○
加藤勘十君 私は
日本社会党を
代表しまして、
政府の
施策に関し、若干の
疑義を表明して、
政府の
所信をお尋ねいたしたいと存じます。
わが
國現下の情勢が、
民族興亡の
危機に臨み、これが打開のためには、もはや一刻の躊躇をも許さないものがあることは、昨日、本議場における
片山総理大臣の御
演説にあつた通りであります。私は、
政府が大胆率直に
危機の実相を明らかにし、いかにしてこの
危機を
克服すべきかの方途を示し、同時にこの
危機の
克服を通じて
新日本建設への熱意を表明され、
國民に対し全幅の協力を求められた、眞摯にして謙虚なる態度に対しては、心から同感を表するものであります。(
拍手)
しかし
國民は、
政府の態度に対し同感を表するにしましても、
政府のなさんとする方途に対して、はたして無批判、無
條件に協力するものであるか否かについては、いささか疑問なきを得ないのであります。
國民が直面せる
危機の実態をつかみ、みずからの問題として、これが打開のために起ち上り、
政府に協力せんとするためには、
政府の
施策が、
國民に十分に納得し得るものでなければならぬと存じます。私はこの観点から、次の数項の点に関し、
政府の
所信を質さんとするものであります。
第一にお伺いいたしたいのは、近く開催を予想されまする
講和会議についてであります。
連合國側の対
日講和会議に関する
方策は、
ポツダム宣言に記述せられたる
基本的方針以外には、これを詳らかにする由もありませんが、先般來数次にわたり外電の報ずるところによりますれば、
連合國並びに
連合軍最高司令官は、
日本の現状に対し、きわめて同情的であり、
好意的であり、
日本を興亡の浮沈から脱出せしむるためには、対
日講和会議をできるだけ速やかに開催すべきであるとの意思を表明されております。私どもは、この同情的、
好意的態度に対しては、衷心より感謝の意を表するものであります。
問題は、
講和会議に臨む私
ども國民全般の心構えについてであります。多くの
國民の中には、
講和会議が開催され、
講和條約が締結されたならば、ただちに
占領政策から解放され、國際的に自由な
國家となり得るだろうというような錯覚を抱いておる人がないとは限りません。われわれは、
講和会議に臨むにあた
つて、いま一度眞劍に
國民的反省を必要とするのではないかと存じます。
もちろん私どもといたしましては、
講和会議を通じて、
連合國の
好意と同情に訴え、
日本が將來政治的にはもとより、
経済的にも完全に
独立國として自立し得られる、
もろもろの
條件を充たしてもろうように懇願しなければならぬと存じますが、
連合國側の
もろもろの
好意と理解ある援助を仰ぐ前に、それを受けるについて、われわれ自身にはたして欠くるところなきや否や。言葉を換えて言えば、われわれ自身はたして
ポツダム宣言を忠実に履行しておるや否やの点についてであります。
たとえば、
日本民主化の
基本原則を規定せる憲法においては、封建的もしくは
官僚主義的色彩を拂拭し、
民主化の形式を整えるに成功したとはいえ、
國民の
日常生活を規定せる
もろもろの
法律制度においては、旧態依然たるものがあ
つて、
民主化の道なお遠しの感を抱かしめるものがあります。(
拍手)かかる状態をも
つてして、はたして
講和会議に臨んで、
連合國の
好意と理解に基く同情とが得られるであろうか、この点に対する
総理大臣の明確なる御答弁をお願いしたいと思うのであります。
次に、先般
芦田外相の言として
新聞紙上に傳えられ、
連合國側の誤解を招くに
至つた琉球、
千島等の領土に関する発言は、もしそれが事実とするならば、明らかに
ポツダム宣言第八項に反するものであると思われるのであります。もちろんわが國のごとく、狭隘なる
國土に八千万に近い巨大なる人口を有する
國家が、
ポツダム宣言に規定せる通り自活し得るためには、
工業生産力を増大すること、將來の
移民に関することなど、
連合國の援助にまたねばならぬものが多々あることは、言うまでもありません。
殊に
移民の問題に関しては、先般來朝された
アメリカの
市民連盟理事長ロッジャー・ボールドウイン氏は、
アメリカ移民法の改正について、われわれ
日本國民にきわめて
好意的忠言を與えてくれました。この言葉に徴しても、
日本民主化が、
國民の
日常生活面に実証されるに至れば、あるいは
講和会議後において、
移民法の改正が
現実に実践せられ、
日本國民の
勤勉性が海外に用いられる日が來るであろうことが予想されるのであります。
芦田外相の言が、もし
日本國民の
潜在意識であるというように誤解されることがあれば、將來の
日本のために、きわめて不利であると思うのであります。さいわいに
芦田外相は、ただちにこれを訂正され、誤解を一掃するに努められたのでありますが、
國会の議場を通して、公式にその点を明らかにされる必要があると思うのでありまするが、
芦田外相はどのようにお
考えでありましようか、この点をお尋ねいたします。
第二に、
食糧危機突破対策についてお尋ねいたします。
政府は
食糧危機突破のために、なみなみならぬ苦心を拂われ、
もろもろの
施策を発表されました。われわれは
政府の苦心を諒とします。しかし、はたしてこれらの
施策をも
つて、当面せる
危機が切抜け得られると思われまするかどうか。
政府は、
昭和二十一年度産米の
供出一〇〇%のほかに、一割の
消費規制を設け、一〇%の
超過供出を求め、そのうち四%の
供出を得たと発表されました。この
需給計画に基けば、今年度は何らかの
遅配、
欠配もなく、平穏に推移されるはずであります。しかるに事実は、
遅配、
欠配は一向に解消されない。
もちろん、この現象は前
内閣以來の事柄でありまして、その
責任が全部現
内閣にあるというのではありませんが、現
内閣にな
つてからも、なお依然として
遅配、
欠配が慢性的に継続しており、前途に光明を見ることができない。これは明らかに二十二年度の
需給計画の誤りに
原因すると思われるが、
農林大臣はどのようにお
考えでいられるでしようか。(
拍手)もし他に別な
原因があるとするならば、その点を明らかにし、同時に、いかにすれば
遅配、
欠配を一日も速やかに解消して、
國民をして食
生活に安心して勤勞にいそしむことができるかという、積極的な
具体的方策を明らかにしていただきたいと存じます。
國民は、
農林省案として過日
新聞紙上に報道された、本年十月に至るまでの間において、
計画的欠配を行うとか、あるいはタバコ、砂糖、酒、
水飴等の
嗜好品をも
つて、主食の
遅配、
欠配に
代替配給をするなどということでは、これによ
つては決して
國民を安心せしめることはできないと存じます。かかる手段は、
政府みずから
嗜好品と主食との交換を行うような
やみ行爲を奬励する結果となるおそれがあるとさえ思われます。この点に関し、
農林大臣はいかにお
考えになるでありましようか。
食糧は、その絶対量において不足しておる以上、
連合國側の同情に訴え、その理解を得て、供給を仰ぐよう懇請するとともに、消費の規正をしなければならぬことはもちろんであります。しかし
生産農家からの
供出の
円滑化が、絶対に必要なことであると思うのであります。この点に対し、
政府は、これまたさまざまな手段を講じ、苦心をしておられるようでありますが、私は、
生産農家をして
供出を全うせしめるためには、何とい
つても
生産農家の意見を尊重し、農家をして権力に畏怖せしめるようなことなく、心からの納得による協力をなさしめねばならぬと思うのであります。(
拍手)
それには
生産農家の再
生産に必要欠くべからざる
條件たる肥料、
農機具等の補給もさることながら、最も重要なる点は、農地の
実態調査の上に立
つて、農民の納得せる
割当制を確立することであると存じます。しかるに
政府の
割当制は、
見込割当で、
実態調査の上に立
つていない。この点が、農民をして
供出に疑惧の念をもたせ、
供出をしぶらせる
原因とな
つておるのではないかと思うのであります。
政府は速やかに、この根本に触れた、
合理的割当制を確立すべきだと思うのでありますが、この点に対する
農林大臣の御所見をお伺いいたします。(
拍手)
第三に、
インフレの
惡性化をいかにして阻止するかの点についてお伺いをいたします。
インフレーションが
惡性化の段階にはい
つておることは、もはや否定しがたき事実であります。しかも、現在の
財政経済の実情は、これをこのまま成行きにまかせておくならば、
國家経済の破綻は不可避のありさまであります。ここに
國家的危機、
民族的危機が叫ばれるゆえんがあると存じます。
敗戰日本の建直し、新しき
民主主義日本の建設も、この
経済破綻を未然に防止することから始めなければならぬと存じます。換言すれば、
惡性インフレの
克服こそ、
新日本建設の絶対
的前提條件でなければならないのであります。
この
國家の
運命をかけた重大なる
惡性インフレ克服策について、
政府のなさんとするところと、わが
社会党の
所信との間に、若干の食い違いのあることは、はなはだ遺憾なことであります。しかし、現
内閣が片山氏を首班とするとはいいながら、異なれる政策の
所有者である三党の
連立政権であるという点から、まことにやむを得ない
現実であります。現下の
危機は、このように異なれる政策をもつた各党が、
祖國再建の熱意に燃えて、一團とな
つて安定勢力を築き上げなければ、切り抜け得られないほど深刻をきわめておるということができるのであります。事態が深刻であればあるほど、われわれは、われわれの
所信を強く前面に押し出し、
政府の
施策の根幹たらしめたいと思うのであります。その観点から、以下数項にわた
つて、私の
所信を開陳しつつ、
政府の所見をお尋ねするものであります。
すなわち
惡性インフレ克服のためには、当然に、
財政・
金融・
通貨等の直接
インフレの要因に対する諸
施策はもちろん、
インフレーシヨンと密接なる関連をもつ
生産対策、
國民生活安定対策等と、
総合的対策が樹立され、これらの
対策が、基本的なものと応急的なものとにわかたれ、計画的に実行されるのでなければ、とうてい
克服されるものではないと思います。私は主として應急的な点についてお尋ねをいたしたい。
今われわれの前には、
財政的にも
経済的にも
惡性インフレを一層惡化せしむる諸材料が累積しておるのであります。これを
財政面についてみますのに、前
吉田内閣は、二十二年度
予算編成にあた
つて、本
予算千百四十五億円という
厖大予算を、
健全財政の建前に立
つて、一應形式上のつじつまを合わせたとはいえ、実際には巨額の
赤字予算を内包しておつたことは、爭えない事実なのであります。(
拍手)
それなればこそ現
政府は、
國会に四百五十億乃至五百億に上るという
厖大な
追加予算案を提出しなければなるまいと、
新聞紙は報道しておるのであります。
新聞紙の報道はとも
かくとして、たれが見ましても、それに近い、もしくはそれ以上の巨額の
追加予算が計上されなければ、とうてい現下の
インフレーション高進のもとにおいて、
國務の遂行は不可能であると思われます。
要は、この
厖大な
赤字支出と均衡を保つために、
歳入財源をいずこに求めるかという点であります。
政府は、
緊急対策の第四項として、(イ)
健全財政主義を堅持する、(ロ)歳出の節約をはかる、(ハ)極力
現行税制の適切な運用、事情によ
つては増税を考慮する、(ニ)
インフレーションによる不当な
利得に対する
課税を強化する(ホ)
事業特別会計については
独立採算制の本旨を徹底する等を揚げておるのでありますが、これだけでは、單に標語の羅列にすぎないのであります。
昨日、
片山総理大臣は、
不当利得者に対し
高率課税を実施する旨強調されたのでありますが、その具体的な
方策の示されなかつたのは、はなはだ遺憾であります。
インフレや、やみによる
不当利得者に対する
課税を強化すると言われるが、
不当利得の所在を、いかにして明確につかまんとされるのであるか。
國民が知らんとするところ、
聽かんと欲するところは、
具体的方法である。できれば、その
具体的方法を示されたいと存じます。 (
拍手)
政府は、
危機突破のために、
勤労大衆に耐えがたきまでの
耐乏生活を求めておる以上、負担の公正を期する意味から、いわゆる
やみ成金、もしくは
インフレによ
つて巨富を得た者に、重き税を
かくべきは当然であります。私はこれらの
やみ成金、
インフレ利得者は、今日では單なる所得というよりは、その
利得したものを、すでにりつぱに財産化しておるがゆえに、これに対しては、所得に
課税を強化するというよりも、さらに一歩を進めて、
新税——かりにわが
社会党はこれを
危機突破税と稱しておりますのを、課すべきであると思うのでありますが、
政府はこの点についてどのようにお
考えでありましようか、お伺いいたしたいと存じます。(
拍手)
さらに
金融並びに
通貨の面において、
政府はわずかに、(イ)
融資統制を強化し
赤字金融は嚴にこれを抑圧する、但し
重要産業に必要な
資金はこれを確保する、(ロ)
通貨発行審議会の機能を活用し、
國庫收支と
産業資金の
適時調整を実施して
通貨発行の
合理的規正に資する、(ハ)
貯蓄増強運動を協力に展開する、こういうことを述べておられるのでありますが、
かくのごとき方法で、はたして事実進行しつつある
インフレ抑制に、どこまで役立つと思われますか。
片山首相は、昨日の本議場において、
金融資本の支配的優位性打破し、
金融は
産業に随伴すべきものであることを力説されたのでありますが、
現実の情勢は、皮肉にも、
片山首相の言葉に何らの権威のなきもののごとくに、
反対現象を示しておるのであります。(
拍手)
われわれは、元
來金融機関の
國家管理を主張するものでありますが、
連立内閣である
片山内閣に、これを求めようとすることは、無理であることを思いますがゆえに、あえてこの点には触れようとしないのであります。しかし、少なくとも民主的に構成された
金融統制の機関を中央に設け、不当なる融資の抑制をするとともに、必要なる
資金は迅速に融資できるよう
資金計画を樹立すべきであると思いますが、この点に対して、
政府はどのようにお
考えでありましようか。
もし
政府が、今申しました程度の
対策しか実行し得ないとすれば、
通貨はますます偏在し、隠匿され、
インフレ惡化に拍車を加え、ひいては
日本経済破滅の
一大禍根となることは、爭われないと思うのであります。われわれはこれらの新
円所在を追求し
惡性インフレの
原因である
濳在購買力を破碎する必要があると思うのであります。
政府はこの点をどのようにお
考えでありましようか、明確なる御答弁を願いたいと存じます。
第四に、
生産増強対策についてお尋ねしたいと存じます。
主要物資の
生産状況は、全体として縮小再
生産の傾向をたどり、はなはだ憂うべき現状にあります。今これらの全般にわた
つての
生産増強方策について
疑義をお尋ねすることは、とうてい時間の許さないところでありますから、私は主として
石炭生産増強の点について、
政府の
所信をお伺いしたいと存じます。
前
内閣が計画した、
石炭三千万トン、鉄鋼七十万トン
生産を目標とした、いわゆる
傾斜生産方式は、満足な結果を見ていないのであります。すなわち
石炭は、年産三千トン目標が、本年一月、三月の期間に六百二十九万トン、鉄鋼七十万トンは、計画の七四%の成績をあげているにすぎないのであります。
石炭、鉄鋼の
生産がこのような状態では、
日本経済は
惡性インフレの高揚と相ま
つて、眞に戰慄に値するものがあると思われます。それならばこそ、
政府は必死の努力を
石炭三千万トン
生産に集中しておるのだと思うのであります。
國家の
運命をかけた
石炭三千万トン
出炭が、なぜ計画通り遂行されなかつたのか、その
原因がいずこにあるのか、嚴粛に糾明されなければならぬと思うのであります。その
生産隘路については、すでに論じ盡され、今さら蛇足を加える必要はないと思うのでありますが、ただ
日本の炭坑は、
営利観念に基く
私企業としては、もはやその
妥当性を失うに至つたものであるという一点だけは、強調いたしたいのであります。(
拍手)
その理由は、一部の新坑を除いては、大体において老齢に達し、これがために
設備費、
資材費に巨額の支出を要すること、從來の
炭坑労働は、囚人を稼動せしめていたことからも想像されますように、
まつたくの
苦役労働でありまして、このために、
労働者は圧制と苛酷低劣な待遇のもとに使役されてきたのであります。また
労働者の
災害予防も不完全であつたために、世界に類例を見ない
高率の
災害死傷者数を出しているのであります。たとえば、
石炭百万トン当りの
災害による
死亡者の数は、
英米等におきましては、わずかに二人ないし四人程度であるのに、わが國のそれは、実に十一人ないし十四人という、驚くべき
高率を示しておるのであります。
負傷者の数も、
労働者三人について二人という、驚くべき数字を示しております。
こうした
苦役労働に服してきた
労働者は、新憲法において、その人格を尊重されることとなり、
從つて労働者の
厚生施設、
災害予防設備等に莫大な経費を要することとなり、これらの経費は、とうてい営利を目的とする
私企業の、あえて耐えるところではないのであります。しかるに、
石炭は
國家産業のために絶対に必要欠くべからざるものであります。損得にかかわらず、利害を超越して、
経営されなければならぬ性質のものであります。ここに利害にとらわれる
私企業から、利害を超越した
公共的経営が、当然に
必然的趨勢として
考えられるに
至つたのであります。
世間の一部の人の間には、
石炭産業の
國家管理案を目して、あたかも
イデオロギーから発した問題であるとして見ようとする偏見をも
つている人があります。なるほど
社会主義経済の本質から言えば、
石炭産業のごとき
基礎産業は
國有社会化を建前とするのでありますが、当面する
日本の
石炭國家管理案は、断じて單なる
イデオロギーから発したものではないのであります。(
拍手)
石炭三千万トン
出炭が、
國家の
運命をかけた絶対的命題でありまする点から、いかなる犠牲を
拂つても、三千万トン
出炭を可能とする
條件を整えなければならぬと思うのであります。
しかしてその第一の
條件は、
石炭産業の性質に鑑み、
労働者の
勤労意欲を高揚せしむることでなければならないと存じます。
労働者の
勤労意欲の高揚は、決して一片の説教によ
つて達し得られるものではありません。
労働者の胸底に、おのずから
勤労意欲がわき立つ、
具体的條件が具わらなければならないのであります。
石炭國家管理案は、
労働者が目に見ることのできる
公共事業としての
経営の
具体的姿であります。
労働者が危險な
災害を冒して働く上に、納得の行く姿であります。
かくすることによ
つてのみ、
石炭三千万トン
出炭は可能となるのであります。
國家管理案は、
かくのごとき
國家的要請に基いた
現実の必要から生れたものでありまして、断じて單なる
イデオロギーから生れたものではないのであります。(
拍手)
この見地から、
安本案として過日
新聞紙に報道された、いわゆる
國家管理案を見ますると、私は多くの
疑義を禁じ得ないものを感じます。すなわち、本案によりますれば、
生産責任は、
労働者の参加している
生産協議会にあるのではなく、
資本家側、
経営の
代表者としての
鉱山所長にもたしめているのであります。また会社の
経営の面には、全然触れてはいない。これでは
労働者——経営技術者、
生産技術者を含む——は、單に
生産協議会に参加して若干の
発言権をもつことと、
地方石炭管理委員会に若干の
代表を送り得るに過ぎないのであります。
生産の
責任は、
自分たちとは別な手にあり、かつ
経営権の主体は、依然として営利を本質とする会社の手にあ
つて、
経営の
社会化は全然行われてはいないのであります。
また本案によれば、四つの地方に
石炭局を設け、
安定本部と
石炭廳と双方に連絡し、
安定本部から
生産協議会に至る
管理を、側面から補佐するというのであります。
かくのごときは、世人の最も嫌惡する
戰時中の
官僚統制を再現せしめたものであると言われてもやむを得ないほどに、
官僚色が濃厚であります。(
拍手)
政府は、このような案をも
つて、
石炭生産の第一の隘路である
労働者の
勤労意欲高揚の問題が解決すると思われましようかどうか。
水谷商工大臣は数日前に
炭鉱を視察されて、
炭鉱労働については、なまなまし印象をおもちにな
つておるはずであります。
かくのごとき案で、
労働者がはたして納得すると思われまするかどうか、率直なる御意見を承りたいと存じます。
私は、
政府案の
生産協議会を
経営協議会とし、その構成を
労働組合代表、
経営技術者代表、
生産技術者代表、
経営者代表をも
つてし、
單位炭鉱における
生産責任者として全
責任を負わしめ、
中央地方の
石炭監理委員会を、それぞれ
経営の
主体的中枢体とし、
経営協議会の
代表者のほかに、
関連重要産業の
経営者、
労働者双方の
代表を参加せしめ、官吏はこの
監理委員会に一個の
構成要素として参加するに止め、
経営を
官僚支配から
民主化の形体に改めるならば、必ず
労働者は直面する
國家の
危機を身内に感じ、わがこととして、全精魂を傾けて
生産に努力することと信ずるのであります。(
拍手)
また傳えられたところによりますれば、
政府案は、
出炭能率の
いかんによ
つて、
國家管理に移すものと、そうでないものとの区別を設けるとのことでありますが、
かくごときは、同一地域にありながら、甲の
炭鉱は
國家管理となり、乙の
炭鉱は非
管理炭鉱とな
つて、この双方の
炭鉱の
労働者の間に待遇上の差別をつける結果となるおそれを感ずるのであります。もしそのようになりますれば、
労働者相互の感情を阻隔せしめ、ひいては能率の上に大きな影響をもたらすものではないかという心配を感ぜざるを得ないのであります。私は
出炭能率の減退の
いかんによ
つて区別するのではなく、全
炭鉱にわた
つて國家管理を断行しなければ、
國家管理断行の意義が失われるのではないかと
考えます。
政府が
出炭能率の
いかんによ
つて國家管理と非
管理との
炭鉱に区別されました理由はどこにあるか、私はそれを伺いたいと存じます。
要するに、
政府は
石炭三千万トン
出炭が、眞に
國家の
運命をかけ、民族の
危機を打開する
基本的條件であると意識するならば、いかなる障害を排してしても、その
出炭を可能とする態勢が整えらるべきであると思いますが、はたしてどのようにお
考えになりましようか、御所見を承りたいと存じます。
第五に、
失業対策についてお尋ねいたします。現在わが國には、正確には計算されていませんが、五百万人ないし六百万人という
厖大なる
失業者があるといわれております。これらの
失業者は、そのほとんどが、海外からの引揚者、
復員軍人、もしくは
戰時中の
徴用工であつたと思われます。これらの
失業者の大部分は、
政府の
施設をまつまでもなく、自主的に
生活の途を求めておる
潜在失業者であり、半
失業者であります。最近の
社会情勢、すなわち、
やみ市場の絶滅とか、
街頭飲食店の
閉鎖命令などで、これらの潜在もしくは半
失業者は、漸次顯在
失業者たらんとする傾向があります。これらの
失業者に対し、
政府は、その
生活保障のために何ら見るべき
施設を
行つてはいないのであります。
かくのごとき大量的な
失業者の現存する上に、さらに
企業整備、
賠償施設の
撤去等によ
つて、百万に近い
労働者、
俸給生活者が、
失業者として街頭に放り出されようとしております。
資本家は、
企業整備と從業員の
縮小整理とを
同意語に解釈し、一斎に
企業整備、すなわち
人員整理を呼号しておるようであります。私も、
敗戰日本の荒廃した
経済を再建するためには、企業の整備を断行し、
生産能率の
高率化をはかることが必要であると存じます。しかし
企業整備、すなわち
人員整理という観念から、
失業者の発生を当然とするがごとき
方策に対しては、反対せざるを得ないのであります。それでは、
企業整備は
まつたく勤労大衆の犠牲においてのみ強行されることとなるのであります。
企業整備を必要とする諸
原因は、
まつたく企業者の
営利観念から行われた事業計画の蹉跌から発したものであると言わなければなりません。戰爭に敗れたことも、彼らの勢力を
代表しておつた軍閥、官僚の誤算から、無謀な戰爭を誘発し、遂に今日の結果を招來したのであります。從
つてその
責任は、全面的に企業者自身が負うべきものであ
つて、勤労者には何らの
責任はないのであります。しかるに
責任を負うべき者が負わず、何らの
責任なき勤労者のみが
企業整備の
責任を負わされ、
生活の唯一の途である職場を追われるということは、ある意味においては、死刑の宣告にひとしいのであります。新憲法第二十七條によりますれば、すべての
國民に勤労の義務が規定されております。働くべき意志をもち、働きに耐える健康をもち、大いに働かなければ食われない勤労者が、職を失うことは、
まつたく國家の政策の犠牲となつたものでありまして、この
生活の保障は、当然
國家の
責任でなけれぱならぬといわなければならぬのであります。
企業整備は、
生産能率の
高率化のためのものでありまして、決して
失業者を発生せしむるためのものではないのであります。それゆえに、
企業整備にあた
つては、いかにしたならば
失業者を生ぜしめないようにすべきかが、第一に考慮されなければならないと存じます。ここに
企業整備にあた
つての労務の合理的配置と同時に、完全雇傭制の問題が起
つてくるのであります。完全雇傭制の問題は、企業の性質上、容易に行われがたい場合も
考えられます。また、かりに完全雇傭が行われるといたしましても、從來からの就業者の労働
條件を維持し得るか否かの問題が起
つてまいりまして、言葉で言うほどに、し
かく簡單には行われがたいことも
考えられ得るのであります。
政府は、
日本の各種企業を通じて、どの種類の企業に完全雇傭制が採用し得られるかを、調査しておいでになりますかどうか。もし調査しておいでになるとすれば、これに吸收し得られる
労働者の数、並びに労働
條件の変更の度合を示していただきたいと存じます。もし調査が行われていないとするならば、將來この種の調査をなされる御意思があるかどうか、その点をお伺いいたしたいのであります。
さらにまた
政府は、
資本家の行う
企業整備を成行きに放任されるのか。それとも
國家治安の必要上、
失業者の発生を阻止する意味において、
資本家のほしいままなる
企業整備に干渉されるのかどうか。もし
資本家のなすままに放任されるとするならば、それによ
つていくばくの
失業者が発生すると見ておいでになるか。その見込の数を知らしていただきたい。
政府はまた
賠償施設の撤去によ
つて、およそどれほどの
失業者が発生するとお見込であるか。
政府は、
日本の現下の
社会情勢、
経済情勢に鑑みて、
失業者の発生を最小限度に食い止める意味において、連合軍最高司令部に対し、
賠償施設の撤去の延期方なり、もしくは
施設撤去の代りに、原料補給による製品賠償に轉換方を懇請されようとする御意思をおもちであるかどうか。この点も併せて伺いたいのであります。最惡の場合、新規にどのくらいの
失業者の発生を見込んでおいでになりましようか。そしてその
対策として、いかなる案をおもちであるか。お伺いいたしたいと存じます。
傳えられるところによれば、既定経費三十五億円の
公共事業費の
予算を増加してこれを拡大し、
失業者を吸收するとのことでありまするが、資材不足の今日、はたしてそれによ
つて、いくばくの
失業者を吸收し得られるでありましようか。また既成
予算による開墾事業、河川改修、道路修復等の事業に、どれだけの
失業者を吸收し得られるか。これを要するに、各種事業を通じまして、業種別におよそいくばくの
失業者を吸収し得られ、最後に完全
失業者として
國家の
生活保障によらなければならぬ数は、一体どれほどの数に達するお見込でありましようか。その点を明確に知らしていただきたいと存じます。
國家の手による
生活保護の方法は、新しく制定されようとする失業保險法によるものと思われますが、現下の
國家財政のもとにおいて、
財政的にそれをどの程度まで可能とするや否や。かりに
財政的に可能とするといたしますれば、失業保險法が制定され、その效力が発生するに至るまでの期間を、どのように処せられようとするのでありますか。この点も併せてお伺いしたいと存じます。
要するに、極度に窮迫した今日のわが國において、
國家財政の負担に堪え得られないような
厖大な
失業者を発生せしむることは、まことに
國家的悲劇であると言わなければなりません。從
つてわれわれは、極力
失業者の発生を防止せなければならぬと思うのでありますが、この点に関し、
國民一体とな
つて、あげて
対策を講ずるという意味において、率直にお答えを願いたいと存じます。
第六に、
國民生活安定
対策についてお伺いいたしたいと存じます。長期の戰爭と、その結果としての敗戰は、戰後における歴代
内閣の措置おおむね当を失し、その累積が今日の事態を生み出したものと思われるのであります。私どもは、いたずらに過去を回顧することなく、よ
つて來る
原因は、これを究明しなければならぬのでありますが、当面の事態を切り抜け、明日への希望に
國民を躍動せしめなければならぬのであります。
政府の唱道される道義の高揚も、たしかに精神的活力素の一つではありましようが、何とい
つても、
インフレ惡化の激浪の中にもまれ、さいなまれつつある
國民は、
生活の苦しさに、絶望感さえ起そうとしておる状態であります。道義の廃頽も、多くはここから発しておると言
つても過言ではないと存じます。
惡性インフレの阻止は、ひとり
経済再建のためばかりでなく、
國民生活の安定のためにも、道義の高揚のためにも、一瞬の躊躇も許さず、
政府の大英断をも
つて行わなければならぬ大事業であると存じます。
惡性インフレに拍車を加える大きな要因としては、
生産の低下、縮小再
生産の惡循環、乏しい原料・資材の隠匿並びに偏在、これに伴う物價と賃金・俸給との惡循環等々が数えられるのであります。しかしてこれらの要因を一貫して横流するものは、
やみ行爲であります。
やみ行爲を絶滅しない限りは、
國民生活の安定は
考え得られないと存じます。
從来、
やみ行爲の絶滅はしばしば叫ばれました。だが、多くはいたずらなる掛声に終り、そのなすところは、半
失業者、僭在
失業者たちの、かろうじてその
生活維持の途である市井のいはゆる
やみ市場の絶滅、断続的な取締りくらいのもので、ほとんど何らの効果をあげ得ないばかりか、かえ
つて反撥作用さえみておる状態であります。私は、眞に
やみ行爲を絶滅せんとするならば、やみの根源である製造工場から流れ出る製品横流れの杜絶、敗戰のどさくさに乗じて、軍所有の物資を横領、もしくは関係軍人官僚と結托して、不当拂下等によ
つて隠匿した物資の、ブローカーからブローカーへとやみを流れつつある物資の徹底的摘発を
行つて、その根元をつく以外に方法はないと存じます。(
拍手)この点に関し、
政府はいかに見、いかに対処されんとするのであるか。その
所信をお伺いいたしたいと存じます。また現在までに隠匿物資をどの程度に摘発されたのか。また現在なおどの程度の隠匿物資があると思われるのか、その見込数量、並びに摘発を可能とするか、それとも摘発を不可能とする状況にあるのか。これらの点に関しても、できるだけ率直にお答え願いたいと存じます。(
拍手)
第七に、行政機構の改革並びに官吏制度の改正についてお伺いをいたします。
片山総理大臣は、官僚思想の一掃を力説されております。
日本の正しい民主主義化のために、封建的残滓を多分に内包している官僚思想を一掃することは、絶対に必要なことと存じます。はたして、いかなる規模において行政機構を改革され、官吏制度を改正されんとするのであるか、お伺いをいたしたいと存じます。
政府は、從來警察権を掌握し、官僚の中枢とされていた内務省を、廃止される予定と聞いておりまするが、行政機構の改廃については、これ以外にいかなる構想をも
つておいでになりますか。たとえば建設省というがごとき省を設けて、新しき
日本再建の方途を講じようというようなお
考えがあるかどうか。その点もお伺いいたしたいと存じます。
さらに、官僚の独善的支配慾は、戰爭中の強力な
官僚統制と、政党の無力化と相ま
つて、中央、地方を通じて、全官廳に充満しておると言
つても過言ではないと存じます。それゆえに、官僚思想を一掃するためには、まず第一に、官吏を特徴づけておる官吏の身分制、すなわち等級制を廃止し、実力に基く抜擢法を採用すること、それがためには、官吏の身分的前提である高等文官試驗制を廃止し、任用試驗制に改めることが
考えられるのでありまするが、
政府は、これらの点に関していかようにお
考えになりまするか、お伺いいたします。(
拍手)
最後に、第八としまして、文教の振興についてお尋ねいたしたいと存じます。武器を捨てたわが國としては、文化
國家として社会的信用をかち得る以外に進む途がないということは、昨日
片山総理大臣が、文化
國家としての
新日本建設を高調されたことも、私どもは
まつたく同感でありまして、
片山総理大臣のこの言葉に対しては、私ども衷心から共鳴を禁じ得ないものであります。
文化
國家として、
國家の品位を高めんとすれば、何をおいても、まず
國民の教育に力点をおかなければならぬことは、言うまでもないことと存じます。私どもは、長い戰爭の期間を通じて、軍國主義的教育の一色に塗りつぶされ、しかも学問的な研究は
まつたく軽んぜられ、國際的文化水準は著しく低下されてきたのであります。軍閥專横の下に、窒息状態にあつた私どもは、今や個々の人格の相互的尊敬と信頼の上に、文化的向上をはかることの自由を與えられたのであります。
少年、少女からの再教育を必要とすることは、言うまでもありません。この点から、六・三制の義務教育が採用せられ、教育の内容も
まつたく面目を一新するに
至つたのであります。しかしわが國の現下の窮迫した
財政状態は、この新教育制度の採用にあた
つて、
中央地方ともに
財政的には少からざる混乱を引起しておるのであります。それにもかかわらず、私どもはこの新教育制度の制定を、心からの喜びをも
つて迎えたものであります。ただ新制度の実施にあた
つて、
財政的措置のことを
考えますると、一抹のさびしさを禁じ得ないものがあります。私どもは、
國家財政を無視して新教育制度の育成充実のみを問題にするものではありませんが、願わくば、
國家將來のために教育の重視すべきに鑑み、新教育制度の確立を可及的速やかに達成されまするよう、強く要望してやまないものであります。(
拍手)この点に対して、文部大臣はいかなる御所見でございまするか、それをお伺いいたしたいと思います。
以上八ヶ項目にわた
つて、それぞれの関係大臣から、本議場を通し、
國民に呼び掛ける心構えをも
つて、正直に、率直にお答えあらんことをお願いいたしまして、私の質問を終る次第であります。(
拍手)
[
國務大臣片山哲君登壇]