○
松原(一)
委員 今日は前囘お願いしておきました
恩給局長の
せつかくの御
出席でございますから、私はこの
請願の
趣旨を敷衍して、ぜひとも
政府は
適當に御考慮にな
つて、御
實施になるように
希望する
趣旨を申し述べたいと思うのであります。
今囘制定になりました
公務員法の第百六條によりますると、
退職者に對する
恩給の
根本基準が
法律によ
つて定められたのであります。第百六條は「
職員であ
つて、相
當年限、
忠實に勤務して
退職した者に對しては、
恩給が與えられなければならない。」と規定してあります。また第百七條には、「前條の
恩給制度は、
本人及び
本人がその
退職又は
死亡の
當事直接扶養する者をして、
退職又は
死亡の時の
條件に應じて、その後において
適當な
生活を維持するに必要な
所得を與えることを目的とするものでなければならない。」と明記してあります。またその末項に「
恩給制度は、健全な
基礎のもとに計畫され、
人事院によ
つて運用されるものでなければならない。」「
人事院は、なるべく速かに、
恩給制度に關して
研究を行い、その
成果を内
閣總理大臣に提出しなければならない。」かようにあるのであります。これによ
つて見ましても、
公務員にして相
當年限忠實に勤務し、
退職した者に對しましては、
恩給が與えられ、かつその額はその後において
適當な
生活を維持するに必要な
所得の程度を與えられなければならないのであります。ただいまの
恩給法はきわめて古い不完全なものでありまして、しかもその施行に際しましては、昨年十月十五日に出ました
恩給法臨時特例によりまして、
給與の額三百圓の者は四十五圓の
假定俸給額によ
つて恩給を査定し、最高二千圓の者が、わずかに六百五十圓の
假定俸給額によ
つて恩給計算の
基礎とな
つておるのであります。これは
臨時の
特例でありまして、
至急に
改廢しなければならないことは、今囘の
公務員法においてこれを明確に示しております。ただいまの小
學校教員の
恩給の
増額請願は、全國的のものでありまして、たくさんなものがここに集ま
つておるのでありますが、まことに不合理きわまるものであ
つて、ただいま
給與せられておりまする
恩給額では、
最低の
文化生活はおろか、配給のものを受取るだけの金額にも達しない、きわめて菲薄なものであるのであります。私
どもの
承知しておりまする限りにおいて、今日
恩給を受けておる者は、過去において最も低い
俸給時代にあ
つた人々であ
つて、その
標準で算出される
恩給額が、今日の
時代にま
つたく無理であることは、きわめて明らかであります。
第二は、
公職にお
つたために、在職中には一切の
營利事業を禁止せられてお
つたのでありますから、
副業等によ
つて晩年の
生活を保障する用意もできておりません。第三は、
轉任また
轉任、
公職であるがために
居住地の
選擇が許されませんから、最近職を離れて
歸つた人々は、
不在地主のゆえをも
つて、
先祖傳來の耕地も取上げられてなくな
つておるのであります。第四は、それならば
生活保護法によ
つて國家の
保護を受けたならばいいではないかという説も成り立ちます。しかしこれは、過去にとにかく正しい公務として教職に勤めてまいりました
人々のプライドが許しません。いまさら私
どもは晩年にな
つて國家の
生活保護を受けるを潔しといたしません。たとえ少額でも、
既得權によ
つてわれわれに與えられた
恩給で
生活いたしたい、かように申しておるのであります。私の友人ですでに七十歳を越えた者がおります。先般これを訪ねましたらば、これは昔のいわゆる士族の出で、古い
華冑屋敷の小さい家におりますが、長年
校長を勤め、助役をも勤めて、
りつぱな紳士として、
人格者であるにかかわらず、今日は
本人が
生活に困
つておるところに、夫を
失つた軍人の
未亡人の娘が
子供をつれて
歸つております。彼は今、
ぞうりをつくり、
わらじをつく
つて細々と暮らしをしておりますが、私の顏を見るなり、一體
政府はわれわれに死ねと言われるのでありましようかと、暗然たる言葉をまず第一に投げかけたのであります。どこから見ても
りつぱな教育者であ
つた彼が、今日は戰死したる
軍人の
未亡人の
子供づれの娘まで引受けて、ま
つたく
生活に困り切
つて、
ぞうりをつくるなり、
わらじをつくらなければならない
生活に陷
つておるのであります。このときにも私は懇々それならば
生活保護を受けてはどうかと言いましたが、
本人は頑としてこれをば拒絶いたします。これを私は今日の
恩給受給者の
現状と
生活保護法の現實とに照らして考えてみたいと思うのであります。私が持
つてまい
つております
大分縣の小
學校教員の
恩給受給者は、ここに一千五十八名とあります。これは現在における全員であります。
總額はわかりません。受ける
恩給の
總額は明確にはな
つておりませんけれ
ども、
恩給局が今日
支拂つておいでになるところの
文官の
普通教職員の
受給者の
總數を見ますと、一萬六千百三十五人、一千二百九十二萬八千百六十三圓というものが支拂われております。その
平均は一人八百一圓二十五錢、約八百圓と思われます。これはもちろん小
學校教員ではないのであります、いわゆる
國庫によ
つて俸給を受けておる
教職員でありますから、小
學校教員ではないのでありますが、これを
標準にして見ましても、一人
平均わずかに八百一圓二十五錢、その
年齡を見ますと、九十九歳という者が一人ある、九十六歳という者が一人、最も高齡者と思われる九十歳以上の
人々が十數人を算え、八十歳以上に至りましては三百人を算えるような姿であるのでありまして、まさに
生活力を失
つておるのであります。現に、九大の名譽教授で、
恩給生活ではとうてい耐えられないで、榮養不良のために命を縮めたという方をも、私は聞いておるのであります。しかるに一方
生活保護法によ
つて今、
國家が支給しておる
人員は、前月において約二百五十
萬人であります。一番多いときは二百九十萬に達しております。しかも
國家の負擔しておりますところの
生活保護法によ
つて要する費用は三十六億圓であ
つたのでありますが、今囘の
追加豫算にはさらに十八億圓が追加せられて、五十四億圓となるのであります。これは、御
承知のように、
東京その他の六大都市に居住する者と、普通の市におる者と、
町村におる者との三地域による區別があるのでありまして、
最低の
町村におる一人の要
保護者に對する支給は日額十二圓五十錢とな
つております。これを
月額にいたしますれば三七五圓、
年額にいたしますと四千六百五十二圓五十錢支給せられておるのであります。また
甲地東京を
標準としますと、
月額が一人當り十五圓八十錢で、
家族五人があるとしますれば、その
總額は實に
月額にして千三百六十圓、
年額にして一萬六千百三十二圓の
給與を現に受けておるのであります。一人を増すごとに
甲地においては、四圓七十錢、
乙地で四圓二十五錢、
丙地で三圓八十錢の増加があるのでありますから、五人以上の
家族をもつ者には、なおこれ以上の
給與が與えられるのでありますが、
恩給生活者には、
家族幾人あろうとも、斷じてそれより以上の
増額は認められないのであります。しかも
恩給生活者は、さような金を望んではおりません。われわれはわれわれの過去の御奉公によ
つて得たる
既得權として、
老後の
生活を細々であろうとも、その
恩給によ
つて暮らしたいという切なる
希望をも
つておるのであります。かりにこれを全國に推定してみますと、
大分縣が千五十八名でありますから、およそ一千名と假定しましても、全國における小
學校教員の
恩給受給者はおよそ五
萬人、あるいはいま少し上ではないかと思われます。正確な統計をも
つておらないことが遺憾でありますが、五
萬人平均八百圓としましても、一年
總額四千
萬圓であります。これを十倍にしましても四億圓に過ぎません。五倍にすればわづかに二億圓であります。これくらいの
恩給の
増額が、一體できないのであらうか。私は今日の
國庫の窮乏は十二分に
承知いたしております。
敗戰後の惱みは
國民ひとしく分たねばならぬのでありますから、一部の者のみが
特權を主張する理由はございません。現に
既得權であ
つた軍人の
恩給は、推定して
人員百三十四萬五千人、
總額にして四億九千六百五十三
萬圓というものが、今日はおよそ打切られておるのであります。一方には四億九千
萬圓すなわち五億圓近い
軍人の
恩給が打切られてお
つて、殘る
文官の
恩給は、
國庫から現に支拂いつつあるものを加えましても、
國庫はわずかに一千二百九十
萬圓。これは
教職員だけであります、
文官全體ではございません。
文官全體としますれば八萬三千九百四人、
普通恩給額は五千七百五十七萬五千七百五十五圓とな
つております。この
軍人以外の
文官普通恩給の
總額と、
地方の小
學校教員の受ける
恩給額を合わせましても、
年額わずかに九千
萬圓くらいに過ぎないのであります。これを十倍にいたしましても十億を出でない數であります。先般のつぴきならぬ
生活の補給として、千六百圓と千八百
圓ベースの
差額である
月額二百圓すなわち三箇月分六百圓を
國庫は支出することの
法律を承認いたしたのでありますが、そのわずか二百圓の
差額の三箇月分がまさに十六億圓を超すのであります。一方においてはこの高進する
インフレに應じて
現職職員に對する
増額は刻々に認められつつ、一方には過去の善良なる
受恩給者が何ら一點の増減もなく、默々として悲慘なる
インフレの波の中にその生命をも保ち得ないような苦しい状態におかれてよいものかどうか、私は斷じてさような不公平なことがあ
つてはならないと信ずるのであります。今日、十億の金は決して大きい金ではございません。二千億を超える
國庫豫算に比べますと、斷じて大きい金ではないのであります。かかる不均衡なる
處置があ
つたのでは、今日の憲法に示されておりまする
國民はひとしく文化的な
最低生活を保障せられるという
趣旨から申しても、これは合致いたさないのであります。どうかこの點におきまして、
政府は
至急善處せられ、今囘できます
人事院を通じて、その後において
適當な
生活を維持するに必要な
所得を與えることのできる
恩給法を新たに制定していただきたい。これは
ひとり受恩給者の
切實なる要求であるのみでなく、
現職の
教職員または
官公署すべての
人々がひとしく要求するところであろうと私は思うのであります。もちろん
恩給制度そのものに對する根本的な疑義は私もも
つております。あるいは一時
金制度によ
つて打切るという
意見もありましよう、あるいは
國民年金法という
制度も考えられましよう、もつと進んで
社會保險制度、あるいは
社會保障制度とい
つたようなことも考えられなければならないのでありますが、それは
日本の
財政が立て直
つた後の話であ
つて、現實に間に合う問題でありません。かような
意味から申しましても、この
恩給の
請願はまことに至當なるものであるのみならず、
至急を要するものと考えられますから、どうか
政府の
當局におかれましても、
誠意をも
つてこれが解決に御盡力を願いたいし、私
どもも、立法の面から、ぞひともこの
改廢に對しましては、最善の努力をいたしたいと思うのであります。以上の
意見を述べまして
恩給局長の御所見を承りたいと思います。