○
近藤政府委員 この間の二、三の
新聞に、
地方出先機關を
整理したいという
記事のうちに、
統計調査關係の
農林省の
作物報告事務所の
仕事を縣に移したらいいじやないかという
意見が出てお
つたのであります。この問題につきまして私
責任者といたしまとて、
作物報告事務所というものがどういう
事情ででき、どういう機能を果しておるか、われわれはどうい
考えで
調査に從
つておるかということをお話申し上げまして、皆様のこの問題につきましての御
判斷をなさる御参考にいたしたいと思います。それにはこの
作物報告事務所というものができました
経過を、一通り御
説明申し上げるといいかと思うのであります。
この問題が取上げられましたのは、申すまでもなく米、麥などの主食の
生産高の
調査、あるいは
生産高の
豫想調査という問題が、非常に
國民の
日常生活にとりまして重要な問題になり、最も正確な
統計を要する時代にな
つたのでありますが、最も緊切を要すれば要するほど、農村の
供出をする側と、それから
供出をとる側との
利害關係の樹立と申しましようか、これが一層著しくなりまして、
片方は隱そうとする、
片方はなるべく多くとろうとする、そのために
調査もそれによ
つて曲げようとするという勢いが非常に強くなりまして、
統計がほとんど
行政の
資料として役に立たなく
なつた。そういう
實情に基いたと思うのであります。今までの
官廳の
調査につきましてのわれわれの一般的な
考えというものは、
行政の擔當者が當然その
行政をするのに必要な
調査をすべきものである、これが今までの普通の
考え方であ
つたのであります。そこで
農林省の内部で申しますと、
食糧行政は
食糧管理局がや
つておる。だから米や麥などの重要なものは、
食糧管理局が
自分の
出先調査機關を
使つて、
自分で
調査をしなければならないというので、
食糧事務所などを
使つてずつとや
つてお
つたのであります。また
縣知事の立場からみますと、縣の
食糧の
責任をも
つておるのは
自分である、
從つて自分の縣の
調査をするのは
自分でなければならぬ。人の
調査を押付けられるということでは、
食糧の
行政に
責任をも
つて行政を擔當するわけにいかぬ、こういういき方であ
つたのであります。そのために先ほど申しましたように
生産高の
調査が
眞實から非常に離れてきたというわけであります。この根本的な
考え方を切換えなければならないということに、だんだん氣が付いてまい
つたのであります。殊にG・H・QのN・R・Sの方から、
昭和二十一年の八月十日に
農林省に對しまして、
農産物調査に關する四大
原則として、こういうことはぜひやらなければならぬというので示されましたのが、第一に
作物の
調査を
中央政府が統制すること、第二に
農林省に
作物報告の
責任機關を設けること、第三に
中央政府の
作物報告機關を、
府縣を通して各農家まで達せしめること、第四に
農民から
中央政府に對して
質問表を郵便で送るような
組織をつくること、こういうような
原則をも
つて農林省は
考えてみろ、こういう問題を投げつけられまして、
農林省はそれに基きまして、
作物報告組織整備要綱というものを九月三日に出したのであります。その
要綱は、
作物の收穫高の
豫想實收高をなるべく、早くとらえて、
供出の
制當その他
食糧行政に役に立つような
資料を提供し、過大に
報告したり、
内輪に
報告したりすることのないようにすること、こういうような目的でも
つて農林大臣直属の
農業統計官を中心として
作物統計調査組織をつくりたい、こういうような答をいたしたのであります。これに對しまして二十二年の一月二日にGHQから、
日本の
作況報告制度改善に關する
勸告というのがなされまして、
日本の
作物の
統計がしつかりしていないと、
日本が
食糧にどれだけ
ほんとうに不足しているかわからぬからして、それだけ
日本の
國民全體の非常な不幸になるぞということを前書にいたして、これは
中央集權的にぜひやらなければならぬ、世界どこの國へ
行つても、この
作物の
調査が、
地方政府でや
つている場合にうまくい
つている例はない、こういうようなことを言いまして、
四つのことを
勸告してまい
つたのであります。
一つは
農林省の内に、
統計調査の計畫實施について全面的に
責任を負うところの
統計局をつくれ。第二に
統計局と
作物報告の
機關というものは
中央政府に對して直接に
責任をもて。各地に配置している
作物報告の職員も
中央政府に直接
責任をもつようなものにせよ。
統計院の
調査に從事する者は、單に
事務ができる者でなくて、
一定の
國家試驗をや
つて、必要な有
資格者の中から選ぶようにしなければならぬということが第二。それから第三は、
作物報告機關の
仕事は、
食糧を集めたりする
仕事とも、あるいはその他の統制、あるいは
調整の
機關の
仕事とも全然離れてやらなければならぬ。離れた
機構をも
つてつくらなければいかぬ、それが第三。第四に、
作物や家畜の
統計、殊に
豫想をするという
方法で、どういう
方法を
とつたらいい
豫想ができるか、その
調査をやらなければならぬが、どういう
方法をとるかということの
研究に着手しろ。こういう
四つの
勸告を受けたのであります。
これに從いまして
統計調査局が四月一日から發足いたし、
府縣に
作物報告事務所が設けられ、そうして大體五箇村に一箇所くらいの見當をも
つてその出張所が設けられました。豫章上の定員を申し上げますと、二級の官吏が全國で八百四名、三級官が二千三百九十大名、雇員、傭員合わせますと八千二百三十四名を擁する厖大な
調査機構ができたのであります。これが今まで米や麥の
調査をしておりました
食糧管理局の
調査から
統計調査局に移り、また
府縣や
市町村という
地方官廳から獨立した
調査機構ができたゆえんであります。こういう
経過を辿
つたのであります。
ここで特に
府縣の
縣知事などから、
作物報告事務所はやはり
出先機關の
一つとして
整理してもらいたいという聲が、きつと皆さんのお耳にもいろいろ届いていると思うのでありますが、ここで私が特に御考慮をいただきたいことは、
調査の實際を見まして、
府縣の
相互の間に――これは
町村に、ついてもそうでありますが、
町村相互の間に非常に不公平と申しましようか、眞面目にやるところと、眞面目にやらないところと、非常な
かけ値をするところと、非常に眞面目にやるところとあるということでありまして、それが
農民から見ますと、隣の村は
供出が輕いのに、俺のところは非常に重いという聲が出るもとに私はな
つていると思うのであります。今日の
供出制度の本質において、どうしても樂になり得ない間は、
中央集權的にこれをやる、それによ
つてこの
統計を客観的なものにするということが、今日非常に大切だと思うのであります。一例を申しますと、たとえばこの間
新聞にも公表いたしましたが、稻の
作付面積が一番多い時は、戰争中の
數字は三百十五、六萬町であ
つたのでありますが、それがこの間の
臨時農業センサスによりますと、――これは
府縣知事、
市町村長を通した今までの仕方でや
つたのでありますが、その
申告によりますと二百七十七
萬町歩という減り方であります。同じ
臨時農業センサスにおきまして、これはまだ公表するまでにはいた
つておりませんが、稻以外の各種の
作物の
作付面積を、重要なものを全部網羅してこの間調べたのでありますが、その
作付面積、殊に
甘藷の
面積を檢討する場合に、われわれはよくその點を檢討したのでありますが、全體としての
畑作物の
面積というものは、そんなに去年とひどく變る筈はないのです。もし
甘藷が減
つておるならば
陸稻がふえるとか雑穀がふえるとか、こういうふうになるのが當然
豫想されるのであります。それが
實態だと思うのでありますが、縣によりますと、いろいろな
作物の全體としての
作付面積を総合的に眺めてみますと、ちやんと付き合うところであります。なるほど
甘藷は減
つておる、しかし
陸稻はだいぶ殖えておる、豆が殖えておるというような縣もあります。主ごろが
甘藷も減
つておる、陸稲も減
つておる、どの
作物も皆減
つておる。しかも畑が放棄されておるかというと、決してそうでないのでありますから、明らかに
申告という
方法によ
つて今までや
つておりましたやり方が
適當でないのであります。つまり
農民はこういう時期でありますから、どうしても
内輪に
申告したいというのが人情でありますが、これを
府縣知事にいたしましても、あるいは
市町村長にいたしましても、こういう穴があるというので見逃すようなものが大勢ではないかと思うのであります。私きわめて最近に、この
統計調査局長の
仕事をお引受いたしたものであります。私の
考えでは、
耕地面積、それから
作付面積に徹底的に
メスを入れる、これは決して
供出の苛斂誅求をやる、こういう
意味ではなくて、
ほんとうの正しい
調査に
礎つて、
地方的な違いによ
つての不公平のないような、そういう
供出その他の
行政的措置をとりますためには、
農業については
面積の
調査、これが基本だと
考えておるのであります。これを徹底的にやることが私の第一の任務だと
考え、そのためには身分におきましても
中央において關與する、握
つておる、そういう人でなければ、あの縣の係はだめだ、あれで困ると思いましても、何とも仕方がない。こういうことでは實は
メスを入れるということはわれわれできないのであります。そういう
意味において私は、この
調査を客観的なものにする。こういう
意味においては、
日本の今日の
情勢では、殊に
作物の
實收高を
豫想するということは、
中央集權的にやらなければできない。こう私は思
つておるのであります。ある
意味においては技術的な面が必要である、こう申さなくちやならぬと思います。
その技術的であると申します點をもう少し御
説明申し上げたいと思いますが、
作物報告事務所ができました
意味は、私は二つあると思うのでありまして、
一つはただいま申しました
調査機構を他の
食糧の
行政その他と獨立して、全然別個の
責任をも
つて調査をするという點が
一つでありますが、第二の點は
調査の
科學化と申しましようか、比較的少い
経費でも
つてなるべく適切な
眞實に近い
數字を得るということ、こういう二つの
意味をも
つて参ると思うのであります。と申しますのは、われわれの今までの
統計方法についての
考えは
ドイツ流でありまして、
センサスにより、つまり個々のものを數え上げ、それをだんだんと
町村、
府縣と積み上げて、その結果が
統計である、
センサスをやつたものが、一番正確である、こういう
考え方であります。これは人口などを數えます場合には、そういう
方法が實際正しいのでありますが、今のような経済的問題につきますと、必ずしもそういう
方法によらないで、もつと少い
経費でも
つてこれはアメリカやロシアなどで非常に發達したのでありますが、いわゆる
サンプリング、この
サンプリングというのは全部を數えないで、そのうちの
一定のものを數えて、
一定のものを観測して、その結果によ
つて全體の状態を推計する、こういう
方法をと
つておるのであります。一例を申しますと、これは
新聞などにわれわれ發表いたしましたが、今年の米の
作付面積はいかにも
眞實から離れておるというので、それを是正する
意味におきまして、全國一萬五千筆ばかりの
サンプリングをいたしました、それを實測しよう、それと
申告とどれだけ違
つておるだろうかということを見て、全體の
申告がどの
程度内輪にな
つておるだろうかということを推計しようとしておるのであります。その場合にも、ただできるだけたくさん
サンプルを選んで調べるというのではなくて、
統計の理論というものは、こういう
方法で
サンプルを選んで、これだけの數を實測した場合には、實際ともの
サンプルによ
つてでてきた結果との間に、たとえば三%なら三%の
誤差があり得る、しかしどんなに大きくても三%であ
つて五%にはならない、そういうような、つまり
誤差の範囲というものが、あらかじめわかるような
調査の
企畫をいたすのであります、そういう仕方によりますと、
センサスをやるということをしなくて、
一定のものをしつかり調べて、それをも
つて推計するというようなことで、
経費が非常に少く済む。そういう、仕方は全國的な
企畫においてやらざるを得ないわけでありまして、米の
收量などにつきましては、全図的な
企畫においてやらなくちやならぬのであります。そういう
意味におきまして、これをばらばらにしてやつたんでは
企畫の
立てようがない、こうも言えるのであります。
それから
統計を科學的にするということのもう
一つの例を申しますと、今まで米の收穫高の
豫想をいたしますのに、一番下から段々と見込を集めまして、この村ではどれだけ、この
府縣ではどれだけ、全國ではどれだけというふうに、下から積んでまい
つたのでありますが、そういう仕方をしないでやりますと、どうしても
主観がはいる。普段でも
主観がはいるのでありますが、こういうような
供出の段階では、どうしても
内輪にやりたいという心理が作用するわけであります。たとえば七月の終りに稻の株をと
つて、その株の
乾燥重を計
つて、それで推定するというようなこと、これはまだ確立しているわけでありませんが、そういうような全然
主観のはいり得ないような
方法で
調査をして、その客観的な
資料から米の分量を推定する、こういうような
方法を取入れなければならぬということを
研究しておるのであります。あるいは
被害調査などについてもそうでありまして、
被害の
調査は今日非常に重要な
關係があるわけでありますが、だれがやりましても、
被害直後に見ますと、どうしても過大になりやすいのであります。意識的にも無意識的にも過大になりやすい。それをわれわれが雨が何日間降つた場合、温度であるとか、
濁りぐあいであるとか、それが何日間上に滯溜しておればどれだけの損害が必ずある。こういうような
被害調査につきましても、こういうような
方法をとりたいと思うのでありまして、そういうような點が
府縣に任せた場合にどうしても取入れにくく、今までの
方法でやることになるおそれが多いのであります。私は今日の
情勢では、
米姿の
生産高などを
調査いたします
責任ある
數字を得るためには、どうしても
作物報告事務所というものをお認めいただきまして、
食糧の
行政とも、
地方の
行政とも、全然
關係のない正しい
調査をすることそれ自身に、
責任をもつ
機關にや
つていただくことが必要であろうと思うのであります。この點は
調査に從います者の根本的な心構えで、實は今年の
作付面積は、
水害地を含めて二百九十二
萬町歩というあの
數字を公表いたしました。あるいはまた米の作柄が平年に比べて一〇四%であるというような
數字を公表いたしましたが、われわれのあの
數字の
調査のしかたにつきましては、それぞれ
關係筋と了解を遂げておりますが、
調査の結果そのものについては
報告をし、
説明をいたした次第でありまして、向うの
意見を求めるというようなことはしない。全然われわれの
責任おいて、もし間違
つておれば私の
責任である。こういう
意味であの
調査の公表をしておるのであります。
調査の
責任制、殊に
米麥の
生産高調査につきましては、今日は最も重要に
考えなければならぬと
考えるのであります。
なおこの問題をお
考えいただきますために申し添えておきたいことは、
統計調査に關しましては、
統計委員會というものができておりまして、
大内教授を
委員長にいたしまして、私なども前からその一員にな
つてお
つたのであります。その
統計委員會がいろいろな
統計の規格について審査をいたし、その
意見を述べて
調整をする役を實はや
つておるのでありますが、この
作物統計調査につきましても
統計委員會に諮りまして、
統計委員會は
府縣の
調査につきましては、なるべく
府縣の
統計調査課にや
つてもらつたらよろしいという
意見がいつも支配的であります。そしてこの間新しい豫算として、各
町村に一人ずつ
統計に從事する專任の吏員を設置することに骨を
折つたのでありますが、その
統計委員會におきましても、
作物の
生産高調査については、これは例外であ
つて、これをあの中に入れるわけにはいかぬだろう。やはり全然
行政と別個に、
責任をもつような
作物事務所の
報告組織をつく
つてやるのがいいという結論にな
つてお
つたのであります。この點も申し添えたいと思います。なお御
質問もございましようから、御
質問によ
つてまたお答え申し上げたいと思います。