○加藤(シ)
委員 私は
片山總理大臣にお伺いいたしたいと存じます。私は國の豫算は、そのときの國策を映し出すところの鏡のようなものであると存じます。しかるにこの豫算において最も重大なる國策の
一つでなければならぬと思われる問題が、まつたく缺如していることを、私は發見するのでございます。それはわが國の人口問題のことでございます。わが國の人口政策は、今日産業、文化、
生活等、あらゆる問題に重大な關連があるにもかかわらず、
片山内閣は成立以來、未だ國策としての人口政策の確立を見ず、わずか厚生省の一部にささやかな人口問題
研究所が、戰時におけるわが國一億大人口政策の名殘りを止めているにすぎない。このことを見るのは、非常に私は遺憾とするところでございます。無謀な
戰爭の結果、わが國は國土の約四六%を失い、資源は乏しく、國土は狹隘であります。そこへ海外よりの引揚同胞を加えて、今日七千七百萬の大人口を擁しております。この
状態は、まさしく人口過剩の現象として、國内的には
生活難からくるいろいろの問題を起し、國際的には
日本がこの過剩人口をいかに處理するかについて、多大の注目が拂われております。
日本は國内で生産し得る食糧をも
つて自給自足し得ることは
絶對に不可能であります。
連合國側の好意による食糧輸入によ
つて、さいわいにして餓死者を出さずに今日まで來ております。この際われわれ
國民が人口對策確立の急務を感ずることは、まことに當然ではないかと存じます。今日のわが國の人口問題に對して、戰後最初に簡單率直な解明をせられましたのは、昨年の二月九日の
連合軍總司令部公共衞生福祉部長サムス大佐のそれでございます。この解明によりますと、
日本國民が
戰爭前に攝取していた一人當り二千百六十カロリーの熱量で、今日なお
日本の人口を養おうとすれば、現在の
日本が養い得る人口は、わずかに四千七百萬にすぎないということが發表されております。このカロリー水準を戰前の平均二千六十カロリーに求めず、今日のいわゆる衞生學上の見地から見て
日本人が
絶對必要とするところの最低平均カロリーである千八百カロリーまで引下げて換算するとしても、今日のわが國の全人口の必要とする食糧を維持するためには、一年に三百五十萬トンの食糧の輸入が必要であることは周知の
事實でございます。そこで人口對策としては、一、必要食糧を輸入するための見返り物資を輸出し得るような、高度に工業化された産業組織をもつこと、二、
日本過剩人口の海外移民、三、産兒制限措置の實施、この三つが提示されたのでございます。この三つの觀點からなる人口對策を、限られた時間の中において
質問することはできませんすで、私はこの中の第二の
日本人の海外移民に關する問題と、第三の産兒調節措置の實施に關連して、
政府の御所信を
總理大臣より承りたいと存じます。
總理大臣は、
講和會議を目前に控えて、
講和會議はぜひ現
内閣によ
つてこれに臨みたいという御決意を發表されておりますが、しからばこの
講和會議に臨む現
政府の
心構えなるものは、單なる精神的
心構えのみで臨まれるおつもりでございますか。または、その
心構えとは、敗戰國の
立場ではありながら、
將來國際連合の仲間入りをするほどの希望をも
つておる
日本國としての、具體案の裏づけある
心構えであるかを承りたいのであります。もとより具體案と申しましても、こちらから注文を提出することのできない
立場にあることは、申すまでもございませんが、
日本の過剩人口問題解決策の
一つとしての移民問題が、
講和會議において何らかの形で取上げられた場合のことを
考えて見る必要はないでございましようか。もし
講和會議において移民問題が取上げられたとしたならば、終戰後の
日本において何らかの人口對策が、國策として取上げられているかいないかということは、
世界の世論に及ぼす影響が甚大なるものがあるのではないでございましようか。民主主義
國家の心理を
考えて見ますと、それは常に天はみずから助くる者を助くという
考え方でございます。從
つて日本としては、自國の人口問題がこれほど切迫した性質であるにもかかわらず、何ら對策を講じていないのでは、
講和會議に臨んで、はなはだ
立場がよろしくないと懸念されます。
日本が現在過剩人口に惱むといいながら、國勢調査によりますと、昨年四月より本年十月までの一年半の人口増加は、約五百萬であつたことを示しております。これは復員引揚等が加わ
つて、異常な増加とな
つてはおりますけれども、これを別といたしましても、年々二百數十萬の出産を見、約百萬の人口の自然増加を見ておることは、そこにそれ自身大きな問題を提示しております。科學の發達しなかつた時代のことならいざ知らず、また未だか
つて科學を取入れる能力をも
つていない無智蒙昧の未開民俗ならいざ知らず、いやしくも科學
日本をも
つて自認していたわが國が、人口増加はまつたくの自然現象なりとして放置して顧みず、しかも過去においてわが國における人口増加が、
日本の軍國主義的膨脹政策の最大
原因をなしていたことを思うならば、その
戰爭の
原因を今日依然としてそのまま放置して顧みられないことは、
片山首相が日ごろから言われる、國際的には平和主義を唱えられるそのお言葉が、一片の空念佛としてしか受取られなくなるものでございます。首相は今こそその平和主義に對しても、過去の
日本を國際的大ばくちに投げ込んだ、人口過剩國の權利といつたようた危險なフアツシヨ的人口論を清算して、平和的人口論の確立をはからなくてはならないのではございますまいか。私は
片山首相の國際的平和主義を、感情的、抽象的なものに終らせないためには、
政府は強力にして科學的な人口對策
機關をもたれ、一國の人口問題は、他國の人口稀薄な所などを指をくわえてながめるのではなく、また、持てる國と持たない國との間に、暴力に訴え、あるいは
民族的勇猛心を發揮させる危險な
原因を
將來殘すような不明を一掃して、人口問題は國内的に、自主的に處理しない限り、その國の生存は保障されないという冷嚴な
世界情勢の現實に目を注ぎ、
生活組織の科學化による以外、解決の
方法はないことを認められませんか。
さらに、この
生活組織の科學化の一
方法として、私は、この際
國家的見地よりする産兒調節の徹底的普及の必要を認めるものでございます。このような、自國の問題は自國内で自主的に處理することの決意を
國家及び
國民が固めたときに、はじめて移民問題の前途にも光明を見出されるのではないかと存じます。最近の新聞によりますと、目下來朝中のシカゴ・トリビユーン紙の社主ロバート・マコーミツク氏が四日
片山首相と懇談された席上において、米國における對日感情もだんだん好轉しつつあることを傳えられております。また
日本の過剩人口については、人口稀薄な地域に、正當に移民ができるようにという好意的な言葉を、
講和條約と關連して語られたことが報道されております、マコー・ミツク氏の言は、
日本人のだれの耳にも快く響いたに違いないと存じますが、
片山首相は、この
日本に對して特にそのお父さんの時代から關係をも
つていたマコー・ミツク氏の好意に充ちた言を聽いて、そのまま甘えてお
つてよいと思われますか。
私は首相の御所見を承ります前に、ひとつ御參考として
戰爭中の米國の新聞、雜誌に現われた彼の地における人口問題に對する
考え方の一、二の例を御紹介いたしたいと思ひます。代表的な
一つとしてはアメリカのメンフイスと云ふ基地の司令官であるダニエルソン代將の演説の内容でありますが、この方もまた無制限なる人口増加は不可避的に
戰爭に到達すると言
つております。そしてこの代將は、今後締結されるべき平和條約には、必ず産兒制限の條件を挿入すべきであると主張しております。これは
戰爭を遂行する場合は必ず勝利に到達すべき確實な採算と戰略が必要であると同じように、平和を招來するにも、それを實現し得る的確な
具體的手段を構ずることなしに、抽象的平和を論ずることは無
意味であると言
つております、
平和論者片山首相にあ
つては、このダニエルソン代將の言は、必ずや共鳴されるのではないかと存じます。
もう
一つ重ねて御參考に申します。それはアメリカの指導的
立場にある雜誌ネーシヨンに掲載された記事でありますが、要約して御紹介すれば、アメリカが約五十年前、一八九八年にスペインの領土であつたポートリコと云ふ三千四百三十五平方マイルの土地を合併しました。その後五十年の間に、米國はこの新領土の衞生
状態を改善し、
生活難を解決してやつた結果、合併當時人口九十五萬であつたポートリコは、五十年の後二百萬に増加し、まさに半世紀に人口は倍に増加したという現象を示しました。そして今日依然として人口増加の道をたど
つている現状を指して、この雜誌はこのように申しております。もてる國の恩惠によ
つて貧困から救われたというものほしさうな國に對して、アメリカはアメリカ人の犠性において、このような
民族がたくさん子を生むうさぎのように繁殖しながら、アメリカから食糧の供給を仰ごうとしていることに對して、われわれはそういつまでもおひとよしにしてはいられない。そのような
民族には人口制限を忠告すべきだとの
意味のことを書いております。これは
日本のことを直接指したのではありをせんでしたが、
日本の人口が過去五十年に約倍加している
事實と、今日依然として出産率が歐米の文化
國家に比して非常に高いという現状に照し合わせてみて、
一つの參考になるのではないかと思います。そこで私の
質問はたいへん長くなりましたから、もう一度要約して申します。
一、
講和會議を前にして、
政府は人口對策を確立する意思ありや。
二、
片山首相の國際平和主義の
具體的裏づけの
一つとして、産兒調節の知識普及化を考へられるかどうか。
三、
日本人の移民が
將來許される場合があるとしても、これはうさぎのように子を産むアジア人としての
日本人ではなく、
生活に科學性をもつた
日本人として海外に移住すべきであり、この用意を今日からしてをくべきだと思はれないか。
以上三點についてお答え願いたい。