○石原圓吉君
捕鯨許可に関する
感謝決議案を上程されましたので、
提案者を代表いたしまして、
提案の理由並びに
趣旨弁明をさしていただきます。まず
決議案文を朗読いたします。
捕鯨許可に関し
連合國最高司令官に対する
感謝決議
今回、
連合國最高司令官から、南氷洋の捕鯨について第二回目の出漁を許可せられたことは、わが
國現下の
食糧事情に深く
同情せられた高い
人類愛によるものであ
つて、全
國民の
感謝にたえないところである。われわれは、この
捕鯨許可がわが
國民の榮養確保と
食糧危機突破に益するところ極めて大なるものがあると確信する。
ここに、
衆議院は
院議をも
つて、
連合國最高司令官に対し厚く
感謝の意を表する。
右
決議する。
以上であります。
祖國日本をして、自由と平和とを愛好する
國家たらしめることは、われわれ
國民に課せられたる当面の問題でありまして、これを遂行する唯一の途は、
食糧の不安を一掃して、民生を安定するよりほかなきことは、論をまたないことであります。わが國は、
敗戰の結果、
食糧不安は最高潮に達し、水
産業もまた一大制約を受けておることは、事実でありまするが、
連合軍最高司令官は、思いをわが國の水
産業にいたされまして、昨年六月二十五日には、遠洋漁業の操業区域拡大に、また同八月六日には、
日本捕鯨船対南氷洋出漁に関し、特別許可を與えられました。よ
つてわが船隊は、國際規約を遵守しつつ、ま
つたく文字
通りの涙ぐましい奮闘を続け、
連合軍最高司令官の御期待に副うべく、怒濤のうちに活躍して、所期の成果をあげ、無事に帰港せしことは、御同慶に堪えぬ次第であります。
この第一船日新丸が大阪港出帆に際し、私は、その乘組員一同に対する壮行の式場において、
終戰後初めて、マ司令部の絶大なる御
好意により、
世界的の漁場に進出するのであるから、乘組員一同一致結束して、わが
國民を初の、
世界人類に対する奉仕的観念のもとに、十分緊張して、期待を裏切らないように奮闘してくれという言葉をも
つて、激励をしたのでありますが、乘組員一同の緊張した態度を目のあたりみて、心強く感じた次第でありました。
はたして、この第一回の捕鯨は大なる成果をあげまして、
多量の鯨肉は、久しく待望しつつありましたわが
國民の食膳に
多量に配給をされまして、
國民は歓喜に燃えると同時に、大いに
食糧の補給を受けたことは、新聞等で明らかな次第であります。それのみならず、二万トンに匹敵するところの蛋白質にあたる鯨肉、並びに鯨油一万数千トン、ヴイタミンA・D約二万四千八百ポンドを、
世界の各市場に
供給いたしたのであります。そのほかに、なお相当のマーガリンを目下加工中でありまして、ま
つたく予想外の好成績で終
つたのであります。
くじらは、
世界の動物中最も巨大なるものでありまして、しかもその肉は、動物性蛋白質中最良であり、その皮は、獸皮少き今日、用途は廣大であります。鯨油は、各種工業、藥品工業の原料となり、鯨骨は工藝品の材料となり、また
多量の燐を含む骨粉肥料となり、なお、殊に
多量に摘出される優秀なるヴイタミンA・Dは、
世界人類の整理上の欠陷を補填するきちようなる藥品たることは、すでにあまねく知れわた
つておることであります。ざとうくじら、まつこうくじら等の頭より摘出される油は、時計のぜんまいには、なくてはならぬものであります。近來時計が狂いやすくな
つたのも、この鯨油が一時なく
なつた
ためだとも言い得るのであります。私が考えますに、現在
日本人の頭がとかく粗雜になる傾向があるのは、このヴイタミンの欠乏の結果ではないかと思います。(
拍手)よ
つてこの際、
國民の心身の強健を期し、勤労意欲を增進し、
國家再建の
ために、栄養給源として欠くべからざるものであると信じます。
さて、かように、くじらは貴重なものであり、われわれの
生活上なくてはならぬものであ
つて、
食糧不足の折柄、
國民保健の上に莫大なる効果をあげておりますが、元來捕鯨が、國際的の利害関係においてやかましいということは、鯨は胎生動物であ
つて、一年か二年に一頭しか子を生まないのであります。從
つて大仕掛に、無統制に捕獲すれば、ただちにこの種の絶滅をきたすのでありますから、我が國といたしましても、國策上このくじらの保護、繁殖、濫獲防止について、絶大なる施設を必要とするのであります。そういう点からもわれわれは、我が國への第二回目の許可がどうなるかと、非常に
憂慮するとともに、ぜひとも許可せられんことを念願していたのでありましたが、理解深きマツカーサー元帥は、わが國の
窮迫せる
食糧事情を緩和する上に重大なる意義を有するものとして、特別なるお取計らいをも
つて、第二回の出漁許可を付與されたのであります。かかる
同情深き施策に対して、全
國民はひとしく
感謝感激にたえないところであります。
今後、
連合軍当局の御
好意に報いる途は、ただ一にかか
つて、わが水産施策の樹立実施に確固たる
手段を講ずるのみであります。すなわち、
敗戰日本復興の重大なる役割をもつ水
産業の重要性を直視して、速やかに重点
産業としての施策をこれに集中し、総合的、有機的方策を確立して、も
つて水産人の
生産意欲と独特の水産技術を最高度に発揮せしめ、かつ配給方法を正確にし、一般
國民に公平に栄養補給の途を開くべきであります。かくしてこそ、初めて許可の意義が眞の美を結ぶのであります。なおこのことは、六月二十六日附朝日新聞紙上において、
連合軍経済局
食糧係長ジヨンストン氏の言われた、魚を合理的に有効に食べよとの御
趣旨に対しましても、相合するところのものであります。なお、昨年十月七日、本院における水産國策実施
決議の
趣旨も、またここに存するのであります。今後ますます水産振興に発奮
努力して、も
つて連合軍最高司令部の絶大なる御
好意に対し、深く報いんことを誓うものであります。
以上、
決議案提出の理由を御説明いたしました。御
賛成を願います。(
拍手)