○長野重右ヱ門君 ただいま、本日の
自由討議の問題であります中小商工業の振興
対策について、
自由党の小峯君、社会党の林君から、いろいろとお述べにな
つたのであります。私も、この問題につきまして、國会法第七十八條の精神に則りまして、きわめて自由なる立場においてその意見を申し上げまするとともに、
政府当局に対して、速やかにこれに対する適切なる措置をおとりにならんことを要望し、さいわいに水谷商工大臣が御出席にな
つておりますから、先ほどの林君に対する御
答弁と纒めて、私の意見に対しても御
答弁をお願いいたしたいと思うのであります。
私は、この問題を取上げてまいります上において、大体四つの事柄に分けて扱う方がいいのではないかと思うのであります。その第一は、中小企業振興の必要性であります。何がゆえにこの中小企業の振興をやらなければならないかということ、次には、
日本の中小企業の性格はどういう形であるかということ、その次に、政府の政策とこれに対する業界の実情について申し上げたいと思うのであります。最後の第四番目に、しからばどうすればよいか、その
対策を申し上げて結論に入りたい、こう考えるのであります。
第一に、中小企業振興の必要性でありますが、現内閣が生れましたとき、あの経済緊急
対策の発表いたされたとき、片山首相は、この行き詰れる
日本の現在の経済危機を突破していくのには、別に新しい事柄があるのではない、
從來から言い古された事柄を、いかにして果敢にこれを実行して行くかに盡きるということを申されたのであります。私は、この
言葉は今の中小商工業、殊にこの中小企業の振興の上にあてはまるのではないかと思うのであります。
敗戰後、
日本経済は民主化の一途をたど
つておるのであります。財閥の解体であるとか、あるいは独占禁止法の制定、また近く行われまするところの賠償施設の撤去の問題であるとか、こうした事柄は、いやが上にも大企業が影を潜めまして、
日本経済の再建は、どうしてもこの中小企業が負わなければならない。言いかえますならば、
日本経済の再建は、中小企業と中核体としなか
つたならばできない事柄であるということは、申し上げるまでもないのであります。それと同時に、また
日本経済は世界経済の一環としてのみ存在が可能であるということを強調しなければならないと思うのであります。
過般、連合軍の好意によりまして、民間貿易は再開いたされ、輸出入回轉資金が
設定いたされたのであります。輸出振興の措置を速やかにとらなければならないことは言うまでもありません。また、この輸出貿易の占める中小企業の役割の大きいことも申すまでもありません。
日本は労働力が過剩でありまするけれども、これに対應いたしまするだけの
資材が不足いたしておるのでありまして、どうしても加工貿易の方式のもとに、これをや
つていかなければならないことは言うまでもありません。戰前といわず、
從來この中小企業が輸出貿易の上に占めておりましたものが六割に及んでおりますことは、また今までの実績において明らかであります。
先ほど小峯君も言われましたように、大規模の工業に比較をして、この中小企業がいかに不利なる点にあるか、また、大規模が非常に有利であ
つて、中小企業に依存することが何か誤
つたるごとく言われる人々もありまするが、それは大きな誤りであろうと思います。もちろん、小峯君もこの点を指摘いたされたのであります。アルフレツド・マーシヤルの指摘をまつまでもなくして、外部経済の利益を受け得る形の中小企業であります。言いかえますならば、
一つの地域に同じ種類の生産が集團的に行われまする場合に、いかに有利なる條件が揃
つているかということであります。職工数百五十名以下をかりに中小企業といたしまするならば、その工場数は全体の九五%を占めておりますること、また内閣の
統計に明らかであります。
次に第二に、この
日本の中小企業の性格の問題に触れたいと思うのであります。中小企業の重要性は、私を初め、先ほど両君からいろいろとお話にな
つたのであります。しかしわれわれは、現在の企業の形のままでこれを保護助長していくということを主張いたすのではないのであります。そこには新しい観念に立
つて、しかも敗戰後の
日本の経済の実情を把握して、どうすればこれを振興できるかということを考えていかなければなりません。
ちようど太平洋戰争が起こりまするニ、三年前であ
つたと思います。アメリカのアレン教授が
日本の経済界の実情を見にまいりまして、あの地に
帰つて、シユンペーター夫人とともに「
日本及び満州の工業化」という一冊の本を著わしておられます。そのうちの「経済支配の集中化」というところをひもといてみますと、
日本の中小企業の性格というものが、はつきりと表現いたされておるのであります。
日本経済構造における中小企業の役割は、その数においても、活動内容についても、注目に値するものがある。しかし一面において、これらの中小企業は、しばしば大商人または大工場に從属しており、その意味において、大局から見れば一大会社の部分に過ぎぬということを言
つております。
かようにして、既往における
日本の中小企業というものが、決して健全なる存在ではなか
つたということも言い得られまするが、その後軍需産業は平和産業に切りかえられ、あるいは財閥の解体に刺戟せられて、こうした雰囲氣の中から脱却して、一大轉換を余儀なくせしめられましたことも、また言うまでもありません。なるほど、れこらの業者の機械設備は貧弱である、技術もまた惡い、十分なる指導を受けるところもない、信用も乏しい、品物もまた不整一、こういう点はあげられるのでありますが、こうした幾多の欠点は、企業の合理化において解決し得られるものであると思います。
先ほど社会党の林さんから、いろいろと協同組合の利用につきまして、全面的に中小企業者がこれを利用しなければならないということについてお述べになりましたが、私も全幅の賛意を表するものであります。こうした場合におきまして、生産、販賣あるいは
輸送、経営、これらの面を協同施設いわゆる協同組合組織のもとに運営していきますることが、どれだけこうした問題をお互いの力によ
つて解決し得られるかということを、はつきり知ることができます。
第三番目には、政府の政策と業界の実情であります。由來、この中小企業並びに中小商工業の問題につきましては、どうすれば振興ができるか、どうすればこれがうまく運営していかれるか、戰時中におきまするようなむりむたいなる不請作業というようなものは別といたしまして、政府もまた、これに対してはいろいろと施策をお考えにな
つておるようであります。
本年の二月、前吉田内閣は中小企業振興
対策要鋼なるものを御発表に相な
つておる。現内閣ができますと、同じようにこの八月に、振興だけを拔いて、中小企業
対策要綱というものを御発表に相な
つておるのであります。その中には、われわれが拜見いたしまして、こういうことをや
つてもら
つたら
日本の中小企業、殊に輸出の面におきましても、生活必需物資の生産面におきましても結構であると深く待望いたしてお
つたものがあ
つたのでありますが、遺憾ながら吉田内閣の要鋼も、現内閣の要綱も、何らその片鱗さえ見ることができないという始末であります。安本も、またこれに負けんようにというつもりでありますまいが、中小企業
対策委員会というものを設けられております。ところが、これも一遍おやりにな
つて、輸出産業の中心は中小企業の確立ということ、と漠然たるところの原則的な方向をお示しにな
つたばかりでありまして、すなわち、作文行政と云われても何ら
異議はないということに相な
つてまいる。(
拍手)
そういたしますると、吉田内閣のこの振興
対策、あるいはまた現内閣の中小企業
対策要綱、いずれもこれら企業家に対する
一つのゼスチユアと言われても弁解の余地はないと思ふのであります。かかる事柄に対しましては、速やかに適切なる
処置をおとり願いたいと思うのである。(
拍手)ここで考えておるでは困るのでありまして、お互い
國民は、今日の状態をどうするかということに悩んでおるのであります。
この中小企業の振興と結びつけまして、なかなかむずかしい問題は、いわゆる失業者の問題であります。御承知のように、この間政府の発表によりますと、顯在失業者が二百九十万人であり、潜在失業者—家に
帰つて百姓しておるとか、あるいは現在やみ屋をや
つておるとか、こうい
つたものが四百七十万人あ
つて、今度また企業整備がやむを得ないものといたしますと、ここに多くの失業者が現われて、その合計は千万人を越えんと、これはだれしも考えられます。これらはどこへ行くかと考えますると、理窟じやない。すなわち、この中小工業、あるいはこうした小さい企業の中に溶けこんでくることも、また考えなければならないのでありまして、この振興政策を立ててまいりまする上においては、これらの問題と結びつけて、どういうふうに考えるかという事も、政府として当然お考えにならなければならない事柄であろうと思うのであります。
輸出振興の声は非常に大きいのであります。もちろん、これはなかなかむずかしい問題であります。民間貿易は許されたと申しましても、相も変わらず管理貿易の域を脱しないのでありまするが、
資材や資金、爲替レートという大きな問題は第二といたしましても、何とかしてこの輸出に仲間入りをしよう、そうして何とかしてこの
日本の経済再建に役立とうと思
つて、これらの業者が力を盡してサンプルをつくり、さいわいにして、それがバイヤーの眼にうつ
つて、そうしてオーダー・フオームをもらうことにな
つた。やれ嬉しやと思
つて、どういうふうな手続をすればよいかということにな
つてまいりますると、セールス・コントラクトが十三通要る。A・Pが五通要る。輸出準備申請が十二通要る。しかも、これは言うまでもなく全部英文であります。それがようやくスキヤツプを通
つて、貿易公團から集貨の指令がまい
つて、貿易手形がくるのでありまするが、この間にどれだけかかるかというと、御承知のように非常にかかる。しかもこの貿易公團は、政府の措置によりまして、どんな金融業者でも喜んで金に代えてくれるということに指図がしてあるようでありまするけれども、なかなかまたこれが金のまわらぬということは、実情を御承知であるならばよくおわかりになると思うのであります。
次に、今申したように、こうした煩雜な手続は容易に中小商工業者でやれることではありません。英語を一字知らぬ者が、
かくのごとき厖大なる
書類をこしらえることは、なかなかであります。これに対して、政府はおそらくは御説明になるでありましよう。各府縣に貿易事務局を設けて、それぞれの人間を向うへ渡してやるから、それを利用すればよいとおつしやるかもしれませんが、これはこの間から議会でも、参議院でも、委員会でも八方塞りにな
つておる出先機関の仲間でありまして、とうてい、こんなものでこの斡旋をするとか、指導をするというようなことは、でき得ないのであります。
私は、こうして直接それぞれの事務官等をその地に御派遣になるよりも、工業試驗所等を一層拡充せられて、そうして製品の上に、デザインであるとか、いろいろな面において指導もできるが、またバイヤーとの商談が成立した場合においては、これらの手続も代行してやれるというふうにお考えになることがよいのではなかろうかと思うのでありますが、これに対してどういうふうにお考えにな
つておりますか。殊に工業試驗所につきましては、商工大臣御承知のように、戰災をこうむ
つた所もあります。未設置の府縣も四縣あります、かなりの金が要ると思いますが、それは今日の場合においては、総体から考えてきわめてわずかなものであることは言うまでもないのであります。
こういうふうに申述べてまいりますと、最後に、しからばこの
対策をどうするかという問題にな
つてまいるのであります。もとより、これにつきましては、先ほどもいろいろとおあげにな
つて御説明にな
つたいくつかの事柄があります。その中で、この中小商工業振興の具体的政策の確立実施、いわゆる行政機関の整備であるとか、実情に即應した
対策をとるとか、また技術経営の科学化をはかるということも必要でありましよう。また官僚独善統制方式の撤廃であります。いわゆる公團のようなものは、もうまつぴら御免を蒙りたい。臨時物資需給調整法によ
つていろいろと手をお盡しになります。すなわち、末端まで政府がつかもうということは、よい惡いにいたしましても、これではたして物がうまく流れてい
つて、そうしてできるか。今度の衣料切符の問題でもそうでもあります。中央に卸屋があ
つて、地方に小賣屋があるということにな
つてきます。しかしながら、総体的の数字はどこで押えていくか。これは政府が
割当切符を出すのだから、それで品物ができるとおつしやるが、これはなかなか容易ではなかろう。今までは、これらの問題も、統制機関と申しますか、あるいは協同組合と申しますか、全國團体のようなものがあ
つて、しかるべく政府と表裏一体とな
つて仕事をや
つてまいりましたがために、この車が動いたのでありますけれども、今後すべてを政府がやるのだという考えのもとで、これがうまくいくということは、どうしても考えられないのでありまして、この点も深く考えていかなければならぬと思います。
資材・資金の優先
割当の問題でありますが、この点につきまして、先ほど小峯さんが、自己金融でやる金の問題をお話に相なりました。また復興金融金庫の問題につきましても、なんじや、あの大きい中でた
つた十三億円、五%に過ぎぬじやないかと言
つて、声を大にしてお叫びになりましたが、私は、このパーセントというものを総体の数字から割り出して説明することは、正しくないと思います。なぜならば、中小企業というものが貸出を受けまする金額は、いずれも零細でありまして、その零細なるものが集積したからとい
つて、それが單なるパーセントということにはならないのでありまして、ことによりましては、このわずかな金額におきましても、十二分の貸出を受けておるということも考えられてまいるのであります。
これらの
資材につきましては、御承知のランニング・ストツク以外のものは、これを強制買上げをして、そうしてこれらの
方面に流していく。
東京都の調査によりますと、中小企業が生産に要します
資材は、表の道から流れてくるのは三〇%ないし三五%だということの
報告をいたしております。その他はどうかと言いますと、言うまでもなく、これはやみで入手をいたしておるのでありまして、やみではい
つたものは、やみで流れていくことは当然だとも申し上げかねるけれども、そういう形をとるでありましよう。そういたしますと、政府がやかましく言われておるやみの撲滅であるとか、あるいは流通秩序の確立というような事柄に、大なる
支障を來してくるのであります。金融の問題について今申し上げましたが、この系統機関の金融の強化拡充、この間復金はおやりにな
つたそうでありますが、この問題も考えなければならぬことでありましよう。
次に、商工協同組合の組織拡充と機能の強化の問題であります。先ほど社会党の林さんから、この問題についていろいろとお述べにな
つたのであります。林さんは、この協同組合の施設あるいは協同組合の制度というものが、今日の中小商工業あるいは企業の面にどれだけ有効適切なものであるか、これを十二分に利用していかなければならぬということでありましたが、私もそう考えます。
ところが、現実の協同組合はどうかと申しますと、御承知のように新聞にときどき載
つております、最近お出しになると言われておるところのあの法律改正で、業界は非常なる不安を來しておるのでありまして、林氏がお話になりましたように、これをゆつくりと利用していくというどころでなくして、いわゆるこの法規の改正に対するところの混乱であります。これに対しましては、大臣はしばしばこの道の人からお聽きにな
つたと思いまするが、いわゆる今度の協同組合の改正につきましては、法人ははいつちやいけない、あるいはまた金融事業を併せ行うことはいけない、全國團体またしかりである。こういうようにお説きにな
つておるのでありますが、しかしながら今日の
状況から考えて、その改正はすなわち惡い改正であります。すなわち改惡であります。
全國の業者が商工省にしばしば陳情いたしておりますように、法人がはい
つていけないとい
つてみたところで、
日本におきまするところのいわゆる五十万円未満の法人は、九一%を占めておるのであります。きわめて微々たるものであり、中には、ただ單にこのことにつきまして、会社という名前がよいから、そういうふうな措置を講じておるようなわけであります。あるいは経済事業、金融事業を併せ行うことがいけないと申しましても、併せ行わなか
つたら、なかなかやれないのであります。また免税の点につきましても、農業協同組合は、御承知の通り営業税・法人税・所得税が免税にな
つておりますが、この零細な業者が寄
つております協同組合は、営業税のみの免税でありまして、ここに大きな差か生じておるのであります。また全國地区の團体、これなどもいけないというのでありますが、この零細なる業者を指導していきます上においては、全國團体の必要なること、多くの
言葉を申し上げる必要はないと思うのであります。
私は、最後に少し大きな問題になりますが、
かくのごとくにして中小企業の重要性、しかもまたお互いはこれが振興をやらなければならないということに意見が一致いたしますならば、この傾斜生産の方式というものに対して再檢討を加えるところの必要があるのではなかろうかと思うのであります。重要物資につきましては、傾斜生産方式をと
つておるのでありまするが、もちろん石炭三千万トンの必要性は私どもも認めます。しかしながら、國管の問題がなかなかこの議会内外にやかましい問題にな
つておりますが、いずれにしても、國管にしても、しなくても、三千万トンの確保ができるならば傾斜生産の方式をと
つていくこともよいかも存じませんが、どうしてもできないのであるならば、ある程度石炭はできるだけにして、その代り石炭の需要先、たとえば鉄の生産を止める、その代り鉄は連合軍にお願いしても
つてくるように食糧さえできぬときに、そんなことかできるかという意見があるかも存じませんが、いわゆる輸出の振興さえはかり得たならば、これも頭ごなしにだめだという事柄ではなかろうと思うのであります。ただ私は、私の意見というよりも、こういう事柄について近ごろあちらこちらで声を聞くが、これはお互いが考えなければならぬではなかろうか、こういうことを申し上げるのであります。
最後に少し申し上げたいと思いまするが、かようにして中小企業の振興、これは國家の廣汎なるところの要請でありまして、業者みずからも一大反省をしなければならないのでありまするが、こうした輸出工業にして進出いたしていきまする上には、製品といたしましても外國品に劣らぬものを十分つくらなければならぬ。優秀にして廉價しかし、これはいわゆるチープ・レーバーを意味しているものではありません。すなわち、その利益をお互いに適当に配分していく、労資協調してや
つていく、われわれが唱えておりまする修正資本主義の方式のもとに、これが行われていくべきものであると考えられます。そうしてその製品は、どこどこまでも價値の附加率の多い、あるいは労働力の吸收能率の高い工業でなければならぬと考えるのであります。
以上、いろいろなことを申し上げましたが、重ねて私は申し上げまするが、かようにして政府が送るたびに
対策はお立てになります。一應の
対策はお立てになりますけれども、それがまるで暗やみでラジオを聞いておるような形でありまして、業界に裨益するところが少いのであります。どうぞ現内閣におかれましては、これらの点を十分にお考えにな
つて、
日本の再建のために中小企業の振興が必要であると心からお考えになりますならば、廣汎にしてかつ勇敢に、これらの施策の実行のために邁進せられんことを切望して、私は壇を降ることにいたします。(
拍手)
[
國務大臣水谷長三郎君
登壇]