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三木國務大臣 今囘
郵便法の御審議を願うことになりましたので、こと
機會に提案の
理由及び要旨を御
説明申し上げます。
現行
郵便法は、明治三十三年に制定せられ、その後經濟
事情その他
社會事情の變遷に伴いまして、料金、罰則その他の部分的改正がなされて今日に至
つておりのでありまして、新憲法が施行せられました新
事態のもとにおきましては、現行
郵便法を廢止して、新たに新憲法の精神に即した
郵便法を制定するのが
適當と考えられますので、今囘この法律案を提出することとした次第であります。從いましてこの法律の制定の方針としましては、新憲法の精神に即せしめることを基本としたことはもちろんでありますが、
郵便に關する基本法として、
郵便に關するすべての基本的事項を
規定して、業務運營に關する源泉たらしめるとともに、法文を今までのを改め章、節、にわかち、各條文の冒頭に見出しをつける等、法文の理解を容易ならしめるよう努めたのであります。
この法案の要點の第一の點は、
郵便法の目的を冒頭に掲げて法律制定の精神を明らかにしたことであります。
第二の點は、
郵便は通信の秘密が確保され、その役務がなるべく低廉な料金で、普遍的にかつ公平に提供されなければならないという事業の本質から國の行う事業でありますので、これを明らかにいたしますとともに、法令分野の
關係から、從來官制その他の法令で定められておりましたところの
郵便事業の管理者及びその
郵便事業に關する
具體的な職質もこの法律の中に
規定をしたことであります。
〔
委員長退席、重井
委員長代理著席〕
第三の點は、國民の自由及び權利を尊重する新憲法の基本的精神に鑑みまして、國民の基本的權利を
制限する
規定は、原則としてこれをなくいたしまして、國民に義務を課することは、
郵便事業遂行上必要缺くことができない場合に限り、かつその範圍は法律で
具體的に
規定することとしたことであります。すなわち現行
郵便法で認められていますところの業務執行中の
郵便遞送人等が、道路に障害があ
つて通行しがたい場合に、墻型または欄柵のない宅地田畑その他の場所を通行できる特權も從來はありました。事故に遭
つた場合に他人に助けを求めることができる特權もあります。また通行錢を支拂わないで渡船を利用し、橋梁等を通行し、またはいつでも渡船を求めることができるような特權は、過去の
實績に徴して
郵便事業遂行上必要缺くべからざるものと認められませんので、これを廢止し、料金完納
郵便物及び還付
郵便物につき、一般的に受けとることを拒むことができなにこととした現行
規定は、これも國民の自由を
制限することになりますので、この法案においては、こういうことも廢止いたしました。受取義務を課する必要のある場合は、それぞれ當該
關係法律で
規定をしてもらうことにいたしました。また
郵便官署の損害賠償に關する決定に對する民事訴訟の提起期間を、その決定の通知を受けた日から三箇月に
制限した現行
規定及び
郵便の取扱いに關し無能力者が
郵便官署に對してなした行為を、能力者のしたものとみなす現行
規定は、このような民法の例外
規定を官業にだけ認めることが新憲法下不
適當でありますので、廢止することとしたのであります。他方運送營業者の
郵便物運送義務は、
郵便業務運行上絶對に必要でありますので、これを存置することとしましたが、その運送營業者の範圍については、國有鐵道、國營自動車、國營船舶の管理者をも含め、これを
具體的に明らかにしますとともに、遞信大蔵が運送營業者に對し、
郵便物の運送を要求できる場合の條件、運送義務の
具體的な内容及び運送料の算定基準は、別の法律で定めることとしたのであります。
第四の點は、國民は法の下に平等であらねばならないとする新憲法の精神に鑑みまして、從來
郵便事業の
圓滑な運行を保護するため設けられた
規定でありましても、一部の國民に特別な法的利益を與える結果となりますものは、原則としてこれを廢止することとしたのであります。すなわち
郵便事業のため使用中の個人所有の物件に關する
規定であるところの、
郵便專用の物件及び現に
郵便の用に供する物件に對しては差押ができない
規定、
郵便專用の物件に對しては一切の賦課を免除する
規定を廢止することとしたのであります。
第五の點は、司法權の独立に關する憲法の精神に鑑みまして、
郵便局長等が遞送中、または發送準備完了後の
郵便物につき差押の執行を拒むことができる
規定を廢止することとしたことであります。
第六點は、
郵便の取扱制度の
規定についてでありまして、
郵便が國の行う事業とせられ、かつ信書の送達については國の獨占するところでありますので、
郵便の利用條件のいかんは國民に多大の利害
關係がありますので、これらは原則としてこれを法律で
規定し、手續的な事項その他輕易な事項に限
つて省令の
規定に讓ることとしたことであります。すなわち從來省令の
規定に讓られていましたところの、小包
郵便物の料金、特殊取扱料金その他の特別取扱料金、
郵便禁制品、その他
郵便として差出すことができない物の
具體的内容、各種
郵便物の要件、特殊取扱いの種類及び
内容等を法定することといたしましたとともに、天災その他やむを得ない事由がある場合に、遞信
大臣が
郵便の利用を
制限し、また
郵便の業務の一部を停止することができる
規定を
郵便法に設けることとし、反面、
郵便物の差出し及び
配達に關する
規定は
郵便物の送達の手續的
規定でありますので、從來法定せられておりました宛所
配達の
規定を含めて、これを省令で
規定することとしたことが、そのおもなるものであります。
第七の點は、
郵便の取扱制度の内容についてでありまして、これにつきましては、原則として現行のものをそのまま維持することにしましたが、取扱いの實状に應じて、その一部を若干改正することにいたしました。そのおもなるものをあげると次の通りであります。
第一に、現在第二種
郵便物たる
郵便はがきとして認められておりますところの封緘はがきは、その料金がその調製費を含めて、第一種書状の最引料金、すなわち一圓二十錢と同額とし、かつその取扱いも實際上第一種書状と同一にいたしておりますが、その調製費が非常に高くなりました現在にありましては
——調製費は現在十三錢一厘でありますが、紙の公定價が値上げされる結果、三十錢
程度となる見込みでありますが、調製費が高くなりましたので、調製費が、調製費料金の中に含まれている第二種たる
郵便はがきとして認めることが
適當でありませんので、これを第二種
郵便はがきから削除し、從來のものとほぼ同一形式のものを、
郵便料金に調製費を加えた額で賣りさばき、これを第一種書状として取扱うこととしました。
第二に、現行小包
郵便料金は、全國均一とな
つておりますために、同一市町村内等ごく近距離に發著するものについては
適當でありませんので、遞信
大臣は
實情に應じて、その料金を半額
程度まで低減した市内小包
郵便制度を省令で定めることができることとしました。
第三に、
郵便利用者が損害賠償の請求その他
郵便に關する權利を行使する場合に必要な經費は、利用者が負擔するのが一般の原則であり、
適當と認められますので、
郵便の利用者が無料
郵便を差出し得る場合は、遞信官署の依頼によ
つて遞信官署にあてて差出す場合に限ることとし、從來認められておりました
郵便に關する事故の申告、損害賠償の請求等に關する無料
郵便を認めないことにしました。
第四に、現行の價格表記制度は、その制度の内容がその名稱からすぐわからないうらみがあると認められますので、その名稱からただちにその制度の内容がわかるようにするために、これを保險扱いと改稱することにしました。
第五に、現行法におきましては、遞信官署の取扱中にかかる
郵便物に、
郵便禁制品たる危險物がはい
つていた場合でも、遞信官署の危險防止のためこれを棄却することができないことにな
つておりまして、
郵便業務運行上遺憾な點がありますので、前述のような場合には、危險防止のため棄却その他の必要なる措置をとることができることとしました。
第六に、現行の
配達證明料は五圓でありますが、引受時刻證明料や内容證明料が十圓であるのに對しまして、その取扱手數から見て、これらと差別する
理由がありませんので、それを十圓にすることとしましたとともに、
昭和十五年以降取扱停止中でありました代金引換料を、他の特殊取扱料との權衡を考えて、これを十圓とすることにしました。
第八の點は、罰則についてでありまして、罰金の金額を現下の物價
事情に鑑みまして十倍に引上げることとしましたとともに、罰則の一部について若干の改正をすることにしました。
第一に、
郵便の獨占を亂す罪については、これを法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の
從業員が、その法人もしくは人の業務に關して犯した場合には、行為者を罰するほか、その法人または人に對しても同様の罰金刑を科することにしました。
第二に、
郵便物の運送をしない罪については、前述の通り遞信
大臣が運送營業者に對して、
郵便物の運送を要求できる場合の條件、運送義務の
具體的な
内容等を別の法律に
規定することといたしましたので、その法律制定の際、改めて
規定することとし、一まづこの法案には
關係の罰則を設けないことといたしました。なお右の
關係からこの法案における運送營業者の
郵便物運送義務に關する
規定は、これに關する特別法が制定實施されるまで、これが實施を遲らせ、その間は現行法中の
郵便物運送義務に關する
規定及びこれに對する罰則の效力を特に
存續させるような
處置をとることにいたしました。
第三に、遞信官署の取扱中にかかる信書の秘密を犯した罪は、現行方では親告罪とな
つておりますが、
郵便事業の信用を確保する公益保護のため、これを親告罪としないことにしました。
第四に、偽造、變造等の
郵便切手類は、現行法では、裁判によ
つて没収する場合のほか、行改
處分によ
つて官没することにな
つておりますが、新憲法の國民の私有財産を尊重する精神から見て、
適當ではないと認められますので、
行政處分により官没はこれを廢止することにしました。
最後にこの法律の實施期日は、準備の
關係を考慮しまして、これを明年の一月一日とすることにいたしました。もつとも第十條の運送營業者の
郵便物運送義務に關する
規定は、この
規定實施上、必要な
郵便物の運送に關する法律が準備の
關係上、今國會に提出することができませんので、その實施期日は政令で定めることとし、その期日は、
郵便物の運送に關する法律案を次の通常國會までに提出して、明年の四月一日までに實施しなければならないこととし、それまでの間は現行法の第三條、第四十二條及び鐵道船舶
郵便法を適用することにしたのであります。
以上簡單でございますが、
郵便法案の提案の
理由及び要旨を同
説明申し上げた次第であります。何とぞ御審議の上、速やかに可決せられんことをお願いいたします。
〔重井
委員長代理退席、
委員長着席〕