○
川橋委員 中島小委員長がまだおいでになりませんので、私が代
つて小委員會の經過及び結果を申し上げたいと存じます。お許しを願います。
本小委員會の五
大都市特別市制實施のため、去る七月五日門司君外六名の小委員を選定し、引續き三囘にわた
つて小委員會を開き、法案を作成の上、愼重審議を重ねました結果、八月一日の小委員會において、これを可決すべき旨議決いたしましたので、本小委員會における審議の概要及び結果につきまして努めて簡明に報告いたしたいと存じます。
第一に
特別市制の必要性であります。そもそも大都市は、人口態樣の上においても、また社會的、經濟的、行政的、あらゆる方面において、他の
一般中小都市に比し、特殊な性格を有し、これらの特質に基いて、その住民生活において、種々特有の諸問題を生じ、これが必然的に
大都市獨特の
行政事務と施策を要請するものでありまして、教育、土木、保健、衛生、經濟、
社會竝びに都市計畫等、各種の
行政施設は、實に廣汎にわたるとともに、電車、
乘合自動車、水道等、各種の大規模な公企業の經營を必要ならしめ、また保健施設にしても、大都市においては、近代的大規模の施設を要し、傳染病院、隔離病舎、療養所、保健所、
育兒相談所等實に複雜な組織をもたねばならないのであります。從つて、大都市における
行政事務竝びに施設は、その種類及び範圍において廣汎であるのみならず、その質と内容とにおいても、きわめて高度化せられたものでなければならず、また
各種行政機能を効果的に遂行するためには、その行政において、他の
中小都市に見られない強力性と、積極性と、自治性とが備わらなければならないのであります。
政府はこの情勢に應じ、すでに六
大都市監督特例に關する法律を制定して、
自治團體としての府縣市に對して有する監督を大幅に撤廢し、また六大都市については、
國政事務たる道路管理の職務を
府縣知事より離して六大都市に移讓する等の措置を講じましたが、なお教育、衞生、保健、社會、救護、都市計畫等に對する大都市の役割がいよいよ大きくなり、從つて、その
組織機構は府縣の
組織機構を凌駕するに至りました。かかる場合に、その上位に府縣が介在することは有害無益であります。この無用にしてかつしばしば
官僚的情實を加える
中間的存在を排除し、大都市をして政府機關に直結せしめんとするのが、
特別市制の眼目であるのであります。
反對論者は、府縣より大都市を除外せんとする有機的一體たる一自治體の首と胴とを二分するもののごとく論ずる者がありますが、元來現在の府縣は、明治の當初、
廢藩置縣の時定められたままの
官治行政の
行政區劃に過ぎず、決して、
有機的自治體を組織するものでないことは、その設定までの
沿革竝びに新憲法實施までは、知事以下が官選の官吏により統治せられ、
府縣議會は知事の有する
原案執行權により脅かされ、
諮問機關摘性格を有するに過ぎなかつたことによりあきらかであります。すなわち現在の府縣は、
行政區劃的性格であり、かつ
市町村連合體的の性質であるがゆえに、これを二分することは、
完全自治體たる一市町村を兩斷せんとするものとは、全然性質を異にするものであります。また
五大都市をもつて、その所屬府縣の首都となすことは當つておりません。
五大都市は單にその人口が五十萬あるというのみでなく、大都市として經濟、文化、社會の各方面にわたり、その實力が各地方の中心勢力であるのみならず、全國的の影響を有する世界的の一大都市を形成しておるのであります。從つて、明治當初の都市の勃興以前に定められたままの府縣機構の内にこれを從屬せしめんとするところに、根本的な不合理が存在するのであります。
思うに、現在のわが國は、戰後の難局に直面しつつ、
平和國家再建のため、幾多の重要な課題を擔つております。この難局處理の途上にあたり、
五大都市の負うべき役割の重要性を思うとき、その
行政機能の能率を極度に發揮すべきことは改めて言うまでもありません。また
民主主義的國家體制確立の基礎として、
民主的地方行政の運營こそ焦眉の急務であります。新憲法とともに公布實施せられました新
地方自治法中における特別市に關する條項は、かかる
大都市行政の特質に鑑み、
地方自治の根底に培うための措置であるわけであります。しからば、これを單に
飾物的存在たらしめることなく、現實に具體化せしめることこそ、わが自治法の根本精神たる
地方自治の分權化、民主化の
基本的要請の一でなければならないと信ずるのであります。
第二に
特別市制の沿革であります。特別市の問題は、遠く明治二十年代に、まづ帝都(東京市)の問題として取上げられ、官治による都制、民選市長による
特別市制の形でしばしば議會の議に上つたのあります。その後大都市の發達と、これに附随する都市問題の發生とは、
大都市行政の發達と高度化とを齎し、わが國都市の共通の問題としての特別の
大都市制度の必要と要求とを生み出したのでありまして、首都以外の大都市にも、
特別市制を布くべしとの議が上つたのは明治四十三年でありまして、東京市及大阪市に關する法律案として上程せられたのであります。
續いて、第一次大戰を經て、わが國經濟の大發展と、これに伴う大都市の著しい發展とを見るに至つて、大正六年東京、京都、大阪、横浜、名古屋、神戸のいわゆる六大都市の
特別市制が問題として取上げられ、大正十一年の法律、續いてこれに基く大正十五年の勅令により
市制上府縣知事の六大都市に對する監督權はほとんど省略せられ、
地方制度上の二重監督も問題は、一應解決したかにみえましたが、
大都市制度の問題は、
自治團體たる府縣と市との間における監督の問題のみで解決し得られるものではなく、
府縣知事が
國政事務執行上市町村に對して行う監督の問題であつて、大都市が
國政的事務たる教育、土木、衞生、社會について行う事務が巨大となるにつれ、いよいよ中間機關たる府縣を排除し、大都市と政府とが直結せんとの要望が強められたのであります。この間政府も市制度、
大都市制度につき調査會を設けたことがしばしばでありますが、その結果は實現をみずに終つたのであります。
昭和時代に入り、いよいよ運動は熱度を加え、政黨政治に伴う
自治權擴充の方向と併わして強く主張せられ、昭和四年第五十六囘、昭和六年第五十九囘、昭和八年第六十四囘、昭和九年第六十五囘各議會に、特別市實施に關する法律案として提出せられたのでありますが、いづれも衆議院は通過せるも、貴族院の阻止にあ
つて實現をみず、昭和十二年には當時の廣田内閣は、五相會議を開いて
五大都市特別市制問題を協議し、同年第一次近衞内閣は、
地方制度調査會を設置し問題の解決に乘出し、
東京特別市制案を政府提出としましたが不成立に終りました。
今次支那事變より大戰への間におきましては、官僚統制の強化に伴う自治の後退を目的とする昭和十八年の地方制は改正が行われ、その際率然として官治東京都制のもとに、東京府に東京市を吸収し東京市を解體することによつて、思ひもかけぬ形で
大都市制度が實現せられたのであります。その後東京を除く
五大都市の
特別市制問題も、戰爭の深刻化とともに振わなかつたのでありますが、
ポツダム宣言受諾による終戰とともに、わが國を根本的に民主化することを目的として敗戰後の新しい政治が始められ、
特別市制の問題も都市復興の問題とからんで、市制の民主化と
民主的市制の伸張發展の問題として大きく浮び上つてきたのであります。政府もわが
國民主化の第一著手として
地方自治制の民主化を策し、昭和二十一年五月成立の終戰後の新議會に
地方制度全般の改正案を提案し、同年十月その成立をみましたが、未だ
特別市制は實現をみなかつたのであります。議會は政府に對し、
地方制度のさらに第二次的な
全面的改正を要望し、特にその制度の中に
特別市制の實現を力説し、かつそのために
地方制度調査會を設け、
次期議會に提案すべきことを決議しました。これに基いて二十一年十月
地方制度調査會が設けられ、
警察制度と相竝んで
地方行政の
根本的刷新が議せられることになり、
特別市制もその一部門として朝野の知能を集めて審議調査せられました。その結果、去る昭和二十二年三月の議會において、
地方制度全般にわたる改正が行われ、
地方自治法が制定せられるに至り、
特別地方公共團體として特別市の制度が認められたのでありまして、議會は
五大都市を特別市に指定する法律を
次期國會に提出すべき旨の
附帶決議を付しておるのであります。
第三に憲法第九十五條の解釋であります。特別市指定の法律案を審議するに當りまして、まづ問題となりますことは、憲法第九十五條の解釋、すなわち
一般投票の範圍の問題であります。特別市を指定する法律に、
地方公共團體の住民の贊否、すなわち投票が必要なことは言うまでもありません。ただ問題は、この
地方公共團體とは、指定の對象たる當該市と解釋するか、あるいはまた
當該府縣と解釋するかという點であります。政府はこの問題について、七月二十六日の
閣議決定事項として、府縣民の
一般投票によるべき旨を聲明いたしましたが、以下述べますところの理由により、政府が先に
地方自治法制定當時とつた見解にして、本院がその審議に當り、その見解に同意を與えたところの「當該市の住民の
一般投票」によつて本法を運營せられんことを期待するものであります。
元來この問題は、
地方自治法上の問題であります。しかしその根抵は憲法第九十五條にありますが、同條は「一の
地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その
地方公共團體の住民の投票において、その過半數の同意を得なければ、國會は、これを制定することができない」となつておるのであります。これからも了解せられるのでありますが、一の
地方公共團體のみに適用される法、すなわち特別市指定の法律は、當該市のみに適用される法律でありまして、これが
當該府縣に適用される法律でないことは明らかなことであります。從つてこの條文を字義上より解釋すれば、「その
地方公共團體」とは「特別市の指定を受ける市」と讀みかえるのが當然でありまして、その投票も市民だけでよいと考えられるのであります。
そもそも現在の府縣は、前にも申述べましたように、明治初年に行われた
廢藩置縣をそのまま踏襲しておるものでありまして、
行政區域的性質を存し、從來の
府縣知事竝びにその官僚組織が官吏組織でありましたのが、新憲法により、初めて公吏に切りかえられたものでありまして、これが一個の完全な自治體とみるべきものでなく、
行政區畫的の性質を有する、一個の
市町村連合體と考えられるのであります。かかる場合に、完全に自治體たる
大都市住民の熱烈なる希望にして國會の承認するもので、たまたま從來從屬しておつた府縣の郡部住民の意思により否定せられることは封建的であり、かつ民主主義の精神に合致しないもので、新憲法を貫く個人や國體の自由を尊重する精神に反するものであります。
特別市の指定自體の關係者は、當該市に限定せらるべきでありますが、特別市の指定に伴い、府縣の
境界變更を招致するゆえに、この意味において、
當該府縣が
利害關係者と解することは、一應理由はないでもありません。しかしながら、その
境界變更は飽くまで結果でありまして、目的ではないのであります。このことはたとえば、府縣に跨る市町村の
境界變更のあつた場合には、別に法律の制定や、
一般投票を用いずして、内務大臣の
行政處分のみによつて變更し得るのでありまして、他の法律に認められた事由により招致された結果が、他の住民に影響があつても、これを問わないとすることが
地方自治法の精神であるのであります。特別の指定に重點をおき、その結果として府縣の
境界變更を招致しても、これを問わないとの精神であります。このことによつて初めて
地方自治法第二百五十五條第四項「第二項の規定により特別市の指定があつたときまたは前項但書の規定により境界の變更があつたときは、都道府縣の境界は自ら變更せられる」の立法理由が理解できるのであります。反對論者の説をとるならば、かかる立法は必要なく、原則に立かえり、特別市の指定とともに、府縣の
境界變更の法律を制定することといたすべきでありましよう。なお本問題は、
地方自治法制定の際、本院において最も論議せられたのでありますが、政府においても關係筋の了解を得て、當該市の住民による旨の見解を明かにし、本院またその見解に同意して協贊したのであることを強調いたしたいのであります。
第四に特別市實施上の諸問題であります。特別市
實施上問題となり得べき諸點については、いろいろ考究し、これを
附帶決議として掲げたのであります。第一は、
府縣特別市の財産及び施設等で、兩團體に分割し得るものは、それぞれ協議してその所屬を決定し、分割しがたいものは
府縣特別市の組合を設けて、これを共同處理することにいたしました。特別市の實施は、府縣を特別市となるべき地域をもつて二分して、その地域内の府縣の
行政的機能の一切を從來の市に併合せしめるものであります。
公共團體は
普通營利法人と異なり、その施設は公共的であつて、その經營には
税収入等の一般歳入を充て、
施設利用者より徴収する
使用料等は、その管理費の一部を辨ずるに過ぎないのが常態であります。通常市において經營する電車、上水道のごときは、
企業經濟的機能をもつので、使用料をもつて賄うべきでありますが、府縣の經營施設は警察、土木、教育等の
國家的職能を實施するものでありますから、その經營費は
國庫下渡近、授業料のほかは、
一般税収入等の財源をもつて充てるものであります。
公共團體の一部合併の場合におけると同一の條理でもつて、これら施設に關する起債の未償還額の負債の移讓を存すとともに、これら施設の財産は
當然無償で特別市に移管せらるべきであります。何となれば、これら施設に關する經費は、
從來特別市の市民が府縣民として負擔した府縣税により支辨せられたものと考うべきのみならず、その施設自體の維持管理が、相
當部分税収入等により、賄うべき非
營利的財産であるからであります。特別市となるべき市民が
從來府縣民として累年莫大な負擔をなして、その府縣の施設の新設改良に努めたことは、三部制時代における財政事情よりみるもきわめて明瞭でありますから、今その府縣が二分しての特別市が設定せられるものであり、かつ府縣市等はともに
地域團體にして、その管轄外に
公共的機能をなすことは例外的體のものでありまして、
通常企業的事業の
延長的施設または特殊施設に限られることをまず念頭におくことを要します。この見地からみるときは、特別市となるべき市の施設については、
殘存府縣への移讓の問題も、府縣市の協同組合への移讓の問題も、通常生じないものと考えられるのであります。問題となるのは、特別市地域内における
殘存府縣營の
公共施設でありまして、中等學校、警察、消防等の施設は
當然無償をもつて、但しこれら施設に關する起債未償還額あるときは、その未償還額の負債とともに、移管せらるべきものであります。問題となるべきは、盲唖學校、
精神病院等府縣において經營するものにして、唯一の施設のごときは、
府縣市組合の共同經營とすることは一案でありますが、また双方協議の上、双方のいずれか一方が經營し、他が分擔金を負擔するのも責任を明瞭にする趣旨から妥當の場合があるでありましよう。
港灣については、横浜及び神戸は國營であり、大阪は市營でありまして、問題を生じませんが、名古屋の場合は縣營で問題であります。名古屋港の經營が、三部經濟時代において、市部經濟で經營せられ、明瞭に市民が府縣民として負擔したことによつて築港が行われたことを考慮し、また將來巨額の修築費を要することを豫想せられる場合に、これは
殘存府縣民に分擔せしめることの當否を考慮するときは、特別市に移すことが妥當のように考えられますが、
當事者双方の愼重な協議が望ましいのであります。特別市の設定にかかわらず、府縣廳舎及び府縣職員の公舎は、引續き使用することを要しますので、當分現状のままとすべきでありませう。
以上は用途の性質上處分し得ない
公用的施設に關するものでありますが、そのほかに、府縣には處分し得る動産、
不動産等雜種財産があります。特別市の設定は府縣よりの一種の
分家的作用であり、かつ府縣の財産は多年にわたり特別市市民の
府縣住民として納税の蓄積であることより考えるときは、あるいはこれら財産は總合して
人口比等に按分するのを妥當のように考えられますが、少くとも特別市地域内における雜種財産たる土地家屋は、特別市に移讓するのを妥當のように考えるのであります。
第二は、府縣市の負債中
特別市内にある施設に關するものは、組合に移讓するものを除き特別市にこれを移すことにいたしました。前述のごとく、府縣の
公共施設が無償をもつて移讓せらるべき性質であるが、それと同時に分割せらるべき地域内に屬する事項に關する起債の未償還額は、すべて特別市に承繼せらるべく、このことは、防空起債のごとく、現實には何ら施設が殘らない場合においても同樣であります。府縣の起債は、對象施設の不明瞭なものはありませんから、敍上の原則により處理せらるべきであります。ただ
赤字起債が問題になるのでありますが、從來認められた
赤字起債は、國庫が元利を補給しておりますから、問題はありません。
第三は、特別市の施行にあたり、
殘存府縣の住民の負擔が急激に増加する場合は、
特別市側よりの
殘存府縣への繰入金、
寄附金等の措置により、善處することにいたしました。府縣の費用は、
國民學校の
教員俸給竝びに警察費の、それぞれの半額を負擔することが最も大きな支出項目でありまして、營業税、地租、家屋税の三つの還付税及びこれらの
府縣附加税、竝びに府
縣獨立税が
主要税収入でありますが、近時インフレの高進とともに、國庫よりの配付税が漸次重きを占め來りつつありまして、府縣の収入中、最も重要なものとなつてまいりました。配付税の財源は、國税たる所得税、法人税、入場税の一定割合でありまして、本年度は昨年度の二十三億圓に比し、一躍百六十七億圓に達する豫定であります。
地方公共團體の収入が漸次配付税に依存する程度が高まり、かつ配付税の配付方法は法律の定めるところにより、その五〇%は
府縣住民一人當りの課税力に、全
國平均課税力との差に反比例して配付せられ、次の四五%は人口比でありますが、
大都市人口は三倍に計算し、中
都市人口は二倍に計算し、かつ各府縣に人口百五十萬を加算する方法により、一府縣を構成することにより當然必要とする經費と、大都市を構成することによつて要する經費とを併せ考慮せられております。
特別市の設定とともに、
當然特別市内の小學校の教員の
俸給竝びに警察消防の經費を負擔することとなり、しかしてこれら經費は都市分は郡部分に比し割高なるべく、これら經費は、特別市地域内の府縣税、
竝びに獨立の府縣としての資格における配付税の収入により、賄うべきであります。
敍上のごとく、府縣財政は合理的な配付税への依存度が高いので、
殘存郡部が特別市の設定により、その住民の負擔激増は考えられませんが、京都の場合のごときが豫想できますから、かかる場合には、府市の協定により、適當な金額を
一定期間繰入金、
寄附金等何らかの形式により處理することが望ましいのであります。ここに府縣民税の郡市部の負擔割合は、京都府においてのみ著しく差がありますが、他の四都市はその差額は僅少であるのであります。
第四は、
國會議員選擧は、次の
制度改正のときまで現在通りとすることにいたしました。
五大都市に
特別市制を施行することは、法制上五つの府縣を増すことであります。しかして
衆議院議員の選擧法は、
中選擧區制によるものでありまして、京都以外はその郡市だけで獨立の選擧區をなしておりますが、京都府におきましては、京都市の一部が郡部と併せて一選擧區を形成しておりますので、これを市部のみ獨立させることは、結局別表の
全面的改正を誘致することになりますので、これは別表改正の時期までこれに觸れないことにいたします。その結果京都の場合には、京都の郡部の
選擧管理委員會が、特別市たる京都市の一部には選擧を管理することを必要とするに至るべく、この措置に關する
特別立法を必要とするでありましよう。次に參議院の場合にありましては、地方區の選擧について、特別市と
殘存郡部とについて定員の割振りに關して規定する必要があるようでありますが、これも次の三年議員の總選擧までに定めれば十分でありまして、
補缺選擧についてはすべて現状維持とし、從つてこれに關する
選擧管理委員會は、
殘存郡部の
選擧管理委員會が特別市全般にわたり權限を存する旨の特別の立法を必要とするものと考えられるのであります。
第五は、特別市の施行に伴い府縣市の議會の議員の地位の存續については、
地方自治法の精神に則り、適當の措置を講ずることにいたしました。
なおこの際
府縣知事及び市長のことについても言及しておきたいと存じます。
府縣知事は、その
選擧母體たる府縣民の範圍が急激に狭小になつたこと、市長と
市會議員とは、選擧民には變更はありませんが、從來掌理しなかつた府縣事務を掌理するに
至つた關係上、嚴格に申せば、權限、資格乘の點より、あるいは特別市の施行により改選を要するように一應考えられますが、
殘存府縣は地域人口に著しい變動を生じたが、法律上は從來の府縣の繼續でありまして、その同一性を認めらるべく、また市長及び
市會議員にあつては、權限において畫期的の増大はあつても、市も特別市もいずれも
地方自治法上の團體でありまして、法制上その同一性を認められるべきものであります。
殘存郡部の
府縣會議員についても、同樣であります。問題となるのは市部選出の
府縣會議員であります。選擧區は單に選擧の場合における
選擧方法にすぎませぬから、同一府縣内にあつては、他の選擧區に住所を移動してもその資格に關係はありませぬが、特別市の設定は、その市部を府縣の區域外といたしますがゆえに、市部に住所を有する大部分の
府縣會議員は、府縣内に住所を有しないこととなり、その理由をもつて失格するに至るのであります。
地方自治法は、急激に人口の減少する場合にあつても、定員の減少を豫定しないこと、
竝びに選擧區にかかわらず、すでに選擧せられた後にあつては、他の郡部と同一資格の
府縣會議員を要するものと考えるときは、
選擧區喪失のゆえをもつて、必ずしも議院の資格を喪失せしめることを要しません。よつて特に法制を設け、この場合に限り、住所の喪失にかかわらず、
府縣會議員の資格を喪失せしめない旨の規定を設けるのを妥當といたします。ただしこの場合には死亡等の場合にも、
補缺選擧を行わない旨を定めるのが穏當でありましよう。しかしてかかる措置は、
殘存郡部の
府縣會議員の定數の改正を不要ならしめる結果をもつことになりませう。
第六には、從來の府縣の職員にして、特別市の施行に伴い、特別市の職員になる者の取扱いについては、
恩給退職金等不利益を來さないよう措置することといたしました。これがためには、たとえば恩給法の改正も必要になつてくるのであります。
第七には、國の機關は現在通りとすることにいたしました。これは政府直轄地方機關の管轄區域に關する問題がその主たるものであります。すなわち裁判、通信、財務等の地方機關は、大きいものは數府縣にわたり、小さいものは市の區によりその所轄を定めるがゆえに、特別市の設定そのものではその管轄を變更するを要しません。問題になるのは、府縣單位ごとに設置せられておりますところの農林省の木炭事務所、資材調査事務所、作物報告事務所、食糧事務所、竝びに農林省以外の商工局出張所、鐵道局自動車事務所、勞働基準局、戰災復興院出張所等があります。これらの事務所が各府縣ごとに設置せられますことは、事務分量や交通の關係、竝びに各府縣當局との連絡の便宜より考えられたものと考えられます。その中で、裁判所のごとく明瞭に行政府と分離すべきものは、現在通りとすることにいたしますが、中央官廳の出先機關たるの色彩が濃く、かつ府縣市の行政區と重複するがごときものにあつては、調査研究の上、これを整理すべきでありましよう。
第八には、
府縣知事の權限に屬する國の事務の中で、やむを得ないもの、及び府縣を區域とする
公共團體の取扱いについても、現在通りにすることにいたしました。ここに最も問題となるべきは、警察であります。現在警察權は、公吏たる
府縣知事及び警察部長以下、警察官吏を使用して、警察部長の助言により、かつ警察部長を通じて、警察權を行使するのであります。
特別市の設定は、從來の
府縣知事の管轄區域より、特別市の區域を除外せしめるものでありまして、從前の知事は、その特別市の住民に對しては、第三者的地位に立つようになるのであります。警察行政の本體は、都市にあると申しても過言ではありません。しかるに
大都市行政と無關係となつた郡部の知事をして、引續き特別市の上に警察權を執行せしめることは、はなはだ條理に反し、かつ能率が上らないのであります。特別市は府縣と對等の地位にある以上、
府縣知事の現在もつておる程度の警察權を市長がもつことに何ら不都合はないでありましよう。
次は消防の問題でありますが、消防は本質的に都市に必要なものであります。現在都市に設置せられております消防は府縣警察部に屬し、消防官吏によつて運營せられておるのでありますが、警察の場合と同樣、
府縣知事が消防權を握つておるならば、これと同格の市長がこれを掌握することに何ら支障はないでありましよう。
次は公共職業安定所に關する業務でありますが、現在は、
府縣知事が、官吏であるところの公共職業安定所の職員をして、これを行わしめております。しかし失業救濟、職業紹介の業務は、都市行政の重要な業務でありまして、これが指揮監督は、一般都市行政を管掌する者にして初めてなし得るものであります。從つて本業務は、特別市の地域内のものは特別市に移管せらるべく、郡部と市部にまたがつたものは、通常の府縣内の場合と同樣に遂行せらるべきでありましよう。また社會保險及び少年救護院に關する事務に從事する者は官吏でありますが、その事務の本質上、特別市の設定とともに、これを特別市に移管すべきでありましよう。
これを要するに、
大都市行政に密接不可分な業務は、國の事務といえども
府縣知事の管掌するものは、ことごとくこれを特別市の市長に移すべきことは理の當然であります。このことなくしては、
大都市行政をかえつて不圓滑ならしめ、現状より惡化せしめ、特別市設定の意義を没却するに至るでありましよう。
これに反し、大都市の地域内にあつても、農業、林業、水産業、蠶絲業等の生産部門は、これらの事務のため新たに職員を設けることが不經濟な場合には、これを府縣の所管といたすべきでありましよう。農業保險、家畜保險、船舶保險等については、特別市だけでは、加入者が少く、經營の困難な場合には、必ずしもこれを特別市の所管に移すほどのこともなく、府縣所管のままとしてよろしいでしよう。
小作調停法、自作農創設特別措置法等についても、從來の府縣の機構をそのまま認め、特別市の上にもその職務を執行さすことを認めて差支えありません。
これに反して、消費方面に關する事項は、當然特別市に移さるべきものであります。たとえば、食糧管理法第二十七條の規定に基く地方食糧營團は、食糧配給公團の設置までは、組織はそのままとするも、理事の任命權その他監督權の行使は、特別市の市長と郡部の知事との共同行使に改めらるべきでありましよう。
次に府縣を區域とする
公共團體、たとえば、農業會、水産業會等は、獨占禁止法との關係もあり、これが改正につき目下政府において考究中でありますから、それまでは現在通りにいたしておきます。獣醫師會、裝蹄師會等もまた
特別市内にわざわざ新しくつくる必要はありません。また府縣單位の馬匹組合連合會が地方競馬の施行主體となつておりますが、これも獨占禁止法との關係があり、政府において改正案を考慮中でありますから、これは從前通りといたしておきます。
第九として、最後に特別市の施行時期でありますが、特別市實施上の諸問題は相當複雜多岐にわたり、多くの法制につき所要の改正を加える必要があり、一方また
一般投票のための公示、その他の事務につき相當の日數を要しますので、この法律施行の時期は、政令をもつてこれを定めることといたし、およその目途は昭和二十三年の四月一日、すなわち來年の新年度早々といたした次第であります。以上のような趣旨をもつて、別紙の通り
特別市制指定法律案を起草いたした次第であります。なにとぞ愼重審議の上、適當なる御決議あらんことを希望いたします。
今囘の衆議院規則第九十條により「小委員會において、その審査又は調査を終つたときは、報告書を作り、これを委員長に提出し、その報告書は印刷して委員に配布する」ことになつておりますが、報告書の配布は次會に致しますから、右御了承願います。