル公では買えないという
現状であります。
マル公を引き上げれば、つい
やみ値がさらに上
つていくというのが
日本の
現状で、先ほど首相も、わが國の
經濟の病根は
賃金を上げれば
物價が上る、
物價が上れば
賃金が上るという悪循環にありと指摘されました。これも一理はありまし
ようけれ
ども、さらに重大な
原因は物の不足であります。物さえ増産すれば
物價は安くなり、
賃金は上げずとも濟むのである。この根本の方針、原理は簡單でありますが、首相竝びに
經濟安定
本部あたりで、その通りだ、實行し
ようという熱意がどこまであるかということを疑わしく思うのであります。今日素人の何もわからぬ者に事業にタツチする實權をもたしますことは、あだかも狂人に刄物をもたす
ようなものだ、先般私は京都方面の食糧對策實地調査にまいりまして、みそ、醤油製造の大きな
工場を視察しましたとき、その
會社の關係者が曰く、今度は私
どもの方も公團ができて、また役人の支配を受けなければなりません、實に殘念ですと申しておりました。その
工場の、先祖代々粒々辛苦してつくられたところの機械設備を見ましたとき、私は私個人ならぶち壞したく思いました。とにかくそれほど業界は、いわゆる一生の運命と全財産を投じて、その事業に血の出る
ような精魂を打ち込んでいるのが
現状であります。それをただ役人が權力によ
つて、自分たちの思うままに支配せんとするところに間違いの種があるのでありまして、要は重要
産業はやむを得ませんから、これは統制いたすといたしましても、その他のものはできるだけ統制の枠をはずして自由
經濟に、競爭
經濟にも
つてい
つて、物を増産するという
政策を行われるのが適當なのじやないかと考えます。この
意味から薪炭類のごときも、あるいは生鮮食料品のごときも、か
ようなものは速かに統制を撤廢されるのがよいのじやないか。先般も食料關係で京都に調査に行きましたが、魚の配給でありまするが、
政府は食糧緊急對策によりまして、一人あたり十一匁づつの魚を配給されるということを發表されております。
實際行
つてみてどれだけ配給にな
つておるかと言いますると、七月、八月の二箇月に、六十日の間に二百五十グラムでありますから、七十匁であります。六日分より配給はないのであります。あとの五十四日というものは魚を食わないか、あるいは
やみで食うかしなければならない。しかし
やみならば魚のありますことは、御
承知の通りであります。すなわち今日
國民は、一面は
マル公ですが、大
部分は
やみの
生活をいたしておるのであります。先ほ
ども首相は、
やみの撲滅、
マル公生活について
國民の道義に訴えられ、非常に御結構な御方針の
ように思われますが、
現状をも
つて推移いたしますれば、おそらく十年かか
つても、この
やみはなくなるまいと私は思うのであります。
やみをなくする途はただ
一つ、物を増産さえすればそれでよい。物によ
つてはいろいろ資源の關係や施設の關係で増産できぬものはありまし
ようが、簡單に増産できるものは統制の枠をはずして自由
經濟にすればよい。すなわち魚のごときも
生産縣におきまして、陸上で取締りを強化すれば海の上で
やみをやる。海上に警戒船を出して取締りを強化すれば、今度は漁業者が海に出ない。漁業者が
耐乏生活を始めるのであります、これが現實であります。すなわち政治は多數
國民の納得のいく
ように、得心のいく
ように現實に即して行うのが政治ではないか。しかも今日國家關頭の時期に立
つて、國家興亡のこの非常時において、なおか
ような適切な
政策を
——これまでの政黨のイデオロギー、さ
ようなものは捨て、政黨政派を超越して、祖國をいかにして再建し、
國民生活をいかにして安定するかということこそ、今日の重大なる必要なるとるべき手段ではないか、か
ように私は考えますので、首相の御所見を伺いたい。
その次は最近一般
國民の思想も遺憾ながら悪くな
つてまいりましたが、殊に勞働能率の低下であります。不肖私も十三萬人ほどの
勞働組合員の一人であります。その中にはい
つて仕事をいたしておりますが、終戰後だんだんと悪化してまいります。作業能率が遺憾ながらあがらないのであります。殊に殘念なことには、
日本の前途を双肩に背負うべき青少年の能率があがらぬことと、思想が悪く
なつたことであります。このことだけは、特に私
どもも看過できないのでありますが、その
原因は衣食住の
生活が缺乏しておるということも一理はありまし
ようが、いま
一つは、すなわち國の指導者、あるいは地方におきましては、府縣町村の指導者が身をも
つて率先垂範して、
國民のためよく指導するというこの方針に過ちがありはしなかつたか。すなわち自由と權利を主張することは教えても、憲法十二條の絶えざる
努力によ
つてのみ自由と權利は主張することが許されます。またみだりに濫用すべからず、あるいは公共の利益のためには利用する責任を負うという、この重大なる義務ある反面を教えられなかつたことを、私
どもは遺憾に思うのであります。今後
國民の指導にあたりましては、政黨政派、黨利黨略を離れて、眞に
日本人、働く勤勞大衆をつくるという
意味からも、こういう指導方針をおとり願いたいと思うのであります。先般首相が
國民に總勤勞を説かれました。非常に私
どもご結構なことだと思います。戰前の
日本ならともかく、敗戰の
日本はこれまで十働いた
國民が、十も二十も働かなければ、將來に負う重壓負擔に耐えられないことは當然のことであります。このことを
國民によく徹底認識させるため、先般首相は本
會議におきまして、新
日本建設
國民運動を大々的に展開するということを發表されまして、私
ども意を強うしたものでありますが、その
具體的の御實行
方法が、今なお見られないのを遺憾に思います。祖國を再建
復興し、民生を安定させんとするならば、ともかく精神的にも
國民の大啓蒙運動を起す必要があります。これには政黨政派を離れて、暇ある者は暇を、からだまめなる者はからだをも
つて全國に遊説せしめて、
國民の奮起と、そうして時局の認識を徹底させる
方法を講ぜられる必要がありはせぬか。か
ように私は考えて、所見を伺いたいと思うのであります。最後にもう
一つお伺いいたしたいと思いますが、御
答辯のいかんによ
つてお伺いをいたすことにいたします。