○圖司
委員 私から、東北地方の第二班、秋田縣及び山形縣の水害地方を調査いたしました結果につきまして、概略御報告申し上げたいと存じます。
私
どもは、七月三十一日から八月九日にわたりまして、秋田縣の三大河川であります雄物川、米代川、及び子吉川の流域、竝びに山形縣の最上川、その流域にあります鮭川、日向川、月光川、そうした流域をくまなく調査いたしてまい
つたのであります。出發にあたりましては、私
どもは七月二十一日から二十四日の間にわたりまする第一囘の水害の状況を調査すべくまい
つたのでありましたが、中途で、八月二日三日に思わざる豪雨、洪水に遭遇いたしました。私
どもみずから慘憺たる水害の状況に遭遇したのでありまして、そうしたみずからの體驗を織入れまして、御報告申し上げたいと存じます。
第一囘目の七月二十一日から二十四日の間にわたりまする水害は、多量の雨がありましたのと、しかもそれが豪雨であ
つたという點が、自然條件として氣象上見逃すべからざる大きな原因であると思うのであります。それに戰時中及び戰後を通じて、森林が過伐、濫伐せられておりましたのと、しかも治山治水の事業を怠
つておりましたがために、にわかに降りました雨のため水勢を早めまして、山の方のあるいは岩石とか土砂というものが、一時にどつと下流に流れてまいりましたので、それが道路にあふれ、あるいは橋梁を破壞し、あるいはまた耕地を埋め盡す。こういう結果に相
なつたと思うのであります。
なおこれを行政的に觀察いたしますならば、治山治水事業は農林省が主管としてや
つてお
つたと思いますが、河川改修事業におきましては、これが内務省の所管とな
つておりまして、その間セクシヨナリズムのために連絡
統制がとれなか
つた。たとえば河水の
統制をいたしたといたしましても、農林省とは何らの相談がありませんでしたので、砂防工事をや
つておらない。下流の方は河川改修をや
つておりましたが、上流のかんじんの砂防工事を怠
つてお
つたとか、あるいは山林を伐採するにいたしましても、奥の方を伐採することを怠りまして、なるべく平野部に近い
方面から伐採をいたしてお
つた。しかも林相を整備するというような點に關しましては、何らの考慮も拂われておらなか
つたというようなことが、この被害をして大ならしめた大きな原因であろうかと思われるのであります。
現状につきましては、いずれ地方廳あるいは
關係方面から御報告があるだろうと思いますから、この數字等は省略いたしたいと思います。しかも第一囘目の數字は一應まとまりがついておりますけれ
ども、第二囘目に襲いました八月二日、三日の水害というものは、第一囘目から降り續きました霖雨のために、あるいは多雨のために土質が膨軟とな
つておりまして、地盤から表土が離れてお
つた。でありますから二日、三日にわたります豪雨のために、表土がすつかり洗い去られてしま
つた。その結果耕地を埋め盡すようなことに相な
つたのでありますが、その統計的な集計は未だなされておりません。なおまた日を經るに從いまして、洪水が引いた
あとの冠水の状況、あるいはたんぼの流失、埋没の状況などは、ますます被害額を大ならしめるばかりでありますのと、そうした有形的な損害というものはここに統計に表わすことができましても、無形的な損害というものはこれを統計に表わすことができない。直接的な統計はこれをキヤツチすることができますけれ
ども、間接的な、たとえば井堰を埋め盡したがために、わずかの日照りでも用排水に支障を來して旱害になる。そうした間接的な被害につきましては、にわかに集計することはできませんので、いずれの縣でも、あるいは地方事務所でも、町村でも、完全な統計は未だできておりません。
こういうような
關係からいたしまして、今ここに數字を羅列いたしますことは差控えたいと思いますが、概略大つかみにいたしますと、秋田縣のごときは、水田におきまして約五萬町歩に近いものが冠水したのではないか。そのうち流失、埋没いたしましたところの面積というものは五千町歩に及ぶのではないか。收穫におきましては、四割ないし五割の減收を見るのではないかと思われたのであります。山形縣は一部秋田縣寄りの郡でございまして、飽海郡とそれから最上郡一帶にわたります被害でありますから、總額におきましては秋田縣の比ではございませんけれ
ども、それにいたしましても最上郡は平年作のおそらく五割減でございましよう。飽海郡は二割ないし三割減は
當然計算せられると思うのであります。そうした被害を見ましても、いずれその
状態が明らかとなるに從いまして、きわめて大いなる數字が現われることは
當然でございます。
私
どもは、まず七月三十一日に秋田縣の院内地方に最初に足を印しまして、土砂降りの中を雄勝郡から平鹿郡へ、さらに北上いたしまして、北秋田郡から鹿角郡へと、各郡ともくまなく足を印してまい
つたのであります。八月二日三日鹿角郡におりました時には、あの小坂鑛山及び小眞木鑛山の大きなダムがまさに決壞を見んとして、その鑛毒を滿々とたたえておりましたダムが、わずかに數尺を殘しまして、下の方は決壞し始めてお
つたのであります。地方民は涙ぐましいばかりの努力をも
つて、これが防止に當
つておりましたが、さいわいに橋を流されただけで、ダムの決壞は止ま
つたと聞いておりますけれ
ども、扇田の町に出ました時には、犀川の堤防が切れまして、濁流が扇田の町を襲いまして、豚とか鶏とかの
家畜類などが算を亂して逃げまど
つてお
つた。町中は阿鼻叫喚の慘状を呈しておりまして、私
どもはその間慘憺たる光景をながめて、自動車を進ますこともできず、ズボンを脱ぎ服を兩脇に抱えまして、歩き通し歩いて大館の町に出まして、さらに米代川の濁流をながめながら鷹巣町に泊
つた。夜は夜もすがら半鐘の音と、消防自動車のうなりと、住民の阿鼻叫喚とを眞暗なところで聞いてお
つたのでありますが、このような慘憺たる光景を體驗して、遂に奧羽線を秋田に出ることができず、青森縣にまわりまして、弘前から五能線によりまして能代に出まして、能代から徒歩で秋田に出るとき、米代川の河口の能代にかけてありました、あの木橋の大橋が流れるのを眼のあたり見まして、秋田にはい
つたようなわけでございまして、私
どもの調査は、みずからの眼と耳とそれから足と、
自分の心と身體とでまともにぶつか
つてまい
つたことを御報告し得るのであります。
こうした結果、私
どもはその後に來るべきものがより恐るべき結果をもたらすのではないか。たとえば農民經濟が極度に逼迫しておりましたところに、このような大慘害をこうむ
つたのでありまするから、土地改革が圓滿に遂行し得るや否やというような問題、あるいは直ちに緊急施策として耕地の復興に取かからねばならないけれ
ども、農機具を流し、
家畜を流し、
肥料を流したところの農民が、はたして直ちに起ち上ることができるや否やという問題、戰時及び戰後を通じまして、打ちのめされた農民の肉體上及び精神上に受けました打撃が、いまだ囘復せざる間にこのような慘害に遭いまして、呆然自失たる結果が、將來に向
つてどのような思想上の問題を殘すか、さらに道路橋梁などが破壞せられて、最も救援を至急に要します山間地方の部落が孤立いたしまして、救援
物資は届きませんし、わずかな薪炭が山に滯貨して、これを賣りさばいて經濟を補う資といたします山間部落民が、道路橋梁が決壞したために賣るものも賣れず、買うものも買うことができないような、ま
つたく孤立經濟に取殘されておるようなこと、あるいはまた電信、電話その他文化施設が破壞されたために、流言飛語が亂れ飛んで、住民が非常に不安にかられておるようなこと、あるいは糞尿だとか堆肥だとか、そうした不潔物が濁水の中に混入いたしまして、それが濁流とな
つて床上床下を埋め盡してしま
つたのでありまするから、その結果として
當然傳染病の發生を豫期せられるということ、そうした間接的な被害を考慮に入れますると、その後に起りまするいろいろな不祥事を省察せざるを得なか
つたのであります。私
どもは到る所でそうした話を聽きながら、それに對する對策をどうすればよろしいかということについて、各
方面の
意見を徴してまい
つたのであります。異口同音に地方民の申しますることは、まず物を先に送
つてもらいたい。たとえば耕地を復舊するにいたしましても、あるいは農機具であるとか、あるいは木材であるとか、ボルトであるとか、釘であるとか、そうした物を至急に送
つてもらいたいということ、それから全額國庫負擔で一切の復舊事業をや
つてもらいたいということ、すなわちこれまで
政府においてやりまする事業というものは、先に金が渡されないで、いつでも後にな
つて金が渡される。ところが人夫を頼むにいたしましても、資材を集めるにしても、まず先に金を握
つておらなければ集ま
つてこない。現に秋田縣の北秋田地方、あるいは山形縣の最上地方などにおきましては、物は地方事務所で握
つておりませんので、會社であるとかあるいは鑛山であるとか、そうした物をも
つておる所から鐵線の融通を受けたり、カーバイドを融通してもら
つたり、いずれは物で返すから、あるいは金で支拂うからというようなことで、應急的に間に合わしてはおりましたものの、何分にも
政府の豫算の
建前から、あるいは經費の支出の
建前から、金錢の支拂いがおそくなり、物が支給されることがきわめて時を經てからなされるというようなことから、會社でも鑛山
方面でも、物を融通することをしぶ
つておる氣配が見えるというようなことを、懇々として訴えられてまい
つたのであります。さらに當面窮乏いたしておりまする轉落農家といいまするか、非常な生活困窮者に對しまして救助米を
配給するとか、衣類だとか布團類とか、あるいは蚊帳だとか、そうした物が流されてしまいましたので、そうした
物資を供給することにつきまして、萬全の對策を講じてもらいたい。そうした事柄を懇々として私
どもに訴えてお
つたのであります。私
どもは、そういう緊急の對策は、
政府によ
つて一日も早く立てられなければならぬことを痛感してまいりましたが、同時にそうした緊急對策は根本對策に通ずるやり方でなければならぬということを、また深く
考えさせられてまい
つたのであります。今までは、先ほ
ども申しましたように、内務省あるいは農林省、あるいは大藏省というような、各省間のセクシヨナリズムの結果といたしまして、各省まちまちの對策を講じ、その間に連絡
統制も、あるいは總合的な施策も見受けられなか
つたのでありまするが、そうしたやり方というものは、百害あるも一利なしの結果を生んでおるのであります。たとえば堤防などを見ましても、築くべからざるところに堤防を築いたがために、かえ
つて被害を甚大ならしめた箇所も、少くなく私
どもは見受けてまいりましたし、あるいは河川改修にいたしましても、やらずともよろしい所をや
つてお
つて、かんじんのやらなければならぬ所には何ら手を施しておらないという状況も見受けられた。つまり死金を使
つておる所が多分に見受けられてまい
つたのであります。そうとしますならば、ここに各省間の連絡をとり、
統制を密にいたしまして、總合的な施策の上に立
つた治山治水事業と、河川改修事業、あるいは土地改良事業というものが、渾然一體と
なつたところの對策を打立ててもらいたい、こういうことを希望するのは
當然であろうと思われたのであります。さらに
國民運動としてもう少し
政府は温い心を被害民の上に及ぼしてもらいたい。いち早く
政府はどのような救援對策を
考えておるか、たとえば議會におきましてはどのような方策を講じ、
一般國民の同情あるいは救援ということに對しましての、
政府の施策はどうしたことを
考えておるかということをば、一日も早く被害民の上に知らせるということが、現實の問題としてきわめて重大であるということを
考えさせられてまい
つたのであります。以上きわめて簡單でございますが、東北水害の窮状竝びに對策に關する地方民の要望を織りまぜまして、御報告いたします。