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馬場委員 わが國の代表的な美術品の散逸防止に關する件について文部、大藏兩
當局に對して
質問いたしたいと存じます。
右の件に關しましては、去る八月三十日の本
會議におきまして、森戸文部大臣から、
委員長の緊急
質問に對しまして、わが國の代表的美術品の散逸を防ぐためには、まず第一に
關係法規たる國寶保存法及び
重要美術品等の保存に關する法律をこの上一層の嚴正な適用をはかり、第二には脱漏している國寶該当のものや
重要美術品相當なものの
指定を急ぎ、もしその時間的餘裕のない場合には、第三の手段として國費の状況の許す限りにおいて、これらのものを博物館や美術館で買い上げるようにするという、まことに行き届いた御答辯でありましたので、私
どももこの御答辯に大いに満足し、ひたすらその御實踐をのみ希つていたのであります。ところがその後の状況を見まするに、新たに國寶や
重要美術品の
指定が行われまして、その所有者の名前が世に出ますと、税務
當局では、あの人はこんないい物をもつていたのかというわけで、あらためてその所有者の所藏にかかる美術品を
調査して課税しようとする氣配の見えることであります。これは所有者に對しては、まことに氣の毒でありますのみならず、かようなことが起るようになりますと、所有者の方では、かえつて國寶や
重要美術品への
指定をいやがりまして、その所藏にかかる美術品が世に知れないように隠す、秘匿する、手放したいときにはこれまた世に知れないようにやみ賣りする、貨幣價値がはなはだしく低落している今日でありますから、その際海外へも流出しかねない、こういう結果に
なつてしまうのであります。
次に代表的な美術品を國費をもつて博物館なり美術館が買い上げるということになりますと、その都度すぐそのあとに課税の問題が起つてまいります。これでは所有者も正式な買上げをきらうように
なつて、前と同じく手放すときには正式な買上價格の半値でもいいからやみ賣りとした方がまだ手取りの割合がいい、海外へ流せばもつと割合がいいということになりまして、
せつかくの散逸防止のための
措置が、かえて逆効果を來すということに
なつてしまうのであります。そもそも美術品というもののあり方、
言葉をかえて言えば美術品は何ゆえ大切であるかということを考えてみますと、それは
文化財である、國民の血となり肉と
なつて新しい
文化を建設するために必要なものであります。そうしますと、それが一個人、一好事家の
手もとに死藏せられて、
一般國民から絶縁せられておりますならば、何らの價値もないものといわなければなりません。從つて
國家の代表的な美術品は、どうしてもこれを公開して、だれでもいつでも自由にこれを見られる形におくことが肝要でありまして、その保存や修理も特に
國家が國費をもつて細心の注意のもとにこれに當ることが、
文化國家としては當然なことといわなければなりません。しかるに
國家が
せつかくこの
措置をとり、兼ねて散逸を防止しようとするときに、一方に課税ということが起りますと、問題はま
つたくぶち壊しに
なつてしまいます。散逸の防止の
措置がかえつて散逸の促進を來さしめることに
なつてしまうのであります。そこで私が
大藏當局に
お願いしたいことは、第一に國寶や
重要美術品などの
指定にあたつて、その所有者の家財をあらためてせせくり出すことのないようにしていただきたいこと、そして第二には前に述べましたような代表的な美術品の買上げに際しては、できれば課税は免除してほしいということであります。アメリカなどでは、公共團體に寄附をした者は、その後何年かは、所得税を輕減せられるやに承つておりますが、これくらいの御
措置は當然おとりに
なつてよろしいのではないかと存ずるのでありますけれ
ども、この點に關する
大藏當局の、そしてまた
文部當局の御
意見はいかがでありますか。右お伺いいたしたいと存じます。