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唐木田委員 国民協同党といたしましては、
一言賛成の
意見を申し上げたいと思います。
昭和十二年にきめられた
貿易組合法が、この十年間のめまぐるしい、驚くべき大転換の跡を顧みれば、もはや
残骸であることは言うまでもありません。
貿易組合法の
廃止は、当然過ぎるほど当然であると思います。この
意味において、私は
賛成いたします。ただ心配は、この
貿易組合法が
廃止されると同時に生まれてくるところの
貿易公団というものが、いかなる角度に立ち、いかなる
心構えをも
つて、何をし
ようとするかまだ未知数で、楽しみでもありまするが、実に不安にたえないものがあります。
従つてか
つて大政翼賛会というものが生まれ
ようとするときに、私はあれはぬえ
的存在であるとい
つて罵
つた一人であります。いやしくも
天下の動きに先んじ
ようとする人であるならば、私利、私欲を捨て、自己をなげうち、熱血を傾けて
天下の公党、パブリツク・パーテイをつくり、そうして
自分の
国家の隆盛を願うことは、あまりにも当然なことであります。
国家からたくさんの費用を分取りして、そうして
政党でもなく、
精動でもない、すなわち妙ちきりんなぬえ的な存在、これが
大政翼賛会の姿であ
つたと私は信じます。この
意味において、私はこの
大政翼賛会とはぬえ
的存在である。
政党か、あらず、
精動か、あらず一体何だとい
つて、これに対して思う存分嘲笑を浴びせかけたことを、今思い起すのであります。それとこれとは問題は違いますものの、一体
公団というものの本質が、この
時勢上やむを得ないとしても、本来あるべき姿では断じてないと思う。このあり得べからざる姿を容認して、この姿を新しい
日本の新しい
運命を開拓するお役に立たせ
ようとするためには、その衝にあたる者、
運用にあたる
人々の御苦心は、実に容易ならぬものがあると思います。それだけに御苦労のほどは十分にわかりまするが、今までの明治、大正、
昭和の八十年にわたる
日本民族の発展の跡を顧みて、特に
役人の
心構えというものに対しては、非常な
遺憾そのものの感じをも
つておるものであります。特にいまさら泣言を並べるものではありませんが、大体
農商務省時代から
商業関係の
役人は割合相手が少くあり、そうして実際上その当時の有様を顧みますれば、あながち
政府とか
役人の
指導を受ける必要がありませんでしたから、
農商務省が
農林省と
商工省にわかれてからも、大体において
商工省の
役人は人民の
声なき声を聴き、形なき形を見るという
ような
政治的訓練が欠けるものが
多分にあ
つたのであります。
商工省にな
つてからすでにそうであ
つたが、それがさらに
軍需省という妙ちきりんな形になりましてから、命令することだけがわか
つてお
つて、ほんとうにこの
仕事に携わ
つておる
人たちの血の出る
ような、涙のにじむ
ような気持がわからなくて、この
時勢にな
つてしま
つた。ですからそれらの
人々は決して悪意をも
つてものを見、ものを考えなくても、結果としては
過失致死罪、過
つて人を殺すという
ような結果を招来しないとは言い得ないと思います。たくさんあり得るのであります。ですから私はそういう
意味において、この
貿易組合法の
廃止はもとより大
賛成であるが、さりながら、やがて生まれ来るであろうところのこの
貿易公団なるものの
運営いかんが、かか
つて新しい
日本の新しい
運命を打開するか否かにあるということを思いまするがゆえに、重ねてこの
言葉を申し上げておきたいと思うのであります。私過日も
商業委員会の席上において、
自分の身のまわりにあ
つたところの
一つを御参考に申し上げて、
政府当事者の御
注意を喚起したのでありまするが、私の
郷里信州の千曲川のほとりに、
信州が
高原地帯であり、比較的
精密工業に適当しているゆえをも
つて、
農村工業、すなわちやがて来るであろうところの
農村恐慌に備えて、労力を調節するという眼目に基いて、
時計工業を開いた。これはいうまでもなく
農村工業でありますから、県の
農業会、あるいは県庁の
経済部の
農業関係の
諸君によ
つて指導され、鞭撻され、あるいは地元の
人たちの熱意に基いて起
つたのであります。さいわい厚生省からは、この企てがいいものとして
地方の
農村の子弟に
精密工業の観念をより多く与えたいということでも
つて、身分不相応な補助も与えられ、激励もされ、あらゆる面から祝福されて、この事業はきわめて順調に進んできたのであります。ところが、さて本格的な
運営にあた
つて、
資材を必要とするために
商工省に参りましたところが、あにはからんや、
商工省は知らぬ。そんなものはだめだ。
農林省の
指導を得たのだから、勝手にしろ。
商工省の知
つたことではないと一顧も与えない。その人は
地方の
有力者でありましたが、血の涙をのんでくやしか
つたと
言つておりました。これは単なる
一つの例に過ぎません。
地方の
農村の
人たちからみれば、
商工省も
農林省も、大蔵省も、ともにひとしく
日本の
政府であり、ともにひとしく
自分たちを
指導し、鞭撻して、
再建日本の原動力にな
つてくれる
人々であるということを信じております。こういう
人たちに対してそういうべらぼう千万な、ま
つたくこの世にあり得べからざることが、現実の問題としてあるとすれば、単に私はこの
貿易公団に対して、今後のいき方に危惧を懐くだけでなくして、あるいは再びこの愚を繰り返すことがあるのじやないかということを考えておりまするがゆえに、はなはだくどくはありますけれ
ども、重ねてこの実例をお耳に入れて、今後再びこの過ちを繰返さざらんことを念じて、ぜひ
中小工業の
振興によ
つて、これを中心とし、背景とし、これをバツクとして、
日本の新しい
運命が開拓できます
ように、
官民ともに十二分の御協力、お力添えを願いたいということを重ねて希望して、この
原案に
賛成するものであります。